艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第四話 10 提督華撃団! 参上!!

光武・海の機動試験が始まって三日目。

昨日戦艦との戦闘データを取得し、続いて水上起動しながら霊力を用いた必殺技の使用時のデータも取得。

二日目の時点でシェイクダウンとしてはほぼ終わったといってもいい。

 

「うむ、水上での霊力技の使用時も問題ないな。各部品の疲労度も予想範囲以下。これなら、一週間連続稼動しても問題なさそうだ」

「勘弁してください、それは自分の方が持ちません」

「ははは、それもそうだったね大神くん。どうもいけないね、技術屋というものは」

 

肩を落とす大神に、笑いかける山崎。

二日間の起動試験の間にわだかまりは完全になくなり、友人のように会話を交わしていた。

いや、もう友人といってもいいかもしれない。

 

「さて、あとは今後の開発・性能向上に備えて、多様な戦闘データを取っておきたいところだ。あと、出来れば作戦効果も確認したい」

「ですが、横須賀鎮守府の艦娘に練習もなしに指揮下に入れというのは……」

「そうだね。練習もなしに指揮下に入っても作戦効果についてはマトモに調査できないだろうから、例のアレが通ってからでも良いだろう」

 

では、本日の予定をどうしようかと技術部を交えて話し合う二人。

武蔵、長門、そして7駆の面々も傍で二人の話を聞いている。

作戦効果って何だと興味津々な顔をしていたが、敢えて二人の会話には入っていかない。

 

「大神! 不味いことになった」

 

そんな中、珍しく加山の慌てた声が大神にかけられる。

振り向くと、山口大臣の姿もある。何があったのだろうか。

 

「どうしたんですか、山口閣下、加山?」

 

が、山口は艦娘の姿を見て口ごもる。

情報が漏れないか心配しているのだ、大臣の姿を見て艦娘たちにも緊張が走る。

 

「閣下、ここに居る艦娘は信頼できる子達です、ご安心ください」

「少尉……」

 

迷うことなく自分達を信頼すると言い切った大神に武蔵が惚けたような声を返す。

それは長門、7駆も同じ。心に響くものがあった。

 

「みんなもここで聞いたことは他言無用だ、いいね?」

 

大神の声に、艦娘たちが頷く。

この信頼を不意にするなんて出来ない。

 

「大神くん、分かった。単刀直入に言おう、華撃団設立に向け、我々が動いている隙をつかれた。警備府の人事に介入されたんだ。司令官は怪我治療のためと言う事で予備役送りになり、代わりにブラック派の司令官になって、直属の提督としてあの渥頼が着任する」

「なんですって?」

 

自分の調査と称して、警備府の艦娘を支配しようとした渥頼が、再度艦娘を直接指揮する提督となる。

それが彼女達にとってどれだけの心の傷になるだろうか、予想するまでもない。

渥頼提督の悪名は横須賀鎮守府の艦娘にも届いているらしく、仲間にもたらされる結末を感じ悲痛な表情をしている。

 

『私たちが司令官以外の人をまた信頼できるようになって――』

 

睦月の独白が大神の脳裏に蘇る。

 

『そんなとき大神さん、あなたがやって来たんです』

 

そんな彼女達を見捨てるなんて――出来ない。

 

「その人事を覆すことは出来ないのですか?」

「経緯はどうあれ一度正式に発行されたものだ、取り消すにしても時間はかかる。それより華撃団の設立がすぐ完了する予定だ。それを待ってくれ――」

「山口閣下、お願いします!」

「大神くん……」

 

大神は山口を前に土下座をしていた。

艦娘のために――。

 

「大神くん気持ちは分かる、だが、ここで無理に動いても――」

「分かっています――閣下の仰る事が正しいことは、事を確実に期すべき事は」

 

そう、理性では分かっているのだ、そんなことは。

 

「でも、俺には出来ません。警備府の艦娘、彼女達を見捨てることなんて!」

 

額を地面にこすりつけながら大神は云う。

 

「傷つけ虐げられ、それでも俺も信頼してくれた――そんな彼女達を数日とは言え分かって見捨てて、艦娘のための華撃団隊長を名乗るなんて、俺には出来ません!」

「クソ少尉……」

 

曙が呆然とした目で大神の姿を見ていた。

 

こんな人間が居るのか。

 

こんなに艦娘を想ってくれる人間が居るのか。

 

衝撃が曙の全身を貫く、羨ましい。そこまで想われたい。

 

「やっぱりこうなっていたか、大神よぉ」

「米田……閣下」

「ったく、男がそう簡単に土下座なんてするもんじゃないぜ、大神」

 

見上げると、米田が大神に手を差し伸べていた。

米田に引き上げられ、大神は立ち上がる。

 

「米田、深夜に電話したときから行方が分からなかったが、何処に行ってたんだ?」

「それはな――大神、今のお前に一番必要な物を取りに行ってたんだ」

 

そう言うと、米田は懐から一通の封書を取り出す。

 

「ったくよ、大変だったんだぜ。花小路を叩き起こしたり――朝早くからあの方に会ったり」

 

封書の内容を目にして大神と山口が驚愕する。

 

「これは! 動くのかね!?」

「ああ、こいつの云うとおりだ、ここで黙って見捨てると云うのなら俺達のやってることの意味なんざねえ!」

「米田司令!!」

 

身を震わせて大神が師の、その名を呼ぶ。

 

「だから、閣下だって言ってるだろ」

「米田閣下……」

「さあ、行くぞ大神! 提督華撃団の本拠地! 有明にな!!」

「警備府ではないのですか?」

 

大神の問いに、米田が頷き答える。

 

「今から陸路で警備府に行っても間に合わねえ。だから間に合う方法を取る!」

 

そして米田は武蔵たちに視線をやった。

 

