艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第八話 3 太正会からの使者

秋雲がネットで自分の生存報告を行っている頃、大神は帰投早々に通常業務を行おうとしていた。

 

「何を馬鹿なこと言っているんですか、隊長! 今日くらいはゆっくりとお休みください!」

 

そんなのとんでもない事だと、当然お冠な大淀。

そう思っているのは大淀だけではない。

メル、シー、今週の短期秘書官である夕張、鳥海、伊勢、羽黒たちもうんうんと頷いている。

 

「いや、そういうわけにもいかないよ。南方海域開放の間、仕事を貯めてしまったからね。秋雲くんたちの復帰に伴って、短期秘書官に舞鶴鎮守府の艦娘をそろそろ割り当てるべきだし、やることは山のようにある。もう少し片付けておかないと」

「はぁ、頑固なんですから、隊長。……分かりました」

 

梃子でも動かない大神の様子に、半ば呆れた様なため息をつく大淀。

仕方がないかと、大神の机にある書類を半分以上持ち去る。

 

「大淀くん?」

「大神さんが仕事を片付けたい様に、私たちは大神さんに休んでいただきたいんです。なら、一刻でも早く仕事を片付けられる様、私たちも全力でお手伝い致します」

 

そうして、大淀はメルたちを見やる。

 

「皆さん、場合によっては残業になってしまうかもしれません、宜しいですか?」

「「「はいっ」」」

 

勿論、メルたちの回答は決まっている。

全員が、大神に南方海域での連戦の疲れを癒してほしいと思っているのだ。

大神を休ませようとするならば、総がかりで仕事を片付けるしかない。

 

「みんな……すまない」

「もう、大神さん! そういうのは言いっこなしですよ!」

 

シーの朗らかな回答に全員の顔が綻ぶ。

 

「そうだな。……みんな、手を貸してくれ!」

「「「了解!」」」

 

そう言って、全員が机に向き直って仕事に取り掛かろうとしたとき、守衛から連絡が入る。

内容は太正会より大神への言伝を預かった者が現れたとの事。

タイミングが悪いなと思う大神であったが、太正会からの連絡となるとただ事ではないだろう。

自分が応対する他、ないだろう。

 

「みんな、確認を取ったばかりで悪いんだけど……」

「隊長さん、太正会からの連絡となると重要な案件に違いありません。気になさらず、隊長さんはそちらに行ってください。お仕事のほうは皆さんでお片付けします」

「ありがとう、鳥海くん」

 

バツが悪そうに頭を下げる大神に、鳥海は微笑んで答えを返す。大淀に先んじて。

自分の台詞を取られて、大淀は少し悔しそうだ。

 

「俺は応接室に行くよ、メルくん、お茶の準備を頼んでもいいかな」

「分かりました、大神さん」

 

そう言って、大神は応接室に移動し太正会からの使者を待つ。

 

やがて、大淀によって案内されたその人物は――

 

「いよう、大神~。こうやって会うのは久しぶりだな」

 

気さくな表情で大神に挨拶を交わすのは、大神の親友、加山であった。

 

「加山、お前が太正会の使者なのか?」

「使者って言うほど、大げさなものじゃないんだけどな。連絡する内容が内容だから、こんな格式ばった形になってしまったわけだ、これが」

「なるほど、そう言うことか」

 

相対する人物が加山と分かり、大神の雰囲気が気さくなものとなる。

それは艦娘と接するときのものとも、軍の関係者と接するときのものとも異なるものだ。

大神と加山の関係がどういうものなのか知りたくて、後ろ髪を惹かれる心持の大淀だったが、無遠慮に室内で待機しているわけにも行かないだろう。

 

「それでは失礼いたします」

 

大淀は応接室から出て行った。

用意されたお茶を一口含んで、加山は話し始める。

 

「お堅い用件はちゃっちゃと済ませてしまおうか、大神」

「そうだな。帰投したその日のうちに連絡を入れるって事は、重要な案件なんだろう?」

「まあ重要だし、迅速に伝えないといけない案件ではあるな~。何せ、お前の業務負荷が激増する案件だからな」

 

勿論冗談であるが、半ば脅すように言葉を選ぶ加山。

 

「分かった分かった。それなら尚の事、迅速な連絡を頼む」

 

だが、そんな加山の人柄は大神にはお見通しだ。

冗談めいた口調である以上、本当に平和に関わる不味い案件ではないのだろう。

この世界の平和に比べてしまえば、自分の業務が増えるくらいのこと、大したことではない。

 

