艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第二話 終 桜の下で

見上げた空は雲ひとつなく、まだ高く日が上っている。

風はそよそよと吹き、桜の花びらが流れる様は美しい。

再度の襲撃を撃破した艦娘たちは、大神の宣言通り花見を行っていた。

 

「明石、こんなに酒保から持ち出してきて今日は大盤振る舞いだね!」

「何言ってるんですか、後で代金はいただきますからね」

「えー!?」

 

しばらくぶりに全艦揃っての催し。

龍田も少しの間だけと言うことで、司令官の下を離れ顔を出している。

 

「……戦い終わってお花見か。夜桜ではないけれど、上野公園を思い出すな」

 

大神は喧騒から少し離れ、漫然と桜を眺めていた。

 

「……」

 

僅か数日の間に多くの事が起きすぎて、事態に振り回されて振り返る暇もなかったが、一段落してこうして桜を見ていると感傷に浸ってしまう、

気にかかる事は山のようにあった。

 

「大神さーん」

 

考えにふけっていた大神は自らを呼ぶ声に振り替える。

 

「吹雪くんか、どうしたんだい?」

「大神さんこそどうしたんですか、一人で黄昏てー」

「黄昏って……」

 

苦笑する大神、ふと吹雪の持つ紙コップに目をやる。

そこにはシュワシュワと泡を立てる琥珀色の液体があった、どこからどう見ても、子供が飲んではいけない類の飲み物だ。

と言うか片手にビール瓶を持っている。

よく見てみると吹雪の頬はほのかに赤くなっている、酔っているようだ。

 

「ええっ? 吹雪くん、何を飲んでいるんだい?」

「何って、勿論ビールですよー」

 

あっさり答える吹雪、美味しそうにビールを飲み干すと手酌でビールを継ぎ足していた。

セーラー服に身を包んだ少女がおっさんくさくビールを飲む様は、なんともいえない。

 

「君たちはジュースを飲んだ方がいいんじゃないかな?」

「えぇーっ、そんな事ありませんよぉー。私たち艦娘なんですからぁー、一人前のレデイーなんです! ね、暁ちゃん?」

「ええ、そうね……」

 

話を振られた暁は口を濁している、あまり関わりたくないようだ。

 

「吹雪くん、すでに語尾が怪しいよ……」

「大神さんノリが悪い――って、あー! 大神さん大人なのに麦茶飲んでるぅー!」

 

大神のコップを覗き込むと、吹雪は大神の事を指差して大声で叫ぶ。

人の事を指差しちゃいけません。

 

「えー、大神さん。お酒飲めないんですか?」

「いいじゃねーかよ、明石」

「ふふーん、これはいい事聞いちゃった。大神さん、昨日の謝罪の代わりに私たちの酌受けてよね?」

「ダメですよ、姉さん。大神隊長、お酒がダメなのかもしれないでしょう」

「これは隊長さんのこと酔い潰して、数日分の記憶を吹き飛ばすチャンス!? 証拠写真とかないしー、闇に葬っちゃえば……」

 

つられて艦娘たちが何人か大神の下にやってくる。

約一人、不穏当な発言をしている、どこかの仕事人か。

 

「いやいやいや! 飲めなくはないけど、まだ昼間じゃないか」

「いいじゃないですかー、深海棲艦も倒して、こーんなにいい天気なんですから!」

「そーだよ、隊長さん! こんな花見日和、飲んじゃわないと!」

 

吹雪たちがビールや日本酒の瓶を片手に迫ってくる。

止めてくれないか、と大神は他の艦娘に目をやった。

 

吹雪以外の駆逐隊は集まって、歓談している。

小学生にも見える集団の中にビール瓶が垣間見える辺り、いつもの事なのだろう。

いや、駆逐艦で集まって、飲まされるのを避けているのかもしれない。

 

続いて今日合流した空母勢に目をやる。

こちらに気がついた瑞鶴はこちらの惨状を見て、ザマーミロとばかりに笑っていた。

先ほど勘違いさせられた事を根に持っていたらしい。

 

助けはない、大神は覚悟を決める。

 

 

なお酔いが醒めた吹雪は、大神の前でおっさんくさくビールを飲んだことを後悔するのだった。

みんなもお酒には気をつけようね。

 

 

 

 

 

「龍田、もう少しゆっくりしてもよかったんじゃぞ」

「もう司令官、怪我した司令官を一人放っておける訳ないじゃないですか~」

 

ベッドの上で書類仕事をしていた司令官はここ数日の報告を改めて確認していた。

部屋に入ってきた龍田に眼を向ける事もなく、大神の報告書を隅から隅まで目を通す。

 

「そうかの。なら悪いが、一つ文書を書きたいので聞き取りをしてくれないかの?」、

「勿論です~、秘書艦ですから」

 

龍田は机に座ると、中から書類用の用紙を一枚取り出す。

そして、筆入れから一本の万年筆も。

 

「あと封筒もじゃな、そちらを先に頼もうかの」

「わかりました~」

 

封筒をあわせて取り出すと龍田は万年筆を片手に、司令官の発言に耳を傾ける準備をする。

やがて、司令官が話し出した。

 

「――宛 花小路頼恒様――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次回予告

 

襲撃の傷も癒え、海域攻略に乗り出す警備府。

そんな中、深海棲艦から救出された艦娘が目を覚ます。

姉妹の目覚めに喜びをあらわにする暁たち第6駆逐隊。

しかし、その艦娘は――

 

次回、艦これ大戦第三話

 

「しろがねの少女」

 

暁の水平線に勝利を刻め!

 

 

「堕ちた不死鳥は、また、飛べるのかな?」




サクラ大戦の花見シーン再確認したら、想像以上に短くて驚愕した。

あと、2話終了時の艦娘好感度を活動報告に追記しました。
明石が高すぎるかなぁ。

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