その日、大神は任務の一環として二刀を携え日本刀剣保存協会に出向いていた。
理由は深海棲艦との激戦に続く激戦により徐々に刀身が痛み、刃こぼれなども起こすようになった神刀滅却・光刀無形の修復・補修が可能な刀匠がいるのか確認するためである。
『前の世界』では真宮寺鉄馬の『カヌチの儀』によって一度修復が為された霊剣荒鷹。
本来であれば、他の三振りの刃に付いても同様に刀身を修復する特殊な儀があったのだが、現在その技法を受け継ぐものは見つかっていない。
通常の刀剣同様に刀身を再研磨することにより、再度戦える状態に二刀を整える事は可能である。
だが、それは刀身を小さくする事と同義なのだ。
その行き着く先は二刀の逸失である。
過去から受け継がれてきた二刀を未来に受け継がせるためにも、それだけはあってはならない。
まして二剣が奪われた今となっては、二刀の存在価値は今まで以上に増している。
そう思い、大神自ら刀匠に付いて確認をしようと出向いたのだが、やはり真宮寺鉄馬の『カヌチの儀』以外には二剣二刀の修復技法を受け継いでいる刀匠は存在しないと言うことであった。
通常の日本刀の、現在の二刀の再研磨可能な回数を考えれば、一刻を争う事態ではない。
だが、アビスゲートを巡り更に激化するであろう今後の戦いを考えれば、楽観視は出来ない。
「どうしたものか……」
念のため、大神の帰国後から明石と夕張は『カヌチの儀』など二剣二刀の扱いに関する秘儀を上京した真宮寺鉄馬より学んでいる。
だが『カヌチの儀』自体はあくまで霊剣荒鷹のための儀、神刀滅却、光刀無形のための儀ではない。
最悪、神刀滅却と光刀無形をダメにする可能性もあるので、そのまま使う事は出来ないだろう。
協会では良い結果を得られる事は出来なかったと大淀たちに手短に伝え、大神は若干気落ちしたまま最寄の駅である新宿3丁目駅ではなく新宿駅まで歩いていこうとした。
このまま帰り、あまり気落ちした顔を艦娘たちには見せたくなかったからである。
「このままではいけないな。遅めの昼食でも取って、気分転換しようか」
とは言え、今では新宿駅周辺より賑わっているかもしれない新宿3丁目付近、その中を海軍服で二刀を持ち歩く大神は目立って仕方がない。
観艦式で明らかになった以上、逆立った前髪に二刀を持つという特徴のある大神は見つけやすい。
下手にチェーン店などで食べようにもゆっくりは出来ないだろう。
そんな事を立ち止まって考えていると――
「だーれだっ♪」
大神は楽しそうな声と共に後ろから目隠しをされる。
けれども、気配で大神には近寄ってくる二人には気が付いていた。
後は背中に当たるやわらかな感触で振り向かなくとも誰なのかはわかる。
「どうしたんだい、蒼龍くん? あと飛龍くんも」
「なーんだ、バレバレか」
大神が振り向くと、私服姿の蒼龍と飛龍がお買い物用のバッグを持っていた。
「だから言ったじゃない、蒼龍。普通に声かけた方が早いよって」
「うぅ~ん、でもこういうのって憧れるじゃない、一度やってみたかったんだ♪」
確か二人は今日は休みで出かけるといっていた筈だ、その目的地がここだったのか。
「そうか、二人は今日は休みだったよね?」
「ええ、そうなんですけど。さっきからナンパとかがしつこくって……一人や二人で出かけられると大体ナンパされちゃうんですよね~」
視線を少し先に延ばすと、好色そうな目で蒼龍たちを見る男の二人組みが居た。
狙いはおっぱいふんわりやわらか蒼龍といったところだろうか、だが二人と話す軍服姿の大神に流石に二の足を踏んでいるようだ。
それで蒼龍は手を叩いて思いついた。
