艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第七話 10 夢か現か幻か

誓いの通り、夢を見たあと一睡もしなかった朝潮。

翌朝と言うか、未明の時間からフラフラとベッドを抜け出る、ベッドにいても寝る事などできないからだ。

 

制服に着替えると、昨日着替えた下着とパジャマをまとめ洗濯籠に入れる。

そして、満潮たちを起こさないように部屋の外に出る。

もう季節は初夏に差し掛かっているとは言え、日の出までには時間があり辺りは薄暗い。

おそらく夜勤の者くらいしか起きてはいないだろう。

 

どこに行こうか、僅かな間迷った朝潮だったが、結局剣道場に向かう事にした。

演習場で標的に向かっても狙いを定められる気がまったくしなかったし、それなら剣道場でひたすら剣を振るっていた方がマシだと思ったからだ。

 

もしかしたら大神がいるかも、だなんて朝潮は思っていない。

思っていないったらない。

 

「え、隊長……」

 

しかし、朝潮の思いが天に通じたのか、剣道場には既に大神の姿があった。

裂帛の気合を込め、二刀を振るう大神。

それは剣道場で剣を教えている時の大神とは全く違う。

警備府で艦娘に抱きつきながら戦闘を行ったときとも異なる。

そこまで考えて朝潮は、自分も抱きつかれて戦闘した事があったことを思い出す。

 

『続きを教えてあげるよ――』

 

大神に抱きつかれ耳元で囁かれたような気がして、一瞬で顔を紅に染める朝潮。

 

「違う、違うのよ、朝潮。あれは夢なんだから――」

 

こんな顔をしていては、いや、こんな考えをしていては大神の傍には近寄れない。

迷いなく次々と二天一流の技を繰り出すその勇姿を、遠くから朝潮は見やる。

しかし、朝潮の存在を感じ取った大神は、二刀を納める。

 

「どうしたんだい、朝潮くん?」

 

大神に呼ばれたからには、聞かなかった振りなんてできない朝潮。

仕方なく剣道場の中へと入っていく。

 

「隊長こそ、こんな時間からどうされたんですか?」

 

いま自分の事を聞かれたら、何を口走ってしまうか分からない。

だから不躾とは分かっていても朝潮は大神の質問に質問で返す。

 

「ああ。昨日の様子からすると自分の稽古の時間がまともに取れなくなりそうだからね、早起きする事にしたんだよ」

「早起きって……」

 

ただでさえ、朝五時起床の生活をしていると言うのに。

さらに早起きする生活なんてしていたら身体を壊してしまうのではないか。

 

「隊長! 毎日こんな早くに起きていたら、お身体を壊してしまいます! ご自愛ください!!」

「とは言っても、忙しさに甘んじて剣もまともに振るえなくなったら、君たちの隊長である資格なんてなくなってしまうよ。大元帥閣下に任じられたからね。しっかり果たさないと」

「そんな事はありません! 隊長が朝潮たちのために奔走されている事はみんな分かっています。大神さん以外の方を隊長として仰ぐなんてもう考えられません!」

 

もし、大神が無理を重ねて倒れたりしたら、そう考えるだけで朝潮の身は震える。

 

「それに大神さんが一人早起きをされるのでしたら! その旨を大淀さんや明石さんにお伝えして、スケジュールをお見直しください! 朝潮は、大神さんにご迷惑をかけたいとは思ってません! もし、朝潮のせいで、朝潮たちのせいで、大神さんに何か……あったら……」

 

話していくうちに、大神がいなくなってしまう、そんな最悪の事態を考えてしまった朝潮の視界は涙でにじんでいく。

 

「大神さん……いなくなっちゃ……いやぁ……」

 

いや、既に涙は目から溢れ、頬を伝っている。

どうしてだろう、大神の事となると今の朝潮は感情がコントロールできない。

 

「朝潮くん!? 心配させてごめん! スケジュールの件は大淀くんたちと相談してみる!」

「でも……でも……」

 

