「全ての艦娘を束ねる提督華撃団……俺が、隊長に……」
その巨大な話を噛み締めるように頷く大神。
武者震いだろうか、身体が僅かに震えている。
「どうしたよ、大神? まさか、怖気づいちまったなんて云わないよなぁ?」
「そのようなことはありません! 不肖、大神一郎! その任を粉骨砕身の覚悟で受けさせて頂きます!」
背筋を正し、威勢よく大神は答える。自分自身にも刻み込むように。
「よし、それでこそ、大神だ。まだ正式には決定していないが、お前は華撃団設立と共に特務大佐として華撃団隊長及び司令官代理の任に付いて貰う。覚悟しておけ」
「はい! では、総司令は米田閣下になられるのでしょうか?」
若干の期待を込めた眼差しを米田へと送る大神。
が、米田は大きく首を振って否定する。
「いや、俺も山口も陸軍・海軍に囚われすぎてるからな、どちらが付いてもどっちかの軍の色が強くなりすぎちまう。その任にはつけない。オブザーバーがいいとこだ」
「勿論、私のような政治家もつけない」
「では、総司令はいったい誰に? 陸海軍から独立するのであれば、よほどの影響力がなければ――」
疑問を浮かべる大神に、米田が深い笑みを作る。
「分からねーか、まあ、分からねーだろーなぁ。おい、大神よ。さっき元号が『太正』に変わったって云ったのは覚えているか」
「はい、勿論――まさか!?」
「そう、この場に居ない『太正会』のメンバーであり、そして華撃団の総司令となるのは、大元帥閣下その人だ」
「なっ!?」
言葉を失い大神は立ち尽くす。
無理もない。大元帥、それは大神にとってあまりに雲の上のお人の存在だからだ。
「大神、大元帥閣下はな、お前のことを気にしておられたんだぜ。帝都を、巴里を、そして世界を救った希代の英雄たるお前に、秘密部隊の特性上とはいえ十分な恩賞を以って報いられなかったことに」
「そんな……身に余る光栄です」
「そう思うか。なら、俺達の、閣下の期待に応えてくれよ、大神」
「はい!」
最敬礼を以って大神は返礼する。
「よし、華撃団についてはひとまず終わりだ。法案は数日後には通る見込みだし、本拠地となる場所ももうじき完成する」
「では、自分はそれまで何をしていればよいのでしょうか? 警備府に一度戻って……」
「そんな暇あると思ってんのか? 大神よぉ。おい、山崎、おめぇの番だぜ」
米田の呼び声に妻達と談笑していた山崎が大神の元に訪れる。
一振りの刀を持って。
何のつもりかと、体制は整えずとも気構えだけは忘れない大神の様子に山崎は苦笑する。
「君が警戒する気持ちも分かるが、これからは技術者と使用者の間柄になるんだ。もう少し肩の力を抜いてくれないかな」
「すいません、分かってはいるのですが――」
「少なくとも私は君を信頼している、私の絶望を止めた君を。先ずはその証を立てようと思ってね」
そうして、山崎は大神に持っていた刀を渡す。
「これは――光刀無形!?」
「そうだ、私が所持する二剣二刀の一振り、光刀無形を君に託す。受け取ってくれ」
「光刀無形を――何故、ですか?」
「君の流派は二天一流だろう? それに我々が失敗した二剣二刀の儀を見事成功させたとも聞いている、もうこの刀は君が持つべきものだ。私が全うできなかった平和の守護者であってくれ、頼む」
神刀滅却を継いだ時と同じ想いが大神を貫く。
一振りの刀に込められた思いを受け止め大神は大きく頷く。
「分かりました。光刀無形、確かに受け取らせて頂きます!」
「宜しく頼む」
そして、大神と山崎は固く握手を交わす。
二人の間にわだかまりは存在しなくなっていた。
その様子を見て、あやめが、米田が、笑みを零す。
「よかったな、あやめくん」
「はい」
握手を交わした山崎は大神から一歩離れる。
若干口ごもっているのは何故だろうか。
「よし、それじゃあ本題に入ろう。大神くん、今、君は……艦娘に抱きつき抱きつかれて戦闘してるということだったね」
その言葉に場が凍る。
特にすみれの視線が冷たい。
「はい、残念ながら、今の自分には水上を駆けることが出来ないので」
冷や汗交じりに大神が答える。
警備府では半ば当然の事態として、皆受け入れてはいたが改めて言葉にすると無茶苦茶なことだ。
「念のために確認しておくが、君の趣味ではないよな?」
「断じて違います! 艦娘のように、自らの意思で水面を駆けることが出来るのであれば――そのようなことは決して」
「分かっている、冗談だよ」
慌てて弁明する大神だったが、山崎は笑ってそれを止める。
「今後、華撃団の隊長として働いてもらうのに、艦娘に抱きつき抱きつかれたままってのは格好が付かないからね。実は既に準備をさせてもらっているんだ」
言い放つと、山崎は大きく手を二回鳴らす。
奥の部屋から、一人の女性が戦闘服とシーツにかぶさったものを運んできた。
「これは――」
感慨深げに純白の戦闘服をみやる大神。
「流石に分かるか、大神くん。帝國華撃団で君が着用した戦闘服をモチーフに作成した対水上戦用の防水戦闘服だ。先ずそれを着てくれないか」
「大神くん、そこの部屋を使いたまえ」
そうして数分後、大神は戦闘服に着替えて出てきた。
すみれは、ああ、しょうい、すてきですわとうっとりしている。
「着心地はどうかね」
「ええ、全く問題ありません。ですが、この服だけでは水上戦は――」
「勿論だ、コレからが本番だよ」
山崎はそういうとシーツを取り去る。
そこには、両手につける篭手、両足に装着する靴に似た具足、腰に装着する小型霊子核機関とタービンユニット、そして片眼鏡が置かれていた。
「擬似艤装型霊子甲冑一式だ」
「これが霊子甲冑ですか? もっと巨大な、いつものものを想像していました」
大神の想像ももっともだ、霊子甲冑といえば数メートルの巨大なものと言うものだ。
「その案もあったのだがね。神刀滅却、そして光刀無形で直接深海棲艦に斬りつけるには従来の霊子甲冑では大きすぎるんだよ」
山崎の言葉に米田が付け足す。
「それに考えてみろ大神。見た目的には生身で戦う艦娘の横に、巨大サイズで戦う男が居てみろ。締まらねーじゃねーか」
米田の言うとおり想像してみる。
確かに何処か締まらないものがあった、苦笑する大神。
「まあ、この時代の技術で霊子核機関をダウンサイジング出来たのも大きいんだがね」
「これだけのものを……自分が調べたところ霊的技術はなかったはずですが……」
「それは簡単だ、図面は引いていたが作成については時を待って居たんだよ」
君が来てくれてよかったと笑う山崎。
「あと、実はまだ名称は決めていないんだ、着用する君が名を付けた方が良いんじゃないかと思ってね」
「自分が、名前をですか……」
「あえて指定はしない、君がふさわしいと思う名を決めてくれたまえ」
だが、そのようなことは考えるまでもなかった。
我が身を守るもの、我が命を託すもの。
名をつけるとしたならば――一つしかない。
一つしかありえない。
「――光武、お前の名は『光武・海』だ!」
説明会長くてすいませんでした。