「そこの艦娘の嬢ちゃん。深海棲艦相手じゃないが、仲間を助けに行く気はないか? 上の了解なら山口が取ってやるぜ」

 

答えなど決まりきっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いやらしい視線で嘗め回すように艦娘たちを見る渥頼。

司令官がその視線を嗜める様に言及する。

 

「そこまでだ、渥頼。以前のように好きにはさせぬぞ。言動を慎むのじゃ」

「残念だったなあ、オンボロ司令官」

 

だが、渥頼は懐から封書を取り出し内容を告げようとする。

内容を察した司令官は声を荒げ最後の命令を下す。

 

「司令官として艦娘たちに命令する! 逃げろ! 直に大神たちが戻ってくる! それまで逃げるんじゃ!!」

 

訳が分からない艦娘達であったが、その言葉に従って艦娘たちは外に飛び出していく。

渥頼の直前に居た響たちも渥頼の手を逃れ外へ飛び出す。

 

「チッ、比叡。逃走した艦娘を捕まえろ!! にしても、バカか司令官? 大神が戻ってきたところで何も出来るわけねーだろ」

 

 

そして数十分後、港で比叡たちに数人の駆逐艦が取り押さえられていた。

6人の艦隊で取り押さえられたのは僅か数人だったが、その全てが駆逐艦である事に渥頼は満足していた。

暁と響が中に居たことに特に。

 

「さてと、実効力のない命令に従って逃げた悪い駆逐艦にはお仕置きが必要だなぁ」

「キャッ!」

 

暁の襟を掴む渥頼。

 

「チッ、流石に艤装か、簡単には破れねーな」

「やめてよ! 離れなさいよ、この変態渥頼!」

 

そして、暁の服を力任せに引き裂こうとする渥頼。

だが、いくら服とは言え艤装、人の手でそう簡単に引き裂けるものではない。

己の手で引き裂くことを諦めた渥頼提督は暁を羽交い絞めにしている比叡に命じる。

 

「おい、比叡。お前のその無駄にでかい握力で、暁の服を、引き裂け!」

「なっ!? いくらなんでも! そんなの命令でも、出来ません! 逃走を阻止しろといわれたからしただけで――」

 

渥頼のゲスい命令に従えず反抗の言葉を上げる比叡。

だが、渥頼はいやらしい笑みを浮かべたままだ。

 

「ほう、じゃあ代わりを探すとするかー、おい!」

 

渥頼の声に従い、従卒が一人の白衣の少女を運んでくる。

警備府の誰も知らず、目覚めるまで明石たちが面倒を見ていた少女。

だが、それを一目見て比叡の顔色が変わる。

 

「お姉さま!? 金剛お姉さま!!」

 

艤装を身にまとっていないし、特徴的な電探型のカチューシャもつけていない。

だが、お姉ちゃん子だった比叡が金剛を見間違える筈がない。

 

「そうだ、お前の大好きな金剛お姉さまだ。どういうわけか警備府に逃亡してやがった」

「違います!! お姉さまは! 私を庇って、沈んで……」

「じゃあ、何でこんな所に居るんだろうなあ? 逃亡は重罪だ、だが……見なかったことにしてやってもいいんだぞ、比叡」

 

分かってるよなぁと、比叡に含んだ声色で尋ねる渥頼。

 

「まさか……」

「どうするかはお前の勝手だ。さぁ、どうする?」

 

実に楽しそうに比叡に選択を迫る渥頼。

力の限り目を瞑り苦悩する比叡。

 

けど、

 

「出来ない……」

 

だけど、どちらかしか選べないというのなら、比叡には一つしか選べない。

 

『比叡……がんばってネ……私……ヴァルハラから見ているから……』

『お姉さま! いやー!!』

 

あの時届かなかった手がそこにあるのだ。

その手を離すようなことなんて――

 

「わたし、そんなの出来ないよ……ごめんなさい……」

 

比叡の目から涙がポロポロと零れ落ち、暁の髪へとかかる。

自分はもう、ヴァルハラになんて行けない。地獄行きは確定だ。

でも、それでも、金剛に、姉に一時の安息が与えられるというのなら、

 

「……ごめんなさい、暁ちゃん」

「比叡さん、やだ、やめて!」

 

比叡が暁のセーラー服の襟元に手をやり、力を入れる。

 

「やめて! 暁に変なことしないで!」

「大神さん大神さんと男に色ボケしやがったお前は後回しだ、暁の次に可愛がってやるよ」

 

同じく苦悩の顔をした山城に抑えられた響が叫ぶが、渥頼は一顧だにしない。

目の前の駆逐艦のストリップショーに執心のようだ。

 

「やだ!」

 

セーラー服は悲鳴をあげ、やがて引き裂かれていく。

 

「やだーーーーーーーーーっ!!」

 

 

 

だが次の瞬間、爆音が響き、水面に大きな水柱があがる。

 

「何だ?」

 

水柱の向こう側に幾人かの人影が見える。

 

だが、その一人は水壁を通しても見間違えようがない。

 

名を付けるとするならば、それは黒髪の貴公子。

 

 

 

「隊長……?」

 

 

 

闇を引き裂いて、虹色に染め上げる、その姿。

 

 

 

「隊長……隊長!」

 

 

 

悪を蹴散らして、正義を示す、その姿。

 

 

 

「隊長ーーーーーーーーっ!!」

 

 

 

その姿こそ、

 

 

 

「提督華撃団! 参上!!」




もうチョイ時間あけるつもりだったのですが、前回のタイトル詐欺の引きが凶悪過ぎたかと思ったので書きました。
書いてる人間がいうのもなんですが比叡に選択を迫る渥頼が下劣過ぎてすいません。

次回移動方法の説明と、悪漢の末路。

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