泣き始めた朝潮を前にして慌てる大神。

泣き止ませようと回答するが、一旦泣き始めた朝潮の涙は止まる気配がない。

僅かな間考えた後、大神は膝をついて朝潮と視線を合わせる。

大神の真摯な目で瞳を覗き込まれ、朝潮の悲しさは薄れていく。

 

「大丈夫、俺はいなくならないから!!」

「はい……」

 

両肩を掴まれ、力強く答える大神の姿に涙が止まった朝潮はゆっくりと頷く。

そして気付く。

近くにあるのは大神の瞳だけではない。

大神の唇もまたごく近くにあるということに。

 

「……大神さん」

 

両肩を掴まれたままの朝潮だが、その手は動く。

朝潮はゆっくりと手を大神の唇へと伸ばし、その唇を指でなぞった。

 

そこにある。

 

大神の唇が確かにある。

 

夢の中で朝潮を蹂躙した唇が。

 

夢の中で数多のキスマークを朝潮に刻みつけた唇が。

 

今、現実に目の前にある。

 

「大神さん……」

「? 朝潮くん?」

 

一方朝潮の行動の意味が分からず、疑問を表情に浮かべる大神。

ゴミでも唇についていたのだろうか。

 

「はっ!? し、失礼しました! 隊長!!」

「いや。俺は別に構わないけど、朝潮くんはもう大丈夫かい?」

 

大神の問いに我に返る朝潮。

なんて不躾な事をしてしまったのだろうか、隊長の唇に触れるなど。

そこまで考えて、気付く。

気付いてしまう。

大神の唇に触れた指で自らの唇をなぞれば、それは間接キスだと。

本当になんてことをしてしまったのか。

 

「!!??」

「朝潮くん、本当に大丈夫かい?」

「は、ははは、はいっ! 朝潮は問題ありません!! 失礼しました!!」

 

一瞬で顔を真っ赤に染める朝潮の様子に首を傾げる大神。

誰かの口癖に似ているとかなどはあまりに気にならなかった。

そして泣き止んだ朝潮の顔を再度見て、目の下に隈ができていることに気付く。

 

「朝潮くん、目の下に隈ができているよ。眠れなかったのかい?」

「え……えと、はい……あまり」

 

答えるべきか悩む朝潮だったが、あまり寝ていないのは事実だ。

頷く朝潮。

 

「何かあったのかい?」

「それは――!!??」

 

口にしかけて、慌てて口元を手で覆う朝潮。

もちろん、そんなこと大神にいえるわけがない。

 

そして、気付く。

 

さっき考えた間接キスを今してしまっている事に。

 

口を覆った朝潮の手の、指が朝潮の唇に触れている事に。

 

指越しに大神の唇と朝潮の唇が触れ合っている事に。

 

「!!!!????」

 

さらに慌てふためく朝潮。

と言っても、大神に両肩を掴まれた状態ではあまり身体を動かす事はできない。

 

「ごめん朝潮くん! 手を放すよ!」

 

しかし、朝潮のそれを嫌がっているものと考えた大神は朝潮の両肩から手を放そうとする。

違うのだと小さく首を振ろうとする朝潮だが、時遅く大神の手は離れてしまう。

どうしようもない切なさを感じてしまう朝潮。

 

けれども、目の前には大神がいる。

 

大神が離れてしまう事が切ないのなら、こちらから近づけばいいのだ。

もはや混乱した朝潮は想いのままに行動する。

 

眼前の大神へと飛び込もうとする朝潮。

 

「朝潮くん?」

 

慌てて手を放した途端、近づいてくる朝潮に大神の反応が遅れる。

 

しかし、瞳の中を覗き込めるほど近くにある二人がより近づいたらどうなるだろうか。

そんな事は言うまでもない話だ。

 

「っ?」

「!!??」

 

 

 

 

 

次の瞬間、二人の唇は重なっていた。




脱線した。
なんか、今までで一番濃密な描写している気がする。
気のせいだよね?

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