艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第十三話 17 震えよ天、地よ動け

「サア、マビキカンリョウ……ウフフ、タノシミマショウ!」

 

あまりの事態に驚愕する大神たち。

それをよそに、地中海水姫は大神たちへと相対しようとする。

瞬時に思考を切り替える大神。そう、今は戦うべきときだ。

 

「欧州のみんなは砲撃戦を開始してくれ! 川内くん、俺たちは至近距離で敵の攻撃を惹き付けながら戦うぞ!!」

「了解!!」

 

その一声を以って、地中海水姫との戦闘が始まる。

だが――

 

「主砲直撃したわ! ――そんな無傷ですって!?」

「せいっ! ――なに?」

 

しかし、地中海水姫に対する攻撃は、まるで霧を相手にするかのようで、砲撃を以ってしても、二刀による一撃を以ってしても直ぐ元の姿へと戻ってしまう。

有効打を与えられているのか判断が付かない。

 

「アハハハ……ナニヲシテイルノカシラ?」

「きゃあっ!?」

 

そして、敵の手がゆっくりと振り下ろされる、その対象は――ウォースパイトだ。

単体攻撃であるのなら、大神が庇うことでその攻撃を無効化する事が出来る。

だが、その一撃で地面に大きなクレーターが出来、ウォースパイトは艤装の座から投げ出された。

 

「いやっ、離して! あぁ-っ!!」

 

ウォースパイトはそのまま敵に掴まれる。

次の瞬間、ウォースパイトは敵の怨念に汚染されようと――

 

「破邪滅却! 悪鬼退散!!」

 

いや、大神が放った破邪の剣風が敵の手ごとウォースパイトの汚染を食い止める。

 

「大丈夫か、ウォースパイトくん!」

「ええ、ごめんなさい……イチロー」

 

宙から落ちようとしたウォースパイトを大神は横抱きに抱え、間合いを取る。

 

「フフフ、ソンナコトモデキルノネ……ナラ、コレハドウカシラ? 『アビスウェーブ』!!」

 

どうやら単体攻撃では大神に庇われると判断した地中海水姫は、怨念の波動を全方位へと放つ。

先程、光武の霊子障壁を破壊した一撃だ。

駆逐艦や艤装から離れたウォースパイトは耐えられないだろう。

 

「全方位攻撃か? なら、狼虎滅却! 金城鉄壁!!」

 

防御技をもって対応する大神。

だが――

 

「ソウクルトオモッタワァ……ジャア、モウイチド……『アビスウェーブ』!!」

「なにっ?」

 

大神が反撃に転じようとしたところで、再度地中海水姫の全方位攻撃が放たれる。

これでは、大神は防御技を撃つ事しかできない。

 

「『アビスウェーブ』!!」

「くっ!!」

 

続けざまに全方位攻撃が放たれる。

防御技を以って対応しているため、艦娘には被害はないが、大神は他に何もする事が出来ない。

 

「イチロー! みんな呆けてないで、反撃するわよ!!」

「ごめんなさい、ビスマルク姉さま! Fire!!」

 

大神の防御技で守護られている艦娘たちが砲撃を加えるが、やはり霧や霞を相手にしているようで有効打を与える事は出来ていないようだ。

 

『何故だ? 何故彼女たちの砲撃が全く利かない? MIでの中間棲姫も打撃自体を与える事は出来た筈だ!?』

 

防御技を発動させながら、大神は必死に考える。

 

「No! まるでMistのようだわ――」

『まるで霧や霞――もしや、地中海水姫は実体ではないのか?』

 

ウォースパイトの零した言葉に思考を巡らせる大神、確かにそう考えれば、納得はいく。

破邪の剣風に対して一度は雲散霧消しながらも、怨念の流入がなく手が再生した事も頷ける。

もともと地中海水姫の姿は実体ではなく、写し身のようなものなのだ。

 

『なら―』

 

ならば霊力で写し身をまとめて吹き飛ばせば、深淵の門、そしてそこから現れたものの実体を露にする事も出来るだろう。

 

「大神さん、何か打つ手はないの? このままじゃジリ貧だよ!!」

「手がないわけじゃない――だが、こうも全方位攻撃を連発されたら攻勢には、くっ!」

「アハハハハ! ソノ、クルシソウナカオ! イイワァ!!」

 

