艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第十四話 5 敵機動部隊迎撃戦――明かされる真実

お風呂での一件を艦娘たちは忘れた事にしようとして、表面上は穏やかな時間が流れる。

そのまま数日が経とうとしていた。

 

「山風ねえ、時雨ねえ、そっちに座るぜー」

「涼風……まあ、いいか」

 

長髪の美しい飛鷹や榛名に髪のケアについて教えてもらったり、自称女子力の高い足柄に肌の手入れの仕方を教えてもらったりと、他の艦娘に接する機会も増えては来たが、それでもやはり基本的には、時雨に接する事の多い山風。

今日も時雨の隣で朝食を取っているようだ。

仕方がないかと、朝定食をもった涼風が山風の隣に座る。

 

「ふう、今日の食事もやっぱり一味足りないよなー」

 

座ってトレイの食事を一口パクつくと、しみじみとぼやく涼風。

 

「そう……かな? 美味しいと思うけど?」

 

改めて山風は一口朝食を食べるが、十分に美味しい。

とても、一味足りないとは思えない。

 

「そんな事言っちゃダメだよ、涼風。僕達が間宮さん監修の美味しい食事に慣れ過ぎてしまったんだよ。僕も料理はするから分かるけど、パラオ泊地の人は、出来る範囲で僕達に少しでも美味しいものを食べさせてくれようと頑張ってるよ?」

「あー、ごめんなさい。ちょっと考えなしだった」

 

涼風を嗜める時雨。

けれども、山風にとっては聞き捨てならない事だった。

 

「え? 涼風は……給糧艦の、間宮さんのお料理食べてるの?」

「おうよ! 朝から晩まで食事は間宮さん監修! 甘いものが欲しくなったら『甘味処間宮』! お酒は『バー 間宮&伊良湖』! 有明鎮守府の生活は食には事欠かないぜい!!」

「涼風、ず、ずるいっ……あたしも、間宮さんのお料理……食べたい!」

 

身を乗り出して涼風に訴えかける山風。

 

「安心して、山風。渾作戦が終わって有明鎮守府に戻ったらね、作戦の成功祝いと山風たちの歓迎会をして貰えるように長門さんと司令官にお願い済だよ。有明に戻る迄もう少し待ってね」

「うん……時雨姉がそう言うなら、分かった」

「なんだよー、あたいと時雨ねえの扱い、全然ちがくない?」

「だって……涼風意地悪なんだもん。あたしの方が……お姉ちゃん……なんだよ?」

「そうは言ってもなー。山風ねえ、子供っぽくて可愛いし――」

「むー」

 

そんな会話を食堂でしていると、パラオ泊地にサイレンが鳴った。

継いで長門の声が泊地内に響き渡る。

 

『御前会議での作戦の読みどおり、敵深海機動部隊の姿を泊地東方の海上に捕捉した! また、それに呼応して、敵前衛水雷戦隊なども確認されている。ついては、司令官の指示を各艦娘に伝達したい。全艦娘は官舎前に集合せよ!!』

 

「時雨ねえ!」

「うん、行くよ、涼風! 山風も、いいね?」

「もちろん、私だって……艦娘だもん!」

 

 

 

官舎前に集合した艦娘たちに長門が決定された作戦概要を伝える。

 

1、最終段階のために準備された連合艦隊を以って泊地東方の敵主力深海機動艦隊を殲滅する。

2、泊地北方に確認された敵水上打撃群を大和、扶桑、山城を主管とする艦隊で撃破する。

3、同じく泊地南方に確認された敵水雷戦隊を比叡、榛名、霧島を主とする艦隊で撃破する。

4、泊地近海に接近しているであろう敵潜水艦隊を水雷戦隊を持って撃滅する。

 

そこには山風たちの扱いについては指示されて居なかった。

 

「長門さん! 敵機動部隊が相手と言うのでしたら、この防空駆逐艦秋月を!」

「いや、すまないが、秋月は有明鎮守府での艤装の最適化や改修、訓練も終わっていないし、隊長との目通りも終わっていない。今回は待機していてくれ」

「はい、分かりました。秋月待機いたします!」

 

敵機動艦隊との決戦と聞いて、声を上げる秋月だったが長門の言う事も尤もだ。

待機指示を受け入れる。

 