「何だよ、お見通しか、大神~? もう少し驚いてくれたっていいじゃないか」

「別に分かってるわけじゃないさ。でも、平和に関わることでも、艦娘の生活に関わることでもないんだろう? なら、そこまで気張る必要もないかな、ってね」

「お前の言う通りだな。今回の連絡は、艦娘とお前のお披露目、観艦式の実施についてなんだ」

 

見破られてしまっているのであれば、迂遠な物言いをする必要もない。

加山は、ストレートに用件、観艦式の実施が決まったことを大神に伝える。

 

「観艦式!? 艦娘のお披露目をするって言うのか?」

「いや、違う。艦娘のお披露目もあるが、本当のメインはお前だ、『帝國の若き英雄』、大神」

「俺?」

 

親友である加山に名指しされて、俄かに驚く大神。

 

「あー、そうだ。お前だよ、大神~。お前、今どれだけ注目されてるか分かってないだろ? ジャ○ーズだけじゃない、男性アイドルを軒並み押さえての注目のトップなんだぜ?」

「そう……なのか?」

「そうだ、最初は米田閣下、山口閣下は報道を控える方針だったんだけどな、あまりにもお前が注目を集めすぎたせいで方針転換することになったんだよ」

 

ずっと秘密部隊である華撃団で生きてきたから、そのあたりの感覚が少し麻痺している大神。

けれども、隠密部隊である月組の長だった加山は、そのあたりのバランス感覚を保持していた。

海域が開放されるたび、艦娘を救出するたび、勢いを増していく大神への熱狂の危険さに。

このまま秘密主義を貫くことは危険であると、両大臣に進言する程度には。

 

「だから、悪いけどな大神。有明鎮守府には観艦式を実施してもらうぜ」

「分かった、それに異論はないよ、加山。両閣下は、観艦式の場所をどこにするつもりなんだ?」

「大神よ~、お前ここビッグサイトがなんだったか忘れてるだろ!? ここだよ!!」

 

思わず大神にツッコミを入れる加山。

 

「観艦式だろ? 海の上じゃないのか?」

 

海軍としての常識を口にする大神だったが、

 

「大神~、お前、前の太正時代のことが抜けてないな。良いか、艦娘もお前も人間サイズなんだ! 海の上を行く観艦式なんかやったって、豆粒くらいにしか見えるわけないじゃないか! 形式はファッションショーみたいなものになるに決まってるだろ!!」

「あっ!?」

 

加山の指摘に、ようやく自分の今までの観艦式の常識がここでは違うと気づかされる大神。

 

「……そうか、そうだな。確かにその通りだ、加山」

「ようやく分かったみたいだな、まあ、詳細は明日以降、太正会が指定したファッションモデルたちにウォーキングなどの講習を受けてもらうことになる。ちなみに、観艦式の日時は8月半ば、夏コミ一日目となる」

「8月半ば!? 後一ヶ月半じゃないか、それで整えると!?」

 

日程を聞いて驚愕する大神に、加山はニヤリと笑う。

 

「いきなりの出撃には慣れているんだろ、大神? 今度の観艦式も大丈夫だろうと、両大臣だけじゃない、大元帥からもお墨付きは貰っているんだぞ?」

「……分かった、全力を尽くそう」

 

そこまで信頼されているからには、ダメですだなんて、安易に大神には言えない。

決まっているなら全力を尽くすのみだ。

加山の話からすると、艦娘の方はファッションショー形式の観艦式に慣れているようだし。

 

「よし、了解してもらえたようだな。詳細はこの文面に書いているから改めて目を通してくれ」

 

そう言って、加山は改めてキャリングケースからA4の封筒を取り出す。

 

「分かった、ちなみに指定されたモデルは明日の何時に来る予定なんだ?」

「ああ、午前10時到着の予定だ。そこからは全体・個別指導を行うことになる」

 

とりあえず明日の予定が分かれば、まあ良いだろう。

後は文面を読み込んだ後、皆に伝えなければ。

 

そう封筒に視線を落とす大神に、加山が笑いかけた。

 

「聞いた話だけどさ、有明鎮守府にはバーも用意されているんだろ? どうだ、今夜、たまには飲まないか?」

 

 

 

 

 

そして、夜更け、具体的には甘味処間宮が閉店した後。

大神と加山の二人の姿は、有明鎮守府のカウンターバーにあった。

着席し、お互い最初の一杯を頼んだ後に出された、塊から切り出した生ハム、そしてメロンに舌鼓を打つ加山。

出された一杯も極上の酒だ。大神と共に現れた友人と知り、取って置きを出しているらしい。

 

