「響くんの記憶、望みがあるかもしれない」
「「「え?」」」
大神の発言に部屋にいた艦娘全員の疑問の声が上がる。
暁に至っては大神に迫り寄っている、当然だろう。
「隊長、ど、どういうことなの?」
「隊長のことだから、ヘンなウソ言ってる訳じゃないよな。早く話してくれよ」
「そうだよ、勿体ぶった言い方しないでよー」
天龍、川内たちも大神を疑った様子はない。
電、雷も早く聞かしてくれと目で訴えていた。
「ああ、勿体ぶった言い方になってすまない、みんな」
勿論大神に話さない理由はない。
いや、暁たちのことを思えば今話さないでいつ話すというのだ。
「響くんは……暁くんたちのことを知らないといってた、それは確かだ」
「……うん」
話題が話題だけに若干話しづらそうな大神、暁も苦々しい表情で頷く。
「けど、響くんが、暁くんたちのことを知らないと否定するとき、僅かに顔を歪めていた。自分に刻み込む、言い聞かせるように話していたんだ」
「本当か? オレには見えなかったぞ」
「大神さんの見間違いじゃないの?」
天龍たちが訝しげな視線をしている。
だが、大神はそれをやんわりと否定する。
「それは間違いないよ。俺は響くんたちのすぐ横にいたから。確かに見えた」
「そうなんだ。でも、それがどうしたのさ?」
「知らない相手と話すとき、そんな表情するかな?」
「……ううん、本当に知らない人相手ならしないと思うわ」
雷が頷く。大神が何を言おうとしているのか分かったらしい。
「と言うことは響ちゃん、電たちのこと完全に忘れたわけじゃないってことなのですか?」
電も声を上げる。希望が垣間見え気力が戻ってきたらしい。
「そう。忘れたと言っても、彼女には記憶が残っているんじゃないかな」
「……でも、響の記憶、どうしたら取り戻せるのかな?」
しかし、暁の声は沈んだままだ。
記憶が残っているとは言っても、表に出てこないのでは記憶喪失のようなものだ。
「艦娘の記憶喪失か、オレもそこまでは知らないや。明石なら知っているかな?」
「大神さん~、大神さんの霊力とか必殺技でどうにかできないの?」
川内が頼み込んでくる、が、いくら何でも霊力はそこまで万能ではない。
「記憶喪失の対処か。霊力によるヒーリングは損傷には効くけど、それはやったことがないな」
「なら、いいじゃない! ダメで元々。やってみようよ、ね?」
「分かったよ、明石くんの検診が終わった後にやろう」
川内が再度懇願する。軽い口上とは違って視線は本気だ、6駆が心配らしい。
大神にとっても断る理由などない。
「暁ちゃん。私たちもどうしたら響ちゃんの記憶が取り戻せるか、考えないと?」
「そうよね、隊長にばっかり頼ってたらダメよね。取り戻せるかもしれないんだし」
「お。6駆も少しは元気が出てきたみたいだな」
「よかった、これなら3人でも大丈夫そうだね」
響との今後について考えだす暁たちを見て、天龍と川内が安堵する。
「ありがとうなのです、皆さん。まだ、全快じゃないですけど。とりあえずは平気なのです」
「よし、それじゃ夕飯食べにいこーぜ」
「はーい、分かったわー」
発破をかける天龍に元気に答える雷。
「隊長も食べようぜ、それとも一人でここに残って何かするってのか? 下着漁りとか?」
「いいっ!? そんなことする訳ないじゃないか、天龍くん!」
「え? でも、隊長が欲しいっていうのなら……」
「だから違うって、暁くん!」
からかわれてワザとらしく焦る大神の様子に笑い出す6駆。
悪いな、と頭だけ下げる天龍に、いいさ、と視線で大神は答える。
とりあえずは大丈夫だ。
そう考えた天龍たちと共に大神は食堂へと向かうのだった。
だが、大神はもう一つ可能性があることを敢えて言わなかった。
(どうして響くんはうなされていた? 『何に』うなされていた?)
(そして、何より、響くんはどうして俺の名を知っていたんだ? いつ知ったんだ?)
(……もしかして、響くんは、記憶が――)
それは6駆にとって、いや、響にとっても、残酷な可能性だったからだ。
6駆にも、目覚めたばかりの響にも、おいそれと云ってしまえるものではなかった。
少なくとも確信を得られるまでは。
(響くんのことについて、みんなに聞く必要があるな)
大神は響について、警備府のみんなに聞いてみる必要があると実感していた。
今回は話が重くなりすぎてボツったり、軽くなりすぎてボツったりと結構難産でした。
あと次話の展開について、活動報告でちょっとお聞きしたいと思います。