「では、私達はここパラオ泊地にて待機していれば宜しいのでしょうか?」

「いや、パラオ泊地は敵機動部隊の空爆を受ける危険がある。パラオ泊地の主要施設からも一時人を退去させる予定だ。山風たちは後方の海にて戦闘が終わるのを待機していてくれ」

「分かりました!」

 

野分の質問にも答える長門。

 

「艦娘としての戦闘経験のない艦娘だけでは危険があるかもしれない。涼風は山風達と行動を共にしてくれ」

「あいよっ、了解!」

 

そして、渾作戦最後の戦闘が開始される。

 

 

 

とは言っても、山風たちにやる事はない。

波間に揺られながら、戦闘が終わるのを待つだけだ。

 

「せっかくの対機動部隊戦なのに、残念です」

「まー、そういうなって、今の秋月じゃ流石に力不足だよ」

「それは……そうなのですが」

 

納得したとは言え、ボヤキを止められない秋月を涼風が慰める。

野分も、春雨も、せっかくの晴れ舞台なのにと残念そうな表情は止められない。

そうしていると、涼風たちの視界に敵艦隊の姿が移る。

 

「敵は5隻、flagshipもいるのか……」

 

こちらは、救助したばかりの駆逐艦4隻+1隻、今の自分達の戦力では勝つのは難しい。

そう判断した涼風は泊地近海にいる姉達に呼びかける。

 

『白露ねえ!』

『ん? どうしたの~、涼風?』

 

いつもどおり、白露の声は暢気そうだが、涼風たちの状況は一刻を争う。

 

『こっちで敵艦隊を確認したんだ! Flagshipも居て……あたいたちじゃ』

『分かった。みんなでそっちに向かうから、出来るだけ戦闘は回避するようにして!!』

 

察した白露の口調が変わる。

これで一安心かと、一息ついた涼風、瞬間、周囲の警戒が薄れてしまう。

そして、涼風たちから更に後方に一人下がっていた山風を狙って、駆逐イ級後期型が突然海中から現れたのだった。

 

「えっ!?」

 

駆逐イ級後期型は回避の遅れた山風の左腕に食いつくと、そのまま左腕を食いちぎった。

山風の左腕から鮮血がほとばしる。

 

「きゃあああーっ!! 腕が……あたしの左腕がーっ!!」

「山風ねえ!!」

 

激痛と、肘から先の左腕を失った事実にぐったりとし、気を失いそうになる山風。

そんな山風を抱え、涼風は叫ぶ。

自分が気を抜いたばかりに、そう後悔を纏わせながら。

 

「全艦、砲撃戦用意!! あいつを逃がすな!! 山風ねえの腕を取り戻すんだ!!」

 

その声にしたがって艦娘たちは駆逐イ級後期型に砲撃を仕掛ける。

だが、錬度などほぼないに等しく、また好感度補正もない艦娘たちの砲撃は駆逐イ級後期型には通用しない。

山風の左腕を食いちぎった駆逐イ級後期型は、自艦隊へと戻ると、おいしそうに山風の腕を咀嚼し始める。

山風の手はグチャグチャと、ニチャニチャと音を立てて噛み砕かれていた。

これでは、山風の腕は通常の治療ではもう元に戻すことは出来ない。

 

「……やめて……あたしの、あたしの腕を返して…………」

 

その嫌な音に耐えられず、山風は気を失いかけながら涼風にもたれ掛り、ぽろぽろと涙を流す。

 

「ゴメン! 山風ねえ、ゴメン!!」

 

自分が気を抜いたばかりに、そう後悔の涙を流す涼風。

 

 

 

 

 

だが、その駆逐イ級後期型は、直後、大爆発を起こし敵艦隊6隻もろとも爆ぜ飛んだ。

その爆風が山風たちを襲う。

 

「……え?」

 

涼風にしがみつきながら爆風を堪える山風だったが、一体何が起きたか理解できない。

爆風が収まり、ただ呆ける山風たち。

 

『バカモノ!!』

 

そんな中、唯一敵艦隊で生き残った重巡リ級flagshipに空母水鬼からの罵声が飛び込む。

 

『セッカク……カンムスバクダンニ、シタテアゲタ、カンムスヲ……コウゲキシテドウスル!!』

 

絶望にまみれた真実を告げる声が。




ここからが本番です。

当初のプロットではオリ艦娘が――でした。
あと、予め書いておきますが山風は足柄に弟子入りしません(断言)

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