艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第三話 10 益なき戦い

夕日が水平線に近づく頃、比叡たち6人の艦娘たちは沖合いから警備府へと向かっていた。

その表情は重い。

 

なぜなら、その相手は人間一人。

間違っても一艦隊で立ち向かうような相手ではない。

 

「こんなの、沈んだ金剛お姉さまに誇れないよ……」

「比叡さん……」

 

いつもは明るい加古や千歳たちさえも声色が沈んでいる。

そして、警備府に近付いた頃。

 

 

一隻のボートに乗った男――大神の姿が警備府の港外にあった。

 

「どういうこと?」

 

警備府からの報告では、大神は水上戦闘は出来なかった筈だ。

だから、艦娘とペアになって居る筈なのに――

 

疑問に思う比叡たちに渥頼からの通信が届く。

 

『訓練済みの艦娘とじゃ、艦娘の力か大神少尉の力か分からないからなぁ』

 

いやらしい、そして実に楽しそうな声だ。

 

『検査が終わったばかりの響と組ませようとしたんだが、あの馬鹿、病み上がりの響に無理はさせられないと断りやがった』

「そんなの――」

 

戦闘にもなりはしない。

艦娘なしで人間が深海棲艦に立ち向かえなかったのと同じように。

 

『さあ、お前ら! 戦闘開始だ!!』

「――っ」

 

これから行うことの情けなさに誰かが唇を噛み締める。

だが、命令は命令なのだ。

 

「艦載機のみんな……お仕事や」

 

龍驤たち空母から艦載機が発進する。

心の中で直撃はさせないでと念じて。

 

「狼虎滅却 疾風迅雷!」

 

しかし、大神は負ける気は毛頭ない。

近づいた艦載機たちに光の嵐が浴びせられる。

 

「マブシイ マブシイ」

「セントウフノウ セントウフノウ」

 

それでも艦載機の妖精に気遣ってか、それは雷撃ではなく、ほとんどただの光。

眩い光を浴びた艦載機は一機たりとも撃墜することなく、それでも一時的に視界を失い戦闘不能状態に陥ったことにして龍驤たち空母の元へフラフラと帰還する。

 

「あんた――」

 

龍驤がその様子に呆けたような表情をする。

この状況下で妖精にまで気を使うなんて、どこまでお人よしなのか。

あのクズ、自分たちの提督よりもよっぽど好感が持てる。

 

出来ればこのまま戦いたくはない。

こんな戦闘形式で調査しなくても、今のだけでも確認結果としては十分すぎるではないか。

むしろ、陸上でどういうことが出来るのか一点一点調査するべきじゃないのか。

 

「提督はん――、こんな無駄な戦闘やるより――」

『うるさい、艦娘程度が口出しするな! 戦艦たち、砲撃しろ!』

「――分かりました」

 

苦虫を噛み潰したような表情の元、戦艦たちの主砲が狙いを定める。

ただのボートに乗る、好感を持てそうな人間に。

 

「――違う」

 

自分たちはこんなことのために、生まれたんじゃない、ここに来たんじゃない。

その想いが照準を曇らせる。

 

轟音と共に艦娘用の35.6cm砲の砲弾がボートの脇に着弾する。

着弾の衝撃と水圧でボートが揺れ、ミシミシと音を立てて船体が悲鳴を上げる。

 

『お前ら! そんな至近距離で外すとはどういう――いや、そのまま続けろ!』

 

次々と大神のボートに至近弾が降り注ぐ。

その度にボートは大きく揺れ、大神は必死に船上でバランスを取っている。

海水を何度もかぶり、髪は大きく乱れていた。

その様を見て千歳が呟く。

 

「こんなの――」

 

嬲り殺しではないか。

 

言葉に出さなくても比叡たち全員そう思っていた。

 

せめて一思いに決着をつけるべきじゃないか。

そう考えた加古が腕の連装砲を構え大神に肉薄しようとする。

だが――

 

「せいっ!」

 

神刀滅却が煌き、連装砲の砲身が切り落とされる。

近距離で目にする大神の瞳には炎がいまだ宿っており、負けるつもりなど毛頭ないことが分かった。

その意志の強さに加古は引き込まれそうになる。

 

『バカ野郎! 長距離砲バカスカ撃ってりゃいいんだよ、重巡は引っ込んでろ!』

 

