艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第十四話 7 星が輝く時――落ちる涙、悲痛な叫び

『艦娘爆弾を敵陣に突撃させ、敵陣で爆発させれば良いのですよ』

 

「関中将……お主、正気か?」

 

『ええ、本気ですよ。艦娘爆弾となった艦娘は後は爆発するしか能がない、なら、せめてそれを我々のコントロール下で行わせるべきです』

 

非情ではある、だが、確かに間違っては居ない。

艦娘爆弾は、言わばババ抜きのババ。

持ち続ける事に意味はない、押し付けてこそ意味がある。

 

「じゃが……じゃが……」

 

永井司令官の良心が、艦娘をただの爆弾として扱うことに苦悩を齎す。

 

『おやおや、良いのですか? W島を攻略し、AL/MI作戦を成功に導き、欧州さえも開放した希代の英雄の居ない間に艦隊を壊滅させて』

 

永井の苦悩を嘲笑うかのように関は言葉を続ける。

これ以上聞いてなどいられない。

 

「分かりました、私達が行けば良いのですね」

 

艦娘爆弾と化した4人の艦娘の内、野分が永井を嘲笑う関の言葉を遮り、決意を口にする。

 

『ほう! 良い覚悟ですね! 今すぐ行けと言いたいところですが、私は優しいので10分だけ別れの時間を差し上げましょう!!』

 

 

 

 

 

「長門さん、防空駆逐艦のお勤め果たす事が出来ず、申し訳ありませんでした」

 

秋月には未だ姉妹艦といえる存在が艦隊にいない。

だから、自分の、防空駆逐艦の救出を、着任を喜んでくれた長門の元に向かった。

 

「我らこそすまない! こんな形で犠牲を強いるなど!!」

 

悔し涙を流す長門は秋月の手を握る。

秋月の手は恐怖で震えていた。

 

「おか……しいですよね? 戦いも沈む事も、経験済みな筈なのに震えが止まらないんです」

「おかしい事があるものか! 許してくれ! 我らの無力を許してくれ!!」

 

 

 

「のわっち、ダメだよ! 行っちゃダメだよ! こんな命令聞いたらダメだよー!!」

 

舞風は野分から離れようとしなかった。

ようやく会えた野分を二度と離しはしない、離れたくない。

その想いで引きとめようとする。

でも、そうすれば舞風が道連れになる、それだけは野分には耐えられなかった。

 

「舞風、ありがとうございます。でも、爆弾になった私に貴方を巻き添えにしたくないんです」

「それでも……いいよぉ。のわっちを見捨てて一人で生き延びるなら、それでも……」

「ダメですっ! 舞風、貴方は生きてください!」

 

けれども、野分とて死の恐怖を完全に拭うことなんてできなかった。

唇は震え、顔色は蒼白になっている。

それでも舞風に生きて欲しいから、野分は気丈に言葉を続ける。

 

「舞風、昔、私はトラック島の襲撃の際、貴方を助ける事が出来なかった。でも、今は違います。この命を剣に換えることで貴方の未来を切り開く事が出来る。だから、私は満足です。この数日間、数日間だけでも舞風と日常を遅れただけで十分なんです」

「のわっち……のわっちぃ、あ、ああ、あああああぁーっ!!」

 

いつも明るい舞風が泣き崩れる。

両手で顔を覆い、叫ぶように涙を流す。

 

「まいかぜ、さいごのダンス、しましょう?」

「のわっちぃ……」

 

野分と舞風のダンスは、もうダンスと呼べるものではなかった。

抱き合って互いの体温を感じる、ただそれだけのものとなっていた。

 

 

 

「「春雨!!」」

「今度は、夕立姉さんより、村雨姉さんより、先に行く事になりそうです」

 

戦いに犠牲は付き物だからと、恐怖に震えながら春雨は白露型の艤装に、死に装束に身を通す。

 

「ちがう! そんな事ない! 隊長さんは私達も生を謳歌するべきだって言ってくれてたの!! だから春雨も!!」

「そうなんですね、素敵な隊長さんだったんだろうなあ。一回会ってみたかったな」

「だったら!」

「『また今度』、機会があったら宜しくお願いします。姉さん」

 

覚悟を決めた春雨に、村雨と夕立は何も返すことは出来なかった。

 

「なにも出来ないの? 春雨が爆発してしまうと言うのに私達はなにも出来ないの!?」

 

答えられる艦娘は居なかった。

 

 

 

「山風ねえ!」

「山風!!」

 

駆逐イ級に食いちぎられた傷痕も痛々しいまま、山風は傷口を簡単に止血処理していた。

でも片手での処理は拙く、思うように止血処理できない。

 

