艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第四話 9 ただいま

翌朝の横須賀鎮守府の一角には、昨日と同じく大神たちが光武・海の試験準備を行っていた。

地上でのデータ取りは終わったのか、大神は既に光武・海を起動し海で三次元機動を練習していた。

 

「昨日の段階では、タービンの反応速度が若干遅れていたようだったのでそこを修正してみた、どうかね」

 

試しに山崎の言葉通りタービンを用いたダッシュを行うと、そのタイムラグが減少しているのが分かる。

より機敏な機動が可能になりそうだ。

 

「はい、良好です。これなら機銃掃射にも先んじて加速できそうですね」

「そうか。ならあと一つ頼みがある。昨日は基本データの取得をメインにしていたから敢えて言わなかったが、今日は機動しながらの霊力技の発動も頼む」

「了解しました。しかし、そうすると――」

「ああ、艦娘と対峙しての試験は流石に出来ないだろう。艦娘を無碍に傷つけても意味はないからね」

 

大神の指摘しようとしたことを、山崎が続ける。

確かに霊力技を当ててしまったら完全にオーバーキルだ。

 

「なんだ、今日は、私達は必要ないのかね? 昨日の7駆の仇討ちをしたかったのだが」

「え?」

 

岸壁を見上げると、そこには背部に巨大な砲塔部を配した艦娘――戦艦が二人居た。

 

「長門君に、武蔵君だったね。どうする、大神くん? 私達としては対戦艦のデータも欲しいから願ったり叶ったりなんだが――大神くん?」

 

山崎が大神を見ると、顔を朱に染めて戦艦たち、特に武蔵から視線を逸らしていた。

 

「どうした、少尉? 戦艦と聞いて怖気づいてしまったのか? だとしたら、残念なのだが――」

 

武蔵が僅かに失望したような、残念そうな表情をする。

だが、山崎がそれを楽しそうに否定する。笑みが零れている。

 

「いや違うな。大神くんはね、君たち戦艦の格好に、照れているのだよ」

「――っ!?」

 

図星をつかれたのか、大神が慌てて山崎のほうを見やる。

何かを言おうとするのだが言葉が詰まり、身振り手振りで違うと言いたげだがもはやパントマイムだ。

その初心な反応に武蔵が、面白いものを見たとばかりにニヤリと微笑む。

 

「ほう、昨日あれだけ鬼神のような強さを見せていたというのに、少尉は可愛いな」

「見ていたのかい――っ!?」

 

武蔵のほうを振り向く大神だが、サラシを巻いただけの豊かな胸が目に入り、再び視線を逸らす。

記憶の上ではそれが決して不自然ではないと分かっているのだが、やはり認識がついてこない。

実に面白そうに腕を組みなおす度に大きく揺れ動く胸、武蔵の姿が目に毒過ぎる。

 

「どこを見ている? そこは特に変わってないぞ?」

「武蔵、それ以上からかってやるな」

 

胸を見せ付けるようにして大神をからかう武蔵だったが、流石に長門が埒が明かぬとばかりに釘を刺す。

 

「そうだな、これ以上は時間の無駄と言うものか。少尉、どうしてもダメと言うなら、仕方がない、諦めよう」

「長門くん、武蔵くん、数秒待ってくれないか」

 

そういうと大神は深呼吸を一回した後、軽く頬を叩いて活を入れる。

再度、長門と武蔵を見る視線は、初心な少尉から戦士のものへと移り変わっていた。

 

「ほう、これは楽しめそうだな。長門よ、悪いが私が先にさせてもらうぞ!」

「しょうがない、私の分も残しておいてくれよ」

 

大神の視線に誇り高き戦士の志を感じた武蔵は、一足早く岸壁から海に降りると海上を駆ける。

 

「大神くん、相手は――」

「はい、分かっています!」

 

日本が誇る世界最大級の戦艦、大和級二番艦の武蔵。

当然、一筋縄でいく相手ではない。

 

「行くぞ!」

 

