大神と明石の合体技によって、木喰の手による深海棲機も機艦娘も全て打ち倒した。
もはや研究所には木喰、火車を除いて戦力と呼べるものは存在しないだろう。
陸軍が研究所に突入しようと準備を始める。
「大神大佐、あとは陸軍にお任せを!」
だが、大神は陸軍の申し出に対し首を横に振った。
「いえ、それは危険です。まだ二人には切り札と呼べるものが存在する筈です。深海棲機、機艦娘をも用いてまで稼ごうとした時間で、何をするつもりなのか分からない以上、先陣はわれわれ華撃団にお任せください!」
「なるほど、確かに……」
「我々華撃団は火車と木喰のいる研究室中枢まで一気に駆け抜けます! 陸軍の方々は研究所の制圧と仕掛けられているであろう爆弾と放火装置の処理をお願いします!!」
「分かりました! そちらについては陸軍が責任を以って受け持ちます!!」
そして、大神たちは姉妹艦、同僚の再生に喜ぶ艦娘の方へと向き直る。
もちろん、人から裸体が見られないように、3人は陸軍から借りた毛布を身に纏っていた。
「みんな、俺たちはこれから研究所に先陣を切って突入するが、酒匂くん、初風くん、時津風くんは勿論戦闘に参加させられない。能代くん、天津風くんを念のために付けるから待機スペースで待っていてくれ」
「ぴゃん、了解です♪」
「こら酒匂、あんまり派手に動くと身体が見えるよ」
「え? ぴゃあああぁぁぁっ!」
毛布一枚で動いたら当然そうなる。
見なかった振りをして大神は続ける。
「また、明石くん、龍驤くん、那智くん、由良くん、矢矧くんは、研究所内にまだ居る筈の艦娘の救出を頼む。陸軍の研究所制圧と行動を共にしてくれ!」
「分かりました、大神さん」
そう言って明石は大神に近寄って大神の頬にキスをする。
「え? あ、明石くんっ!?」
「えへへ、勝利の女神のおまじないですっ。ご武運を!」
そう言って頬を赤らめながら、明石は大神の傍から身を離す。
「明石~、ホンマ油断も隙もあったもんやないな!」
「大神さんには、アタック&アタック&アタックあるのみですよ♪」
「由良も積極的になったほうがいいのかしら……」
救出部隊がお喋りしながら大神たちから陸軍のほうへと向かう。
一方突入メンバーはと言うと、
「明石さんに出遅れました、少しイヤ」
雲龍がふてくされていた。
「雲龍くん、これから突入するから機嫌を直してくれないかな?」
「キスしてくれれば直します。大神さん、私にもしっかりお願いね」
これはキスしないことには収拾がつかなさそうだ。
あきらめた大神が雲龍の頬に唇を近づけようとする。
だが、途端に雲龍は振り向き大神の唇を奪った。
「!?」
「ん……んぅ…………」
数秒間経って大神の唇を奪った雲龍がようやく大神から離れる、いつもは無表情な雲龍だが流石にこのときばかりは顔を真っ赤にしている。
「この雲龍のファーストキスを捧げられるなんて……。うれしいわ、いい気持ち……」
そして、それに黙っているような艦娘たちではない。
「あらあら、雲龍だけだなんてズルくない? 私たちもしたいな~」
「陸奥くんっ!?」
「明石さんと、雲龍だけズルイだなんてそんなこと思っていないんだからね! このクソ提督!」
「曙くんまで!?」
結局大神は味わいつくされた。
突入メンバーはみんなキラキラしているようだが多分気のせいだ。
突入メンバー:大神 陸奥 伊勢 雲龍 妙高 阿賀野 曙
救出メンバー:明石 龍驤 那智 由良 矢矧
「よし、陸奥くん、伊勢くん。主砲でシャッターを破壊し突入するぞ!」
口紅が付いた唇では流石に格好がつかないので、唇を拭って、気も新たに砲撃指示を出す大神。
「了解!」
「砲戦! 行くわよっ」
無論、シルスウス鋼製とはいえ、ただのシャッターが戦艦の砲撃で破られない事などありえない。
シャッターは一撃で破壊され内部への突入口が出来る。
「隊長、内部構造は月組から入手してるわ。どこを目指すの? 中央制御室?」
