叢雲の逃走騒ぎを静めた後、横須賀鎮守府の残りの艦娘は一言で自己紹介を行うこととなった。
呉鎮守府からの艦娘が有明に到着したと大神に連絡が入ったからである。
流石に50人以上が一度に司令室に入るとなると手狭になってしまう、そのように作られては居ない。
割を食う形となった残りの艦娘たちだが、自己紹介を済ませていく。
「軽巡、長良です。よろしくお願いします!」
「五十鈴です。水雷戦隊の指揮ならお任せ。全力で提督を勝利に導くわ。よろしくね」
「名取といいます。ご迷惑をおかけしないように、が、頑張ります!」
「皐月だよっ。よろしくな!」
「あたし、文月っていうの。よろしくぅ~」
「あ、あの…磯波と申します。よろしくお願いいたします」
「ごきげんよう。特型駆逐艦、綾波と申します」
「あたしの名は敷波。以後よろしく」
手短に自己紹介をする彼女達に視線を回す大神。
「みんな、ありがとう。隊長の大神だ。宜しく頼むよ」
「「「はいっ」」」
「いきなり騒動を起こしてすまなかったな、大佐」
顔を真っ赤にして影に隠れる叢雲に視線をやり、武蔵が詫びる。
「別に構わないさ。誰かが傷ついたわけでもないし。叢雲くん、改めて宜しく頼むよ」
「そ、そこまで言われたら、しょうがないわね。頑張ってもいいのよ!」
常の様子を必死に取り繕うとする叢雲だったが、先程の大声の告白の後ではもはや滑稽である。
いや、自分を大神に深く印象付けると云う点では、大成功といってもいいのかもしれない。
ともあれ、自己紹介を終えた元横須賀鎮守府の艦娘たちは司令室を退出し、寮の自分達の部屋へと移動していく。
移動日と云うこともあり、彼女達は今日はこの後自由行動となっているが、武蔵・長門は未だ元気に満ちている。
恐らく元警備府の艦娘の訓練に参加するだろう。
と、そこまで考えたところで大神は大淀たちに声をかける。
「流石に連続ではみんなも辛いだろう、10分間休憩を取ってから呉鎮守府の艦娘と会おう。あと、大淀くん」
「なんでしょうか、隊長」
「呉の榛名くんと霧島くんは金剛くんの姉妹艦だったよね、金剛くんと比叡くんをここに呼んでくれないかな、早く再会させてあげよう」
「はい、分かりました」
大神の指示を受けて、パタパタと嬉しそうに駆けていく大淀。
他の秘書たちも秘書室に戻り飲み物を取るなどの休憩を済ませていく。
そして、10分後、加賀たちが司令室に入室していく。
ちなみに金剛達は未だ司令室内には居ない。
「演習直後の汗臭い格好でなんて、隊長に会えマセーン! ちょっとシャワーを浴びるから、Just a Moment!」
と大淀に返し、お風呂場にダッシュで直行したのだ。
流石に金剛たちもわかっているだろうから、そんなに遅れはしないだろう。
金剛姉妹の再会はその後にするしかないと苦笑するしかない大神だった。
そうこうしているうちに呉鎮守府の艦娘たちが司令室に入ってくる。
「一航戦、加賀。以下、呉鎮守府の艦娘21名、有明鎮守府に到着しました。先ずはこれを。呉鎮守府の司令官より親書を預かっています」
「ありがとう、加賀くん。これは後で読ませてもらうよ」
「いえ、出来れば今すぐに目を通して欲しいと預かってまいりました」
そんなに緊急を要する文書なのだろうか、と思う大神だったが、
「分かった。君達の前で失礼するけど、読ませてもらうよ」
大神は親書に目を通す。
その内容は、生意気に思うかもしれないが艦娘たちの事を宜しく頼む。あと、艦娘達の意思は私の意志ではないのでそこは了解いただきたいというものだった。
場合によっては、多少痛い目にあわせても良いとまで書かれている。
はて、呉鎮守府の大塚司令官は警備府の永井司令官と同じく良識派だった筈だが、痛い目にあわせても良いとは穏やかではない。
疑問に思う大神だったが、艦娘たちの意思と書いているので彼女達に後で確認を取れば良いか。
そう思い、先ずは彼女達に向き直る。
