艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第一話 6 海を行く(但し二人で)

「つ、着いたぜ。警備府に。お前ら大丈夫か?」

「私たちは無事……とは言えませんが、大丈夫です」

 

決死の思いで敵中突破を図った天龍たち。

パッと見で分かるほどボロボロになりながら、彼女たちは警備府の港へたどり着いた。

 

「おかしいな、陸に上がった奴らの砲撃がねえ」

 

しかし、予想に反して港へ近づいた辺りから敵の砲撃が明確に減少したように天龍たちには思えた。

陸の方で何か異変があったのだろうか。

 

いや、これは異変というよりも――

 

「やるじゃねえか、龍田たちも」

 

警備府に残っていた艦娘が敵勢力をどうにかしてしまったのだろう。

戦力的には自分たちと同等、もしくは以下だと言うのに。

仲間たちの思わぬ奮闘に天龍は不敵に笑う。

 

なら話は早い。

 

早く合流して、敵を殲滅してしまおう。

疲労でガクガク笑う膝に鞭を入れると、天龍たちは海から上がる。

 

程なくして、暁たちの姿が目に入った。

 

「あいつら。何やってんだ?」

 

が、様子が何か違う。

 

傷を負い土まみれの暁、涙ぐんだ電、地面に力なくへたり込んだ雷に近づく軍装の男。

天龍には、暁たちに不逞の輩がよからぬことをしでかしたように見えた。

 

警備府自体の危機だと言うのに、こんな事態に何をしていやがるのか、この軍人は。

オレたちを、艦娘のことを何だと思っていやがる。

 

そう思うと、天龍は怒りで自分の頭が真っ白になっていくのを感じた。

これは不味いと思っても止まらない。

沈黙し倒れ伏す敵艦など、暁たちの周りの状況に気がついた、8駆の面々の制止の声も聞こえない。

 

「てめぇ! 軍人の癖に暁たちに何しやがったんだ!」

「天龍さん、ちが――」

 

暁たちに言い寄る奴に一発ぶちかましてやろうと、天龍は踏み出したのだった。

それが大いなる勘違いであることは言うまでもなく。

 

「この、ロリコン野郎!!」

 

 

 

 

 

「すいませんでした。臨時司令官とは露知らず」

 

暁たちの説明の後、天龍は大神に平謝りしていた。

天龍は砲撃すらぶちかますつもりだった。その意図が知られれば本当はただではすまない話だ。

 

「構わないよ。分かって貰えればそれでいいさ」

 

が、大神は軽く頷くと、それでおしまいとばかりにひらひらと手を振る。

鬼嫁?の嫉妬に常にさらされた身からすれば、誤解によるちょっとした暴言程度大したことではないらしい。

悲しい性である。

 

「そうか。じゃあ頼む! 龍田の奴には内緒にしてくれ!」

「ああ、俺は別に構わないけど……」

「駄目です、天龍さん。臨時とはいえ司令官への暴言、見過ごせません」

 

やったとばかりに喜色を顔にし、ついでに隠蔽してしまえと大神に擦り寄る天龍だったが、朝潮が静止する。

 

「ちょ、朝潮! 裏切んのかよ!?」

「事実は正しく報告するべきです。場合が場合なんですから」

「そうだな、こんなことやってる場合じゃなかったな」

 

朝潮の指摘に天龍は一瞬冷水をかけられたような表情をするが、すぐに首を振り気を取り直した。

佇まいを直し、大神に報告する。

 

「臨時司令官、海に残った敵戦力は戦艦タ級1、重巡リ級1、軽巡ヘ級1、駆逐ロ級1、駆逐イ級2だ。何隻かは沈めたけど、戦艦は無傷で残存してる」

「戦艦が残っているのか、軽巡のキミでも戦艦の無力化は難しいか?」

「暁たちが同じようなこと言ってるかもしれないけど昼間のうちはムリだ。戦艦をアッサリ無力化できるアンタがおかしいんだよ」

 

もっともな話である。

 

