「~♪」
シャワーの栓を捻り、お湯の温度を少しぬるめに調節する。
そしてお湯を頭からかぶり、シャンプーを流す摩耶。
元々は熱めのお湯が好きだったのだが、以前秋に湯冷めして一度風邪を引きかけてからは鳥海の勧めでシャワーはぬるめのお湯にしている。
「やっぱ、お湯は熱い方が好きなんだけどな~」
と、ここまで言って、しまった、また鳥海にツッコまれるぞと鳥海のほうを向く摩耶。
しかし、今日に限っては隣の鳥海の反応が無い。
見ると鳥海はお腹の辺りをさすっていた。
「ん? 鳥海、何か悪いものでも食ったのか?」
「違うわよ、摩耶! 間宮さん監修の食事に限ってそんなのあるわけ無いじゃない」
「んじゃ、どうしたってんだ? お腹なんてさすってさ」
「それは……ほら観艦式が決まったでしょう、少し身体を絞った方がいいかなーって」
鳥海の身体を眺める摩耶だが、均整の取れたスラリとした肢体をしている。
絞ると言ってもどこを絞るつもりなのだろうか。
「絞る? ダイエットでもするのか?」
「ええ、少しした方が良いかなって思ったの」
再度、鳥海の身体を眺める摩耶、しかし、やはりダイエットが必要そうにはとても見えない。
「観艦式だからって、ダイエットまで必要そうにはとても思えないぞ」
「でも短期秘書艦になってから、シーさんのお菓子を食べる機会が多くなって……体重も少しずつ増えてるの」
「あ~」
それなら、摩耶にも分かる。
摩耶も短期秘書艦になった時、隊長と共に休憩する際にお菓子を薦められた事があるからだ。
甘いものが苦手だから、と最初こそ断っていたのだが、それならばと摩耶でも食べられるような味に仕上げたお菓子をシーに用意されたら、断りにくい。
最後のほうは、自分もお菓子を普通に食べていたっけ。
「…………」
そう考えてみると、自分も身体の線が若干ゆるくなっているような気がしてきた。
自分の体を見直してみるが、自信が無い。
自分も少しダイエットした方がいいだろうか。
「それに、観艦式で隊長さんと並ぶかもしれないし……」
違う、是が非でもダイエットしなければいけない。
「それじゃ……あ、あたしも鳥海に付き合ってダイエットしよう~かな~。別に隊長の事は関係ないけど、やっぱり観艦式ともなれば少しは気を遣った方が――」
「こーらーっ!」
と、二人の身体に手が伸びてくすぐり始める。
勿論大神のものではない、高雄だ。
「無理なダイエットは禁止よ! それに二人ともダイエットなんて必要ないじゃない! お腹なんてこんなにスラッとしてて……うぅ」
「やめっ、高雄ねぇ、お腹を撫でないでくれって!」
「高雄姉さん、くすぐったい!」
だが、高雄の手はとまることは無い。
摩耶と鳥海のお腹を、胸を、足を撫でまくる。
「うぅ……胸もこんなに大きいのに、他は全部こんなに細くて、羨ましい」
なのにそこにはエロさというよりも、高雄の私怨が感じられるのは何故か。
「それに、女の子らしく小食にしようとして、明石の説教を貰った艦娘が居たの忘れたの?」
「ちょっ、やめっ! 忘れたも何も、保健室送りになった艦娘の一人は高雄ねぇじゃねーか!!」
摩耶のツッコミに高雄の手が一旦止まる。
「……そうとも言うわね」
素敵な司令官により綺麗な、より可愛い、より女の子らしい自分を見せようとして大失敗した艦娘の一人、それは他でもない高雄であった。
「でも、だからこそ、妹達の無茶なダイエットには賛成できません! やめるって言うまで離さないわよ!」
「いーやーだー! あたしだって、隊長にかわいらしいところを見せたいんだ! 可愛いって言われたいんだー!」
姉妹しかいないお風呂場だからって本音が駄々漏れな摩耶。
なんだかんだで乙女である。
「鳥海も! 観艦式で隊長さんの横に並び立てるようになっておきたいんです!」
「まだ言うの? こうなったら――」
再び摩耶たちをくすぐり始める高雄。
