艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第一話 5 地を駆ける

戦艦寮から飛び出した暁たち。

海上を駆けながらではなく、大地の上を走りながら撃つ連装砲はいつもと勝手がまったく違う。

3人が放った砲弾はその狙いから大きくはずれ、戦艦ル級の横へと着弾した。

 

「イマイマシイ……ハジケロ!」

 

沈黙した警備府の思いがけない反撃に、怒り振り返ったル級の声と共に、砲塔が電に狙いを定めようとする。

炎で焼け爛れたル級の顔に電は表情を歪ませながらも、走りながら身体を捻らせ横へと滑らせる。

 

「そう簡単には、当たらないのです!」

 

ル級の着弾も自らを鼓舞するかのように声を上げた電からかなり外れた位置に落ちた。

同じように暁を狙ったリ級の砲撃も狙いを大きく外している。

 

「クッ、ウミデナラ!!」

 

意図通りに身体が動かない事に、不満の声を上げる深海棲艦。

互いに勝手の違う戦場。

敵側も思いがけず苦労しているのかもしれない。

 

「これなら、なんとかなりそうなのです」

 

目的である敵艦船の注意を引き付けることについては果たした。

砲口が自分たちに向いたことで、陸上に上がった敵からの警備府への砲撃も止まった。

この様子なら、注意を引き付け続けることも問題なさそう――なら、なるべくなら――

知らず、手に持つ連装砲の狙いが緩む電。

 

「電! 気を抜いちゃダメよっ!!」

 

暁の言葉に反射的に発砲するが、最初から狙いの甘い砲撃がまともに着弾するはずもない。

馬鹿にされたと感じたのか、ル級が叫ぶ。

 

「フザケルナ! コウナレバイッソ!!」

 

ル級の動きが止まる。

一体何をしているのか疑問に思いながら発砲した電の砲弾が偶然ル級に直撃した。

しかし駆逐艦の砲撃では、やはりまともなダメージを与えたようには見えない。

構わず、ル級は電に砲撃を行った。

 

「――!?」

 

ル級の行動のその答えは次の着弾時に分かった。

ル級の砲撃はこちらが回避行動をとりながらも、もう少しで至近弾になりそうだった。

先程の砲撃よりも格段に精度が増している。

つまり――

 

「こちらの攻撃を無視して固定砲台になるってことですか!?」

 

――不味い。電たちの脳裏をその考えが走る。

勿論撃ちあいになってしまえば、こちらはひとたまりもない。

軽快さを生かして動くしかないのだが、いつまで持たせられるだろうか。

 

「あぁっ!」

 

ル級に倣い動きを止め固定砲台となったリ級の砲撃が暁の眼前に着弾し、爆風で舞い上がった土くれが暁の身体を叩きつける。

制服に汚れがいくつも出来、飛び散った石片で傷を作りながら暁は連装砲を構える。

 

「このーっ!!」

 

レディらしからぬ声を放ちながら、彼女たちは走り続ける。

分かっているのだ、足が止まってしまえばお仕舞だと。

海の上でなら足を動かすことなく艦娘として駆ける事もできるが、今は、走らなければ動けない。

 

自分たちの歩みのみが、自らを駆逐艦と為させるのだ。

 

「ブザマニオドレ!」

 

ル級の哄笑が高らかに響く。

 

 

 

一秒がいつもの数十倍に感じた時間の末、一方的な追いかけっこは唐突に終わる。

 

「きゃっ!」

 

着弾で掘り返された地面に、雷が蹴躓いたのだ。

 

本来の戦場であれば、自らの足場――水面に気遣う必要などなかった。

水上であれば、こんなことはありえない。

 

恐らく駆逐艦娘の誰もが、そう言うだろう。

 

だが、現実は地の上にあり。

無慈悲にバランスを崩し、転ぶ雷。

躓いたときに足を捻ったのか、痛みに顔をしかめる。

 

「あうっ」

 

雷は自分の状況すら理解できないと目を瞬かせる。

 

 

「「雷!」」

 

 

暁と電の叫びがひどく遠くに聞こえる。

 

 

「クダケロ!!」

 

 

そして、

 

 

「雷! 逃げるのよっ!!」

 

 

ル級の、

 

 

「雷! 逃げてください!!」

 

 

砲口の、

 

 

「あ……」

 

 

狙いが、

 

 

 

 

「応っ!!!」

 

否、剣影が走る。

そして一瞬遅れ、ル級の右砲塔が滑り落ちた。

 

「せいっ!!」

 

返す刃でル級の左側の砲塔を切り裂き、更にル級の背の艤装を切って捨てる。

大神が飛びのくと、ル級の艤装が爆発しル級はたたらを踏んだ。

 

「ダレダッ!!」

 

痛みに焼かれながら振り返り叫ぶ声に、大神は刀を構え霊力を貯めつつ答える。

 

「大神一郎! この子達の隊長だ!!」

「クッ! リキュウ! コイツヲ――ナッ!?」

 

ル級がリ級の方を見ると、リ級は既に切り捨てられ、地に倒れ伏していた。

声にもまったく反応せず、ピクリとも動く気配はない。

 

「マサカッ! カンムスデモナイニンゲンガ、ワレラヲ!?」

「そのまさかだ! いくぞっ、狼虎滅却!」

 

砲塔を失い、それでも砲撃しようとするル級の意思を悟ったか、大神が間合いを詰める。

雷たちには、刃を振るう大神の姿が雷光を纏い突進する狼の様にも見えた。

 

「紫電一閃!!」

 

横をすり抜けながら、ル級に胴薙ぎの必殺の一撃を叩き込む。

ル級は断末魔の叫びすら上げることなく、倒れ沈黙した。

 

 

 

 

 

「遅くなってすまなかった」

 

大神は刀を納めると、頭を下げて謝った。

後ろの吹雪もバツが悪そうな表情をしている。自分の道案内がきっかけで暁たちに命の危険を招いたことに気がついたようだ。

 

「謝らないで、少尉さん。私たちこそ、注意を引き付けるって言っておきながら任務を全うできなかったもの」

「いや、君たちの本来の戦いの場が海の上だと、自分こそ肝に銘じておくべきだったんだ。そのことを失念していた俺の責任だよ」

「そんなことないっ。私たちに任せてって言ったんだから、海の上とか関係なく自分の言ったことくらいちゃんとやり遂げないと」

 

だが、雷も引き下がらない。

見た目も口調も幼いと言えど、彼女たちは数多くの任務に従事してきた駆逐艦なのだ。

出来ると言ったことをやり遂げられなくて、矜持が傷つかないわけがない。

 

しばしの間、雷と大神の視線が絡み合う。

暁と電、吹雪がどうしたものかとため息をつき、大神がどう説得したものかと考え始めたとき、港の方から大声が響き渡った。

 

「てめぇ! 軍人の癖に暁たちに何しやがったんだ!!」

 

 

警備府の戦いは未だ終わりを告げず。

 




必殺技連発は書いてみてなんとなくテンポが悪かったので、重巡リ級さんは切り捨て御免させて頂きました。
哀れなり。

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