艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第一話 2 襲撃、そして戦士の目覚め

警備府を揺るがす衝撃と爆裂音。

俄かには立っていることに辛ささえ感じる。

そんな酒保で、3人の中で最も我に返るのが早かったのは、やはり夢の中?とはいえ数多くの戦場に慣れた大神であった。

 

「吹雪くん。明石さん。この衝撃と音は一体何なんだ?」

「えと、分かりません。こんな衝撃、演習の時だって……」

「ごめんなさい、私、演習の場にあまり行ったことがな――きゃあっ、酒保の荷物がっ!」

 

僅かばかりの間断を開け、再び爆裂音と衝撃が襲う。

明石は崩れ落ちる店内を見て嘆くが、大神は周囲の状況に思考を巡らす。

艦娘が居ること。その意味を知らぬが故に、大神は現状について――

 

「襲撃か?」

 

艦娘の居る現在においては突拍子もない結論を口にする。

途端、吹雪と明石の表情が驚愕に彩られる。

 

「そんな? ここは艦娘が多く居る警備府なんですよ!?」

「ありえないですよ、大神さん!」

 

否定の言葉を次々に口にする二人。だが、大神の心は戦場に居るときのように研ぎ澄まされていく。

そして――、

 

「右の壁から離れるんだ、二人とも!」

「「え?」」

「危ない!」

 

明石と吹雪を抱きかかえその場から飛び退くと、酒保にほど近い壁に大きな穴が開き、そこから見たことのない生物―降魔や、怪人のごとき怨念を感じるーらしき存在が屋内に入ろうとしていた。

 

「そんな! 駆逐イ級!? 深海棲艦がなんで!?」

 

吹雪の絶叫にも等しい叫びに、ありえないことに明石の身体も震え始める。

深海棲艦。人類から海を奪った存在。それがなんで1警備府を襲っているのか。陸の上で今相対しているのか。

実戦未経験の新人駆逐艦、戦闘向きでない工作艦には荷が重過ぎた。

 

「ここは俺が引き受ける。二人は早くここを離れて助けを呼んできてくれ」

 

そんな二人を床に下ろすと、大神は迷うことなく吹雪と明石を守らんと駆逐イ級の前に立ちはだかった。

瞳に迷いはない。

 

「少尉さん……」

「大神さん……」

 

迷うことなく二人を庇おうとする大神に、二人は打ち震える。

無謀ともいえる行動。提督としては失格といって良い。

 

だが一人の人間としては、なんと尊敬できることか。

 

このような人を一人置いて逃げ出す?

 

ありえない。

 

それに深海棲艦が敵である以上、艦娘の為すべき事は一つだ。

身体の震えは収まらないが、未熟なその目に決意の火が灯る。

 

「……退いてください、大神さん。深海棲艦を倒さなくてはいけません」

「……そうですね、降りかかる火の粉は払わないといけませんね」

「何を言ってるんだ、二人とも。俺なら大丈夫だから――!?」

 

二人を危険から遠ざけようと大神は振り向いて、艤装を身に着けた二人の姿に驚愕する。

 

腰から背負った機関部、太股に取り付けられた魚雷らしき装備、その手に持った連装砲。そして、クレーン。

大の大人でも取り回すには苦労しそうな重量の装備を身に纏った二人は正に「艦娘」と呼ぶにふさわしいものだった。

 

「吹雪くん、明石さん?」

「だ、大丈夫です、大神さん」

 

呆けた口調で二人を見やる大神に目をやると、吹雪は前に進み出て駆逐イ級へと連装砲を構える。

 

「こんな実戦になるなんて思わなかったけど……!」

 

距離は十分すぎるほど近く、外し様がない。

だが、吹雪の連装砲の構えはフラフラとしており、

 

「お願い、当たって!」

 

懇願にも似た掛け声と共に放たれた砲弾は正中を外れて駆逐イ級の脇へと当たり、その体液を撒き散らす。

初めて動く標的に砲弾を当てたことに喜色を浮かべる吹雪。

 

「あ、当たった」

 

