艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

44 / 227
第四話 終 かくして彼女は目覚める

憲兵に取り押さえられた渥頼は当初こそ暴れ全てに対し暴言を放っていたが、徐々に血を失った影響もあり大人しく連行されていく。

その様を見て、己がようやく渥頼から開放されたのだと、自由になったことを実感する虐げられていた6人の艦娘たち。

身体から力が抜け、その場に膝から崩れ落ちようとしていたが、比叡だけは違った。

 

「お姉さま!」

 

その場を駆け出し、金剛の元へ近付こうとする。

 

「あっ、比叡さん! まだ艤装の爆弾を解除していないから危険ですよ!?」

「そんなことよりも、お姉さまは!? 金剛お姉さま!」

 

渥頼の命で彼女達に仕掛けられた爆弾を解除しようとする明石の声も、今の比叡には聞こえない。

港の荷物に背を預けている金剛の元へとただ走る。

艤装の爆弾解除を手伝うため、明石の元に向かう川内たちとすれ違う際、告げられる。

 

「大丈夫だよ、比叡さん。大神さんが深海棲艦から救い出したときから何も変わってないから」

「お姉さま……」

 

川内の云うとおり金剛の姿は傷一つなく、自分の記憶にある最後の姿――血まみれで沈んでいったもの――とは大きく違う。

それは、かつて四姉妹が一緒にいた以前の時に繋がるものだった。

 

『さあ、朝ダヨー。みんな起きるデース!』

『TeaTimeの時間デース! 午後の集中できないときはこれが一番ネ!』

 

今にも目を開けてそう言ってしまいそうな姉の姿に、再び比叡の目尻に涙が溜まり始める。

そんな姉と比べて、今の自分はあまりに情けなくて――思い返す内に自然と項垂れていく

 

「金剛お姉さま……」

「まったく、比叡はしょうがない、妹デース……」

 

聞き違いではないだろうか、比叡が項垂れていた顔を再び上げる。

 

「え……?」

 

ずっと眠り姫だった少女――金剛がその目を開けていた。

かすかに震え動かし辛そうにしながらも、その手で比叡の頭を撫でる。

 

「お姉さま、金剛お姉さま……」

「そうだヨ。ヴァルハラには辿り着けなかったけど、ここで比叡に会えたから結果オーライネー……」

 

寝続けていたためかその力は弱くなっており、撫でると云うよりただ触れるといった方が正しい。

しかし、その手は間違いなく金剛のものだ。

今度は間違いなく歓喜の涙を零しながら、金剛に撫で続けられる比叡。

 

「でも、比叡のした事は、Noだからネ……」

「え?」

 

一気に天国から地獄へと叩き落されたような表情をする比叡。

 

「暁ちゃんにした事。私のためでも、もうあんなことしちゃNo、なんだからネ……」

「そ、それは……」

 

言いあぐむ比叡、自分でも自覚はしているのだ。

再び姉と何かを天秤にかける事があったなら、自分は間違いなく姉を選ぶ、と。

 

言いよどんでいる比叡の姿を見て、金剛はため息を一つ。

 

「もう、しょうがない比叡デース。なら、せめて暁ちゃんに今すぐ謝らなきゃNoなんだヨ?」

「あ、はい。ごめんなさい、今すぐ謝ってきます!」

 

そう言葉を一つ残して、比叡は暁たちの元へと向かう。

 

比叡が涙を流して、苦渋の選択を強いられていることを見ていた暁たちは比叡の謝罪を素直に受け入れる。

 

それを見ていた金剛は頼りない足つきで、渥頼捕縛後の処理をしていた大神の元へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

新たに司令官となる筈だった人間は、渥頼と同様に賄賂にてその地位を買った事を渥頼に暴露され、憲兵隊に捕縛。

現時点で警備府には司令官がいないことから、前司令官が司令官の職に一時的に復帰する事となった。

それらの事を大神は警備府から米田・山口陸海両大臣に報告する。

 

「――以上が警備府での顛末となります」

『ありがとう、大神くん。しかし、金銭による売買まで行われていたとは……艦娘に戦わせている間に人間は何をやっていたんだろうな。人間自身が強くなったわけでもないのに』

