歪な姿へと改造された酒匂を阿賀野の砲撃から庇った大神。
その姿に阿賀野の瞳から涙がこぼれる。
「隊長さん……」
「大丈夫、俺達が来たからにはもう大丈夫だ。だから罪なんて背負わないでくれ、阿賀野くん」
「……隊長さん、酒匂を、みんなをお願い!!」
「ああ、もちろんだ」
そして、大神は酒匂の元へと歩みだす。
「どうして、どうして、さかわなんかを……」
「君達だって艦娘だ! 待っていてくれ! 華撃団隊長の名にかけて君達は必ず助ける!!」
「でも、こんな姿にされた酒匂たちに、夢も希望も……ないっ!」
「そんなことはない!!」
明日の希望を失って悲嘆にくれる酒匂を、初風を、時津風を、その半分機械に変えられた身体を、大神は抱きしめる。
「この世界には愛がある! 夢や希望だってある! それは君達だって変わらない! 待っていてくれ、君達の体は俺達が必ず元に戻す! そして、この世界にある美しいものに触れてくれ!!」
「「「隊長……隊長…………」」」
大神の心に触れ、泣き崩れる機艦娘たち。
そして、怒りに燃える双眸を矢波博士――いや、木喰へと叩きつける大神。
『ほう。ようやく現れおったか、大神一郎!』
「なんて言う非道な真似を……木喰!!」
だが、木喰は全く応えた様子を見せない、それどころか新たな標的の出現に喜びを露にする。
『機艦娘No.3よ、大神一郎を撃て!』
「ああっ! やめてええっ!」
新たな命令を機艦娘に出そうとスイッチを押そうとする木喰。
しかし、機艦娘の出現を聞いて研究所へと急いだ大神が、対抗策を携えずに現れるだろうか。
勿論そのような事はない。
「大神さん、コントロールユニットの解析は終わりました! 今から送るデータの箇所を寸分違わず切り裂いて下さい! それで彼女達に送られる命令や苦痛は止められる筈です!!」
大神が機艦娘に対抗するには必ず必要になると、間宮で3時のおやつを楽しんでいた明石に頼み込んで連れて来たのだ。
勿論代わりに後日のデートを要求されたのだが。
『なにぃっ! そんな事できる筈が!?』
「工作艦を甘く見ないで下さい! 大本と成る深海棲機の構想図は研究成果として上層部に提出済みでしたね。なら、そこから機艦娘の根本構造を推測、今までの命令などのやり取りから解析する事だって私なら不可能ではありません!!」
『ええいっ! そんな事をされてたまるか。機艦娘No.1、No.2も大神一郎を狙え――』
だが、明石の声を聞いて、既に霊力技の体勢に入っていた大神には遅きに過ぎていた。
「遅いっ! 狼虎滅却! 疾風怒濤!!」
今度の斬撃はただ斬るだけではいけない。
微細な部品のみを切り裂かねばならない、故に大神はいつもより精神を集中し、機艦娘の側頭部にあるコントロールユニットの一部品のみを切り裂いた。
銃弾を狙って撃ち抜けるほどの集中力があって始めて出来る技である。
そして、機艦娘たちは木喰の呪縛から解き放たれた。
「あ……動く、身体が動く……」
「本当、自分の意思で動かせる!」
「たいちょー、たいちょー……ありがとう!」
ぽろぽろと涙を流し、苦痛から、意に沿わぬ命令から解き放たれた事を喜ぶ機艦娘たち。
その姿を見て一度納刀する大神。
「みんな、流石に今すぐは、元の姿に戻す事はできない。けど、有明鎮守府に戻れば明石くん、夕張くんの力を借りて機械化された箇所も順次元の姿に戻せる。すまないが、しばらくの間待っていてくれないかな?」
「本当に……本当に戻れるの?」
「ああ、勿論だ」
力強く頷く大神に、阿賀野たち機艦娘と親しかった姉妹艦などが泣き崩れる。
「良かった……酒匂、良かったよぉ……」
艦娘を襲った悲劇をただ見ている事しか出来なかった陸軍としても、想いは等しかった。
機械化された事に関わらず、艦娘に注ぐ大神の愛の深さ。
人の道を外れた悪を憎む正義の心。
そして、機艦娘に被害を与えることなく、機艦娘のコントロールユニットを破壊した太刀裁き。
「これが、大神一郎……黒髪の貴公子…………」
英雄が英雄である事の証を目の当たりにして俄かに感動すら覚えていた。
けれども、機艦娘の物語はこれでは終わらない。
ハッピーエンドにさせないぞとばかりにほくそ笑む輩が居た。
『ぐぬぬ、有明の工作艦がここまでとは、計算違いじゃ!!』
『どうやら、あなた自慢の機械化部隊は機艦娘はここまでのようですね、では私の出番のようですねぇ。華撃団の皆さん、喜んでいられるのは今のうちだけですよ』
「火車か!? 何をしたというんだ!?」