しかし、もっとも恐ろしいのは手負いの相手なのだ。

痛みに我を忘れ暴れまわるイ級に再度狙いをつけようとした途端、連装砲がはじかれる。

弾かれた連装砲に吹雪の手は届かない。

 

「あっ!?」

 

そして返す刃で吹雪の身を仕留めようと、イ級が迫りくる。

大きく開かれた悪臭の漂うその口に、吹雪は無防備なことに恐怖から身を竦める。

吹雪にも、明石にも直後の惨劇を止められなかった。

 

駆逐イ級に惨たらしく喰われ、吹雪の命はここで潰える

 

 

 

 

 

筈であった。

 

「させるかぁーっ!」

 

否、大神が長袋から一振りの日本刀を取り出し、深海棲艦へと切りかかる。

その刃は閉じられようとするイ級の歯とぶつかり、霊力で増幅された大神の膂力はイ級の体を押しとどめる。

 

「そんな、無茶です! 大神さん!!」

「そうです、ただの人が深海棲艦に立ち向かうなんてやめて下さい!」

「確……かに」

 

額に汗をにじませ、閉じられようとするイ級の歯を日本刀で押しやりながら、大神は答える。

 

確かに、自分はあまりにもここの事を知らない。

艦娘、深海棲艦もよく分からない事だらけだ。

ここの常識からすれば、無茶で無謀なのかもしれない。

 

「だがっ!」

 

だが、一人の恐怖で怯える少女も救えずして、何の為の軍人か。

何の為の帝國華撃団隊長か。総司令か。

何の為の託された神刀滅却か!

 

そう、この手に神刀滅却がある。数々の戦いを共に歩み、理想と共に託されたこの神刀が。

迷いはない。ここがどこであろうと関係ない!

すべての人々の幸せを、平和を守るために戦う!

 

言い切って、大神は力を込め刃を振り払った。

叫び声と共にイ級の歯と前あごが切断される。

 

「ウソ……」

 

神刀滅却の手応えに、明石の呟きに耳を貸すのも惜しいとばかりに大神はイ級へと一足飛びで間合いを詰める。

研ぎ澄まされた戦士の勘が、今こそが好機と教えてくれる。

 

「狼虎滅却!」

 

掛け声と共に霊力を練り上げ、上段に構えた神刀滅却を唐竹割りに振り下ろした。

それは、降魔ですらもその名の通りに切って捨てた破魔の刃。

 

「一刀両断!!」

 

霊力を伴い光を帯びた剣影がイ級を切り裂き、イ級は完全に沈黙する。

残心を取り、次の攻撃に備える大神。

 

「す、ごい……すごいです! 大神さん」

「人の身一つで、深海棲艦を倒しちゃいました……信じられない」

 

後ろではしゃぐ二人をよそに、大神は構えを解く事はない。

 

 

やがて、イ級からピキピキという音が聞こえ、神刀滅却が切り裂いた箇所が淡白く光り始める。

警戒を表情に表した大神につられて、駆逐イ級に改めて視線をやる吹雪と明石。

 

「一体何が始まるんだ?」

「わ、分かりません。こんなの艦娘の教本でも見たことないです」

 

ピキピキという音が大きくなるにつれ、切り裂いた箇所からイ級全体へと淡白い光がひび割れの様に走る。

そして、光がイ級全体を覆うと、

 

 

 

ポン

 

 

 

と、音を立てて、駆逐イ級は吹雪と同年代の銀髪の少女へとその姿を変えるのだった。

 

 

 

全裸の。

 

 

 

「わーっ! 見ちゃダメです大神さんーっ!!」

「女の子の裸見ちゃダメですよ、少尉さん!」

「ちょっと待った、まだ安全か分からないから目は塞がないでくれー!」

 

大神の言うとおり、衝撃と爆裂音はまだ断続的に続いていた。

 




イ級相手に大ピンチの新人艦娘吹雪ちゃん。

艤装は装着式にするか、変身式にするか迷いましたが、話の展開上変身式にいたしました。

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