艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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6話が終了して、大神さんが入院して退院した後の話になります。

注:酷い話です


閑話 吹雪の悩み、大神の奔走

吹雪は最近悩んでいた。

 

それは――最近出番が、という事ではない。

それは自身が警備府に来た当初、面倒を見てもらった艦娘である睦月の事についてである。

当初警備府に慣れず、おっちょこちょいで失敗続きな吹雪を助けてくれた睦月。

つきっきりで面倒を見てくれて、励ましてくれた睦月。

 

その性格は、どちらかと言うと真面目でけなげな性格であった。

 

あった筈なのだが、最近、変なのだ。

 

第二次W島攻略作戦で如月を救出したときから、如月とべったりになってしまったのはいい。

遠征も別部隊になってしまったけど、自分は自分で吹雪型の艦娘と仲良くなってしまったし。

 

隊長にもべったりになってしまったのも、まあ、仕方ないと思っている。

W島で起きた出来事の数々からすると、そうなるのも致し方ない。

どちらかと言うとそれについては、睦月みたいにべったりになりたい吹雪であったが。

 

 

 

では何が吹雪の悩みかと言うと、

 

吹雪の目の前で、睦月が艦隊の艦娘たちに声を駆けている。

ちょうど睦月たちの艦隊が遠征――巡回に向かうようだ。

 

「みんな、出撃準備はいいかにゃ~ん♪」

 

これを見た吹雪の感想としては、一言。

 

誰?

 

「およ、吹雪ちゃん?」

「睦月ちゃんはこれから遠征?」

 

出来れば今は話したくないところだったのだが、無視するわけにもいかない。

 

「そうなのにゃしぃ~、頑張って大神さんに褒めてもらうの♪ てへっ」

「……そう、頑張ってね、睦月ちゃん」

 

私の知る睦月ちゃんはそんな口調でしゃべらない。

吹雪の持つ睦月のイメージがハンマーでガンガン叩き壊されていく。

 

ふらつきながら吹雪は睦月たちと別れる。

 

 

もちろん睦月のイメージの変化はこれに留まらない。

 

遠征から返ってきたり、演習でMVPをとったりすると、

 

「睦月をもっともっと褒めるがよいぞ! 褒めて伸びるタイプにゃしぃ、にひひっ!」

 

 

工廠で新しい装備を受け取ったりすると、

 

「おぉー、このみなぎるパワー! 睦月、感激ぃ!」

「睦月、負ける気がしないのね! てへっ♪」

 

 

補給時には、

 

「睦月、補給かんげき~☆」

 

 

ごめんなさい。

 

もう、吹雪にとっては「あなた、誰?」状態である。

 

 

 

仲良しだと思っていた睦月の、急なイメージの変化に吹雪の頭は完全についていけなかった。

誰に相談したものか、と肩を落としながら有明鎮守府を歩く。

と、自分と同じように警備府に新任してきた、同じ境遇の人間が居ることに気付く。

隊長として頼り甲斐のあるところをずっと見せられてすっかり忘れてしまったが、前まで新任少尉であった大神も同じように思っている筈だ。

 

「そうだ、大神さんなら!」

 

司令室へと向かう吹雪。

睦月の遠征は確か短時間のものであった筈、戻ってくる前に話をしておきたい。

司令室の前まで急いで辿り着くと、呼吸を整えてノックする。

 

「大神さん、お時間少し宜しいでしょうか?」

「吹雪くんかい? 良いよ、入ってきて」

 

司令室に入ると、書類仕事を一段落して秘書艦たちとお茶を楽しんでいる大神の姿があった。

……羨ましくなんかない。

吹雪は部屋のソファーに座る。

 

「メルくん、吹雪くんの分もお茶を用意してくれないかな?」

「はい、大神さん。吹雪ちゃん、紅茶でいいですか? それともハーブティーにしましょうか?」

「あ、はい! 紅茶でお願いします!」

 

慌ててメルに返答する吹雪。

 

やがて、カップに入れられた紅茶が運ばれてくる。

一息吸うと爽やかな香りが感じられる、香りに惹きつけられて一口運ぶと味も申し分ない。

僅かな苦味に甘いものを一口食べたくなってくるが、そこまで要求するのは不躾だろうか。

そんなことを考えてしまう吹雪。

 

