艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第七話 8 せいきょういく

「何だって? MVPを取った艦娘にはおでこと、頬と、うなじにキス?」

「そうデース! もちろん希望する艦娘にだけデースが、熱いベーゼをお願いするネー! おでこだけならともかく、三箇所もだなんて見過ごす手はないネ!」

 

大神の吊るし上げ、制裁は金剛たちによって恙無く行われた。

自分のいたずら心が原因なだけに、大神も強く抵抗はできない。

 

「うーん……分かった。元はと言えば俺が朝潮くんにいたずらしたのが原因だし、それがみんなの総意なら従うよ」

「Yeah! それじゃあ、先ずは私に! あっつーいキス! HOTでお願いするネー! ちゅー」

 

僅かに考えた後、頷いた大神の姿に言質を取ったと金剛の意気が上がる。

両手を大神に伸ばし、目を閉じて

しかし、

 

「ちょっと待ってください! 金剛さんは朝潮ちゃんに出し抜かれて今日MVP取れていないじゃないですか! ここは私が!」

「そういう鹿島だってMVPとれていないデース!」

「だって、こんな事になるなんて思いもしなかったんです! 知ってたら死ぬ気で頑張りました!MVP取ったのは誰――」

 

「私だよ」

 

鹿島の声を遮って響が手を上げる。

 

「睦月もにゃしぃ!」

「はーい。如月もMVP、取っちゃった。あはっ」

 

続いて睦月たちが手を上げる。

 

まあ、能力補正のことを考えれば、当然といえば当然の結果なのだが、

 

「「なん……だ……と……」」

 

金剛たちは愕然とした表情を響たちに向ける。

まさかせっかくの供え物を強敵に明け渡す事になろうとは、と後悔した。

後先は考えて行動しましょう。

 

「わ、わたしもよ! クソ隊長、ちゃっちゃとしてよね!」

「一人前のレディとして、大人のキスをお願いするわ!」

 

そして、MVPを取得した艦娘たちがおずおずと手を上げる。

偶然か今日は駆逐艦の手が多い。

これならば、とホッと息をつく大神。

が、そんな中一人の重巡が手を上げる。

 

「はいはーい、私にも隊長のあっついキス、お願いね!」

 

足柄であった。

 

「足柄姉さん、まさかこうなる事まで見越して……」

「計画通り!」

 

某漫画のような悪役面をして見せる足柄、しかしもちろん嘘である。

 

「大神さん、榛名にも大人のキスを、お願いします……」

「榛名ー! 何言い出すデース!?」

 

別の場所でも姉妹のひと悶着が起きていたりいなかったり。

 

 

 

 

 

そうして、昼の一騒動が大神を生贄に捧いで終了した後。

 

午後の訓練を中断して、朝潮型の部屋では朝潮への教育が行われていた。

教育は満潮たちによって行われる予定だったが、昼間の状況を鑑みて妙高などの面々も黙ってられないと参加する事となった。

朝潮の師匠を名乗る足柄も参加している。

 

題材は恋愛映画、足柄が用意したものだ。

おそらく最初から朝潮に見せるつもりだったのだろう。

 

「ええっ、足柄が用意したものなんですか?」

 

準備した艦娘の名を聞いて、妙高が一抹の不安を覚えるが、他に資料となるものをすぐに準備しようにも自分の趣味が明らかになる事もあってか、今一つ他の艦娘の反応は悪かった。

朧の恋愛小説を夜こっそり本棚から取り出して読んでいる曙とか。

昔の少女漫画をこっそり集め、実は大神の事を少尉と心の中で呼んでいた満潮とか。

 

それに、ただ話して聞かせるよりは、資料があったほうが良いのも確かだ。

仕方がないかと妙高は自分に言い聞かせるように頷くと、ディスクをプレイヤーにセットする。

OPのタイトルが流れた後、映画の本編が始まる。

 

しかし、恋愛映画をまったく見た事のない朝潮。

正直、何が面白いのか、何に着目して見たら良いのか分からない。

 

「? 師匠、この映画、まったく分からないのですが、どう見たら良いのでしょうか?」

 

素直に思った事を口にする朝潮。

だが、朝潮がそう言うであろうことは足柄にとってはお見通しだ。

 

「そう言うと思ったわ、朝潮。そんな朝潮にアドバイスをしてあげる」

「はい、師匠!」

「いい、朝潮。この女性を自分だと思いなさい。そして、この男性を隊長と思いなさいな!」

「ええっ!? 朝潮、隊長にこんな口の聞き方はできません! 隊長に失礼です!」

「そこは頭の中で朝潮らしい口調で言い直しなさい、分かったわね」

「はい……これで朝潮何が分かるのでしょうか?」

 