 

電話越しにも聞こえる大きな山口のため息。

 

『まあ、そういうな、山口よ。艦娘だけでもブラックから切り離しは出来たんだ。まずはコレでよしとしようじゃないか。これからは海軍の大掃除をして一刻も早く組織を立て直さないといけないぞ』

『そうだな、このままでは艦娘を同時展開するための準備すら出来ないからね。大神くん、警備府での後処理と準備が終わり次第、艦娘を連れて戻ってきたまえ』

「はい、了解しました」

 

そして、大神は天を仰ぐ。

 

 

まだ渥頼を斬った生々しい感触を手が覚えている。

 

下劣を極めた人間と言えど、人を直接。

 

今なら分かる、分かってしまう。

 

山崎真之介が如何にして人に、己に、絶望したのか、葵叉丹と名を変えるようになったのか。

 

自らの中の『大神一郎』が絶望している。

 

正義を示す男になると剣を振るっていた子供時代はなんだったのかと。

 

深海棲艦があらわれ、平和を守るために海軍将校、提督となることを志したことはなんだったのかと。

 

間違っても、こんな者になるために、必死に学び努力し主席を取ったのではない――と。

 

「――でも、俺の背中の後ろに守るべき人たちがいる。だから――」

 

人々の幸せを、平和を守るために戦うんだ、俺は。

 

そう大神は、『大神一郎』に言い聞かせる。

 

「隊長?」

 

振り返ると純白の白衣に身を包んだ少女の姿。

 

「金剛……くんだったね、辛そうに見えるけど動いても大丈夫なのかい?」

「えぇ、もう大丈夫デース。それで比叡たちのことなんですけれど、厳しい罰はしないでほしいのデース」

「ああ、それについては何もするつもりはないから。安心して欲しい」

 

お願いする金剛の言葉に即答する大神。

 

「よかったデース。これで安心できマースッ!?」

 

そこで安心したのか金剛はバランスを崩し大神の横に倒れこむ。

大神の手に支えられ、転ぶ事は避けられたが。

 

「大丈夫かい、金剛……くん?」

 

真っ赤な顔をして大神から離れようとする金剛。

 

何せ、ずっと寝たきりだったのだ。

今の自分の状態を鏡で見れていないし、体臭がしないかどうかも心配だ。

妹が心配でここまで来たが、それはそれ。今の自分は乙女としていろいろと問題が多すぎるのだ。

 

「だ、大丈夫デース、自分で立てマース……」

 

と慌てて足腰に力を入れて離れようとするが、力が思うように入らない。

 

「ダメだよ、ずっと寝たきりだったんだ。いくら艦娘だからって、いきなり動こうとしても体が付いてこない筈だよ」

 

そう告げると、大神は金剛を横抱きに、お姫様抱っこにして抱きかかえる。

 

「――――っ!?」

 

更に顔を紅に染める金剛。

 

「タ、隊長ぅ~。時間と場所をわきまえて欲しいデス……」

「こういうときだからこそだよ、その身体で歩く金剛……くんを放っておける訳ないじゃないか、さ、保健室のベッドまで連れて行くから今は休んでくれ」

「ベェッド!? うぅぅ、ムードとタイミングも忘れたらNOなんだから……」

「何を言ってるんだい金剛……くん?」

 

羞恥心が限界突破した金剛は、大神にしがみついてその顔を隠す。

 

「隊長、お姉さまに何をしているんですか!?」

 

その姿を目にした比叡が大神を指差して吼える。

 

「隊長のバカっ。服を引き裂かれそうになったレディーを放置するなんて信じられない」

「大神さん、やっぱり同年代くらいの人のほうがいいんだ……」

「隊長やっぱり修理が必要みたいですね、頭とか」

 

続けて、警備府に所属した艦娘たちが思い思いの言葉を発する。

艦娘たちの思い思いの喧騒に包まれた警備府。

 

司令官は華撃団が発足して、大神も艦娘もいなくなってしまう前に、最後に彼のいる警備府の光景を見れてよかったと思うのであった。

 

 

 

 

 

次回予告

 

とうとう発動した提督華撃団!