「時雨姉、涼風、近づいちゃダメ……あたし、いつ爆発するか分からないから……」

「だからって、そんな痛々しいの放っておけない!」

 

そう言って時雨は手際よく海風の傷の止血をしようとして、何かに気付く。

 

「時雨姉、どうしたの?」

「え? ううん、なんでもないよ」

 

そう言う時雨だったが、先程とは明らかに怪我の処理が遅い。

時雨は少しでも離れ離れになる瞬間を遅らせようとしていた、その時が少しでも後になるように。

でも流石に気付いた山風が立ち上がる、もう、止血自体は終了していた。

 

「山風!」

「時雨姉、もういいよ……こうしてる間に爆発するといけないから……あたし、行くね」

 

目尻に涙をためながらも、虚勢を張って山風は春雨たちの元へ行く。

もう、引っ込み思案な妹に、山風に何もしてあげる事は出来ないのか。

 

「山風……」

 

時雨は力なく腰を落とした。

 

 

 

 

 

そして、4人は敵陣へと死の行進を始める。

だが、何故か敵からは砲撃も、爆撃も、雷撃一つ飛んでくることはない。

自分達を艦娘爆弾と分かっているからなのだろう。

 

「みなさん、行きますよ。もっと肉薄して、少しでも多くの敵を……」

 

野分の言葉に頷く四人。

 

「そうよね。どうせ……江風も海風も居ないんだもの、あたし一人で死ぬのなら……」

 

だが、一人と言う言葉にはっとする山風。

 

『山風』

 

「時雨姉……」

 

『山風ねえ』

 

「涼風……」

 

嘘だった。

 

自分には江風が居なくても、海風が居なくても、時雨がいた、涼風がいた。

 

暖かった。

 

寂しくなかった。

 

ずっとこんな生活が続いてくれると思っていた。

 

なのに死ぬのか。

 

「嫌だ……」

 

一人で、爆発して、死ぬのか。

 

「嫌だよ……江風も海風も時雨姉も涼風も居ない場所で、一人で爆発して死ぬなんて嫌だよ! 嫌だー!!」

 

もうそこから先は言葉にする事が出来なかった。

山風は一人で死ぬのは嫌だと、パラオ泊地へと向かおうとする。

 

「みんな、山風を止めるよ!! 長門さんたちの方に行かせちゃダメーっ!」

 

3人は狂乱し走り出した山風を引き止める。

引き止められた山風は、それでも狂乱したまま言葉を紡ぎ出す。

 

「怖い、怖いよ! 海風! 江風、怖いよー!!」

 

「助けてーっ! 時雨姉! 涼風ー!!」

 

と、野分も山風と同様にその場に崩れ落ち、涙をぽろぽろと零れ落とす。

 

「私だってイヤ……です、イヤです! イヤですっ!! 死にたくない……まだ私、死にたくない!! やっと舞風に会えたのに! みんなに会えたのに。こんな風に死ぬなんて嫌ーっ!!」

 

あとは連鎖であった。

涙が涙を呼び、春雨も秋月も山風ともたれあうように水面に膝を突き、泣き崩れる。

 

「生きたい! 私だって……私だって! 村雨姉さんと、夕立姉さんと、みんなと一緒に生きたかった、行きたかったよー!!」

 

死にたくないと、生きたいと、本音を零す4人。

 

 

 

その悲痛な叫び声は、パラオにも届いていた。

 

でも、艦娘たちには何もする事が出来なかった。

大事な妹たちが、仲間が死を迎えようとしているのに、ただ涙を流すことしか出来なかった。

 

そして時雨が天を仰ぎ叫ぶ。

 

「お願い、お願いだよ……助けて……誰か、あの子たちを、山風たちを助けてよーっ!!」

 

けれども、答えるものは誰も居なかった。

誰一人として答えられなかった。

 

悲痛な沈黙がパラオ泊地に満ちる。

 

と、衝撃が彼らを襲った。

何の衝撃かなど、考えるまでもなかった。

 

「ウソだ……」

 

4人は、たった今――

 

「ウソだっ! 山風が死んだなんてウソだーっ!!」

 

現実を拒絶しようと時雨が叫ぶ。

 

 

 

 

 

だが、それが齎したものは絶望ではなかった。

 

――なぜなら、

 

「みんな!!」

 

 

 

 

 

希望だったからだ。




ウツテンカイ、反応怖い。

アンケート前の案ではその場で泣き崩れた4人を爆発させるために、関が艦娘たちに4人への砲撃を命じると言うとてつもないウツテンカイでした。
いくらなんでも酷すぎるのでボツ。

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