艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

71 / 227
第六話 9 離島攻略-苦闘

「如月が、深海棲艦になったですって!?」

「なんてことなの、如月ちゃん……」

 

深海へと沈み、深海棲艦そのものに成り果てた如月。

その存在を前にして、元警備府の艦娘から動揺の声が上がる。

 

「そんな、嘘だ……嘘だよ!」

 

特に睦月の混乱は著しい。

自分の確認したことでありながら、嘘だと言わんばかりに首を何度も振る。

しかし、それでも事実は変わらない。

戦艦棲姫の髪には、如月の髪飾りがそこにある。

 

「嘘だって言ってよ、如月ちゃん!」

 

再度問いかける睦月。

睦月の声に反応し俯く戦艦棲姫、それに代わり後ろの巨大な深海棲艦が邪魔だと言わんばかりに巨砲を向ける。

 

「あ……」

 

事実の認識が追いつかない。

 

深海棲艦に如月がなってしまったこと。

 

その深海棲艦に砲塔を向けられていること。

 

全てのことが偽りのように、夢のように思えて仕方がない。

 

「如月ちゃん……」

 

やがて、轟音と共に深海棲艦の巨体から16inch三連装砲の砲弾が放たれ、睦月へと飛来する。

その砲撃は強烈であり、睦月が相手であれば一撃で沈めてしまうことさえ可能だろう。

 

けれども、それが真実とは睦月にはとても思えなかった。

 

ただ呆然とその様子を目で追う睦月。

 

回避行動をとろうともせず、立ち尽くす。

 

「睦月くん!」

 

このままでは睦月が危険だと判断した大神は、タービンにて急加速しながら、睦月を攫うかのように横抱きに抱えた。

その直後、睦月のいた場所を砲弾が着弾し、水飛沫が二人を襲う。

 

「睦月くん、しっかりするんだ! 如月くんを救うんじゃなかったのか!!」

「だけど、大神さん! 如月ちゃんが、如月ちゃんが深海棲艦に!」

 

水を被りながら、睦月の気を取りなおさせようと、抱きかかえた睦月に声をかける大神。

だが、睦月は目の前の現状に動揺してしまっている。

艦娘も動揺している、このまま本格的な戦闘に突入すれば不測の事態は起きてしまうかもしれない。

それを避けるためには誰かが戦艦棲姫と対峙し、敵艦隊を分断するしかない。

 

「……分かった、戦艦棲姫とは俺が接近戦で相手取る。みんなはその他の艦隊を、離島棲鬼と相対してくれ!」

「そんな、大神さん! 私も如月ちゃんと!!」

「すまないが、今の睦月くんを戦艦棲姫とは戦わせられない、危険だ! 金剛くん!!」

「了解デース! 睦月、今は隊長の言う通り、戦う時デース!!」

 

抱きかかえた睦月を金剛に預け、大神は単身、戦艦棲姫へと向かう。

大神の行動に気を取りなおした艦娘たちも、残る深海棲艦へと向かっていった。

後ろ髪を引かれるような心持では合ったが、睦月も深海棲艦の艦隊へと向かっていこうとする。

 

しかし、

 

「シズミナサイ!」

「そう簡単に当たるものか! 行くぞ!」

 

砲弾を回避しながら戦艦棲姫に急接近した大神の剣が一閃し、後ろの巨体に切りつけようとした際、本体である筈の如月が、急に深海棲艦を庇った。

 

「なにっ!?」

 

剣の軌道を大きく変えることも出来ず、振りぬかれた大神の刃は如月の髪を、背中を切りつける。

 

「きゃあぁぁぁぁっ!」

「如月ちゃん!」

 

鮮血と共に切られた髪の毛が舞い、戦艦棲姫の悲鳴が海に鳴り響く。

その血の色は紅く、深海をたゆたうものの血とはとても思えない。

そして悲鳴は間違いなく如月の声で、睦月は大神と戦艦棲姫の戦いを黙って見ていられなかった。

それに一つ気がついたことがある。

大神と戦艦棲姫のもとへ駆けだす睦月。

 

「如月ちゃーんっ!!」

「あっ、睦月! 待ちなサーイ!」

「コリナイ コタチ……」

 

睦月を制止しようとする金剛だったが、振り向こうとしたところで離島棲鬼の砲撃が放たれる。

タイミング的に回避は難しい。

 

「あぁあっ! 隊長ー!」

 

防御に集中した金剛を、それでも小破に追い込む離島棲鬼。

 

「金剛くん!? 武蔵くん、そちらの状況は!」

「離島棲鬼を残すのみだ、だが硬い! 夜戦に入らないと止めは難しい!」

「作戦を『火』に変更する、それで撃破できるはずだ!」

「隊長さん、作戦を『火』に変えて大丈夫なの? そっちの状況は? さっきの悲鳴、如月の声だった!」

「シズンデシマエ!」

 

瑞鶴の問いに答えようとした大神を、深海棲艦の巨大な鉄拳が襲う。

鉄拳を避けながら、巨大な腕に切りつけようとする大神。

しかし、再び如月がその巨体を庇った。

 

「くっ!」

 

今度は如月を斬るまいと、如月の身から剣を外す大神。

しかし、そんなことをすれば大神は隙だらけになる。

深海棲艦の鉄拳が大神の胴を殴りつけた。

 

「ぐはっ!」

 

衝撃に後ずさる大神。

それだけではない、肋骨も何本か折れたようだ、鈍痛が大神を襲う。

その様子を黙って見てられないと、瑞鶴が艦載機を発艦させようとした。

 

「隊長さん! 第二次攻撃隊、稼働機、全機発艦して! 目標、敵、巨大深海棲艦――」

「瑞鶴くん、待ってくれ! 彼女が、如月くんが庇ってしまったら意味がない! 如月くんを傷つけるだけだ!!」

「じゃあ、どうすれば良いって言うのよ!!」

「手は……打つ手はあります!」

 

気が付けば大神の横を、睦月が寄り添って駆けていた。

 

「睦月くん? 何をしようと言うんだ?」

「如月ちゃんを見てて、一つ気が付いた事があるんです! 如月ちゃん、私の『如月ちゃん』という声にはずっと反応してました!」

 

確かにそうだ、最初から睦月の呼び声にはずっと反応していた。

それ以外は深海棲艦を庇うことしかしていない如月だが、今も、如月は睦月の声に反応している。

 

「私の声なら如月ちゃんに届くかもしれません! だから、私に如月ちゃんを説得させてください!」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。