「それで、何の用事だったのかな、吹雪くん?」

「え? あ、はい! 実は睦月ちゃんの事なんですが……」

 

紅茶についつい考えが引き寄せられてしまって、一瞬忘れてしまっていたとは言えない。

吹雪は先ほどまで考えて居たことを大神に話す。

 

「やはり、吹雪くんもそう思って居たか。自分もそうじゃないかとは思って居たんだ」

「やっぱり大神さんも! 私だけじゃなかったんですね、少し安心しました……」

「俺は、吹雪くんほど睦月くんと仲が良かったわけじゃな――どうしたんだい、みんな?」

 

秘書艦たちの何言っているんだこいつ的な視線を浴びる大神。

 

「いいえっ、何でもありません」

 

大淀は少し不満そうだ。

 

「そうか、なら話を続けるよ。俺だけじゃなく、仲が良かった吹雪くんも同じように思ってるなら、俺の勘違いって事はなさそうだね。睦月くんの変化は確かだ」

「でも、どうして睦月ちゃん、急に変わってしまったのでしょうか?」

 

吹雪の問いに大神は少し考える。

如月の救出、深海棲艦になりかかったこと、擬式・二剣二刀の儀など、先の海戦で睦月の身に振りかかった事は実に多い、思いつくことばかりだ。

 

「考えられる要因は多いな。一通り検査はした筈だけど、もしかしたら、深海棲艦になりかかったこととか、俺の擬式・二剣二刀の儀が影響しているのかもしれない。事は重大な話かもしれないから、明石くんに再度診て貰おう!」

「そんなに重大な話なんですか!? 睦月ちゃん……」

 

睦月の身を案じて、吹雪が声を上げる。

その時、睦月たちが帰投し、司令室の扉を開ける。

 

「作戦完了のお知らせなのです! 睦月をもっともっと褒めるがよいぞ♪」

 

遠征を大成功で終え、自信満々の様子で司令室に入る睦月。

その様子はもちろん以前の真面目でけなげに見えた頃のものとは違う。

大神は決断する。

 

「睦月くん! 明石くんのところに行こう!」

「およ? 大神さん、なんで……ですか?」

 

大神に両肩を掴まれて、瞳を覗き込まれて赤面する睦月。

恥らうその様子は、以前の睦月を思い出させるが、事は時を争うかもしれない。

大神は睦月を横抱きに抱きかかえる。

 

「君の変化について、もう一度調べてもらう必要があるからだよ」

「ふえぇぇぇ……睦月、そんなに変わってないんだけどぉ……」

 

抱きかかえたまま、大神は司令室を飛び出ようとする。

時同じくして、金剛たちが司令室に入ろうとしていた。

 

「Hey! 隊長~、Teatimeなら私も混ぜて欲しいデース!」

「榛名もお姉さまとご一緒させてもらおうかと、宜しいでしょうか?」

「隊長さん、焼き菓子を用意しました。良かったら一緒に、ふふっ」

 

珍しく仲が良い金剛たち、Teatimeくらい休戦しようという事か。

しかし、扉を開けた金剛たちを待っていたのは睦月を抱きかかえた大神が、

 

「君の身体が大事なんだ!」

 

と叫ぶ姿。

金剛たちはいきなりの光景に凍りつく。

 

「あ……はい、大神さん……」

 

そこまで言われて、睦月は大神にしがみつく。

大神は睦月を抱きかかえたまま、明石の元に向かう。

吹雪もそのあとを追っていく。

 

金剛たちはしばらく凍りついたままだったが、やがて気を取り直す。

 

しかし、

 

1、睦月を抱きかかえた大神。

2、「君の身体が大事なんだ!」と睦月に叫ぶ大神。

3、お医者さん(明石)の元へ急ぐ大神。

 

何が起こったのか、金剛たちが考えたくなくても線で繋がってしまう。

 

「全艦娘に緊急連絡デ-ス!! 隊長が、隊長が、睦月に手を出したヨー!! 繰り返すデース、隊長が睦月に手を出したヨー!! こうなったら私もー!!」

「榛名、信じられません。そう、これは夢です、悪い夢なんです……大神さんを悪い夢から覚まさせてあげないと……」

「私、諦めません。 ここで諦めるつもりは、ありません!」

 

混乱のまま、想いのまま、行動を始めようとする金剛たち。

大神のあとを追い、保健室へと向かう。

と言うか榛名、怖いぞ。

 