だが、大神が己の世界で相手にした最大の戦艦は、九十三尺(28.2m)砲を主砲に持つ空中戦艦ミカサだったのだ。

武蔵といえど、やってやれないことはない。

 

 

 

 

 

それからしばらくして、駆逐艦の寮から演習場に駆ける7駆の姿があった。

まだ自主練習の時間であるため、怒られるような時間ではないのだが、昨日行っていた光武・海の機動試験の時間からすると完全に遅れた。

 

「もう、何で起こしてくれなかったのよー!」

 

どうやら遅刻の原因は一番再戦を望んでいた曙らしい。

気分が逸って昨晩は眠れなかったのだろうか。

 

「だって、曙ちゃんが幸せそうに寝ているから……」

「そうそう、昨日大神さんに似てるからって散々ケルナグール投げるの暴行を加えたぬいぐるみさんを、大事な人を抱きしめるみたいに胸に抱いて寝てるんだもん、あれは起こせないって!」

 

漣の指摘に曙の顔が真っ赤に染まる。

 

「そうかな、どっちかと言うと、あれはもう好きな――」

「わー! 何バカな事言ってんのよ、朧! あれは、つい、いつもの癖で……」

 

読書が趣味なだけあって、曙の姿に恋愛小説の一ページを重ねた朧の言葉を否定する曙。

だが、口調が徐々に弱弱しくなる。

 

「おやおや~、じゃあ、何で起きたとき満足げにぬいぐるみを枕元に置きなおしたのかな~。曙ちゃんの言う通りならそれこそ悲鳴でも上げながらぬいぐるみを投げ飛ばさないとおかしいじゃん~」

「それは……もう、うるさい! ただ寝ぼけていただけ! この話おしまい!!」

「漣ちゃん、曙ちゃん真っ赤だから、もうやめよう?」

「そうだねー、どうやら先越されちゃったみたいだし」

 

漣が指差した先には、昨日聞き慣れたタービンによる急加速で武蔵の46cm砲と15.5cm副砲、そして25mm3連装機銃のコンビネーションを回避する大神の姿があった。

 

「あははっ、痛快だ! こうも私の砲撃を回避するか、少尉!」

 

昨日7駆との対戦で見せた三次元機動を見て、そして武蔵なりに考えたのだろう。

三種の射程の異なる武器を駆使し、大神の機動を封じようとする武蔵。

 

「お褒めに預かって、光栄だね!」

 

対し、大神は急加速だけでなく急減速によるフェイントをも用いてその間合いを詰めようとする。

それは、昨日7駆との戦いでは見せなかったものだ。

 

「わーお、大神さん、本気ってやつ? すっごーい」

 

漣は素直に感嘆するが、曙の表情は複雑だ。

 

「クソ少尉、いつか絶対本気出させてやるんだから……」

 

曙は手をギュッと握り締めて誓う。

 

その間にも武蔵と大神の戦いは続いている。

お互いの距離は演習を始めた頃と比して四分の一以下。

武蔵の射撃の癖も掴んだ大神は、射撃の一瞬の隙を突いて一直線に急接近する。

 

「今だ!」

 

「なめるなぁっ!」

 

そして刀を鞘ごと首筋に当てようとするが、武蔵はその腕を動かして刀を跳ね除ける。

身体が大きく開いた大神に至近距離からの15.5cm副砲の照準が合わさろうとする。

 

「大神くん?」

「大神さん!」

「クソ少尉、負けるなーっ!」

 

副砲とは言え直撃をもらえば守護障壁もただではすまない。

敗北判定か、と誰もが思う中、気付けば曙は大神に声援を送っていた。

 

「せいっ!」

 

瞬間、大神はもう一刀を抜き放ち、15.5副砲を逆袈裟に斬り捨てた。

 

「私の負けか……」

 

両断された15.5cm副砲をみて、武蔵が呟く。

 

「いや、俺の負けでいい。抜刀するつもりはなかったのに、つい瞬間的に抜刀してしまった、抜刀させられた時点で俺の負けだよ、武蔵くん」

「それを言い出したら、最初に刀を弾こうとした時点で私の負けだ、腕が切り裂かれていたはずだ」

「俺の負けだ」

「私の負けだ!」

 

