その頃、金剛と明石はお風呂場の前で鉢合わせしていた。
共にお風呂セットを持った身、二人とも入浴するのが目的なのは明らかだ。
二人の仲も良好だし、通常なら仲良く一緒に入るところだろう。
「明石は、工廠のシャワーがあったんじゃないデスか? そっちに入ってきたらどうデース?」
「いえいえ。金剛さんこそ、部屋のシャワーを使われたらどうですか?、うふふ」
「日本人はやはり大浴場と決まってマース、えへへ」
だが、今に限っては何故かお互いを警戒している。
可能であればお互いを出し抜き、自分ひとりだけお風呂に入りたいと考えている、理由は云うまでもない。
だが、二人の微笑み合い、と云うかにらみ合いはお風呂場から聞こえる声によって中断される。
「いいんです。私がそう思うから、それでいいんです! 大神さん、だーい好きっ!」
「ちょ、鹿島くん、離れて!? 太ももが! 胸が!?」
それは目的の人、大神ともう一人の女性の声。
東京駅から大神を独り占めしていた練習巡洋艦の声。
「明石、一時停戦デース!」
「分かりました、お風呂場に急ぎますよ!」
暖簾をくぐって、お風呂場の中に急ぐ金剛たち。
程なくして、
「隊長、お背中をお流しいたしま――何をやってるのですか、鹿島さん!」
更に一人聞き覚えのない艦娘の声まで聞こえてくる。
いったい中はどうなっていると云うのか。
ドアを力の限り引き開ける、二人。
「隊長! お背中も前もお流ししマース……、No! 隊長っ!?」
「大神さんお疲れになったでしょう! 人にも効く入渠剤でお背中お流ししま……大神さんっ!」
そこには大神と鹿島、そして大淀も乱入したくんずほぐれつな状況。
同じ野望を抱いていた金剛と明石は発見するや否や、
「各々方、殿中でゴザル! 殿中でゴザル! 大浴場に緊急集合デース! 隊長の貞操が大ピンチなのデース!!」
全方位に無差別電信をぶっ放す。
これで警備府の艦娘たちは来るはずだ、あとは――
「「二人とも私の隊長(大神さん)から離れる(デース)!!」」
「離れません、私と大神さんの仲は士官学校で数年かけて育んだものなんです。ポッと出の方になんて渡せません!」」
「筆頭秘書艦として、隊長のお世話をさせていただくのが私の任務ですから!」
「私だって、隊長には命を賭してでも返すべき恩があるんデース! 離すデース!!」
「大神さんの故障を直すのは、工作艦である私の役目なんです!」
四人がそれぞれ大神の4肢を引っ張っている。
女の子とは言え、そこは艦娘の膂力。引き千切れてしまうのじゃないかと思うくらい痛い。
「いだっ! いだだっ!! ちょっと、みんな、やめてくれって!」
これぞ世に云う大岡裂き、だが、誰も知らないのか力を緩める気配はない。
やがて、全方位無差別電信によって、有明鎮守府中の艦娘が集合することとなった。
警備府から来た艦娘以外は、ごく少数の艦娘しかいなかっいたことが不幸中の幸いか。
「大神さんの貞操がピンチって、どういうことだ……い…………」
「隊長、それは新しい戦闘方法でしょうか?」
「隊長、さん……?」
「……皆さん、私の大神隊長になんてことするんですか!?」
「大神さんのお風呂姿は私たちだけのものだと思ってたのに、ちぇっ」
集合した艦娘たちが目にしたのは、お風呂場で4人がかりで大神を大岡裂きせんとする4人の艦娘の所業。
「みんな、たの……む! いだだっ! 鹿島くんたちを止めてくれ!」
大神の声に一早く気を取りなおした響が、4人を止めようとする。
「4人とも、大神さんを離して! このままじゃ大神さんが! 大神さんこんなに痛がってるのに!!」
その言葉に我に帰る4人。だが、
