艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第五話 14 明石の奔走(舞鶴編)

その日、明石は朝から夕張と光武・海の艤装への応用について、空論を戦わせ遊んでいた。

光武・海は艦娘の装備を一つ装着できるように設計されている。

つまり、両者は基盤において同じ技術を用いられているのだ。

殆どの艦娘は霊力を自覚しておらず自らの意思で扱うことも出来てはいないが、そこをクリアしてしまえば大神のような3次元機動を行いながら戦うことも艦娘は出来るようになるだろう。

場合によっては大神のように必殺技を撃てるかもしれない。

工作艦としても、兵装実験艦としてもそれは実に楽しみな想像であった。

 

 

 

それが一転したのは保健室に大井が担ぎ込まれてからである。

 

「明石、すまないが急患だ。診てやってくれ」

「ええと、気を失っていますね。長門さん、どういう症状でしたか? 分かる範囲で良いので教えてください」

「ああ、それがな……」

 

長門の話を聞く限り、大井は精神を病んでおり、向精神の経口薬を処方するだけでは心許ない。

緊急性があると判断した明石は、持効性の抗精神病薬の注射を気を失った大井に行うことにした。

注射剤を使用して、大井の呼吸が安らかになったことを確認して一息つく明石。

ちょうどその頃になって舞鶴の艦娘たちが大井を見舞いにやってくる。

 

「それで、大井の容態はどうなのじゃ?」

「ええ、先ほどお注射を打って、今は寝ています。起きる頃には症状は一旦緩和されるはずです。経口薬も処方しましたし」

「そうか……有明鎮守府にお主のような艦娘が居て助かったぞ」

 

工作艦は一隻しか存在していないので、このような形で艦娘をサポートできるのは有明への統合前は警備府のみであった。

 

「でも、彼女は間違いなく戦える状態では在りませんね。大井さんが起きたら改めて診断して診断書を書きますから、当分は休ませて上げましょう」

「休める……のか? 我輩たちは着任したばかりなのだぞ?」

「ええ、大丈夫ですよ。着任したばかりとか関係ありません」

「じゃあ、そうさせてやってくれ。大井はもう限界なのじゃ……」

 

化粧でごまかしてはいるが力なく呟く利根たちの目の下にはうっすら隈が出来ている。

それに気付く明石だったが、保健室に入った大神の怪我の連絡を聞いて、怪我を負っている大神のところに行くことにした。

 

けれども階段なんかから落ちるだろうか、あの武芸の達人が。

 

「すいません、大神さんの手当てが終わったら戻ってきますので、しばらくの間大井さんの事見てもらえますか?」

「……分かった。見ていれば良いんじゃな」

 

大神の怪我と聞いて、視線を泳がせる利根たち。

どうやら無関係ではないらしい。

 

「お薬が効いてる筈なので目は覚まさないと思いますが、もし大井さんが起きてもベッドから離れないようお願いしますね」

 

そう利根に言い残し、明石は大神の元へと向かう。

 

 

 

「大神さん!?」

 

司令室に入った明石の目に入ったのは、大淀の膝枕で安静にしている大神の姿だった。

頭部から出血していたらしく、簡易手当てで巻かれた包帯が痛々しい。

 

「大淀、大神さんに何があったの?」

「え? だから大神さんが階段から不注意で落ちて……」

 

だが、大神の傍に駆け寄って全身を見る限り、頭部以外の怪我はない。

明石は確信する。

 

「嘘言わないで。大神さんが階段から落ちたのだとしたら、こんな風に頭部のみピンポイントで怪我しないわ」

「それは……」

「大淀、本当の事をお願い。頭部の怪我なら見立てを間違えたら取り返しがつかないわ」

「すまない、明石くん。誰にも言わないと約束してくれるかい?」

 

大淀を問い詰める明石に大神が答える。

錯乱した大井、視線を泳がせる利根たち、そして大神の言葉。

明石の中で物語が繋がる。

 

「大神さん、舞鶴の艦娘を庇っているんですね?」

「ああ……舞鶴の艦娘の立場が悪くなるようなことは避けたかったんだ」

「大神さん、だからって私にまで偽りは言わないでください……これでもし、大神さんに何かあったら、私、悔やんでも悔やみきれません……」

「分かった、明石くん。心配を駆けてすまなかった」

 

そして、明石は大神の診断を行う。

結論は頭部打撲と、それによる出血。

脳震盪の疑いもあったが、バランステストなどを行う限りその可能性は小さく、起きていてもごく軽度だろう。

頭部を冷やしていくうちに症状も治まっていき、安心する明石たち。

 

「でも、大神さん。医師役として、激しい運動は二週間禁止とさせていただきますよ。出来れば出撃も」

「ええっ? 二週間も、かい?」

 

明石の所見に驚愕する大神。

 

「はい、脳の事となると慎重になるべきです。流石に出撃に関しては全面禁止とは出来ませんが」

「それだけでも助かるよ。出撃禁止な隊長だなんて笑い話にもならないからね」

「そう思うのでしたら、二週間ちゃんとご自愛くださいね、大神さん」

 

釘を刺しておかないと、勝手に訓練とかやりかねないので、注意する明石。

 

