艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第六話 11 離島攻略-白きアネモネ

「破邪滅却! 悪鬼退散!!」

 

その大神の掛け声と共に、振り下ろされる二刀から白き光を帯びた剣風が巻き起こり、睦月たちへと向け放たれた。

 

「――っ!」

「大丈夫だよ、如月ちゃん。大神さんが助けてくれるって言ったから、大丈夫!」

 

自ら請うた事でありながら、自らに向かう剣風に反射的に目を閉じようとする如月。

だが、睦月は怨念に襲われぐったりとしながらも、瞬き一つせず大神の為す事を受け止める。

 

そして、白き剣風が睦月たちを通り抜けた。

 

「あぁ……大神さん! 感じるよ、大神さんの想いを、鼓動を! これが、浄化なの?」

「ああっ、これはぁっ! こ、こんなことってー!?  ふわぁぁぁぁ!」

 

一瞬で、睦月の、如月の、全ての浄化は完了される。

睦月達を握り締める巨大な手は砂のように崩れ落ち、二人の身は水面へとゆっくりと下りる。

そのまま剣風は深海棲艦に襲い掛かり、深海棲艦もまた砂のように崩れ去っていく。

二人の下りた箇所はまるで聖域のように神聖さをかもし出しており、二人の身には一片たりとも怨念は纏わりついてはいない。

 

ついでに言うと、現在の二人は一糸たりとも身に纏っていない、全裸である。

 

「え? ええぇぇぇぇーっ!? どうして、睦月、裸なの? こんなの聞いてないよぉー!」

「いやん、司令官さん。私を……如月をどうする気なの? でも、貴方になら……」

 

それは怨念に穢された睦月の艤装を、如月の着ていた戦艦棲姫のドレスを剣風が浄化した為である。

かと言って、二人の姿が大神にとって、目に毒な事には違いない。

新たな必殺技を用いて激しく消耗した大神であるが、光武・海の収納スペースから薄手のコートを取り出すと二人の背中からかける。

もちろん防水仕様である。

 

「……二人とも、一先ずこれを」

「は、はい……あんまり見ないで、大神さん……下着もつけていないなんて恥ずかしいよぉ……」

「は~い、みてみて~、この浄化されて輝く肌」

 

コートに包まれて尚その手で身体を隠す睦月と、逆にコートの影から手足を伸ばす如月。

対照的な二人の様子に面食らう大神だったが、剣風で崩れ去った巨大深海棲艦だったものが睦月たちから離れた箇所に不定形のまま集まり始めるのを感じて睦月たちをその背に庇う。

 

「もう、睦月くんにも如月くんにも指一本触れさせないぞ、深海棲艦!」

「大神さん……」

「司令官さん……」

 

やがて、形作ることも出来ぬほど減少した深海棲艦は、不定形のまま大神へと声をかける。

 

「ゴガ……ゴガガ、ニクラシヤ! ……ナンナノダ、オマエハ!!」

「大神一郎! この子達の、艦娘の隊長だ!」

「オオガミイチロウ……」

 

大神の返答を含むように繰り返す深海棲艦。

 

「俺がいる限り、誰一人として艦娘を沈めさせはしない! 昏き深海の怨念には染めさせない!」

『大神さん……』

 

深海棲艦へと切ってのける大神の啖呵に、有明で戦闘の様子を聞いていた鈴谷達が言葉を零す。

苦闘しながらも決して諦めることなく、終には如月を救ってのけた大神の行動から、その志を、気高き魂を感じ取る事がようやく出来た。

 

「そして沈んだ艦娘達も誰一人見捨てない! 必ずみんなを取り戻すと知れ! 深海棲艦!!」

『隊長……おぬし……』

 

ああ、今なら信じられる、信じると云う事が出来る。

大神隊長を、彼の事を。

 

「……イイ……ダロウ……ナラ、オマエカラシズメテクレル!!」

 

不定形の深海棲艦は陸上に移動し、金剛たちの砲撃で瀕死となっていた離島棲鬼に重なる。

次の瞬間、離島棲鬼の身体は回復する。

 

「ココマデ……サセルトワ……ネ…………」

 

いや、回復するだけではない。

離島棲鬼から、離島基地 離島棲姫と強化され成り代わり、それに連れて新たな艦隊が離島棲姫の周囲に現れる。

 

「隊長さん! 離島棲鬼――ううん、離島棲姫の周囲に新たな艦隊が出現! 新型の深海棲艦だけじゃない、砲台型の小鬼も確認! 6体も居るよ!」

 

時を同じくして、各艦隊からの緊急連絡が入る。

 

「対潜第二艦隊 響。連絡するよ。島を挟んで反対側の海上に敵艦隊を確認! 艦隊数2!!」

「対潜第一艦隊 神通。こちらも新規の艦隊を確認! 空母主軸の艦隊が3艦隊も居ます!!」

「支援艦隊 榛名! 陽動に気付かれました! 戦艦棲姫含め3艦隊がW島に向かっています!」

 

合計9艦隊に囲まれたこの状態、正に絶体絶命と言っていい。

絶望的な報が届くたび、武蔵の、瑞鶴たちの顔が蒼褪めていく。

 