嵐が去ったあとのような司令室。

秘書艦は大神たちの会話を最初から聞いていたので、状況を把握していたが誰も行動しようとしない。

 

「大淀さん良いんですか? 金剛さんたちを止めなくても」

「大神さんは少し痛い目にあったほうが良いんです(それにこれで脱落者が出たら……)」

 

それはどちらも秘書艦たちの本音だった。

 

 

 

保健室に睦月を担ぎ込んだ大神、彼を待っていたのは明石の絶対零度の視線だった。

 

「お め で と う ご ざ い ま す 、 大 神 さ ん」

 

となりの吹雪から聞いたので、金剛の全方位無差別誤解電信がぶっ放されたのは分かる。

しかし、事は睦月の命に関わる(かもしれない)。

大神だって引き下がるわけにはいかないのだ。

 

「それは後回しにして欲しい、あとで何でもするから。いまは睦月くんの身体を診て欲しい!」

「私からもお願いします! 明石さん、睦月ちゃんを診てあげてください!」

 

引き続き吹雪が明石に頭を下げる。

 

その姿に、あれ? と明石は思う。

 

金剛の電信が正しければ、吹雪だって黙ってはいないはずだ。

 

そして、仕方なく大神と吹雪の話を聞いて――

 

 

 

「ぷっ、くく……あはははは、あはっ。そんな、そんな風に二人が考えていただなんて……もうダメ、あはははははははっ!」

 

大爆笑する明石。

肩を震わせてヒーヒー言いながら笑っている。

 

「もう~、吹雪ちゃんと大神さん、そんな風に考えていたんですかー、ぶぅ~」

 

一方、睦月は不満げだ。

友達と想い人にそう思われて居たのが不満らしい。

いや、確かに予告なしで変わったのは悪かったかもしれないけど。

 

「あれ……」

「そんなに大事じゃ、ない?」

 

そんな二人の様子を見て、大神たちは自分達の思い違いを悟る。

しかし、なら、何故睦月はそこまで急変したのだろうか。

 

「え……と、ね? 二人とも、これはね?」

 

答えようとする睦月。だが、今更話しづらいことなのか口がよどむ。

 

「あはは……二人とも心配しないで良いですよ、睦月さんのはただの『地』です」

 

『?』マークを頭につけたままの二人に、明石がさらりと回答する。

 

「地?」

「そう。睦月さん、もともとの性格がこうなんです」

「え、えぇ~っ!?」

「じゃあ、俺が初めて会ったときの睦月くんは?」

 

明石の回答に驚きの声を上げる吹雪、そして更に確認する大神。

 

「えーと、それは如月ちゃんがいなくなって、如月ちゃんの分も真面目にならないとって……前の方が良かったかな? 吹雪ちゃん」

 

おどおどと吹雪に尋ねる睦月。

 

「ごめんね、睦月ちゃん! 私、そんなことがあったなんて知らなくて……友達失格だよね」

「そんなことない! 睦月こそごめんね、如月ちゃんの事で舞い上がってて……今の睦月でも友達でいてくれる?」

 

睦月から伸ばされた手を吹雪はしっかり握り締める。

 

「うんっ! もちろんだよ、睦月ちゃん!」

「良かった……、大神さんは……」

 

睦月の問いに大神は頷く。

 

「もちろん俺は今のままでいいよ、睦月くんの身に何か起きたわけでないなら」

「はぅ、そういえば睦月、抱きかかえられたまま保健室に……しかも大神さんのお手つきって」

 

司令室から保健室に至るまでどのように運ばれたか、艦娘にどう見られていたか思い出し、赤面する睦月。

逆に大神の表情は蒼白になっていった。

保健室の外から艦娘の喧騒が聞こえてくる。

 

「Hey! 隊長~! 私にも手を出すネ~! 観念するデース!」

「大神さん、夢は覚めるものです。榛名が今お助けします……」

「私、諦めません! 最後に傍にいれば勝者なんです!!」

「うふふ、睦月ちゃんに手を出すなんてしかたない大神さん……如月も食べて♪」

 

再び正妻戦争が始まろうとしていた。




睦月、響越え確定。

アニメ睦月→ゲーム睦月への変化ネタなのですが、
没ネタが原形留めてない?
思いついてしまったから仕方がないのですw

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