そうして、35.6cm砲が再び撃ち込まれる。

 

 

 

 

 

「翔鶴ねえ、離して!」

「瑞鶴、ダメよ! 目を付けられてしまうわ!」

 

その理不尽な光景を目にして、頭に血が上った瑞鶴が戦場に割り込もうとする。

瑞鶴の身を案じた翔鶴が必死に制止する。

 

「けど、あんなの。あんな理不尽なの見てられないよ!」

 

大神にそれほど親近感を抱いていない瑞鶴でさえそうなのだ。

それは警備府の艦娘全員の想いといってもいい。

 

「理不尽でも提督が決めたことだから、艦娘は従わなくちゃいけないの! 分かるでしょ、瑞鶴」

「でも! それじゃ司令官は? 司令官はどうしちゃったの?」

「龍田と天龍が呼びに言ったわ。でも、安静状態のあの人を連れてくるにはまだ時間が――」

 

艦娘たちの声が飛び交う中、響は、震える身体を必死に押さえながら、大神の姿を見ていた。

 

一部の艦娘には響に目をやるが、知ってしまった事情が事情だけに首を振り、言葉を濁す。

 

その視線を響は感じていた。

大神なら大丈夫かもしれないと甘えてしまった。

その結果が今の現状だ。

 

渥頼提督の出した条件の中、あの戦場に問題なく入れるものは響しか、自分しかいない。

 

だけど怖いのだ。

昏き海の底へ沈んだことが。

 

生まれ変わったんだと、そう思っても結局自分は堕ちた不死鳥で。

渥頼提督に純白の艦娘じゃない、薄汚れた響なんだとそう気づかされて。

そして、生まれ変わった後も薄汚れた響になるんだ。

 

諦めが響を満たそうとしたその時、大神の言葉が脳裏に蘇った。

 

 

『違う! 彼女は、響くんは、共に戦う仲間だ!!』

 

 

「……そうだ」

 

 

大神さんは、私を庇ってくれただけじゃない。

 

 

最初から共に戦う仲間だといってくれたではないか。

 

 

なのに、良いのか。

 

 

こうして、彼の戦いを見ているだけで良いのか。

 

 

彼が一人嬲り続けられているのを見ているだけで良いのか。

 

 

「そんなの――」

 

 

良い筈がない。

 

 

震える足を二度叩き立ち上がる。

 

「響ちゃん? なにを……」

「艤装、展開」

 

いつもは口にしない言葉を、あえて口にする。

明石の検査で問題ないといわれた通り、艤装が展開される。

 

「大神さん……」

 

立ち上がってもなお震える身体に活を入れようと頬を叩き、一歩踏み出す。

――二歩目は自然と歩みだしていた。

 

「大神さんーっ!」

 

叫びながら響は駆けだす。

ほとんど沈みかけているボートの上に立ち、それでも戦意を失わない大神の元へと。

 

「響くん!?」

 

幾重にも浴びた至近弾の余波で、大神は海水にまみれ、軍服は破れ血すら滲んでいた。

それでも、響は構わず大神に抱きつく。

 

「響くん、こんなところに来て大丈夫なのか?」

「だって、私は仲間だから……大神さんと一緒に戦う仲間だから!」

 

涙混じりに響が答える。

 

「そうか……響くん、いいかい?」

「勿論だよ、大神さん」

 

響の身体に大神の手が優しく回され、足の艤装へと足を引っ掛ける。

直後、大神の乗っていたボートが響に大神を託し、役目を終えたとばかりに海中に沈んでいった。

 

「ありがとう、大神さんを守ってくれて」

 

同じ想いを共にした仲間に一瞬の祈りをささげる響。

そして、大神と共に響は海上を駆け始める。

 

例え、私が翼をもがれた不死鳥だとしても、堕ちた不死鳥だとしても――もう構わない。

 

『ほう、震えて出てこないと思ったが、少しお仕置きが必要なようだな。比叡! やれ!!』

「……はい」

 

「響くん!」

 

比叡の照準を感じた大神が瞬時水面に片足をつける。

 

「はい、大神さん!」

 

大神の片足を支点に響は高速旋回し、比叡の砲弾をかわした。

 

大神の意思が、行動が分かる。

 

軽やかに二人は、比叡たちの砲撃を、再開される龍驤たちの爆撃をかわしていく。

それは、まるで水上を舞う二人のワルツ。

 

