「神通さん、対潜第二艦隊集合したよ」
「こちらの艦隊も集合しました。後は大神さんの指示通り編成を変更して、敵を撃ちましょう」
集合した対潜第二艦隊を連れて、響は第一艦隊との合流を果たす。
第一艦隊、第二艦隊ともに損害は軽微。
音声でやり取りはしていたが、傷らしい傷を負っていない互いの姿を見て安心が先立つ。
だが、こちらの索敵が完了したということは、当然敵側にも索敵され発見されている可能性を考えなくてはならない。
既に時間との勝負は始まっている。
「千代田さん、瑞鳳さん。問題はありませんか?」
「万事、問題なしよ!」
「大丈夫です!」
音声のチャンネルを合わせ、神通に問題ないことを伝える千代田たち。
「暁、叢雲。いけるね?」
「大丈夫に決まってるじゃない」
「問題ないわ」
同じく音声のチャンネルを合わせる暁たち。
これで再編成は完了だ。
一艦が一人の艦娘であるからこそ出来る技といって良いだろう。
艦の状態のままであれば、こうは簡単にいかない。
「響ちゃん、私達は航空戦力撃破のために北東方向に向かうわ」
「分かったよ、私達は対潜索敵を行ないながら――」
艦娘のメンバーを変え、再編成を滞りなく終了した自分たち。
神通たちは既に発見した航空戦力を撃破することに注力すれば良い。
だが、自分たちはどうやって敵主力潜水艦隊を発見するべきだろうか。
「――っ!?」
と、そこまで考えたところで響の背筋を寒気が襲う。
敵航空戦力に帯同しているであろう敵主力潜水艦隊。
だが、ヲ級改、タ級のflagshipまで同海域に出撃している状況下で潜水艦隊がじっとしているだろうか?
潜水艦隊と空母戦艦を含めた艦隊、重要度のより高いのはどちらだろうか?
答えは当然ながら空母戦艦を含めた艦隊だ。
なら、敵の手として考えられるのは――潜水艦隊を先遣させての先制攻撃。
「響くん!」
「! 聴音、開始するよ――」
「響ちゃん? ……まさか!」
大神の声に滅多に見せない慌てた様子で聴音に集中する響。
続いて、暁も響たちの考えていた事に気づくが、残念ながら遅かった。
「敵魚雷音、多数確認! こちらに向かって接近中だ、全員、全力で回避して!」
聴音で確認されたものは潜水艦隊ではなく、潜水艦隊の放った魚雷。
足を止めて再編成していた自分達を狙い撃ちにするものだ。
このままでは直撃してしまう。
そう考えた響は水面を走り出しながら、全艦隊に魚雷回避を伝える。
「第一艦隊、了解! 総員、全力で移動開始! 魚雷を回避します!」
第一艦隊の面々は、神通の声に従って水面を駆けだす。
第二艦隊も、第一艦隊に続いて水面を駆け出そうとした。
しかし戦場経験不足故に、出遅れた艦娘が一人いた。
こればかりは大神の霊力でもどうにもならない。
「みんな?」
吹雪だ。
僅かな間であったが、事態の急変を察することが出来ず、その場で呆ける吹雪。
「バカ、何やってんのよ! あんたも早く回避しなさい!!」
「吹雪! 早く回避行動をしなさい!」
叢雲と川内に促され、移動し始める吹雪。
だが、この環境下での初動の遅れは、もはや致命的といっても良い。
大半の艦娘が魚雷を回避する中、回避し切れなかった吹雪の傍で魚雷が爆発した。
「きゃあぁーっ!」
爆発に誘引されるかのように複数の魚雷が誘爆を起し、大きな衝撃が吹雪を揺さぶる。
衝撃で海面に投げ出され、水面を転げ回る吹雪。
「吹雪ちゃん!」
「吹雪!」
「吹雪くん!」
魚雷を回避した他の第二艦隊が振り返る。
「そんな、ダメですぅ!」
幸い、吹雪の怪我は中破程度といったところか。
艤装もボロボロだが、艦娘としての活動に支障はないだろう。
「大神さん!」
「叢雲くん、吹雪くんの事を頼む!」
だが、全体的に能力の落ちた吹雪を一人放置しておくのは危険すぎる。
かと言って帯同すれば、速力が落ちての艦隊行動となる。
もし、こちらの対潜行動前に敵の魚雷第二射を許せば状況はより厳しくなるだろう。
故に、今の響にはどちらの選択肢も取る事はできなかった。