言い合う二人。だが一拍おいて二人は笑いあう。

 

「実にいい戦いだった。貴公が提督でないのが残念だよ」

「褒め言葉として受け取っておくよ、武蔵くん」

 

流石に華撃団のことを話すわけにもいかず、返礼する大神。

そのまま二人は岸壁に近付こうとする。

 

が、

 

「あっ」

 

抜刀し逆袈裟に切り上げた際、サラシの結び目を切り裂いていたらしく、武蔵のサラシが解け豊満な胸があらわになる。

腕で隠す武蔵から、慌てて視線をそむける大神だったが、

 

「見た……か?」

 

一瞬とはいえ見えてしまった。嘘をつく訳にもいかず、一つ頷く大神。

 

「そうか……貴公には責任を取ってもらわないとな」

「いいっ!? 責任って……」

 

責任ってなんだ、帝國・巴里華撃団に問い詰められたときのことを思い出し大神は冷や汗を流す。

 

「決まっているではないか――」

「さあ、次はこの連合艦隊旗艦である長門と戦ってもらうぞ、少尉! あれほどの戦い、見て黙ってなど居られん!!」

 

胸を腕で隠した武蔵が大神に近寄るが、一歩下がった大神を後ろから長門が引っ張って沖合いに引きずっていく。

 

「……ふむ、まあいいか――」

 

胸を隠したまま武蔵は肩を竦めるのだった。

 

「やっぱり、クソ少尉だわ、ふん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、二日目の試験が終わった次の日、大神の電話を受けてから三日目。

 

「「「うにゅーん」」」

 

警備府の艦娘は司令室でだらけきっていた。

 

一日目は戻ってくる大神さんに恥じぬようにと、頑張って訓練した。

二日目は一日目やりすぎて疲れた分、軽めの訓練で終わった。

そして三日目、このザマだった。

 

「もう、皆さん! 大神さんが居ないからってだらけすぎです!」

 

教官役の神通が皆をたしなめるが、

 

「えー、じゃあ、なんで神通はみんなを連れて訓練に行かないのさー」

「え、だって、大神さんが戻ってきたとき出迎えてあげたいし……」

 

川内の問いに、もじもじと指を合わせながら恥ずかしそうに答える神通。

 

結局はそういうことなのだ。

 

大神さんが戻ってきたとき、司令室で出迎えたい。

電話で数日と聞いた、もう戻ってきてもおかしくはない。

そう思うと、訓練にも身が入らなくて、司令室に入り浸ってしまっているのだ。

 

司令官も艦娘の気持ちが分かっているのか、と言うか自分も出迎えたいらしく何も言わない。

いつ帰るか正確な日を聞いておくべきだったなと思うが、あとの祭りだ。

 

そんな空気の中、司令室をノックする音が聞こえる。

 

「大神さんかな?」

「隊長だよ!」

 

ドアの近くに陣取っていた暁と響が振り向き、ドアに駆け寄る。

 

「お帰りなさい、大神さん――」

「お帰りなさい、隊長――」

 

自分こそが一番に大神を迎えるのだと、我先にと司令室のドアに向かう暁と響。

だが、

 

「ただいまぁ、出迎えご苦労だったな、暁、響」

 

「え――」

 

凍りつく響たちの顔を、ニヤニヤといやらしい顔をして笑う渥頼提督が見下ろしていた。

 

「お前の大好きな隊長でなくて残念だったなぁ、響、暁。これからまた、俺がお前達の提督だ。今度は逃がさねぇ、骨までしゃぶり尽くしてやるから覚悟しろ!」

 

そして、そのいやらしい視線を嘗め回すように艦娘たちに向けるのであった。




追記
祥鳳は渥頼のいやらしい視線を避けるため、梅雨の時期限定のグラフィック状態です。
好感度が上がれば通常グラフィックとなって大神を悩ませます。

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