艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第五話 2 警備府最後の沐浴

大神の体は迷うことなく、物音一つ立てることなくお風呂場の中に入っていく。

 

どうやら彼女達には気づかれてはいないようだ。

 

「……ほほー、これが伝説の『身体が勝手に……』ってやつじゃの。見事なものじゃ」

 

否、一人に気付かれていたようだ。

 

――そんな、バカな!? 自分が後ろを取られていただって?

 

後ろからかけられる言葉に大神は電光のごとく振り返る。

 

(……そんなに心配せんでもええ、ワシじゃよ)

(……司令官? どうして、このような場所に?)

 

声を潜めて大神に声をかける司令官。

どうやら確信犯のようだ。

つられて大神の声も小さくなる。

 

(その言葉、そっくりお主に返そうかの)

(うっ! いや、これは身体が勝手に……)

 

答えに詰まる大神。

もっともだ、艦娘がいるお風呂場に入る理由など一つしかない。

そうして言葉に詰まっているうちに、浴槽のほうから声が聞こえてくる。

 

「今まで何回も入ったお風呂だけど、これで最後かと思うと一際気分も違うわね」

「そう~、翔鶴ねぇ? 明日からはもっと新しい場所になるんでしょ? なら、新しい場所の方がよくない?」

 

浴槽に身体を浸かっている瑞鶴と、スポンジで身体を洗っている翔鶴の姿がそこにはあった。

スポンジ、泡越しにも、均整のとれた、スタイルの良い翔鶴の肢体が覗く。

 

(翔鶴くんたちが……お風呂にはいって……)

 

体が勝手に動いているはずの大神だったが、満更ではない様だ。

鼻の下が伸びている。

 

(翔鶴はやっぱりスタイルいいのう)

(し、司令官?)

 

今までそのような発言をしてこなかった司令官からの助平な発言に、大神が仰天する。

 

(どうしたのかの、ワシとて一応男じゃ。聖人君子と云うわけでもないし、そういうことを考えもするぞ。実行したのは初めてじゃが)

(初めての割に余裕ありますね、司令官……)

(なら、お主の場合は手馴れた人間の手草じゃの)

(…………)

 

返す言葉もないとは正にこの事だ。押し黙る大神。

 

 

その間にも翔鶴は身体を洗っていく。白い肌が身体が泡に包まれるが、ところどころ肌が見えるのが余計に艶かしい。

 

「……ふーん、新しい場所ね?」

「な、何よ、翔鶴ねぇ……」

 

めったに見せない翔鶴の含み笑いに瑞鶴が冷や汗を流す。

 

「隊長から全員異動って聞かされる前は、何回も『私も有明にいけるよね? 隊長さん、私の事も選んでくれるよね? ねぇ、翔鶴ねぇ』と聞いてきたくせに、ね? 瑞鶴?」

 

クスクスと笑いながら、瑞鶴の声真似をしてみせる翔鶴。

それは全く以って瑞鶴と瓜二つの声であった。

 

「う~、だって、翔鶴ねぇと離れ離れになるの嫌だったんだもん……ぶくぶく」

 

図星をつかれたのか、赤く染まった顔を浴槽に隠す瑞鶴。ぼやく代わりに口から泡を吹いている。

 

「……ふーん、『私』とだけ?」

「う~~~~、翔鶴ねえの意地悪~、ぶくぶくぶくぶく」

 

浴槽で泡を吹く瑞鶴を横目に、翔鶴は鼻歌交じりに身体を流していく。

身体を包んでいた泡が流されていき、翔鶴の一糸纏わぬ肢体が露になっていく。

 

「そういう翔鶴ねぇはどうなのさ~。私ばっかりからかわれて、何か不公平だよ~」

「私? 私は直接隊長に、あの人に聞いたから」

「え? 翔鶴ねぇ、そんなことしてたの!? なんで教えてくれなかったのよ~」

「ごめんなさい、オロオロしてる瑞鶴がかわいくって、つい」

「ついじゃないよ~」

 

