艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第十四話 星が輝く時
第十四話 1 (仮)――カッコカリ


『欧州全ての、深海棲艦からの開放だと……それは本当なのか? グラン・マ?』

 

グラン・マからの電信による連絡に言葉を失う米田。

 

『ああ、私達の思惑の、想像以上の事をムッシュは成し遂げてくれたよ。ただ、少しやりすぎてしまったかもしれないね』

 

大神は派遣目的であった地中海奪還作戦を成功させただけではなく、欧州全てを深海棲艦から完全に開放するという凄まじい大戦果を成し遂げた。

既に東シナ海などの日本近海が艦娘により掌握されている事とあわせると、ユーラシア大陸近海は人の手に取り戻されたといっても良い。

 

となると、次に考えなくてはいけないのが人類の最大戦力である大神を向けるべきその先である。

 

当初の予定では、地中海奪還作戦の完遂を以って大神が帰国する事は決まっていた。

 

だが欧州の戦力だけでは、否、もし米国の戦力を足したとしても艦娘のみでは大西洋奪還を行う事は難しく、大西洋奪還に大神の存在は不可欠と言うのが欧州首脳陣の一致した見解である。

 

大西洋奪還に際しては、大神の再訪欧が必須。

 

ならば、大神を帰国させるのではなく、大西洋奪還に至るまで欧州への続けての滞在を勧めるべきではないかと言う声も上がり始めていたのだ。

 

『不味いな……』

『そうね。予定ではムッシュには傷が癒えた後は、そちらの艦娘への再教練を兼ねた作戦が終了する頃合まで、休暇を兼ねて滞在してもらう予定だったのだけど……』

『ああ、そうなるとあいつが欧州に滞在する時間が長くなればなるほど、欧州の滞在の延長、終いには欧州への招聘や婚姻の話さえ出兼ねないな』

『それについては、ウチのダニエルもやらかしてくれたからね。みんな警戒してるよ』

 

万が一、そんな話になったら、日本の艦娘たちも黙っていないだろう。

もちろん米田たちとしても、大神を欧州に差し出すつもりなど全くない。

 

『分かった、作戦の発動に関しては再調整が必要だな。山口や陛下と速める方向で検討する事にしよう。早急な連絡をありがとう、グラン・マ』

『なに、ムッシュのしてくれた事に比べれば大した事じゃないよ』

 

そう言ってグラン・マは連絡を打ち切る。

 

 

 

そして、一人執務室でコーヒーを飲みながら、大神の、そして艦娘の置かれた状況を再確認する。

 

先ず帰国後、大神の昇進は必須だ。

全欧州の支援があったとは言え、外国における戦果とは言え、これほどの大戦果を成し遂げた大神はもはや大佐に留めるべき人間ではない。

 

いや、正確に言うと留められない。

 

大神自身は後方指揮が主となる将官より、前線で艦娘と共に、否、率先して道を切り開く指揮官でいられる佐官である事を望むだろう。

 

だが、昇進させなければ財界や政界、人々からの不満が生まれる、それは良くない。

地中海の戦いを経て固い結束で結ばれた欧州と異なり、日本には、帝國には魂を深海に売った裏切り者が存在する。

憲兵隊や月組の調査で概要は掴んでいるが、下手に動いて蜥蜴の尻尾切りをされては意味がない、一網打尽としなければならない。

そして、それにはまだ時間が必要だ。

 

それまで、華撃団体制を揺るがすような事はあってはならないのだ。

 

「あと、一刻も早く法体制を見直さなければ……だが許されるだろうか?」

 

AL/MIの戦果公表に際して、深海による大神の狙撃を公表するかは政府、軍内でも揉めた。

黙っていたとしても深海に魂を売ったものからリークされる恐れがある事から、最終的には公表する事となったが、その事への反応はやはり大きかったのだ。

 

人々は、艦娘-明石の献身的な治療によって蘇り、深海棲艦の罠を打ち破った大神を、流石は英雄と、流石は艦娘と、褒め称えた。

 

だが政財界の反応は異なっていたのだ。

英雄であっても、不滅の存在ではないことに。

そして代わりとなるものは居ない、後継者は居ないのだと。

 

ならば彼の後継者を、正確には血を受け継ぐものを用意しなければならないと考えるのは当然だ。

ダニエルの思い付いた事は、実は既に帝國の政財界は実現に向けて動き始めていた。

次第に圧力は強まっている、もう米田たちで止める事にも限界が見え始めている。

陛下を以ってしてもこの圧力を長く跳ね除ける事は難しいだろう。

 

だが、大神の婚姻が決まる――そんな事になれば艦娘たちが悲しむ。

 

なんとかしなければならない。

 

なんとかして華撃団体制を維持する方策を――

 

「不味いな……」

 

米田のその苦悩は、入院している海軍技術部の神谷大佐が退院し、彼から好感度補正論を基にした劇的な腹案、艦娘と大神の間により深い絆を結ばせ戦力を向上するだけでなく、かつ艦娘が大神に並び立つ、添い遂げられる存在であると全てに周知させる一石二鳥の大奇策――そう、

 

『ケッコンカッコカリ』

 

の事を聞くまで続くのだった。

 

 

 

その数日後、御前会議にて本来の予定よりも早く渾作戦の発動が承認された。

 

 

 

欧州に派遣された大神を欠き、シベリア鉄道における川内たちとの急接近やトゥーロンでの欧州艦娘たちとの生活を聞いて、むくれていた有明鎮守府の艦娘たち。

しかし、流石に渾作戦の発動を受け、自身の使命を思い出して、準備へと取り組んでいた。

 

「Hey! 明石ー、夕張ー、試製35.6cm三連装砲の整備をお願いしマース!」

「分かりました、金剛さん! ふぅ……流石に作戦前は整備の依頼が引っ切り無しね、明石」

「そうね。大神さんの居ない有明鎮守府における初の作戦だから、やっぱり心配なのよ、みんな。ここで失敗なんてしたら、帰国した大神さんに会わせる顔がないし、夕張」

「そうよね~、大戦果を上げた隊長にはやっぱり堂々と再会したいもんね」

 

彼女達は、未だ彼女たちを取り巻く真の状況を、暗い未来を、そしてそれを切り開く希望の一手の存在を知らない。

 

艦娘たちに幸いあらんことを。




大神さんの居ない14秋イベント作戦海域開始です。
そして、ちょっと不穏で真面目な考察話、と見せかけたカッコカリの導入話。

本当はその前にアークロイヤルやリシュリュー、ガングートなどの閑話を書こうかと思ったのですが、まだアークロイヤルやリシュリューのキャラを上手く掴めきっていないので後回しにします。
すいません。

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