不安そうな表情で足柄を見上げる朝潮。

 

「それは朝潮しだいだけど、大丈夫。この映画は朝潮のために私が準備したものよ、師匠の私が信じられないかしら?」

「そんな事はありません! 分かりました、朝潮、映画鑑賞任務を遂行します!!」

「よし、それじゃあもう一度最初から流すわよ。みんなもそれで良いわね?」

 

足柄はプレイヤーに近づいて最初から再生しなおそうとする。

 

「そうね、このまま流しても、朝潮も何も分からないままだろうし」

「ふむ。足柄、お前にしては悪くない指導だな」

 

もちろん集まった面々にとっても異議はない。

 

「あれ、この映画って……確か……」

 

ただ、何か引っかかる点があるのか、羽黒が記憶を必死にたどっていた。

 

そうするうちに映画が再度始まる。

朝潮が感情移入しやすくなれるように電気を消して。

 

内容は普通の恋愛映画だ。

一組の男と女が出会い、惹かれ合い恋に落ちていく。

恋愛映画を見慣れた者には物足りないかもしれないが、朝潮くらいにはちょうど良いだろう。

まとめると短いが、恋に至るまでの数々の出来事に、近づいたり離れたりする二人の姿に、朝潮は時には体を強張らせ、時には身を震わせて映画に没入していく。

 

そうこうしていくうちに恋愛映画に付き物のシーンが流れる。

 

「ふぇっ!?」

 

そう、キスシーンである。

絡み合う濃厚なキスシーンを前に朝潮は完全に凍りつき、言葉を失う。

離れる様子のない映画の二人を自分と隊長に置き換えていた朝潮は、顔を真っ赤に染める。

その様子を見ていた足柄がその場面で映画を一時停止した。

 

「どう、朝潮。これが本当のキスよ」

「し、しししし、師匠……朝潮、先程はこんなことを大神さんに要求していたのでしょうか?」

「そうよ!」

「で、でででは、もし大神さんが頷いていたら――」

「この映画みたいにキスしてたかもしれないわね」

 

足柄の答えに、朝潮はプシューと漫画のように湯気を立てて赤面する。

おでこだけでも、頬でも、身体があんなに熱くなってしまったというのに、こんな、こんな、キスをしてしまったらと、そう一度考えると気が遠くなっていく。

グルグルと目を回しながら、朝潮は静止した映画の二人に視線を向ける。

 

「まだよ、これからが本番よ!」

 

すると、足柄は映画を再開する。

互いの名を呼びながら、抱き合いキスを交わす映画の二人。

朝潮は律儀に「大神さん」と小声で呼ぶ。

きっと朝潮の頭の中では大神が「朝潮くん」と言ってキスをしているのだろう、足柄の言葉を守っているようだ。

 

「!?」

 

そして、映画はベッドシーンへと移る。

 

「思い出しました、でも遅かった……」

 

そんな朝潮の様子を見て羽黒が後悔したように呟く。

このシーンがある事を気づいていれば途中で止められたのに、と。

 

「!!!!????」

 

もはや何が行われているのか、訳が分からない朝潮。

だけれども、女性は気持ち良さげな声を上げている、たぶん気持ち良いことなのだろう。

男性がキスの雨を女性へと降らせる。

 

そして――

 

「――きゅう」

 

眼前で繰り広げられている光景を自分と大神との行為に置き換える事に限界を迎えた朝潮は、頭から煙を上げて気を失った。

床に崩れ落ち目を回している。

 

「うん、ここまでかしら」

 

その様子を見て足柄は映画の再生を止める。

もともとこの辺りで止めるつもりだったようだ。

 

「足柄、少しやりすぎじゃないか……」

 

気を失った朝潮の様子を見ていた那智が若干呆れたような声を上げる。

だが、足柄は悪びれた様子もない。

 

「そうかしら? どっちにしたって、いずれ知る事なんだから早いほうがいいわよ」

 

映画のディスクを片付けると足柄は朝潮の様子を確認する。

目を回してはいるが、すぐに気は取り戻すだろう。

一応、それまではベッドに寝かしておけば問題ないはずだ。

 

「満潮、大潮、荒潮、悪いけど朝潮が目を覚ますまで様子を見ていてちょうだいな」

 

そう言うと、足柄は気を失った朝潮をベッドに運ぶのだった。




大神が朝潮にいたずら。
もうこの字面だけで犯罪くさいwww

恋愛映画のモデルは特に考えてません。
でも、朝潮の反応が書いててめちゃくちゃ楽しかったwww
そして、展開がさらに遅くなるw

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