艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第一話 3 臨時司令官 大神一郎

警備府内に現れた駆逐イ級を、人の身で切り捨てた大神一郎。

艦娘のこと、深海棲艦のこと、切り捨てた深海棲艦から現れた少女のこと。

分からないことは山積みだったが、未だ警備府内には断続的に衝撃と爆裂音が続いており、事態は楽観視できるものではない。

大神は神刀滅却に血糊などの汚れがないことを確認すると、鞘にしまうのだった。

 

「吹雪くん、一度司令室に戻ろう。この襲撃に散発的に対してもしょうがない」

「ちょっと待ってください、大神さん。艤装には、司令室とかと連絡を取れる機能もあるじゃないですか。戻るより連絡した方が早いですよ」

 

答えながら、吹雪は背中の艤装に手を伸ばし操作を始める。

やがて、準備が終わったのか、吹雪は話し始めた。

 

「司令室、聞こえますか? 吹雪です」

「……」

 

しかし、司令室からの返答はない。

 

「繰り返します。司令室、応答をお願いします。吹雪です」

「…………」

 

再度繰り返すも、司令室からの返答はない。

吹雪の表情に焦りの色が見え始める。

 

「司令官。龍田さん。お願いします、答えてください」

「………………」

「お願い、誰か答えて!」

 

大きな声を発した吹雪の肩に手をかけ、尋ねる大神。

 

「吹雪くん、どうしたんだ?」

「司令室と連絡が取れないんです。どうしたら」

 

吹雪は力なく大神に向き合い言葉を零す。

 

「吹雪くん、やはり司令室に一度戻ろう。この場に留まっていても事態は好転しない」

「大神さん……分かりました」

「明石さんもそれでいいですか、このままここに一人で居ても危険です」

「分かりました、ついていきますね。あと、私にも敬語は使わないで下さい、少尉さん」

 

大神の提案に、吹雪と明石は頷く。

 

「あとは」

 

大神は床に倒れている銀髪の少女に目をやる。

明石が酒保から引っ張り出したシーツに包まれ、今は全裸ではないが、このままここに放置していいものではないことは明らかだ。

大神は彼女に近づくと、軽々と抱きかかえた。

いわゆるお姫様抱っこだ。

 

「「あ……」」

 

吹雪と明石から残念そうな声が上がる。

 

「どうしたんだ、吹雪くん、明石くん?」

「何でもないです、大神さんはまだここに詳しくないから私たちが先導しますね」

 

言うが早いか、イ級との戦いで弾かれた連装砲を拾うと、吹雪と明石は司令室への道を戻り始める。

小首を傾げる大神だったが、すぐに二人のあとを追うのだった。

 

その間、腕の中の少女は身じろぎ一つせず、意識が戻ることもなかった。

 

 

 

 

 

「これは……」

 

司令室に戻るにつれて、建物の受けたダメージが徐々に大きくなっていくのが分かった。

着任報告を行った司令室の前に立つと、ドアが半壊し、壁に幾筋も亀裂が走っている。

司令室のダメージが軽視できない事、そして襲撃者の狙いが司令室にある事は明らかだ。

 

「司令官。大神一郎であります。吹雪くんと、明石くんも同伴しています」

「大神少尉ですか、すぐに入ってください~!」

 

半壊したドアの前から呼びかけると、女性の声で若干間延びした声で急かす口調の返答があった。

先程司令官の傍らに居た秘書だろうか。

 

「失礼します」

 

ドアを開け、司令室内に入る大神たち。

 

「司令官!?」

 

そして、事態が抜き差しならないものであることを知る。

恰幅のよい司令官が、崩れた瓦礫の下敷きになっていたのだ。

カウンターバーの様相を呈した司令室内は、酒棚がいくつも倒れ、酒瓶も割れている。

秘書の女性と先程ジュースを飲んでいた少女たちが瓦礫をのけようとしていた。

 

「司令官、すぐに救出しますからね~!」

「意識を失っちゃダメよ司令官、私が居るじゃない!」

「そうです、もう少しの辛抱なのです!」

「うー、レディは司令官を見捨てたりしないんだからー!!」

 

下半身から出血した司令官を励ます言葉を口々に放ち、床に散らばる割れた酒瓶で手が傷つくことも厭わずに瓦礫と奮闘する少女たち。

そんな姿を見せられて、黙っていられる大神ではない。

司令官を救助しようと近づく。

 

「待て、大神くん。君には……やってもらいたいことがある」

 

が、司令官は自分に近づく大神に気がつくと静止するのだった。

 

「今、本警備府は深海棲艦の襲撃を受けている……だが、司令室は敵戦艦の砲撃でこの有様だ。司令室としての機能は失われている」

「はい」

 