その本拠地は有明! 帝國ビッグサイトネ!

警備府を後にして、初めての電車、初めての新幹線!気分はもうPicnic!デース!

隊長の隣の席で、一緒のお弁当~、眠くなったら寝た振りをして抱きつきマース!

なのに、ビッグサイトで待ち受けていたのは隊長を知ってそうな5人の少女!? 

隊長、これってどういう事デスカー?

 

次回、艦これ大戦第五話

 

「集結! 有明鎮守府!!」

 

暁の水平線に『恋の』勝利を刻みこみマース!

 

 

隊長、隣の席いいデースカ? え、6駆が先約? Shit!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閑話「名前で呼んで欲しいデース!!」

 

 

 

とある朝、金剛は不機嫌だった。

理由はただ一つ。

 

「隊長が私の名前、あんまり呼んでくれないデ-ス! ナンデダヨー!!」

 

何故だろうか。

最初にあったときは確かに妹思いの姉としてだったけど、それ以降はずっと隊長LOVEを前面に押し出しているはず。

なのに、大神の呼びかけも返答も、

 

『金剛……くん、ちょっといいかな』

『ああ、金剛……くん』

 

とよく分からない間が空くのだ。

嫌われているわけではないと思う、でも好きな人からの反応がよくないと云うのはそれだけで少し傷つく。

どうしたら隊長ともっと親しくなれるだろうか。

 

「隊長、何処行ったデスカー?」

 

珍しく悩みながら隊長の所在を探す金剛。

程なくして、大神が食堂で水を飲んでいるところを発見した。

 

「Hey! 隊長ぅ~、何してるデスか?」

「ああ、朝の稽古が終わったところだったからね、ちょっと水分を取っていたところだったんだ。どうしたんだい、金剛……くん?」

「それデース!」

 

ビシッと指を大神に向けて、

 

「提督は何故私のこと呼ぶときに間が空きマースカ?」

「ああ、ごめん、これはね……」

 

そして、大神はかつての黒鬼会との戦いのことを話す。

 

「Wow! Congraturation! そんなすごい戦いがあったなんてネ~」

「ああ。そして、その中に『金剛』と言う相手がいてね、強敵だったんだ」

「もしかして、その人がインパクトが強くて、私のこと呼びにくいのデースカ?」

「ああ、そうなるかな、敵ながら天晴れなやつだったし」

 

だが、金剛は不満顔だ。

 

「う~、納得できマセーン!」

 

小首をかしげながら大神の前を行ったりきたりする。

やがて、手を打って明暗を思いついたとばかりに、

 

「そうだ、なら答えは簡単デース。隊長の頭から『金剛』を追い出せばいいのデース!」

 

そして、大神を真正面に立ち、正面から見据えると、

 

「サー、隊長。私のことを呼んでくだサーイ」

「何回くらいだい?」

 

果てしなくいやな予感がした大神は金剛に尋ねる。

 

「何度でもダヨー。隊長の頭の中から『金剛』がいなくなるまで」

「何度でも?」

「そう何度でもだヨー!」

 

果たして大神の金剛地獄は始まった。

 

「金剛……く」

『鬼神轟天殺ぅー!』

「あ、私以外の事考えてましたネ、もう一回デース!」

 

やけにこういうことには察しのいい金剛。

 

「金剛……」

 

『鬼神轟天殺ぅ!』

 

「もう一回!」

 

「こんご……」

 

『きしぃんごうてんさつぅ!』

 

「もう一回デース!!」

 

「こ……」

 

『サイクロン! ジョーカー!!』

 

「それ作品が違いマース、もう一回!!」

 

………………

……………

…………

………

……

 

その夜、大神は艤装を背負った筋骨隆々とした金剛(CV:立木文彦)が「Hey、隊長ぅ~」とか「Burning Love!」とか「隊長のハートを掴むのは、私デース!」と叫びながら迫ってくる夢を見た。

 

 

大神は死ぬほどうなされた。




両者をプレイした人なら誰でも思いつくであろうネタですw
あくまでネタです

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。