艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第三話 5 仲間たち

「暁ちゃん、大丈夫?」

「もう、あんまり心配させないでよね。第6駆逐隊」

「そうだよー。6駆が元気ないと、あたしたちまで元気なくなっちゃうよ」

 

大神たちが食堂に着くと、暁たちを心配する声がかかる。

食堂に着いた大神たちを待っていたのは、吹雪たち他の艦娘たち。

保健室での一部始終を知ったのか、その表情はやさしげだ。

 

「ごめんね、みんな」

「ありがとうなのです」

「もう大丈夫だから」

 

ペコリと一礼して、暁たちはいつも使っている席を確保してから、食事を受け取りに行こうとする。

 

「いいんですよ、暁ちゃん。今日くらいは。瑞鶴――」

 

しかし、翔鶴が暁を静止し、手を引いて導くと暁たちを席に着ける。

 

「オッケー、翔鶴ねえ」

 

分かったとばかりに、瑞鶴と神通、那珂たちが暁の分の夕飯を受け取って席へと運ぶ。

食堂の担当者も分かっているのだろう、その量は大盛りであった。

 

「わぁ……」

 

皿の上には今日のメニューにはなかったはずの好物のオムライス。

ケチャップで「元気出して」とイラスト付きで書かれていた。

 

「ぐす……」

 

警備府の仲間たちのやさしさに思わず触れて、六駆の目にじんわりとこみ上げてくる。

けど、感謝の涙とは言っても、ここで泣いてしまっては元も子もない。

 

「「「いただきまーす!」」」

 

暁たち6駆はこみ上げてくるものを飲み込むように、自分たちに出されたスペシャルメニューに手を伸ばす。

オムライスの卵はふんわり半熟、中のチキンライスもトマトの旨みが凝縮されていて卵とよく合う。

 

「――っ!?」

 

と、勢いよく食べようとしてのどに詰まらせたらしく、雷が胸を軽く叩く。

 

「急いで食べすぎ、もうちょっとゆっくり食べてもご飯は逃げないよ~」

「これを飲んで落ち着けばいい……」

 

すぐさま、望月と初雪が慌てて飲み物を入れて持ってくる。

警備府でもものぐさで著名なあの二人がだ。

 

目を白黒する雷だったが、受け取った飲み物をゆっくりと飲み干していく。

 

「けふっ、もう、びっくり、させないでよー」

 

苦しかったのか、果たして嬉しかったのか、仲間たちに向き直って笑う雷の目じりには涙が浮かんでいた。

そんな暁たちを大神はやさしく見やる。

 

 

 

が、その輪の中から一人の艦娘が離れ、食堂の裏手に向かっていった。

仲間たちに気づかれないように裏口から食堂の外へ出ると、壁に寄りかかり虚ろげに空へと視線を向ける。

 

「――――――」

 

潮風になびく髪をぎゅっと押さえつける、その表情にはいろいろなものが混じっているようだ。

 

しばしの時が経ち、

 

食堂から聞こえる喧騒が静かになり始め、

 

袖から伸びた素肌がわずかに冷たさを帯び始める頃になって、

 

「睦月くん、どうしたんだい?」

 

艦娘――睦月に大神の声がかけられる。

 

「いいえ、なんでもないです。すいません隊長、勝手にいなくなったりして」

「今は自由時間だし、謝らなくてもいいよ。睦月くん、春とは言っても外にずっと居たら冷えるだろう、中に入らないかい?」

「ごめんなさい、今はそういう気分になれなくて……」

「そうか、それなら――ほら」

 

大神は自分の上着を脱ぐと、すまなそうな顔をして頭を下げる睦月の肩にかける。

 

「そんな、悪いです隊長」

「気にしないでも構わないよ、君たちは女の子なんだから」

 

さらに申し訳なさそうに頭を下げる睦月。

だが、大神は手をひらひらと振るとなんでもないとばかりに笑ってみせる。

 

「――どうして、」

 

そんな大神の態度に、睦月は一度躊躇うかのように髪の毛を押さえ、それでも言葉を唇に乗せる。

 

「――どうして隊長は、そんなに私たちに優しくするんですか?」

「どうしてって、君たちはともに戦う仲間じゃないか。当然のことだよ」

 

睦月の問いに、大神は一瞬の躊躇もなく答える。

大神にとって当たり前のことなのだ。

 

記憶の中の戦いにて、苦難の人生を歩んできたものがいた、自らを律することが出来ず周囲を傷つけそれ以上に自分を傷つけるものがいた、罪に手を染めるものさえいた。

 

だが、その全てが大神にとってかけがえのない仲間であった。

 

「私たちは、艦娘ですよ? 深海棲艦と戦う兵器なんですよ?」

「そんなの関係ない! 君たちは、艦娘は、俺の仲間だ!!」

 

かつての戦いのときと同じく轡を並べ、背をあずけ戦う大神にとって、艦娘と人間にどれほどの差があるというのか。

 

いや、ない。

 

睦月の手をとり、瞳を覗き込んで大神は断言する。

 

「――あっ、む、睦月くん、すまない!」

 

と、自分のした事に気づき大神は慌てて睦月の手を離す。

ちょっと手をとっただけだというのに。

 

大神の慌てっぷりに睦月はクスリと微笑んでみせる。

 

「大神さんが提督だったらよかったのに」

「無茶言わないでくれよ、士官学校出たばかりの新人が提督になれる訳がないって」

 

トホホと肩をすくめる大神に、睦月の笑みが増す。

が、すぐに睦月の笑みは真顔へと戻る。

 

 

「そうしたら――ちゃんも、響ちゃんも、沈まずに済んでいたのかな――」

「えっ?」

 

思いもよらず睦月から飛び出た話に、大神の表情が変わる。

しかし話はデリケートな内容を含んでいる、先ほどまでナイーブな表情をしてみせていた睦月に聞いていいものだろうか。

 

「大神さん」

 

躊躇う大神の様子に逆に意を決したか、睦月が大神へと向き直る。

 

「昔の警備府の話です――」




リハビリも兼ねてとなりますので短めです。
次話、過去説明回

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