「今更この手は離せません!」
「秘書艦として他の方には任せられません!」
「みんなが離せば良いんデース!」
「大丈夫です、関節が外れたくらいすぐ修理してあげますから!」
我に返った上でも、大神の手足を離す様子はない。正気か君ら。
「何をしているんですか!」
そこに、帝劇3人娘のかすみさんが踏み込んでくる。
大分おかんむりのようだ。
「4人とも、すぐ大神さんから手を離しなさい!!」
「「「「はいっ!」」」」
かすみの怒声に逆らってはいけない何かを感じたのか、鹿島たちは大神から反射的に手を離した。
「ぐえっ」
流石に引っ張られた直後では手足がまともに動くわけがなく、大神はそのままタイルに落ちて、蛙が潰れた様な声を出す。
思わず大神の傍に近寄ろうとする四人だったが、
「鹿島さん! 大淀さん! 金剛さん! 明石さん! あなたたちはお説教です!! 響さん、あなたは大神さんを連れて間宮さんの所、今は甘味処ですね、そこで休んでいてください」
大神に衣服を着せ、「大丈夫? 大神さん?」と関節を揉み解している響にかすみは食券を手渡し、間宮と伊良湖を呼ぶ。
「響だけずるいデー……」
一瞬不満を口に乗せる金剛だったが、
「金剛さん!!」
「ひっ! 分かったデース!!」
かすみの眼光を受け一撃で沈黙した。
「それと鹿島さん、あなたも念入りにお説教です!!」
「わ、分かりました……」
ここはなるべく怒らせないようにした方が得策だ、そう考えた残り3人は大人しくするのであった。
結果、『隊長の入浴中は』艦娘はお風呂に入るべからずということとなった。
「うふふっ、災難でしたね、大神隊長」
「鬼神のごとく海で戦っていた隊長さんも、陸に上がれば形無しですね」
今の時間は甘味処を営んでいる間宮と伊良湖に連れられて、甘味処「間宮」で響は甘味に舌鼓を打っていた。
響はいちごパフェ。
大神は緑茶のみ。
他の艦娘たちも帯同しようとはしたのだが、かすみの眼光一閃で押し黙り、ぞろぞろと残念そうに自室に戻っていった。
間宮たちとしても、一斉に艦娘に来られるとなると流石にお店が回らなくなる。
正に先んずれば人を制す、だった。
「おいしい……」
新鮮ないちごのさわやかな甘味と酸味、それにこってりとしたバニラアイスの重さのバランスが心地よい。
響は半ば感激しながらパフェにぱくついている。
大神は少しずつ緑茶に手を伸ばしている。
旨味が十分に抽出された緑茶の温かさが心地よい。
「あんまり食べると夕食に障りが出るから、ほどほどにね」
「大神さんと一緒に食べたかったから大きめにしたのに……」
大神に聞こえないよう声を小さくしてぼやく響だったが、実際にパフェのサイズを少し大きめに作った間宮と伊良湖にとっては響のそんなささやかな望みは一目瞭然だ。
だから、間宮たちはちょっとした援護射撃をしようと思うのだった。
「大神さん、響ちゃんに食べ過ぎないように云うのでしたら、手伝ってあげたらいかがですか?」
「え? ああ、そうだね、間宮さん。響くん、良かったら少し手伝おうか?」
「――っ! うん!」
大神の問いに満面の笑みで答える響であった。
その日は到着直後と言うこともあり演習などはなかったのだが、寝るまでずっと笑顔の響であった。
第一次正妻戦争 戦果
S勝利 響 お風呂に入った大神の姿を見れたし触れた、3人娘にも良い子とアピール成功。
おまけに大神とタダで甘味デート、文句なしのS勝利。
A勝利 鹿島 なんだかんだで前半は非常に良い思いをした。
D敗北 大淀 良いところを響に掻っ攫われた。大岡裂きで手を離さないなんて、ねぇ。
金剛
明石
C敗北 その他 響に出遅れたのが運の尽き。