「ありがとう。遅れてしまったけど、君達を歓迎するよ」
「別に歓迎しなくても良いわ、未だ貴方の指揮下に入ると決めたわけじゃないもの」
「……どういう意味だい?」
「簡単な話です、大神一郎特務大佐。あなたを隊長とは私は、いえ、私達は認めていません」
金剛と同じ艤装の艦娘、恐らく霧島の言葉に納得する。なるほどこれが彼女達の意思か。
マリアも最初はそうだったなあ、としみじみ思い出す大神。
「俺では力不足、そう君は言いたいんだね」
「そうよ、私達の司令官はブラックではなかったし、指揮も適格で老練だった。なのに、何故わざわざ経験の浅い貴方の指揮下に入らなければいけないのかしら?」
「これは手厳しいね」
加賀の言っていることはあながち間違っているとはいえないが、かと言ってはいそうです等といえるわけがない。
どう説得したものかと一瞬考える大神だったが、
「話の途中だったから黙って聞いてましたが、もう我慢できマセーン!」
「ふざけるなー、一航戦! 私の隊長さんをバカにするな!!」
何人かの艦娘が司令室に入り込んで来るや否や、加賀の視線を遮るように大神の前に立ちはだかる。
「……お姉さま、本当にお姉さまなんですか!?」
司令室に乱入してきた艦娘、金剛と比叡の姿を見て、榛名と霧島の顔色が変わる。
「あったり前デース! この姿、金剛型の一番艦、金剛じゃなかったら何だと云うんデースカ!」
「だって……お姉さまは比叡を庇って沈んだって……」
「比叡が連絡した筈デース! 私は隊長によって深海棲艦から助けられたって! 記憶も残ってるって!! まさか比叡……」
「忘れてないですよ! ちゃんと連絡しましたよ!!」
「それは、そんな御伽噺ありえないって加賀さんが……」
大神を貶されて怒気を含ませた金剛に、榛名と霧島の様子はどんどん弱弱しくなっていく。
姉 金剛との奇跡の再会を喜ぶことが出来ず、一方的に怒られている状態が苦しくてたまらない。
「ここに私が居るのが何よりの証拠デース! これでも二人は隊長のSpecialなPowerを信じないと云うんデスカ! 司令官失格と云うんデースカ!!」
「「そ、それは……」」
呉鎮守府の艦娘で相談して一度決めたことだから、自分達だけ意見を覆すのも心苦しい。
でも金剛に怒られている状態はもっと苦しい。
板ばさみになり涙目になる榛名と霧島。
「金剛くん、ありがとう。もういいよ」
そんな二人の様子に気付き、大神は金剛を制止する。
「私、悔しいんデース! 隊長をあんなふうに言われて……」
「俺のことなら大丈夫だよ、金剛くん。それより榛名くんと霧島くんが泣きそうになってる。せっかくの姉妹の再会じゃないか、ここで会えた事を素直に喜んだ方が良いよ」
「「……大神大佐」」
あれほどまでに一方的に言われていたのに。
「本当に大丈夫デスカ、隊長?」
「ああ、大丈夫。加賀くん、先ずは彼女達が再び会えた事を素直に喜ばせてあげたい、俺の事は後回しにしても良いかい?」
「……分かりました」
しぶしぶ加賀が頷く。
それを見て金剛が、怒っていた表情を和らげる。
「しょうがないデース。榛名♪ 霧島♪ また会えて良かったデース。今度はまた4人揃ってTea Partyするデース」
「「お姉さま……お姉さまー!!」」
榛名と霧島が金剛に駆け寄り金剛を抱きしめる。
そして改めて実感する。
ああ、間違いない。本物だ。本物の金剛お姉さまだ、と。
「ごめんなさい。信じられなくて、ごめんなさい!」
榛名が泣きながら金剛に、大神に謝る。
伝聞だけで喜んで、再度絶望させられるのがいやだった。見たこともない男の事なんて信じられなかった。
でも、目の前の金剛の温かさが伝えてくれる、信じさせてくれる。真実を。
「二人は案からは脱落のようですね」
「そうね」
赤城の言葉に加賀が頷いた。
ただの挨拶回では終わりませんでした。
活動報告の扱いについてちょっと質問を投げかけました。
余裕のある方は答えていただけると幸いです。