そう、大神には一つだけ打つ手はある、だが今、この状態では使うことは出来ない。

地中海水姫の哄笑がマルタ島に響き渡る。

 

このままでは、やがて大神の霊力も尽き――

 

「ナニ?」

 

 

 

そう考えた大神の眼前で、地中海水姫の巨体が爆炎に包まれた。

 

 

 

 

 

深淵拠点 地中海水姫の、たった一度の攻撃で壊滅した地中海の艦娘による戦線。

その凶報を聞き、パリの公邸は混乱の真っ只中に叩き落されていた。

 

「ジブラルタル海峡制圧に向かった艦娘の25%が通信途絶! 残った艦娘からの連絡によると深海棲艦化した模様! 深海棲艦と併せ攻撃を受け、戦線はもはや崩壊しています!!」

「サルデーニャ・コルシカ方面も同様、フランス艦娘の被害は50%を越えています!」

「シチリア、アドリア海、黒海・エーゲ海、スエズ運河も、同様です!!」

 

次々と飛び込んでくる凶報に欧州首脳陣の表情が苦悩に歪む。

そこからもたらされる、推察される敵の戦力は常に行われていた制海権を得るために行われた戦いのものとは文字通り桁が違っていた。

 

「……まさか、深海棲艦の真の戦力がこれほどのものとは」

 

誰かが放ったその一言が、首脳陣のタガを外す。

動揺の波が首脳陣に広がっていく。

 

「一撃で壊滅だと? 艦娘はこの程度の戦力でしかなかったのか!?」

「我々は深海棲艦に弄ばれていたというのか!」

「クソッ!! 奴らがその気になれば人など! 容易く皆殺しに出来るというのか!!」

 

口々に絶望を口にする欧州首脳陣。

人によっては神に祈りを捧げ、頭を掻き毟り、また人によっては壁を、机を殴りつけるものさえ出始めた。

艦娘だけではなく、首脳陣にも諦めが満たされようとしていた。

 

しかし、その状況において、凛とした声が首脳陣の行動を抑止した。

 

「落ち着きなさい!! まだ! まだ私たちは負けちゃ居ないよ!!」

 

そう、その中において、一人だけ冷静さを保ち続けた者がいた。

無論、グラン・マである。

 

「だが、イザベラ大統領。この状況でどうやってまだ戦えと言うのだ!」

「戦線は壊滅、艦娘の被害は50%以上!! もうこの戦いは敗北したも同然だ!!」

 

欧州首脳陣にはこの環境を覆す手など思いつかない。

しかし、怪人による、そしてオーク樹によるパリ破滅の危機を乗り切った巴里華撃団には、グラン・マには、まだ望みがある。

東方から来た希望、黒髪の貴公子が。

 

「忘れちゃいないかい、マルタへ向かったムッシュたちは、あの一撃に対しても被害を受けていない! ムッシュは、イチローはまだ戦える! なのに、尻尾を巻いて逃げると言うのかい!」

 

グラン・マの声にはっとさせられる欧州首脳陣。

そうだ、マルタへと向かった大神たちの精鋭部隊は先程の一撃に対しても無傷で耐えてみせた。

彼なら、彼ならば、或いは。

 

首脳陣の目に希望の光が灯る。

彼らとて、深海棲艦との戦いをただ繰り広げていた訳ではない、その鉄の意志に熱さが戻る。

ならば自分たちがすること一つしかない。

 

「しかし、ならばせめて彼に支援を送る事は出来ないのか!?」

「艦娘による支援はもはや不可能なのか?」

「いや各基地に連絡だ! 敵拠点から帰還した基地航空隊をマルタへと向かわせるのだ!」

「我らの誇りにかけて、東方から来た彼一人に全てを背負わせはせんぞ!!」

 

活気付く公邸、もうそこには国と国の打算など存在しなかった。

全ての人間が欧州のため、大神を支援しようとしていた。

 

「敵拠点の艦娘たちは撤退! あと、公邸のこの状況を欧州中に流すよ、国を越えたこの想い、ムッシュなら力に変えられる筈!! ダニエル大佐!!」

 

『了解。各国の基地航空隊が到着するまで、リボルバーカノンによる支援砲撃を行う!! 今度は我々が貴公を助力する番だ、友よ!』

 