それは先程吹雪との連絡が取れなかったことからも分かる。

 

「それに戦艦とまともに対抗できる艦娘は、他鎮守府、伯地への出向と遠征で出払っている。現在この警備府に残存する艦娘たちは、軽巡洋艦と駆逐艦のみ。このままでは警備府が全滅しかねない……臨時司令官として指揮を君にとってほしい」

「しかし、自分は士官学校を出たばかりの新人です」

 

魔のもの達と戦い、乙女たちを指揮し、都市を護った経験ならある。

だがそれは、士官学校を卒業したばかりの自分には、あってはならない経験。

 

「今は現場で指揮を取る人間が必要なんじゃ……」

「大丈夫です、大神さんはさっき深海棲艦を倒したじゃないですか!」

「……なんじゃと? 吹雪、それは本当か?」

 

割って入った吹雪の声に、司令官は目を白黒させる。

 

「はい。光る刀が稲妻のように走って駆逐イ級を一刀両断に!」

「そうか……大神くん。士官学校を主席で卒業した君を……『大神一郎』を……司令官候補生として着任させたのだ、頼む」

「……分かりました。非才たる我が身ですが、全力を以って事に当たらせていただきます」

 

司令官の瞳の奥の意思を読み取り、大神は頷く。

艦娘の指揮は先程の吹雪の砲撃を見たのみで、艦娘の戦い方に詳しいとはお世辞にもいえない。

が、それは帝國華撃団で初めて戦闘したときも同じこと。やれる筈だ。

 

「非常事態につき、ただいまを以って大神一郎少尉を臨時司令官とする……龍田、雷、電、暁、みんな彼の指示に従うのじゃ」

「秘書艦の龍田よ。少尉~、お願いしますね~」

「駆逐艦の雷よ。少尉さん、よろしく頼むわねっ!」

「駆逐艦の電です。臨時司令官、よろしくお願いするのです」

「駆逐艦の暁よ。臨時司令官。抱えているのは何なの?」

 

暁の疑問ももっともだ。

 

「ああ、先程保護した子だよ」

 

暁は大神が抱えた少女の顔を覗き込んだ。

 

「響ちゃん!?」

 

そして、驚愕の声を上げる。

そこには、彼女たち第6駆逐隊の良く知る、知っていた少女の姿があった。

不死鳥の名を裏切り、失われたはずの姿のままで。

 

「どうして!? なんで響ちゃんがここに居るんですか!?」

「保護したって、何があったんです?」

「臨時司令官、答えてよ!」

 

第6駆逐隊は口々に疑問を乗せ、大神に近寄る。

 

「コラ。今はそんな場合じゃないでしょ~。明石さん、そのクレーンで司令官を助けてもらえませんか~?」

「あ、はい! 今すぐに」

 

割り込んだ龍田に従って、司令官の傍でクレーンを起動させる明石。

確かに状況は予断を許さない。

 

「済まない、龍田くん。明石くん、司令官のこと頼んでも大丈夫かい?」

「任せてください、戦闘ではお役に立てませんが、こういう作業なら!」

 

艤装を展開した明石のクレーンが瓦礫を撤去していく。

大きな瓦礫にも対応出来ており、瓦礫については任せても問題なさそうだ。

 

「龍田くん、秘書官の君はそのまま司令官についていてくれ、瓦礫が撤去でき次第、明石くんと司令室から避難するように」

「? 分かりました~、響ちゃんについても任せてもらっていいですか~」

「そうだな、そうしてもらえると助かる」

 

流石に大神といえど、銀髪の少女――響を抱きかかえたまま戦闘は出来ない。

大神は響を龍田に任せることにした。

 

「本当に響ちゃんだ。少尉~、後で詳しく聞かせてもらいますね~」

「ああ、分かった。吹雪くん、暁くん、雷くん、電くん、我々は撃って出る! 警備府から敵勢力を一掃するんだ!」

「了解! 大神さん、外に出るにはこちらです!」

「え、少尉さん矢面に立っちゃうの? ちょっとー、私たちが居るんだからー」

 

吹雪の先導に従い、司令室を後にする大神。

唖然とする雷たちだったが、すぐに後を追い司令室を後にする。

 

 

 

 

 

クレーンの作動音と、爆裂――戦艦の砲撃音が鳴り響く中、司令官は呟く。

 

「そうか、彼はやはり『大神一郎』じゃったか」

 




艤装を展開している間も艦娘の腕力などの身体能力は大きく変わらない事にしております。
その為、重いものを動かすにはクレーンを持つ艦娘が必要となります。

あと、謎の(バレバレ?)銀髪の少女は響でした。
イ級擬人化ではありません。それも楽しいかなと思いましたけどねw

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