ペロっと舌を出して瑞鶴に謝る翔鶴。姉妹だけの空間と云うこともあってか、茶目っ気を感じる。

 

「それにね、隊長の、あの人が響ちゃんと共に戦ってる姿を見て一つ決めたの。あの人が全力で戦える空間を、舞台を作り上げることが私の役目だって。一航戦の方々にも、二航戦の方々にも誰にもその役目は譲らないって」

「翔鶴ねぇ……私だって負けないんだから!」

「えぇ、頑張りましょうね、瑞鶴」

 

翔鶴の目に宿る決意の色に瑞鶴が気圧されるが、浴槽から身体を出すと自分も宣言してみせた。

瑞鶴は自分の宣言の意味を分かっているのだろうか、翔鶴は微笑んでみせる。

 

(翔鶴くん……瑞鶴くん……)

(で、大神よ。お主、どちらが好みなんじゃ? 銀髪でスタイル良好、性格も大和撫子な翔鶴かの? ツンデレツインテール、絶壁な瑞鶴かの? ふむ、自分で云うのもなんじゃが、いざ口にしてみると結構な差があるかの)

 

「そんなことはありません! 翔鶴くんも瑞鶴くんも大切な仲間です! 翔鶴くんは確かに綺麗ですし、瑞鶴くんは確かにかわいいです。ですが、それぞれの個性に順番なんて付けられません!」

「なっ!? 大神よ、そんな大声を出したら――」

 

「ええっ、隊長!? 司令官!?」

「ウソっ!? 隊長さん!? 司令官!?」

 

唐突に聞こえる大神の大声に、それぞれの会話に集中していた翔鶴達が振り返る。

果たしてそこには大神と司令官の姿。

 

「翔鶴くん瑞鶴くん、こ、これは、その……事故なんだ」

「すまないのう、二人とも」

 

言い訳をしようとする大神と、スパッと諦めたかのような司令官の姿。

だが、どちらにしても翔鶴たちの反応は変わらない。

 

「「良いから早く出て行ってー!!」」

 

手元に弓矢がないから爆撃は出来ないが、代わりに風呂桶を雨あられと投げつける五航戦であった。

 

「はいっ!」

 

 

 

「司令官まで、こんなことをされるなんて……」

「すまんの、最後かと思うとはっちゃけてみたく――」

「いえ、翔鶴くん、瑞鶴くん、すまなかった。この通りだ」

 

風呂から上がり、制服に身を包んだ翔鶴たちに平謝りする大神と司令官。

 

「もう、お二人とも反省してくださいね」

「「ああ、本当にごめん。すまなかった、翔鶴(くん)、瑞鶴(くん)」」

 

翔鶴は再度頭を下げる大神と司令官に視線を向けると、

 

「全機爆装、準備出来次第発艦! 目標、お風呂場の隊長さん! 思いっきり、やっちゃっ――」

「ほら、外に出るわよ、瑞鶴」

「ちょっと待って翔鶴ねえ、まだ二人にお仕置きしてな――」

 

顔を真っ赤にして超至近距離で弓を引き絞る瑞鶴の身体を引っ張って、お風呂場の外に出るのだった。

 

 

 

 

 

「もう~、なんで爆撃させてくれなかったのよ~、翔鶴ねぇ~」

 

不満げな瑞鶴を引っ張って、自室へと戻ろうとする翔鶴。

 

「だって……」

 

そう言って始めて瑞鶴から手を離すと、翔鶴は緩みきってしまう前に朱に染まった自分の頬を抑える。

 

「隊長、私のこと綺麗って……」

 

そこで、瑞鶴は見られていた事で動転して忘れていた、自分に言われていた言葉を始めて思い出す。

 

『瑞鶴くんは確かにかわいいです』

 

「そっか、隊長さん、私のことかわいいって……」

 

瑞鶴もまた緩みきってしまう前に朱に染まった自分の頬を抑えるのであった。

 

「うふふ……」

「えへへ……」




司令官:風呂場侵入が、大神単独犯によるものと何時から勘違いしていた?
大神 :なん……だと…………

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