艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第五話 15 遺された想い(舞鶴編)

舞鶴鎮守府からの、深海棲艦らしきものを近海にて発見したと云う連絡が、司令室に届いたのは艦娘の昼食中の事であった。

艦娘の撃ちもらしだ、舞鶴の艦娘を早く呼び戻して何とかさせろとがなり立てる鎮守府の責任者を宥めながら、情報を確認する。

当然、そんな事はさせられない。

今の彼女達に必要なのは休息であり、時間なのだから。

こちらで艦娘を選定し迎撃に向かうので安心してください、と相手を納得させる。

 

艦数は僅か1、はぐれ深海棲艦だろうか。正直なところ、艦隊で出撃するレベルではない。

だが、大神の直感――いや、霊感は何かを感じ取っていた、自分も向かうべきだと。

 

「俺も出るよ」

「何言ってるんですか? こんなの、3人ほど艦娘を派遣すれば事足りるじゃないですか」

 

大淀の指摘も尤もだ。

少なくとも業務に明け暮れなければならない現状ですることではない。

早々に撃破して帰還しても、帰りは夜になるだろう。

 

「大淀くんの云うことにも一理ある。けど、何かが霊感に引っかかるんだ。それに有明鎮守府の対深海棲艦の初出撃だ。侮ることなく万全を期したい」

「それは、確かにそうですけど……」

「あと、舞鶴への意思表明にもなるしね、本気で深海棲艦を一掃させると云う」

「……分かりました。業務はこちらで可能な限り片付けておきます。でも隊長、今晩は徹夜を覚悟してくださいね?」

「分かった!」

 

そうと決まれば、急いだ方が良い。

呼び出しをかけようとした大神だったが、館内放送を用いれば舞鶴方面の出撃であることが知られてしまう事に気づく。

舞鶴の艦娘の事を思えば、今はそれは避けたい。

諦めて、直接声をかけることにする大神だった。

 

声をかける予定だった水雷戦隊、吹雪たちと神通、川内を食堂にて程なく捕まえ、食堂から出る大神。

ビッグサイトキャノンで指定された海域へと向かい、索敵を行う。

 

「あれ? 大神さん、敵は一隻だった筈だったよね?」

 

索敵機を飛ばした川内が大神に問う。

 

「ああ、舞鶴からの連絡では一隻だった筈だよ」

「今連絡が来たけど、7隻も居るよ? しかも、なんか変だ。1隻を6隻が追いかけてる」

「艦隊で来てやはり正解だったか。しかし、追いかけられてる? もしかしたら深海棲艦じゃなくて艦娘なのかもしれない。その場に急ごう!」

 

新たな艦娘が陸に上がろうとしているところを襲われているのなら、黙って見過ごせない。

 

「えー、でも見た感じ深海棲艦っぽいってことだったよ?」

「それでもだ。救いを求めているものが居るのに、放っておくことなんて出来ないよ」

「うーん、大神さんらしいか。分かった、行くっ」

 

索敵機の教える海域へ向かう大神たち。

そこにはあったのは、一隻の黒き深海棲艦らしき存在が深海棲艦に追われ攻撃されている光景。

追われている深海棲艦は大神の記憶にはない。

 

「大淀くん、あの追われている深海棲艦について分かるかい?」

『既に確認中です……いえ、データベースに登録されていません』

 

自分の視界情報を司令室に送り検索するが、結果はUnknown。新種の深海棲艦かもしれない。

だが、人に近く、見ようによっては艦娘にも見える彼女からは悪しき霊気を感じない。

何より、大きく傷ついており今にも沈みそうなのは確かだ、大神は決断する。

 

「みんな、追われている彼女を助けるぞ!」

「大神さん、本気? 深海棲艦かもしれないんだよ!? 敵を守るの?」

「悪しき霊気は感じなかった。それに本当に深海棲艦だったら俺が責任を取って斬る。だからみんな手を貸してくれ!」

 

そう言い残すと、大神は両刃を抜いて彼女を深海棲艦たちへと向かう。

 

「全く、本当に大神さんの下だと苦労が絶えないね!」

「そういってる割には、やる気満々じゃないですか川内姉さん!」

 

続いて川内たちが、吹雪たちが深海棲艦に向かう。

深海棲艦の構成は大神を除けば同一の水雷戦隊、であれば大神たちが負ける筈がない。

鎧袖一触で撃破する大神たちであったが、舞鶴で沈んだ艦娘をそこから見出す事は出来なかった。

 

 

 

深海棲艦を葬り、静かになった海。

傷つき殆ど動けなくなった彼女は歩み始める。

 

「待ってくれ! 今、回復する! 狼虎滅却 金甌無欠!!」

「大神さん、近付きすぎです。もし敵だったら!」

 

大神から放たれる回復技。

だが、彼女には殆ど効果が見られない。

 

『みんなのにおいがする……』

 

複数の艦娘の声を貼り合わせたような声が、艦娘らしき存在から放たれる。

 

「みんな?」

『まいづるに……みんなのところに……いかなきゃ……』

 