「そうだっ! 隊長、私達に逆ナンされてくれませんか?」
「あ、それいい考え、蒼龍~」
「いや、ちょっと待ってくれ! 俺はまだ仕事の途中で――」
流石に仕事の途中で遊ぶ訳にもいかないと、断ろうとする大神。
「嘘吐いちゃダメですよ、隊長。今日の予定の、刀剣保存協会での確認は終わったんでしょう?」
「それに、あまりいい結果得られなかったみたい、隊長さんちょっと怖い顔してますよ。凛々しい隊長さんも好きだけど、たまには……そう、たまには……戦いを忘れてもいいよね?」
「あ、ああ……そうだね、蒼龍くん、飛龍くん」
飛龍に促されて、気分を入れ替える大神。
こんな美人二人が、自分を心配してるのに気落ちしたままでいてもしょうがない。
「あっ、隊長さん笑った♪ ねえ、こっちを、私を見てよ。うん! 好きだな~、その笑顔♪」
「あ~、飛龍ばっかりズルいー。そんな事してると、私睨んじゃいますよ~」
そんな風にじゃれあっていると、蒼龍たちを狙っていた男達は大神と蒼龍たちの甘甘なやり取りに脈なしを流石に感じた、と言うか砂糖を吐いている。
「ね、隊長! 気分転換もかねて今日は私達と街に繰り出しちゃいましょうよっ。欲しいものとか色々あるんですよ~」
「え……」
無論言うまでもないが、大神は先のカルティエで完全にオケラである。
赤字に突入しなかっただけマシ、と言う状況だ、冬のボーナスが心底待ち遠しい。
一瞬大神の顔面が蒼白になった、蒼龍も流石に自分の失言に気が付いたようだ。
「あぁー違う違うっ! 自分で買いますってっ! ほんと、ほんとにっ!」
「そうですよ。こんな綺麗なネックレスを贈ってもらって、これ以上買ってもらうなんて……あ、逆にお昼奢りますよ!」
蒼龍も飛龍も身に付けたネックレスに愛おしそうに触れる。
「あはは……流石に昼食を奢ってもらうほどではないさ。二人はどこで昼食を食べるつもりだったんだい?」
「この近くのフレンチのランチが美味しくて安いって聞いたのでそこで頂く予定なの。隊長も宜しければ如何ですか?」
「穴場らしいので、あんまり混んでなくてゆっくり出来るみたいなんです、行きましょうよ、隊長さん!」
「じゃあ、二人が良いと言うのなら一緒させてもらおうかな」
「「やったぁ!!」」
蒼龍と飛龍の二人は、大神の左右に並んで胸が当たるように腕を組む。
二人に挟まれた大神は正に両手に花。
砂糖を吐き続けていた蒼龍たちを狙っていた周囲の男達は、これ以上見ていられるかと全員諦めて去ったようだ。
「隊長はお肉とお魚、どちらのコースにします? 私はお魚にしようかなーと思うんだけど♪」
「えー、隊長さん、私と一緒のお肉のコースにしましょうよ~」
「うーん、こういう場合両方とも食べられるコースもあるよね。ちょっとお腹がすいているから両方でもいいかな?」
先程までの気疲れもあってか、大神は結構空腹だ。
こういう平日の女性をターゲットにしたコースなら、両方でも食べられると思い答える。
「あはっ、大神さんも結構食いしんぼなんですね。私も両方にしようかな~」
「蒼龍~、赤城さんじゃないんだから太っちゃうわよ」
「ふふーん、私の場合は行く場所が決まってるから大丈夫なの♪ 分かるよね、隊長?」
そう言って蒼龍は更に大きな胸を大神に押し付ける。
ふんわり柔らかおっぱいを。
「いいっ!?」
「あはあっ♪ 赤くなったぁ♪ かぁわいいっ♪」
「むむむ、私だって蒼龍ほど大きくないけど形には自信あるんです、どうです?」
負けじと飛龍も胸を大神に押し付ける。
「ちょっ、二人ともっ!?」
そんな感じの会話をフランス料理店に辿り着くまで行う大神たちであった。
リア充爆発しろw