今回のクーデターの首魁二人、木喰と火車はアビスゲートを制御できず自滅する形で死んだ。
不完全に開かれていたアビスゲートも阿賀野との合体技で閉ざされ、これ以上被害が拡大する事はないだろう。
大神はその旨を研究所制圧部隊の隊長、永井、米田たちに手短に伝えた。
何故なら、大神には早急にやらなければならない事が一つあるからだ。
「ほっぽ!」
「ぱ……ぱ……」
目は完全に見えなくても、気配で大神だと分かるらしい、大神を呼ぶ北方棲姫。
数々の非道な実験で恨みを重ね深海棲艦と転化していた北方棲姫だが、身に纏っていた怨念をアビスゲートに全て吸い取られた結果、今は北方棲姫、否、ほっぽは艦娘でも深海棲艦でもない。
もはや、プラスの霊力もマイナスの霊力も持たないただの人間と言ってもいい。
しかし、それ故に今のほっぽの現状は瀕死に近い。
当然だ、手足を切り刻まれた上押し潰され、目を抉り出され、腹を突き破られた人間が生きていられるわけがない。
ほっぽの命の火は今にも消えてしまいそうだ。
「すまなかった、ほっぽ。今回復する! 狼虎滅却 金甌無欠!!」
霊力による回復の光でほっぽの手足の傷が、目が、お腹が回復していく。
ぱちりと開かれた目に映る大神の姿は、光に目が慣れないほっぽには良く見えない。
でも、霊力を感じ、声を聞いて、ほっぽは大神が傍にいる事を確信する。
「ぱぱ……」
切り刻まれた手足の感覚もおぼろげで、上手く立つ事もできない。
「あぅ……」
身体を動かそうとして、ほっぽは実験台から転げ落ちようとする。
大神はそんなほっぽを抱き抱えた。
「あったかい……」
深海棲艦に生まれ、艦娘に転化しても、人に抱きしめられた事などなかった、人の暖かさを感じる事などなかった。
こんなに心が安らぐものがあるとはじめて知った。
それ故に、今までが如何に辛く苦しかったものであった事を、寂しかった事を知った。
「つらかった……」
「すまなかった! 辛い目に、苦しい目にあわせて!!」
ほっぽの目から気付かないうちに涙が零れ落ちていた。
「さみしかった……ぱぱ」
「すまない、ほっぽを一人にさせてすまなかった!!」
ほっぽの目から次々と涙が零れ落ちる。
「いたかった……くるしかったよ! ぱぱー!!」
「もう、ほっぽを二度と痛い目にはあわせない、苦しい目には絶対あわせない!!」
「ぱぱー……ぱぱー!!」
年相応の子供のように大神に抱き付いて泣きじゃくるほっぽ。
そんなほっぽを、大神はほっぽが泣き疲れて眠るまで抱き抱えるのであった。
「ふーん、ホントの親子みたいね、あの二人」
陸奥がその様子を優しい視線で見守っていた。
「大神さんが保護した頃はそんなでもなかったんですよ。ただ浄化した大神さんの霊力に懐いているだけでした。でも、いまは違いますね」
いつの間にか研究所を制圧した陸軍と共に明石たちがその光景を見守っていた。
そして、ほっぽが眠ってから研究所の制圧結果を陸軍と共に米田たちに行う大神たち。
先ずは大神がクーデター首魁の目的、そして最後について報告する。
「クーデター首魁であった火車と木喰の目的はアビスゲートを人工的に開き、その力を以って人間、艦娘、深海棲艦全てを凌駕し支配することでした。しかし、アビスゲートの制御に失敗し自滅、両者とも死亡しました」
『そんな事を考えていたのか、愚かな……500年前に降魔実験が失敗して降魔が生み出されたように、怨念の力を人の欲望で制御などできる筈がないものを……アビスゲートはどうした?』
「自分と阿賀野くんの合体技で浄化、消滅する事に成功しました。汚染の心配はありません」
『分かった、機艦娘の救出はどうなった?』
続いて明石が報告する。