見るものが居ないと思って、お互い遠慮が無い。
くんずほぐれつな状況が続く。
(高雄くんたちが……お風呂にはいって……)
いや、3人を見るものが居た。
それに正しくは3人はお風呂にすら入ってない、摩耶と鳥海に至ってはバスタオルを身体に巻いてすら居ない。
大神の視点からではこそ、うっすらとその肢体は湯気で隠れているが、隠れていなかったら摩耶に砲撃されることは想像に難くない。
いや肢体がバスタオルで隠れていたとしても、砲撃ものか。
体が勝手に動いているはずの大神だったが、満更ではない様だ。
鼻の下が伸びている。
だが、そんな無防備な様子をさらけ出した大神の背中に、
「ぱんぱかぱかぱかぱんぱかぱーん♪ うふふっ、大神隊長はっけーん♪」
愛宕が抱きついた。
勿論バスタオル一枚のみ巻きつけた状態で。
「うわあっ? 愛宕くん!?」
不意をつかれ、思わず声を上げる大神。
「隊長? 愛宕、何してるのよ!?」
「隊長!? って、何やってるんだよ、愛宕ねぇ!」
「隊長さん? 愛宕姉さん、何をしているんですか!?」
愛宕の声で、大神の存在に気が付いた三人。
摩耶と鳥海は慌ててバスタオルで身を隠すが、大神が居ることよりも大神に抱きついている愛宕の方が優先度は上だ。
三者三様の答えを愛宕に投げかける。
「何って、決まってるじゃな~い、確認よ~」
「ちょっと、愛宕くん、胸が、当たってる!?」
「ふふっ、勿論当ててるのよ~♪」
再び胸を押し付けるように抱きつく愛宕。
バスタオル一枚を挟んで、押し付けられた豊かな胸が大神の背中に当たっている。
「愛宕くん、ちょっと離れてくれって!」
「ダーメ♪ 離してあげませんっ」
その感触に大神は赤面し逃れようとするが、愛宕は逃がさない。
だから大神が身じろぎするたびに愛宕の胸が形を変える。
「あんっ。大神隊長、そんなに乱暴にしないでっ」
「す、すまないっ、愛宕くん」
「慌てないで♪ 女の子にはもっと優しく、ね? 大神隊長?」
そんな二人のやり取りは、3人からは恋人同士の睦言のようにしか聞こえない。
無視されたような形となった3人はちょっと不満そうだ。
「愛宕ねえ! 確認って何のなんだよ!?」
「何のって決まってるじゃなーい。大神隊長が本当に男色なのかの、か く に んっ♪」
とうとう我慢できなくなった摩耶が愛宕に問うが、愛宕は当然のように答える。
「ええっ、何でそんな話になっているんだい!?」
「青葉さん情報よ。加山って男の人とすっごく仲が良さそうだったって~、良すぎたって」
青葉、またお前か。
「でも、よかったわ。大神さんすごくドキドキしてた。これなら情報はデマだったみたい~」
そう言って愛宕は大神から離れる。
振り返って愛宕を見る大神。
そして、初めて気が付く、愛宕が顔を真っ赤にしていることに。
「んもぅ、私だって流石にこんな格好で、大神さんに抱きつくのは恥ずかしかったんですよ?」
「愛宕くん、すまなかった」
「そう言われるのでしたら、ひとつ答えて欲しいの。私のこと、どう思いますか?」
「……綺麗だよ、愛宕くん」
大神の答えに満足したらしく、愛宕が微笑む。
「みんなも、すまなかっ――」
「んなことはどうでもいいんだよ、隊長」
それでようやく3人に謝ろうとした大神だったが、摩耶がそれを遮った。
「なあ、隊長。愛宕ねえには綺麗って言ったけど、あ、あたしはどうなんだ?」
「え?」
「あたしって綺麗かな? 可愛いかな? 女の子らしいかな?」
摩耶の片手が大神をしっかりと握っており、答えるまで離す様子は微塵も見せない。
愛宕に綺麗と言ったことがよほど我慢できなかったらしい。
「ええっ?」
見ると、高雄と鳥海も摩耶と似た眼差しで大神を見ている。
大神の幸福な地獄はまだ終わりそうに無かった。
東山奈央ちゃんやはり可愛いのう(独り言)
あ、今回のお風呂シーンとは関係はありませんので。