艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第三話 しろがねの少女
第三話 1 目覚め


沈んでいく。

 

一人取り残され、

 

力尽き、

 

私は昏き海の底へ沈んでいく。

 

 

こうなる事は分かっていた。

 

 

出向命令を聞いたときから、

 

あの下劣な男に会った時から、

 

こうなる事は分かっていた。

 

 

もう指一本動かすことができない。

 

霞んだ目で水面が遠ざかっていくのを見る事しかできない。

 

冷たい水が私の身体を掴む様に取り巻き、私を水底へ引きずり込んでいく。

 

これが艦娘の轟沈……

 

 

でもよかった。

 

 

『……』

 

 

私でよかった。

 

 

『…………ニ?』

 

 

皆がこうならなくてよかった。

 

 

『ホントウニ?』

 

 

それだけで悔いることなく、私は――

 

 

『ウソヲツケ!』

 

 

 

 

 

砲弾が飛び交う戦場の中、水面を駆ける吹雪。

その後ろから、大神は朝潮たちに指示を行う。

 

「朝潮くん荒潮くん、正面の敵軽巡に砲撃を3連で!」

「分かりました!」

「分かったわ」

 

駆けながら放たれた朝潮の艦砲は一発が至近弾、残りが外れ海中へと没す。

が、砲弾により水面から激しく水飛沫が上がり、軽巡の視界を遮った。

 

「吹雪くん、今のうちに全速力で接近を! 一気に決めるぞ!!」

「はい、大神さん!」

 

ここぞとばかりに飛び出し、近接戦を挑む大神たち。

水飛沫が収まり、近づく大神たちの姿を視認した敵軽巡はその主砲を構えるが、

 

「隊長たちは狙わせませんよ!」

「まだまだねっ!」

 

敵駆逐艦を一掃した大潮たちが放った砲撃の一つが命中し大きく体勢を崩す。

体勢を取り戻したときには既に大神は刀の間合いに入っていた。

 

「遅い!」

 

大神は吹雪がすれ違う間に天龍の刀に霊力を込め一閃。

敵軽巡を横一文字に斬り捨てる。

 

「……」

 

上下に分断された敵軽巡は崩れ落ちるとゆっくりと海に沈んでいった。

辺りを見回すと、自艦隊しか存在しない。

 

「これで、警備府正面海域の掃討は終わりかな」

 

天龍の刀を振り払って、大神は深海棲艦の血糊を振り落とす。

周囲には深海棲艦の姿は見えない、掃討は完了したようだ。

 

「駆逐艦と軽巡しか居なかったからなー。でも気を抜くと、この間みたいな事になっちまうから油断は禁物だぜ隊長」

「ああ、そうだな。翔鶴くん、周囲に敵の姿はないということでいいのかな?」

「ええ、敵戦力は確認されてないですね、隊長」

 

戦闘に突入する前に飛ばした二式艦上偵察機からの連絡を確認し、答える翔鶴。

今朝から行っていた警備府近海の敵戦力掃討作戦は、終了したといって良いだろう。

 

「よし、これで作戦終了だ。みんな、いつものアレをやろう!」

「アレも良いけどさー、その前に一つやって欲しいんだけど、隊長」

 

天龍は両手を合わせると上目遣いで大神にお願いをする。

が、男勝りな天龍がやってもあまり似合わない、効力は半減だ。

大神も苦笑いである。

 

「天龍くん、君がやってもあまり似合わないと思うよ……」

「ひっでーな、じゃあ、だれだったら似合うって言うんだよ?」

 

デリカシーに欠ける発言に、天龍も流石に不満顔だ。

唇を尖らせる。

 

「そうだね、翔鶴くんとかかな。仕草も女性らしいし」

「えっ、私ですか?」

 

いきなり話を振られて、慌てだす翔鶴。

しかし、その割には若干嬉しそうだ、女性らしいと言われて悪い気はしないらしい。

 

「じゃあ、いきますね……一つやって欲しいことがあるんです、隊長」

 

軽く力を込めてガッツポーズをすると、翔鶴は大神に向き直ってお願いをする。

が、続く大神の発言はみんなの想像を超えていた。

 

「翔鶴くん、それよりきみの事が知りたいな」

「私? でも、自己紹介なら初めて会ったときに……」

「コラー! 翔鶴ねえに何やってんのよー!」

 

声よりも早く九九艦爆が二人の間を通り抜ける。

吹雪にしがみついている大神は動けないが、翔鶴はたたらを踏むと、水面にしりもちをついた。

 