「それと、もしかしたら状態が悪化する可能性も否定できません。24時間は一人になることを禁止させていただきます」

「待ってくれ。それって夜は含めるのかい?」

「もちろん含みます。保健室は大井さんが使っていますし、私も大井さんから目を放したくないので……宿直室で大淀に様子を見てもらってくださいね」

「ええっ? 隊長と一晩を共に……」

 

赤面する大淀だったが、

 

「最悪、大神さんの命に関わりかねないことなの。恥ずかしがらないで、大淀」

 

真面目な顔で注意する明石の様子に、大淀は神妙な顔で頷く。

 

「ふう、大神さんの事はこれで大丈夫ですね、あとは……」

「まだあるのかい?」

 

医師役明石からの続けてのダメ出しに、げっそりした表情の大神。

だが明石にとっては、ここからこそが本題なのだ。艦娘の医師役として。

 

「舞鶴の艦娘の、精神面のサポートについてです」

 

はっとした表情で明石を見やる大神。

 

「大神さん、大事なことを忘れてますよ。私は艦娘の医師役です。それは肉体面でも精神面でも変わりません」

 

化粧でごまかしてはいたが利根たちの目の下にうっすら隈が出来ていた事。

錯乱した大井。

隊長の怪我だと云うのに心配どころか目を逸らす利根たち。

医師役として舞鶴の状況は一通り確認していた、だが艦娘の状態は想像以上に酷かった。

 

「そうだったね。分かった、全て話すよ」

 

そして、大神は司令室でのやり取りを話す。

 

「全員が人間不信ですか……」

「ああ、人間そのものを信じられないと云われた。どうやったら信じてもらえるだろうか……」

 

滅多に見せない苦悩に満ちた表情を見せる大神。

 

「大神さん……」

 

今から明石が話すことは、今の大神にとって酷い話だ。

最悪、嫌われてしまうかもしれない、そう考えると大神を慕う明石の心は震える。

それでも、明石は医師役として話すべき事を話す。

 

「艦娘の医師役として伝えます。舞鶴の艦娘を信じさせようとしないでください。関わらないでください」

「なんだって?」

「今の舞鶴の艦娘に必要なのはストレスフリーな環境です。今の彼女達にとっては、大神さんを、人間を信じようとすること自体がストレスになっているんです」

「そうか……」

 

呆然としたような大神の声。大神の表情を見るのが怖い、辛い。

けれども、

 

「分かった、明石くん。全てを君に委ねる。舞鶴の艦娘達に必要なことであれば全てを許可するよ」

 

え。

 

大神の言葉を聞き違えたのではないか、そう感じた明石は次々に質問を投げかける。

 

「良いんですか、大神さん。隊長である貴方に関わるなって云ったんですよ?」

「それが明石くんの判断なら。君を信じるよ」

「21人、全員に何もさせませんよ? タダ飯食いにさせますよ? 上から怒られるかもしれませんよ?」

「怒られるのも隊長の仕事だよ」

「書類仕事の量が急増しますよ? ただでさえ訓練できないくらいなのに」

「運動禁止なんだろ? ちょうど良いくらいだよ」

 

ああ。

 

大神の全面的な信頼を受け、明石は歓喜する。

ならば、明石としてもやることは一つ。舞鶴の艦娘のために全力を尽くすのみだ。

 

 

 

そのときから、明石の奔走は始まった。

 

先ずは、大井の、そして舞鶴の艦娘全員に対しての診断。

結果は予想通り、舞鶴の艦娘は全員多かれ少なかれストレスによる不安障害を抱えており、大井は統合失調症を患っていた。

それに対する診断書の発行と薬の処方。

 

 

警備府、横須賀、呉の艦娘に対する事前説明。

 

「病気デースカ?」

「はい。だから、舞鶴の皆さんは訓練などには参加させられません」

「うーん、病気ならしょうがないデース」

 

 

そして、舞鶴の艦娘、ひとりひとりに対してカウンセリングを行う。

 

「大神さんの事を信じたい、だけど信じられない。それが辛いんですよね」

「……そうじゃ」

「だったら逆に考えちゃえば良いんです。大神さんの事を信じなくても良いじゃないかって」

 

大神を慕っている明石としては、こんなことを云うのは辛い。

だが、今の舞鶴の艦娘に必要なのは、ストレスから開放された時間なのだ。

期待することが辛いなら、その期待をやめさせるべきなのだ。

 

「そ、そんなことをしても良いのか? 艦娘が」

 

素っ頓狂な声を出して、利根が驚く。

 

「ええ、構いません。しばらくの間は、何も考えないでリラックスしちゃってください」

「何も?」

「ええ、何も。三度のご飯をちゃんと食べて、自室で昼間は寝ない程度に安静にして、夜はよく寝ていて下さい」

「そんなタダ飯食い、できるわけ……」

「医師役として許可します。私が」

「…………」

「眠れないならすぐに言ってくださいね。お薬出しますから」

 

艦娘によっては、現状を認められず否定するものもいたが、時間をかけカウンセリングを行う。

 

 

 

そして、明石の慌ただしい一週間が過ぎ、利根たちが眠れるようになり、目の下の隈が取れ始めた頃になって、それは起こる。

 

 

 

舞鶴鎮守府からの、深海棲艦らしきものを近海にて発見したと云う連絡が。




ドクター&カウンセラー明石の奔走。
この話に限っては明石さんメインにせざるをえませんでした。

大神さんを大岡裂きにしようとした艦娘と同一人物とは思えないとか云わないで

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