 

 

 

 

通常の深海棲艦より遥かに大きなそのサイズが災いし、リボルバーカノンによる極大の弾丸の直撃を受け、炎に包まれる地中海水姫。

 

『リボルバーカノンを今回の戦いに望み改修したのは、貴公らをマルタに送り届けるためだけではない! 艦娘では不可能な超長距離支援砲撃を行うためだ!! 霊力はなくともこの質量のシルスウス鋼弾、この炸薬を持ってすれば、敵の動きを押し留める事位は出来る!!』

「ダニエル?」

『地中海水姫に打つ手があると言ったな、オオガミ! ならば、その為の時間を我々、巴里華撃団が稼ぎ出そう!!』

「分かった! みんな支援砲撃に併せて、攻撃を再開してくれ!」

 

ダニエルとの通信を止め、艦娘たちに指示を再開する大神。

 

「イチローは?」

「俺には打つ手が――いや、やらなければならないことがある! みんな、俺が霊力を高めるだけの時間を稼いでくれ!」

「「「了解!!」」」

 

その間も次々とリボルバーカノンの直撃を受ける地中海水姫。

数メートルの弾丸の直撃を受けながら、その身には傷一つ付いていないが、爆炎に包まれる度に行動を阻害される。

 

「クッ……オロカナ! クウバクタイ、モクヒョウヘンコウ! ガイセンモンヲ、ネラエ!!」

 

リボルバーカノンに、艦娘たちに、行動を阻害され、怒りが昂ぶった地中海水姫は指示を出す。

その指示に従い、本来公邸を狙うはずであった深海空爆隊は凱旋門へと殺到する。

 

『深海航空戦力をパリ上空に確認、空爆隊の狙いは――凱旋門、リボルバーカノンです!!』

「もういい! 凱旋門支部からの撤退を! ダニエル!!」

『了解だ、オオガミ! 凱旋門支部、総員撤退!! ……ミーを除いてな』

 

大神の声に答え、凱旋門支部の人員へと命令を出すダニエル。

 

「ダニエル?」

『リボルバーカノンの狙いを定め、撃つ人間が一人は必要だからな。時間を稼ぐと言ったからには必ず稼ぐ!』

 

凱旋門支部から人がいなくなる間も、ダニエルは一人司令室でリボルバーカノンを発射し続ける。

その一撃の度に深海空爆隊が凱旋門へと近づいていく。

 

『欧州の未来を! 頼むぞ、オオガミ!!』

 

ダニエルが最後の連絡をすると同時に、深海棲艦による空爆がリボルバーキャノンへと為される。

爆撃音と同時に凱旋門支部からの音声が途絶える。

 

「イチロー、凱旋門支部との通信途絶!」

「ダニエルーっ!!」

 

そう、良き友となる筈だった男の名を呼びながらも、大神はその刃を構え、霊力を至高の域までに練り上げる。

友が、欧州の人々が作ってくれた地中海水姫の隙を一瞬たりとも無駄には出来ない、と。

 

「みんな、いくぞ!!」

 

二刀を十字に構えた大神が艦娘たちへと呼びかける。

 

 

 

「イチロー!!」

 

ビスマルクが、

 

「アドミラールさん!!」

 

プリンツが、

 

「オオガミ!!」

 

グラーフが、

 

「提督!!」

 

レーベが、

 

「提督!!」

 

マックスが、

 

「イチロー!!」

 

ウォースパイトが、

 

「提督!!」

 

イタリアが、

 

「提督!!」

 

ローマが、

 

「提督!!」

 

アクィラが、

 

「提督!!」

 

ザラが、

 

「大神さん!!」

 

ポーラが、

 

「提督さん!!」

 

リベッチオが、

 

自らの霊力をオオガミへと送り届ける。

それだけではない。

巴里華撃団が、そしてパリに、欧州に住まう全ての人々の願いが、想いが大神へと送り届けられる。

 

 

 

この想いをもって、震えぬ天があるだろうか。

 

 

 

「狼 虎 滅 却 !!」

 

 

 

動かぬ地があるだろうか。

 

 

 

いや、存在しない、存在するわけがない。

 

 

 

もし動かぬと言うのなら――この一撃を以ってその理を覆すのみ!!

 

 

 

「震 天 動 地 !!」


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