『簡単な事です、機艦娘の機密保持のために自爆装置をONにしただけですよ』
「「「え……」」」
喜びに満たされた艦娘たちが再び絶望へ突き落とされる。
『爆発するまで後60秒、さあ、彼女たち機艦娘を有明鎮守府で治療している暇なんてありませんよ!! どうするんですか、見捨てるんですか!?』
「いいや、俺は誰一人として見捨てはしない! 全員を助けてこそ、全員で帰還してはじめて勝利したと言えるんだ!! 酒匂くんも、初風君も、時津風くんも、誰も見捨てなどしない!!」
「「「大神さん……」」」
しかし、大神は揺るがない。
誰一人して見捨てないと、助けるのだと啖呵を斬ってのける。
『よく吠えますねぇ、ですが分かっているのですよ。あなたの破邪の技は確かに深海によるものには激的な効果を発揮する。ですが、ただの機械化に対しては破壊しかもたらさない!!』
『そうじゃ、お前や明石の治癒の技でも機械化された箇所はなおせはせんぞ。さあ、どうする大神一郎、明石!』
「確かに、それは……大神さん、どうすれば…………」
明石が困惑した視線を大神に投げかける。
「簡単な話だよ、明石くん。酒匂くんたちの機械化された箇所を浄化消滅させ、同時に霊的治癒によって酒匂くん達を回復すればいい!」
『ひゃーはっはっはっ、気が狂ったか、大神一郎!! お主らの技は一度に1アクションが限界、2アクションを同時になど――まさか!?』
「そのまさかだ、行くぞ明石くん!!」
「はい、大神さん!!」
明石と大神の視線が交わり、二人の手と手が恋人つなぎされる。
そしてAL/MI作戦最終戦で放たれた敵を撃ち滅ぼすものとは異なる、癒しのための合体技が発動するのであった。
暗闇の中、大神の掲げた二刀が雷の嵐を巻き起こす。
「雷! それは、悪しきものを撃ち滅ぼす正義の鉄槌!!」
そして、大神が呼んだ雷の嵐は炎の嵐をも巻き起こす。
その炎を明石が身にまとう。
「炎! それは、悪しきものを焼き払う破壊の力!」
二刀を納めた大神が明石の手を取り抱きしめる。
寄り添った二人の手に炎が集まっていく。
「「けれど、浄炎は、同時に再生を司る命の炎!!」」
二人は炎の弓を引き絞る様に構える。
やがて二人の手の先に落雷が落ち、炎と入り混じって、浄炎の矢と化す。
「「不死鳥よ、炎の中から蘇れ!!」」
浄炎の矢はまるで不死鳥のように羽ばたき、高らかに声を上げる。
そのパワーに押されるように大地が砕けていく!
「破邪滅却!」「比翼連理!」
そして二人は、炎雷の矢を、否、不死鳥を射ち出す!
「紅蓮再炎! 永劫回帰!!」
叫び声と共に二人から不死鳥が羽ばたき、機艦娘たちへと向かい飛び立つ。
「きゃっ!?」
驚く間もなく、不死鳥は機艦娘を一瞬にして浄炎の中に包み込む。
だが、全く熱くはない、それどころか暖かささえ感じる。
浄炎によって機艦娘の機械化された箇所があっという間に溶け落ちていく。
そして、間髪入れず浄炎が艦娘としての肢体を傷一つ残さず再生していく。
浄炎が収まる頃には機艦娘たちは、完全な艦娘の身体を取り戻していた。
「ぴゃあああぁぁぁっ!?」
「いやあああぁぁぁっ!?」
「は、はずかし、はずかしー!?」
ただし、全裸で。
「大神さん、見ちゃダメです!」
「ぐわーっ?」
状況を把握した明石が、即座に大神へと目潰しを食らわせる。
全く容赦がない。
しかし、不死鳥は3人の機艦娘を元に戻しただけでは終わらなかった。
『矢波博士、大変です!! 予備の機艦娘が全て艦娘へと回復させられていきます!!』
『なんじゃと、そんなのワシの計算にはないぞ!!』
研究所内へと入り込み、すべての機艦娘を浄化、回復させる。
不死鳥が空へと飛び立ったときには、悪魔の産物であった機艦娘は一人も居なくなっていた。
もはや、研究所を守るものはない。
今こそ二人に引導を渡すとき。
合体技はラブラブ全開でもよかったのですが、
爆発まで60秒と言う緊迫した状況なのにラブラブするのもなー、と思ったので短縮。
没バージョン:
「くっ、どうすれば、彼女達を……」
「大神さん、一人で背負わないで下さい」
苦悩する大神を明石は背中からそっと抱きしめた。
「大神さんには、私が、私たち艦娘が居ます。あなたには及ばないかもしれないけど、あなたの重荷を少しでも支える事が出来ます、だから!」
「……ああ、その通りだ、明石くん!! 俺に力を貸してくれ、俺と君ならいける!!」
「はい、大神さん!!」
没理由:完璧に明石が大神のパートナーになって、ヒロインレースの勝負が付いてしまうのでw