無理に動こうとする彼女は、徐々に沈んでいく。

 

「危ない!」

 

大神は彼女を抱きかかえようとするが、殆ど実体を感じられない。

手に霊力を集め、やっとの思いで抱きかかえる。

 

『おねがい……まいづるに……みんなのところに……』

「わかった! 連れて行けば良いんだな! 今すぐ連れて行く!」

 

彼女を抱き抱え舞鶴に向かおうとする大神。

だが、

 

『ああ……まにあわない……たどりつけない……』

 

だが、抱き抱える傍から彼女の実体は薄れていく。

身体越しに海が見えていく。

 

舞鶴まで持たないのは誰の目にも明白だ。

 

「諦めるな! 絶対に間に合わせる! 狼虎滅却 金甌無欠!!」

 

殆ど効果のない回復技をそれでも彼女に使う大神。

僅かに実体を取り戻してもすぐに薄れていく。

 

「大神さん連発しすぎだよ、誰かも分からないのに、そこまでしなくても……」

『大神さん、それ以上はダメです!』

 

無駄と分かっていても、回復技を連続で使う大神。

やがて、光武・海がオーバーヒートを起こし、大神を灼く。

 

「大神さん!」

 

『ありがとう……いらない……それよりも……』

 

彼女は大神を制止する。

そして、ぼろぼろになった、殆ど透き通った手を大神へと伸ばす。

 

『これを……みんなに……おねがい……』

 

そして、

 

 

 

「……これは!?」

 

 

 

 

 

 

「何用じゃ隊長、我輩たちを集めて。我輩たちの事は明石に任せておるのではなかったのか?」

「そうですよ、大神さん。こんな夜更けにいきなりどうしたんですか?」

 

その晩、大神は明石を含めて舞鶴の艦娘たちを急いで呼んだ。

明石と決めたことに反している事は分かっている、だが、時間がなかった。

 

「大事なものを預かってきた。これは君達が受け取るべきものだし、とにかく時間がなかったんだ、すまない」

 

そう言って大神は懐から一本の螺子を取り出す。

 

「螺子? こんなものが一体……」

 

訝しみながらも螺子を受け取る利根。

次の瞬間、舞鶴の艦娘たちに言葉が、想いが伝わった。

 

 

『陸奥さん、泣きながら戦ってた……ごめんなさいね』

 

「あ……」

 

夕雲の、

 

『巻雲、不知火さんのように、強くなれなくてごめんなさい……』

 

「巻雲……」

 

巻雲の、

 

『黒潮、ルンガ沖夜戦のように、戦おうな……』

 

「長波はん……」

 

長波の、

 

『陽炎姉さん、陽炎型の活躍、楽しみにしてるからね……』

 

「秋雲っ!」

 

秋雲の、

 

『海のスナイパーにはなれなかったけど、正規空母を守れたからいいかな……』

 

「イムヤぁ……」

 

168の、

 

『ゴーヤはまたいつか、みんなに会える日を夢見てるでち……』

 

58の、

 

『大井っち、私が居なくなっても大丈夫かな。なんだかんだで真面目だからね』

 

そして、北上の遺された想いが伝わる。

 

「北上さん!あぁ……」

 

そして、想いを伝えきったとばかりに螺子のぬくもりが消える。

 

 

 

あれは深海棲艦ではなかった。しかし、艦娘でもない。

 

海に沈んでも沈みきれなかった艦娘の想い、仲間のことを思う想いが集い、実体の殆どない艦娘の形をとって戻ってきたのだ。

 

舞鶴で共に苦悩し、今も舞鶴で苦悩し続けている筈の仲間達のために。

 

 

たった一本の螺子を媒体として。

 

 

「「「みんな……みんな!」」」

 

 

螺子を胸に抱いて泣く利根たち。

 

 

沈んだ彼女達は、沈む今わの際でさえ自分達への想いを残していった。

 

何が出来るだろうか、この想いを受け取った自分達には。

 

 

 

 

 

そんなことは一つしかなかった。

 

 

利根が、鈴谷が、舞鶴の艦娘たちが大神に向き直る。

 

 

「隊長、我輩らは今は戦えん。明石の判断の通り我輩たちは大なり小なり病んでおる」

 

「じゃから、時間をくれ。明石の元で治療を受けきってみせる。そして――」

 

「必ずや快復して、再び前線で戦って見せようぞ!」

 

「そして隊長の手を借り、みんなを取り戻すのじゃ! 待っててくれ、みんな! 今度は我輩たちが助けに行く!!」

 

 

そして未来に向けて宣言してみせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、もう一つ、彼女達の遺志が残していったものがあった。

 

舞鶴にたどり着こうとする彼女達の遺志を、有明まで、ここまで運んだ大神との最後のやり取り。

 

それは彼女達を縛る心の鎖に、大きな亀裂を刻んでいった。

 

夜明けはもう近い。




舞鶴の艦娘たちについてはこれで一区切りとなります。

あと、せっかくの出番なのに一言も台詞なかった吹雪ちゃんごめんなさい。

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