「あいたたた……」

「大丈夫かい、翔鶴く――」

 

そこまで言って、大神は翔鶴から慌てて目をそらす。

翔鶴の短い袴形のスカートでは、下着が丸見えだったのだ。

 

「あっ!?」

 

翔鶴も大神が視線を逸らした理由をすぐに察し、真っ赤になって慌てて下着を隠す。

 

「……」

「……」

 

二人の間になんともいえない雰囲気が漂う。

 

「あのー大神さん、いつまでこうしてるのでしょうか?」

「そうだぞー、早く翔鶴ねえから離れなさいよ」

「離れろって言われても……」

 

こちらに向かって水面を駆けてくる瑞鶴、空母は訓練中だった筈だが抜け出してきたのだろうか。

吹雪も拗ねた様な口調だ。

しかし、水上で大神が自らの意志で動こうとしたら、すぐに水の中にドボンだ。

冷や汗を流すことしかできることはない。

 

「もう、しょうがねーなー。大神隊長、前言撤回だ、勝利のポーズ決めたら帰ろうぜ」

「そうだね! そうしよう天龍くん!」

 

天龍の助け舟に飛び乗る大神。

冷や汗混じりに勝利のポーズを決めると、警備府に戻っていくのだった。

 

 

 

 

 

警備府に戻り、一人司令官の下に赴いて本日の結果を報告する大神。

その足で酒保に向かおうとすると、暁がはしゃいだ様子でスキップしていた。

実に嬉しそうだが、どこか子供っぽい。

 

「どうしたんだい、暁くん。何か良いことでもあったのかい?」

「あ、隊長。良い事があったの! 響がね、さっき寝返りをうったの!」

 

暁はエヘンとない胸を張る。

ない胸が更に強調される。

 

「目を覚ましたわけじゃなくて?」

「何言ってるのよ、今までほとんど動いてなかったのが寝返りよ、もうすぐ目を覚ますに決まってるじゃない!」

 

一理あると大神はうなずく。

 

「そうか。暁くん、響くんの事見に行ってもいいかい?」

「勿論よ、良いに決まってるじゃない! 私は電とか呼んでくるから!」

 

そう言い残すと、暁は再びスキップをしながら駆けていった。

よっぽど嬉しいのだろう、所作の一つ一つから嬉しさがにじみ出ていた。

走るなと言うのが無粋に思えるほど。

 

 

それから数分、大神は艦娘用の保健室にいた。

当初は酒保で何か買って行くつもりだったのだが、保健室に持ち込むわけにもいかない。

明石の恨めしげな視線を浴びつつ、大神は酒保を通り過ぎ保険室の中に入った。

 

ベッドには二人。

 

一人は名も知らぬ少女、おそらくは艦娘。こちらは身じろぎ一つしない。

 

もう一人が響らしき銀髪の少女。こちらは暁の言うとおり、時々身じろいでいる。

今まで動かなかったのがこれなら、確かに目覚めが近いと思っても仕方がないだろう。

 

「ん……」

 

身じろいだ響が布団を跳ね除け、その際に寝衣が肌蹴る。

幼い容姿とは言え、少女のあられもない姿に大神は視線をそむけるが、放って置いたら風邪を引いてしまうかもしれない。

 

「仕方ないな」

 

大神は寝衣と布団を直す為に響の下へと近づく。

響を見ると、うっすらと寝汗をかいている。

また、時々何かにうなされるかのように軽く首を振っている。

 

自分が幼い頃風邪でうなされていた時の事を思い出し、大神は寝具を直すとせめてと響の手を握った。

 

「……」

 

響の顔が安らいでいく。

そして、その唇が言葉をつむぎだした。

 

「…………お…………み、……ん……」

「えっ、何かいったのかい?」

 

響が何を話したのか聞き取るため、大神は響に身体を近づける。

しばしの間、響は話すことなく寝入っている。

気のせいだったかと大神が身を起こそうとしたとき、響が微かに目を開いた。

 

「おおがみ、さん……」

「えっ、響……くん?」

 

銀髪の少女――響はそのまま大神を引っ張ると、大神の首に腕を回し抱きつくのだった。

 

「響ー、また来たわ……よ?」

「響ちゃん、来たので……す?」

「響、もうすぐ目を覚ましそうだっ……て?」

 

それは傍から見ると、眠っている響に大神が覆いかぶさって不埒なことをしているようにも見えた。

ちょうどやって来た第6駆逐隊から見た図がそれであった。




大神さん受難。

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