「大神~、いいじゃないか、ここは。旨い酒に、旨いツマミ、それにバーテンダーさんも美人と来ている」

「あら、ありがとうございます」

 

間宮を閉店してから、急いで慌しくバーテンダーの衣装に身を包んだ間宮が加山のお世辞に礼を述べる。

けれども、間宮のその視線は大神から付いて離れない。

誰からの賞賛を欲しているかは火を見るよりも明らかだ。

 

「大神、お前はどうなんだよ、このバーテンダーさん。美人と思わないのか?」

「加山? ……うん、始めて見るけど綺麗だし格好いい、よく似合ってると思うよ、間宮くん」

「うふふっ、ありがとうございます。でも、それならもっと早く来て欲しかったですね、隊長?」

 

鎮守府設立から常に慌しく、甘味処にも、バーにも殆ど現れなかった大神の姿を思い出して、間宮はぼやくように回答する。

 

「ゴメン! 間宮くん、今まで忙しすぎて――」

「なーんて、隊長がお忙しいのは分かってます。でも、ご友人と一緒でもかまいませんから、これからたまにはこちらのほうにも来てくださいね?」

「そういうことなら任せて下さい。大神の奴をここに連れてきますよ」

「うふふふ、ありがとうございます。ずっと、隊長のお疲れを癒して上げたいと思っていたんです。是非ともよろしくお願いしますね?」

 

恭しく間宮に礼をする加山に、笑って答える間宮。

どうやら、ここには大神の味方は居ないらしい。

 

「それで、次のお酒はいかがいたしましょうか?」

 

大神も加山も思い思いの酒を、いやそれだけではなく、つまみも注文する。

親友同士、気兼ねなく酒を酌み交わす二人。

そこには艦娘に対していたとき程の優しさはない。

けれども、それを補って余りあるほどの気兼ねなさがあった。

 

カウンターで、間宮と話しながら、仕官学校時代の、軍に入ってからの、太正時代のさまざまな話を肴に酌み交わす大神と加山。

 

気の置けない友人同士、和気藹々と話す二人に、周囲のバーで酒を飲んでいた艦娘たちは間に入りたいと望むが、いつもと違う雰囲気さえ漂わせている大神に話しかけることを躊躇ってしまう。

 

いや、一人だけそこに割って入れる艦娘が居た。

 

「あー、やっぱりここに居ました! 大神くん! 加山くん!」

「鹿島くん?」

「鹿島さん!?」

 

練習巡洋艦であり、士官学校時代の二人を知る鹿島だ。

 

「士官学校のことを肴に飲むんでしたら、どうして私も誘ってくれなかったんですか!? 間宮さーん、大神さんにお酌するお酒をお願いしまーす! ほら、大神さんお注ぎしますね、うふふっ」

 

勿論、大神が今飲んでいるドライマティーニは間違ってもお酌するものではない。

そんな飲み方をさせられたら、大神は死ぬ、死ねる。

 

「鹿島さん、そこは、男同士じゃないと話せないこともあるから……」

「えー、男同士の内緒の話ですかー、私を除け者にしないで下さいよー」

 

顔を引きつらせた加山の迂遠な退席のお願いも、大神からのものでない以上、鹿島にとっては知ったことではない。

そして、鹿島が二人に話しかけたことで、気兼ねなく大神に話しかけられるようになった艦娘たちが大神へと殺到する。

 

「大佐、大佐が飲めると知って嬉しいぞ、さあ、今度はこの武蔵と飲もう!」

「大神さん、私も、一緒に飲みたいかな、ウォッカをストレートでどうだい?」

「流石に気分が高揚します。大神さん、呑みましょう」

「ぱんぱかぱーん、大神隊長のバーデビューを祝してー」

 

大神へ殺到する艦娘たち、こうなってしまっては二人での飲みはもうお開きだ。

 

「あ、これはついでの連絡なんだけど――」

 

グラスに入れられたスコッチウィスキーの残りを飲み干して、加山は大神に語りかける。

 

「お前さんたちの晴れの舞台、観艦式には関係者として花組も来ることになってるからな。気合入れとけよ~、大神~」

「花組が? みんなが来るって言うのか?」

 

喜びも露に聞き返す大神に、ニヤリとする加山。

 

「みんなって言うのはちょっと違うか。巴里や仏蘭西みたいに、今欧州にいるメンバーは無理だけど、日本近郊のメンバーは集まるって話だぜ」




男臭さ、再度炸裂。気の置けない友人との飲み。
そういうのって良いよね、ワシ大好き。

そして! さあ、特大爆弾投下じゃーwww

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