「機艦娘とされていた艦娘は時津風、初風、酒匂の他、照月、萩風、伊8、伊19、伊401の計8名でした。ですが、全員とも私と大神さんの合体技で、艦娘の状態へと完治しています。念のために有明鎮守府での検査を行う予定ですが、問題はないものと思われます」
『そうか、それは良かった。深海棲機と研究員の方についてはどうなっている?』
陸軍の隊長が明石に続いて報告する。
「はっ、深海棲機については大神大佐と明石さんの合体技により全滅いたしました。研究所突入後、残るものは研究員だけであったので捕縛は問題なく出来たのですが、一つ問題となることを聞き出しました」
『問題と成る事? それは何かね?』
「大神大佐の用いている二刀、神刀滅却、光刀無形と同等の退魔の刃である霊剣荒鷹、神剣白羽鳥が秘密裏にダミーとすり替えられ、深海棲艦側に送られていたと言うことです」
「「「なにぃっ!?」」」
それを聞いた全員が絶句する。
『――それは本当なのか!? 嘘じゃねーよな?』
思わず言葉が荒ぶる米田。
その様子に驚愕する陸軍隊長だったが、佇まいを改めて答える。
「はい、大神大佐以外は霊力が衰えているため、すり替えに気付かれなかったと話しておりました。ただ、実行したと思わしき犯人たちは――」
『火車の連続爆発事件で死亡済みか……不味いぞ、山口』
『ああ、これでは二剣二刀の儀を行う事は出来ない。我々の最大の切り札が奪われたような物だ』
『大神が擬式・二剣二刀の儀を編み出したから今は致命的ではないが、いずれ必須になる筈だ。一刻も早く取り戻さねば』
考え込む米田と山口だったが、深海棲艦の手に渡ったとあっては妙策もすぐには思いつかない。
『……分かった、その件については憲兵隊と月組に改めて調べさせよう。他には何かあるか?』
「押収した多数の研究資料がありますが、こちらは如何致しましょうか?」
『一刻も早く焼却処分したいところだが、流石にそう言うわけにも行かないな。一旦、陸軍技術部の山崎へ送ってくれ。その上で山崎と神谷に陸海軍で用いられる資料の分別をしてもらう』
「了解しました。報告は以上となります」
そして、研究所から各々は独自の部隊、鎮守府へと帰還準備を始める。
大神も手馴れた仕草で光武・海Fを起動させて一足早く有明鎮守府に帰還しようとしていた。
しかし、そんな大神の近くに曙が近寄ってきた。
「ねえ、クソ隊長。わ、私も一緒に連れて行ってくれない? 火車の触手で体がベトベトして気持ち悪くて、だから早くお風呂に……入りたいの」
「ああ、そうだったね。雲龍くんは大丈夫かい?」
「私の服は簡単に触手に入り込まれるほど隙間はないから、曙ちゃんを優先していいですよ」
確かに、実際にセーラー服の隙間から触手に潜り込まれて、胸を絞り、撫でまわされ、ショーツを引き摺り下ろされ、お尻を舐られたのは曙だけだ。
気持ち悪くて仕方がないだろう。
「じゃあ、曙くん。俺にしっかり抱き付いていてくれ。飛ぶぞ!」
そして、二人は空に飛び立つ。
空を飛ぶのであれば、有明まではそう時間はかからない。
だからなのか、飛んですぐに曙は大神に話しかけた。
「あの、あのさ、もう一つお願いがあるんだけど……」
「ん? なんだい? 俺にできる事ならいいけど」
「本当? 嘘じゃないよね?」
思いつめた真摯な瞳で大神を見つめる曙。
そこまで真剣な頼みなら、大神には断る事なんて出来ない。
「ああ、俺にできる事なら」
その言葉を聞いて、曙は半分泣きそうになりながら言葉を続ける。
「さっきの戦いで火車の触手に全身をまさぐられて、胸やお尻を嬲られて、気持ち悪いの。死ぬほど気持ち悪くて、このままじゃ眠れそうにないよ、だから……」
「だから?」
「クソた……大神さん、一緒にお風呂に入って、私を洗って欲しいの」
「……え?」
「大神さんに綺麗な体にして欲しいの」
すんなり終わると思いました?
でも、これから曙とのお風呂ターン。