「どうして!? どうしてこんなに当たらないの?」

「もう、何なのよ!?」

 

比叡の、山城の戸惑いの声をよそに二人の舞は加速していく。

指が紡ぎ合い、足が触れるたび、二人の心は交差していく。

 

『何をしている! 戦艦が! 空母が! 駆逐艦に翻弄されてるんじゃねえ!!』

「ボンクラは黙っとき! 分かっとる、わかっとるけど当たらんのや!!」

 

龍驤たちの喧騒をよそに、響は更にその身を大神に寄せる。

指先から伝わる大神の着地点へと足を差し出すと、果たして感じた通り大神が自らの艤装に着地する。

そのことがとても嬉しくて、戦いの中だと言うのに楽しくて仕方がなくて。

 

「大神さん――」

「響くん――」

 

大神と視線が交差するたびに気持ちが満たされていく。

身体が初めて自覚する自らの霊力、そして大神の霊力に満たされていく。

暖かさに心が包まれる。

 

『悪足掻きしてるんじゃねえ! 響!!』

 

もう渥頼の怒声にも心が動かされることもない。

 

ここに大神さんが居て、大神さんが私を見てくれる――

 

共に戦っている――

 

それだけで――十分なのだ。

 

「大神さん――変なんだ。こんなの初めてなんだ。気持ちで胸がいっぱいで、力に満ち溢れて――」

 

響の、戸惑いを含んだ声に、大神は響の現状を察する。

 

「響くん、大丈夫だ。俺がリードする。俺を信じて、俺に身を任せてくれ!」

「大神さん――はい」

 

大神の声に頷く響。

傍から見ても二人の心は通じ合っているのが見て取れた。

 

それが比叡たちには信じられないほど眩しく見える。

 

「どうして、人間と艦娘がそんなに心を通じ合えるの?」

 

誰かが呆然としながら零す。

 

なんで、彼は艦娘をそんなに気遣えるのか、

なんで、響は大神をそんなに信頼できるのか、

何よりも――なんで私たちを指揮するものが大神でないのか。

 

羨望に気を取られ、砲撃が、雷撃が一瞬停止する。

そして大神たち二人の合わさった手が比叡たちへと伸ばされた。

 

 

「雲間は開け、光降り注ぎ!」

 

 

大神の右手が天を指差す。

途端、雲の間から光が差し込みスポットライトのように大神と響を照らす。

 

 

「水はいつしか流れ、冬の終わりを伝える」

 

 

響が海を指差すと水が渦巻き、まるで舞台のように整えられる。

 

 

「「聞き届け、命の鼓動!」」

 

 

二人の周囲を散り始めた桜が舞う。

大神の頬に張り付いた桜の花びらを、響は笑って背伸びすると大神の頬にキスするかのように唇に咥え取り去る。

それは砂糖菓子のように甘く甘く響には感じられた。

 

響が満面の笑みを大神に向ける。

 

 

「「凍え閉ざされた地にも春は訪れる!」」

 

 

二人の声と共に、霊力が最高点にまで増幅される。

 

 

「「Половая зрелость(春の目覚め)!!」」

 

 

響と大神を中心に霊力が膨れ上がり、純白の光を帯びて爆発するかのように拡散した。

霊力の嵐に包まれ、比叡たちの視界が奪われる。

 

「きゃあーっ!」

「な、なんなんやー!?」

 

純白の霊力の嵐は比叡たち6人の艦娘を巻き込むのであった。

そして、比叡たち自身、そして艤装の妖精には傷一つ付けることなく彼女たちの戦闘力を奪う。

 

純白の霊力の嵐が収まったとき、力なく膝を突く比叡たちの姿があった。

 

『何していやがる! 立て! 立ち上がって戦え!!』

 

渥頼は怒りのままがなり立てるが、もはや比叡たちに戦う力はひとかけらたりとも残されていない。

 

 

 

決着はついた。




響との合体技発動。
戦いの中なのに二人の世界作りすぎなのはサクラ大戦のいつもの伝統です。
でも、精神攻撃っぷりが足りなかったかも。


しかし、これを全艦娘×2用意するのか(全部使うかどうかはさておき)
はっきり言おう、死ねるな自分。

と言うことでちょっと活動報告でアイデア募集をしてみようかと(チラッ

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