響は僅かに考えた後、大神に連絡を取る。
大神は即座に叢雲を吹雪の救助に、残る全員で潜水艦隊を叩くことを決断した。
「第一艦隊は予定通り敵航空兵力の排除を! 第二艦隊はここに居る敵主力潜水艦隊を叩いてくれ!」
「了解したよ、探針音! ……敵影5! 敵にソ級を確認、敵の位置も掴んだ!」
響の放った探針音により敵の存在が露になる。
敵数は5、ソ級まで居る。
危険だ、魚雷第二射など撃たせてはいけない。
「響くんたちは速やかに爆雷の投射を! 第二射を打たせる前に沈めるんだ!!」
「「「了解!」」」
大神の声に第二艦隊の残り4人の艦娘が爆雷を投射していく。
しかし、大神の指揮は留まることを知らない。
「第一艦隊はこのまま北東方向に移動! 敵航空兵力は?」
「敵、艦載機の発艦を確認! このままでは先制攻撃を受けます!」
「落ち着いてくれ、瑞鳳くん! まだ敵との距離はある! 潜水艦隊の心配はとりあえず必要ないから、こちらも艦載機を発艦させるんだ!!」
大神の声に落ち着きを取り戻した瑞鳳。
「ごめんなさい、隊長! さあ、やるわよ! 攻撃隊、発艦!」
祥鳳、千歳、千代田たちと共に艦載機を発艦させる。
しばらくして爆雷の爆発音と、次々に潜水艦が沈み圧壊していく音が聞こえていく。
また、続いて敵艦載機との交戦の結果、制空権をとったと、開幕爆撃で3隻撃沈したと第一艦隊からも連絡が入る。
制空をとれば、残りの敵戦艦も弾着観測射撃は行えない。
なら素の能力で戦艦に迫る能力を持つ神通との殴り合いは、速力に勝る神通が優位の筈。
艦載機による第二次攻撃隊もある。
勝利は時間の問題と言って良いだろう。
気を緩める響たち第二艦隊。
「響くん、潜水艦隊の撃滅はできたかい?」
「あ、そうだね。聴音、再度開始――」
大神の声に気を取りなおすと聴音を開始する。
だが、敵主力潜水艦隊は完全に死滅していなかった。
「聴音結果、シロ――違う! 魚雷音、多数!」
浮かび上がって最後の悪足掻きとも言える魚雷を響に向かって射出し、沈み圧壊していく。
「響ちゃん!」
暁の声に回避行動をとろうとして、響は気付いてしまった。
自分が回避すれば、何本かの魚雷は中波した吹雪たちに当たる。
恐らく、中波した吹雪はこの魚雷を避けられないし、耐えられない。
なら――
「何してるの、響ちゃん! 避けて!」
響は、魚雷と吹雪を結ぶ直線上に身を置いた。
「自分が避けたら、吹雪に当たるよ」
「――なっ! 私の事は気にしないで、響ちゃん!」
「そんなこと出来る訳ないよ。それに私なら大丈夫、隊長の霊力による力も感じるし」
吹雪の声にそう応える響だったが、確信はない。
吹雪よりは耐えられるだろうと云う推測だけだ。
暁が響を再度促そうとする前に、足を止めた響へと魚雷が殺到する。
響は覚悟を決めて防御に集中し目を閉じた。
「響ちゃんっ!!」
「響くん! 間に合えーっ!!」
暁の叫び声を掻き消すほどの爆音が響き渡り、大きな水飛沫が上がる。
そして水柱が立ち、響の姿は水柱に埋もれ見えなくなっていく。
だが、目の前で起きている筈の爆発も衝撃も、何一つとして響には感じられなかった。
至近で爆発したと云うのに、響の身には傷一つない。
いや、水飛沫一つかかってすら居なかった。
一体何が起こったと云うのか、混乱する響。
覚悟を消えて閉じた眼を開けると、そこに居ない筈の人物が自分を庇う姿を見た。
「……うそ」
彼は有明鎮守府で、離島攻略部隊を率いて待っている筈だ。
だから、私達がこうやって対潜掃討を行っていたのだ。
彼の霊力による分身体であれ、今、ここに居るわけがない。
やがて役目を終えたとばかりに薄れ消えていく分身体の代わりに、その人の手が響を後ろから抱きしめる。
「きゃあっ!?」
「全く、あんまり無茶な事はしないでくれ、響くん。間に合わないかと思ったよ」
「もう――無茶なところは大神さんに似てしまったんだよ、きっと」
振り返って居ない筈の人物、大神に微笑みかける響であった。