「臨時司令官。アンタ、海上で戦えないのか?」

「試したことはない。と言うか、ちょっと待ってくれ。普通の人間は水面に立てないだろう?」

「「「「「「「「深海棲艦と戦えるくらい常識突破してるんだから、それくらいできてもおかしくない」」」」」」」」

「そ、そう?」

 

全員が一斉に大神にツッコミを入れる。

 

「まあ、とりあえずやってみるよ。吹雪くん、ちょっと預かってもらえるかな」

 

言うが早いか、大神は神刀滅却を吹雪に手渡し、水面へと近づく。

霊力を足に篭めてみて、何回か足を水面につけたり離したり、を繰り返す。

 

「立てる気はしないな。ムリみたいだ」

「参ったな。夜まで待ってる余裕なんてないのに」

 

駄目だと首を左右に振る大神に、天を仰ぐ天龍。

今の艦隊からすると喉から手が出るほど欲しい昼戦火力があるのに、陸上でしか使えない。

宝の持ち腐れもいいところだ。

 

「俺ならボートとかに乗って移動しても――」

「深海棲艦をなめるな、そんなチンタラした船、砲撃一発でおしまいだ。海の上を自在に動ける足も必要なんだよ」

 

ボートも沈められない深海棲艦なら、艦娘たちは苦労はしない。

 

「うーん」

 

何かいい案がないか、大神たちは首を捻って考える。

次の瞬間、あらゆる意味で素晴らしいアイデアが天龍の脳裏を過ぎる。

 

「そうだ! アンタが海の上を歩けないんなら、歩ける奴が運べばいいんじゃないか!」

「どういうことだ?」

「簡単な話さ。オレたち艦娘が、アンタを運ぶ! そして、アンタが切る! ただ、それだけだ」

「俺を? 大の大人一人、運んで問題はないのか?」

「ああ、こう見えても中身満載のドラム缶だって引っ張っていけるんだ。男一人くらい大丈夫さ!」

 

自信満々に胸を張る天龍、だが駆逐艦娘たちは男の人を運ぶのかと色々なことを想像し赤面している。

けれどもこの状況を打破できるのがこれしかないと言うのなら、仕方がない。大神は決断する。

 

「分かった、みんな。それでいこう」

「じゃあ、誰がアンタを運ぶか決めてくれ。あ、オレは一人だけの軽巡だし駄目だから。駆逐艦娘の中から決めてくれよな」

 

最初からそのつもりだったな。

駆逐艦娘たちの間に戦慄が走る。

 

「そうだな。戦艦以外の敵戦力も居るから――」

 

一人ひとり確認するように見やる大神の視線。

 

「あんまり艦隊の戦闘力を割かずにすむ娘だな」

 

が、駆逐艦娘の視線は一人を除いて一点に集中する。

そんなの一人しか居ない。

 

「うぇ?」

 

周囲の視線を感じて吹雪は周囲を見渡す。

大神以外の視線が自分に集中していることに気がついた。

 

 

 

「そんな、無理ですー!」

「吹雪、お前しか居ないんだよ」

 

ブンブン首を振り、できないと否定する吹雪。

 

「6駆も、8駆も、ほら、身長も小さいだろ? オレは、戦艦以外の敵を相手しないといけないし――」

「ちょっと! 小さいって何よっ!!」

「臨時司令官を海に出して、戦艦をどうにかするにはこれしか手がないんだよ」

 

お子様言うなとぷんすか怒る声が背後から聞こえるが、天龍はガン無視した。

イヤイヤと首を振る吹雪の手を取り、眉間にしわを寄せ半ば脅すように迫る。

吹雪に逃げ場なし。

 

「はい、分かりました……」

 

 

背中の艤装のみを消した状態で水面に立つ吹雪。

恐る恐るその背を大神へと向ける。

 

「それじゃ、大神さん。あの、優しくしてくださいね?」

「ごめん。吹雪くん」

 

謝りながら、吹雪を後ろから抱きしめる大神。

優しくと言ったのにお腹に回された手は力強く、吹雪は恥ずかしさで林檎もかくやと云わんばかりに赤面した。

せめてもの救いは、真っ赤になった自分の顔を見られずに済むことくらいだろうか。

 

「吹雪くん?」

 

セーラー服をいつ洗濯したっけ、匂わないだろうか?