「ハハハ! オマエハオワリダ、シズンデシマエ!!」

『隊長! ここは一先ず撤退を! このまま留まるのは無茶です!!』

『隊長、撤退するのじゃ! ようやく、ようやくお主を信じれるようになったのじゃ! まだ別れとうはない!』

『大神さん!』

 

有明鎮守府から次々に届く、撤退の勧告。

無論、大神を気遣ってのものである。

だが、大神は負ける気がまったくしていなかった、魂の昂ぶりが教えてくれるからだ。

そして、同様に感じているものが二人いた。

 

「撤退は必要ありません!」

「睦月ちゃん?」

 

睦月が、

 

「睦月ちゃんの言うとおり、だって、負ける気がしないもの! 大神さんと一緒なら!!」

「如月?」

 

如月が、

 

コートを羽織ったまま大神に寄り沿い、恥ずかしそうにしながら大神と腕を組む。

睦月と如月に挟まれながら、二人にそれぞれ視線を向ける大神。

 

「「大神さん――」」

「睦月くん、如月くん――」

「睦月ちゃん!」

「如月ちゃん!」

 

大神と視線が交差し、そしてもう一人の姉妹と視線を交わす、それだけで心が震えていく。

初めて自覚する自らの霊力、そして大神の霊力に満たされていく。

 

「大神さん! 大神さんと如月ちゃんへの気持ちで胸がいっぱいで! 負ける気がしないの!!」

「大神さん――ありがとう、好きよ。睦月ちゃんに負けないくらい!」

 

睦月の、如月の声に、大神は歩み出て二人の手をとる。

 

「睦月くん、如月くん、二人とも行くぞ!」

「「大神さん――はい!」」

 

大神の声に頷く睦月と如月。

そして大神たち三人の合わさった手が離島棲姫へと伸ばされた。

 

 

 

一人立つ如月。

いつの間にか、如月の周囲は暗闇が覆っている。

 

「如月の、2月の誕生花はアネモネ」

 

如月が手に持っているのはアネモネの花。

煤けておりその色を確認することは出来ない。

 

「その花言葉の通り、私は『見捨てられ』、『見放され』た――」

 

離れた位置に睦月が現れる。

 

『あのね、この作戦が終わったら話したいことがあるんだ――』

「あの時睦月ちゃんの言葉に、約束に、愛の告白だなんて言うんじゃなかった――」

「如月ちゃん!」

 

如月へと歩き出す睦月。

しかし、二人の距離は縮む事はない。

 

「花言葉通り『はかない恋』になって、『薄れゆく希望』となり、希望は薄れていった――」

「そんな、如月ちゃん!」

 

必死に手を伸ばそうとする睦月と如月。

だが、二人の手が合わさる事はない。

『薄れゆく希望』の花言葉の通り、二人の希望が絶えていく、薄れゆく。

二人が闇に沈んでいく。

 

「そんなことはない!!」

 

大神の言葉と共に睦月に、如月に、二人に再び光が当たる。

 

「如月くん、君を示す花がアネモネだとしても、君達の未来にあるのは『薄れゆく希望』なんかじゃない!」

「大神さん……」

 

大神の片手が睦月の手へと伸ばされる。

 

「君がアネモネだとしても、俺が白く染め上げてみせる!!」

「大神さん……」

 

そして、もう一方の手が如月の手へと伸ばされる。

如月の持つアネモネが白く輝く。

 

「君達の、白きアネモネに俺がなってみせる!」

「睦月ちゃん!」

「如月ちゃん!」

 

その言葉と共に睦月の、如月の手を取り、引き寄せる大神。

睦月の身体が、如月の身体が大神の懐に収まる。

届かなかった筈の睦月の、如月の手がようやく合わさる、未来への道が開ける。

 

「「そう、そうなのね! 白きアネモネの花言葉は!」」

 

そこに大神の手が被さり、三人の手が合わさる。

睦月と如月の手が二度と離れてしまわないように。

 

「「「『希望』!!」」」

 

「……でも、大神さんには赤いアネモネを送りたいのにゃしぃ。ね、如月ちゃん?」

「睦月ちゃん、紫のアネモネも良いんじゃないかしら?」

 

 

 

『希望』の言葉と共に大神たちを中心に霊力が膨れ上がり、紅と紫と白の3種の光を帯びて爆発するかのように拡散した。

その光に誘われて天上から光の柱が水面へと降り立ち、急速に広がっていく。

 

光の柱に触れた深海棲艦は大小を問わず浄化され消えていく。

 

「シズカナ……シズカナジダイデ……キット……」

 

その言葉を最後に離島棲姫も浄化され消滅していく。

いや、それだけではない。

 

急速に広がる光の柱はW島に留まらず拡散し、周辺海域を全て浄化していく。

島を挟んだ海上の敵艦隊も、空母主軸の艦隊も、戦艦棲姫の艦隊も。

 

本海域の全ての深海棲艦が浄化されていく。

 

 

 

 

 

そして、清められた静かなる海だけがそこに広がっていた。

W島に寄せ打つ波が大きく響き渡る。

 

『敵、艦隊……全滅…………信じられません』




三人合体技。
合体技が二人限定といつから錯覚していた?

あと注釈、
赤いアネモネの花言葉:君を愛す
紫のアネモネの花言葉:あなたを信じて待つ

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