渾作戦は奇しくも第二次大戦のそれと同じく、ニューギニア北西部のピアク島に上陸しようとしている深海棲艦に相対している友軍に対する支援が主眼となった作戦である。
勿論、複数回に渡り実施され失敗し中止に終わった第二次大戦のものとは異なり、今回の渾作戦は四段階の作戦から構成されている。
以下が渾作戦の各段階における作戦内容である。
第一段階――ピアク島周辺海域の敵戦力の排除、制海権の奪取を行う。
第二段階――パラオ泊地からピアク島へ出航する大型輸送船を支援するため、高速統一された水雷戦隊によって予想される敵襲撃戦力を先立って殲滅。更に敵輸送船団を捕捉、壊滅させる。
第三段階――ピアク島上陸を狙っている敵主戦力の撃滅。
最終段階――本作戦に呼応して現れるであろう、深海敵機動部隊の撃滅。
以上を以ってピアク島周辺海域から、完全に深海棲艦を排除するのが本作戦の目的である。
動員される艦娘も以前のものとは異なり、有明鎮守府に全艦娘が集結した事を活かした編成となっている。
第一段階(連合):比叡 榛名 霧島 鬼怒 飛鷹 足柄
神通 白露 村雨 時雨 夕立 大井
第二段階 :神通 白露 村雨 時雨 夕立 敷波
第三段階(連合):扶桑 山城 鈴谷 熊野 阿武隈 あきつ丸
那珂 陽炎 不知火 伊58 大和 北上
最終段階(連合):長門 武蔵 利根 加賀 大鳳 隼鷹
五十鈴 北上 大井 雪風 島風 霞
彼女達は作戦開始を以ってビッグサイトキャノンにてパラオ泊地に展開。
以後、作戦完了まではパラオ泊地にて生活を行う予定である。
「作戦の大枠については以上になるかの。何か質問はあるかね?」
そこまで永井司令官が説明したところで、艦娘たちの質問を受け付ける。
一瞬静まり返るブリーフィングルームだったが、おずおずと榛名が手を挙げた。
「作戦期間はどれくらいなんでしょうか? 大神さんの帰国にまに――いえ、有明鎮守府への私達の帰還は何時ごろになる予定ですか?」
つい、心配事が先立って口が滑った榛名。
まずいと途中で話を区切り、改めて質問するがそこまで口が滑れば全てを明かしたも同然だ。
ほっほっほっと永井司令官は笑う。
「作戦期間は1週間を予定しておる、心配せんでもいいぞ、榛名。現在、大神は地中海決戦で受けた傷を癒しておるし、帰りもシベリア鉄道を用いた陸路の予定じゃ。少なくとも3週間は帰って来れん。お前達が作戦完了後にパラオ泊地から有明鎮守府に水上を辿り帰還しても、大神の帰国には間に合う。大神を有明鎮守府で出迎える事は余裕じゃよ」
「良かった……榛名、頑張ります!」
心配事がなくなり、気合を入れ直す榛名。ちょっと現金かもしれない。
でも、姉の金剛だけが大神の帰国を出迎えられるのかもしれないと思うと、黙っていられなかったのだ。
一方、神通や加賀たちはと言うと、シベリア鉄道と聞いて
「シベリア鉄道……」
川内と鳳翔が日本から欧州に向かう過程で、さんざん大神との同室の旅路を満喫していた事を思い出し、どんよりとした雰囲気を身に纏っていた。
「神通、それについても安心せい。もはや欧州での大神の扱いは国賓クラスじゃ、まかり間違っても帰りの部屋が二等客室になるなんて事はありえん。シベリア鉄道でも特別に特等車両で帰国する話も出ておるらしい。個室でゆっくり出来る筈じゃよ」
「そうですか……ごっ、ごめんなさい司令官。変な事を言わせてしまって」
「構わんよ。作戦に集中してくれるなら、これくらいの説明は。他に何かあるかの?」
そして、今度は艦娘たちも集中し、作戦に関してのブリーフィングを行っていく。
各段階において予想される敵戦力の構成や、それに抗するための艤装の装備構成など、決めなければいけない事は未だ多いのだ。
それから一週間の訓練期間をおいて、渾作戦は実行に移された。
しかし、それはあっけないほど順調に推移する。
第一段階における敵戦力には鬼、姫級が皆無であった事もあり漸減の必要すらなく、撃破。
第二段階においては敵の新型姫――駆逐棲姫と遭遇するが、大和でさえ大破に追い込んだ神通や、足柄との特訓?を経て、かつて呼ばれた二つ名『ソロモンの悪夢』、『佐世保の時雨』に値する力を再び身につけた夕立、時雨の敵ではなかった。
一撃で殲滅し、逆に敵が護衛していた輸送船団の輸送ポッドから、新たな艦娘達を救助する事に成功するのであった。
現在は作戦は第三段階まで推移している。
敵艦隊に戦艦棲姫が確認されているが、こちらも大和を向かわせているのだ。
MIでの最終戦――本土近海邀撃戦においても戦艦棲姫一体は大和たちの砲撃で沈めているのだ、今回においても撃破はそう難しい事ではないだろう。
そんなこともありパラオ泊地で吉報を待ちながら、神通たちは敵輸送ポッドから救出した艦娘たち――おそらくは駆逐艦の目ざめを待つ。
大神の霊力の、浄化の力を借りた艦娘への浄化ではなく、自らの力を以って艦娘を救助した事で、鎮守府の艦娘たちも、神通たちも、大神が居なくても自分達はやれる、頑張れると自信を取り戻そうとしていた。
「これで、艦娘の救出は隊長の専売特許ではなくなりましたね」
「そうじゃな。まあ、あいつ一人に全てを背負わせるのも酷な話じゃし、今後、深海輸送船団を撃破するに当たっての艦娘たちの意気込みも上がるじゃろう」
そんな会話を有明鎮守府で行う大淀と永井司令官。
しかし、想像以上のスピードで作戦が推移し敵輸送船団を撃滅した事に喜んでか、彼らは一つだけ見逃していた。
即ち、敵深海輸送船団の目的についてである。
何故、敵がわざわざ艦娘をこのような場所に輸送しようとしていたのか、運ぼうとしていたかまで考えを廻らせる事が出来なかった。
『何処』を目的として運ぼうとしていたかなど、考えもしなかった。
それが深海棲艦と――
深海に魂を売った者の罠だと気付くものは、だれもいなかった。
ルート固定などを加味した、渾作戦における配艦はこんな感じだった気がする。
14夏が地獄だったから、渾作戦は楽だったなw
その分記憶が薄いので、物語の進行上すっ飛ばします。すいません。