そもそも自分はいつお風呂に入っただろうか、自分も匂わないだろうか?

とそこまで考えて、軍装越しに大神の匂いがすることに気づく吹雪。

息をするのが怖い。意識が飛んでしまいそうだ。

呼吸することにすら四苦八苦している吹雪の様子を見て、大神の表情に一際申し訳なさそうな色が浮かぶ。

 

「本当にごめん、吹雪くん」

 

……あぅ。

 

みみもとで、

 

おとこのひとに、

 

はなしかけられるなんてはじめてのことで、

 

そのことを自覚するだけでクラクラと目眩がする吹雪。

いっそこのまま倒れてしまえれば、どれほど楽か。

 

とりとめもない考えが次々と頭に浮かんでは消え、

 

「い、いえっ! 大神さんこそ、すいません! ひ、貧相な身体で」

 

素っ頓狂な言葉を口にする吹雪。

その視界はグルグルと回り始める。

 

「いいっ!? 俺そんな事考えてないよっ!」

「でも、私、天龍さんや龍田さんや明石さんみたいにスタイル良くないですし、影薄いですし」

「いやいやいや! そんなスタイルいい娘に抱きつくなんて真似、俺には!?」

「やっぱり私、スタイル良くないから大神さん気にしてないんですね、うぅ」

 

大神の言葉にどっぷり落ち込んだ吹雪が、水面の上を滑り出す。

 

「どーすればいいんだ!? って、まだ水の上を行かないでくれ、吹雪くん!」

「きゃあ! 大神さん! そんなに強く抱きつかないでっ!?」

 

足場を失った大神は、反射的に吹雪を更に強く抱き寄せる。

背中で密着して、男の胸板を身体全体で感じて、吹雪は顔から火が出そうな程赤面した。

そして身体の火照りを覚ましたいとばかりに、水上を駆ける速度を上げるのだった。

けれどもそれは逆効果。

 

「あ、足が沈む!? 頼むからもう少し慣れさせてくれ!」

「大神さん!? 足を絡めないでくださいー!? ひゃんっ!」

 

海水が靴の中に浸入し、思わず大神は自らの足を吹雪の足に絡めしがみついた。

いつもなら感じることのない水の冷たい感触がふとももにかかり、吹雪はつい身をよじってしまう。

吹雪が身をよじるたびに、大神の身体はずれ落ち、水面へと近づく。

 

「吹雪くん、体勢を変えないでくれ!手がずれる!落ちる!沈む!!」

「きゃ、きゃあぁーっ!? お、大神さんこそ動かないでっ。手が、手がセーラー服の中にーっ!?」

 

ずれ落ちる身体を留めようと、必死に吹雪にしがみつく大神。

しかしそれは、見た目女学生の吹雪の足に絡み、セーラー服の中に手を入れ抱きついている男の姿。

勿論、意図したものではないが、もはやセクハラである。

 

「ゴメン! 吹雪くん!!」

「いやぁー!」

 

もはやセクハラである。

大事なことなので二回言った。

 

 

 

 

 

「おーい、そろそろ行くぜ。吹雪に臨時司令官」

「臨時司令官、早くいきましょう」

「はぁうぅー、見てるこっちの方が赤くなっちゃうよー」

「そうね、吹雪は力不足だもんね、助かったわ……」

「あらあら、大変ね~」

「これが大人の男性の抱擁なのっ!? い、いぃ一人前のレディは、ぁ、あんなことされてもへっちゃらだし。……へっちゃらなんだもん、どきどき、どきどき」

「はわわ、見てるだけで恥ずかしいのです……」

「少尉さん、頑張ってー」

 

そんな二人に、水面に立つ天龍と駆逐艦娘たち計8人の視線が突き刺さる。

自分でなくて良かったと、心の中で安堵の息を吐いていた。

 




吹 雪 羞 恥 地 獄 

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