「木喰たちは時間稼ぎをしようとしていた、つまり何らかの実験が終わってないと言うことだ! 中央制御室にはもう居ない筈。最大の実験室である第一実験室を目指すぞ!」
「了解っ!」
そして、研究所内部を駆け抜ける大神たち。
その途中で幾人かの研究者を発見するが、その全員が、
「わ、私は無理やり研究させられていたんだ! それに私の研究は人類のため! 私は悪くない、だから命だけは!!」
と命乞いにもならない自己正当化をしてしようとしてきた。
相手にする事すら煩わしいと思う艦娘。
「ならば、何故内部告発しようとしなかった! 山口閣下であれば、その告発を聞いた筈だ! ここで命を絶つような事はしないが、おとなしく法の下で裁きを受けろ!!」
大神はそう言うと、研究者の首筋に軽く一撃を当てて気絶させる。
後は陸軍が捕縛するだろうと思い、陸軍に連絡の上、大神は研究者を放置して駆け続ける。
また、何人かの元機艦娘も確認したが、先の明石との合体技で全員が艦娘としての身体を取り戻していた。
ならば、ここは明石に任せ自分達は先を急ぐべき。
先程と同様に明石に確認ポイントを伝え、その先へと駆け抜ける。
そうして、第一実験室の前へと辿り着く大神たち。
内部に入るため、扉を破壊しようと斬鉄の構えを取る大神だったが、不思議な事に第一実験室の扉は大神たちを迎え入れるかのように自動的に開かれた。
そこには木喰と火車の二人、そして檻に入れられた北方棲姫がいた。
北方棲姫は技術部から連れ帰ったときの艦娘に近しい存在から、再び深海棲艦へと戻っていた。
そして、機械化こそされていないものの、前回以上に残虐な、正気を疑う所業をされていた。
その目は両方とも抉り出され、脳を貫通するように鉄芯が耳から挿入されている。
爪は引き剥がされ、手足は寸刻みで刻まれ、その上プレスで押しつぶされていた。
深海棲艦といえど、もはや生きている事自体が不思議な状況である。
「コロシテヤル……コロシテヤル……」とだけ、北方棲姫は繰り返していた。
「木喰! 火車!! お前を逮捕する!! 大人しく、その子を開放しろ!!」
「ひゃーはっはっはっ! 遅かったようじゃな、大神一郎。もうじきアビスゲートが開くぞ!!」
アビスゲート、地中海で激闘を行った、深淵拠点の力の源。
そんなものがここ帝都に開いたら被害は計り知れない。
「何だって!?」
「おぬし達の地中海決戦のレポートから解析したのじゃよ!! 姫級以上の深海棲艦に自己崩壊するほどのマイナスの想念、怨念を蓄積させる事で擬似的にアビスゲートを開けると!!」
「姫級……だから、その子を!?」
「そうじゃ。こやつ、お主を狙撃した相手に気が付いて単独で撃破しにいきよった様じゃが、ワシらがつけてきた事には気がつかなかったようじゃな。拉致するのは簡単じゃったぞ!!」
そんな事をしようとしていたとは。
狙撃で意識を失ったとはいえ、彼女から目を離してしまった事に後悔する大神。
「さあ、あとは研究所の深海棲艦の持つ怨念を流し込む事でアビスゲートは開く!!」
そう言って、木喰はとあるスイッチをONにする。
「ギャアアアっ!!!!」
自らの身に収まらないほどの怨念を流し込まれて、北方棲姫が絶叫する。
そして、北方棲姫の腹は大きく膨れ上がって行く。
「させるか、破邪滅却!」
「おっと、そうは行きませんよ!!」
北方棲姫を助けようと霊力技を繰り出そうとする大神だったが、火車に足場を崩されて集中が途切れてしまう。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!!!! パパーッ!!」
「ほっぽ!!」
そして最後には北方棲姫の腹を突き破って、漆黒のアビスゲートが現れた。
世界が反転していく。
破滅が帝都に降臨しようとしていた。
反応が怖い>ほっぽ
それはそうと雲龍、お前もか!?
頼むからみんな、プロット通りに動いてお願い(^^;