マルタの港では西・東地中海に出した援軍の、残りの深海棲艦艦隊で防御が再編成されていた。
それが終了した頃、リバルバーカノンで射出された大神たちが展開された。
爆音が響き渡り、海面に大きな水柱が上がる。
「「「提督華撃団、参上!!」」」
見得を切って、深海棲艦の制圧以降はじめてマルタ島近傍に現れた大神たち。
しかし、マルタ島から僅かに離れた海上に大神たちを待ち受けていたもの。
それは海を覆いつくさんとばかりに防備を固めた深海棲艦の艦隊だった。
「アドミラル。深海棲艦の、この数は一体なんなんだ……」
グラーフが信じられないとばかりに、深海棲艦の群れを見やる。
間違っても、地中海各地に援軍を出した後の防備レベルではない。
その艦数は約100、信じられないことに未だ20艦隊近くの呼び戦力をマルタは所有していた。
その数、大神たち、連合艦隊の7倍以上。
10体以上の戦艦棲姫、同じく10体以上の飛行場姫、空母棲姫、港湾棲姫、集積地棲姫たち。
大艦隊と言うレベルではない防御陣。
その最も奥に地中海における敵の首領、地中海棲姫が禍々しい気配を漂わせて居た。
「ハハハハハ! バカドモガ、ヨクココマデ、キタナ! カンゲイスルゾ……シズメ!!」
明らかに少ない戦力の大神たちを見て、嘲笑う地中海棲姫。
「マルタは、ただの本拠地ではないのか? 深海棲艦にとってより重要な地なのか?」
だから、東西の地中海への援軍を減らしてでも、マルタを守ろうとしているのだろうか。
一瞬考えようとする大神、けれども考えるべき時は今ではない、頭を振って集中する。
「提督さん? こんな厳重な防御網どうやって突破するの!?」
「決まっている! 真正面から正攻法で薙ぎ倒す! 今の俺たちに敵の数は問題にならない!!」
リベッチオの問いに断言する大神。
そう、大神たちの合体技の前に、敵の数の大小ははっきり言って問題ではない。
「マルタを、生まれ育った地を守ろうとして散った人々の遺志に応えるためにも、この戦い必ず勝つぞ! 行くぞ、川内くん! セオリーとは異なるが、先制で決める!!」
「うん、大神さん!!」
伸ばした大神の手を川内が取る。
そして、合体技『初夜 は じ め て の や せ ん ♡』が十全な形で炸裂した。
(合体技の詳細は前回と同じ為、割愛)
「ナンダト……ギャアァァァァァッッ!!」
空戦の準備をしようとしていた敵艦隊は、不意を付かれる形で合体技を直撃させられる。
一時的とは言え、北海を丸ごと浄化するほどの攻撃を受け、耐えられる深海棲艦は殆ど居ない。
戦艦棲姫が、飛行場姫が、空母棲姫、港湾棲姫たちが一撃で浄化される。
拡散する光の柱が消えたとき、そこには地中海棲姫と集積地棲姫以外の深海棲艦の姿はなかった。
100体以上居た深海棲艦が、今では合わせて6体、1艦隊分しか残って居ない。
しかも全員が中破以上の損害を被っている。
「バ……バカナ……タッタ、タッタ……イチゲキデ」
ボロボロになった自分の身体を省みる余裕すらなく、壊滅したマルタ島、いや、『自分』の防御艦隊を信じられないと言った様子で見やる地中海棲姫。
その様子を見て、大神は二発目の合体技で倒すのではなく、通常戦での撃破を決意する。
拠点基地に守られたものが何なのか不明である現状、霊力は温存しておくべきだと判断した。
「みんな、敵首領以外の残存戦力は全て陸上型深海棲艦だ! しかも、損害以上の打撃を与えている為反撃の心配もない! 作戦『火』で確実に落としていくぞ!」
「「「了解!!」」」
そして、集積地棲姫を艦娘の対陸攻撃で全滅させ、地中海棲姫と相対する大神。
白のワンピースが無残に破れ飛び、肌を露出させている地中海棲姫。
だが、相手は地中海における拠点基地、どんな隠し手を持っているのか分からない。
相手の行動に気を配りながら、間合いを保つ大神。
やがて地中海棲姫が大神に言葉を放つ。
「オマエタチハ、ワカッテ……イルノカ……」
「? 何を言っている?」
「『ワタシ』ヲ……タオスコトノ、イミ……ワカッテ……イルノカ?」
「お前を倒すことで何が起きると言うのだ?」
問いただす大神、だが、地中海棲姫は大神の問いかけに応える事はない。
「ソウ……フハハハハ」
やがて、おもむろに地中海棲姫が笑い出した。
何も知らない大神たちを嘲笑うかのように。
「何故だ? 何故笑う?」
「イイデショウ……ナラ、ワタシヲ……タオシ、ゼツボウスルガイイ!!」
「大神さん!?」
砲撃でもなく、空爆でもなく、その身の爪を伸ばし剣として、地中海棲姫は大神に襲い掛かる。
二合、三合と大神の二刀と地中海棲姫の爪剣がぶつかり合う。
しかし、それは膂力に任せた力任せの剣撃、大神から見たら隙だらけのものでしかない。
振り下ろされる前の爪剣を弾き、大神は霊力を練り上げながら一足飛びで間合いを広げる。
そして破邪の一撃を放つ。
「破邪滅却! 悪鬼退散!!」
破邪の剣風をその身に受け、地中海棲姫は崩れ落ちる。
「シンエンヲ……ノゾキ……ゼツボウスルガイイ……」
だが、今までの深海棲艦と異なり、地中海棲姫の身体が浄化される事はない。
地に倒れた状態のまま風に晒されたままだ、後味の悪さが残る。
やがて、集積地棲姫と戦っていた艦娘たちが大神の下に集まってきた。
「提督さん、マルタ島の戦い、これで終わったのかな?」
「……大まかなところは、これで終わりだろうね。敵が全ての戦力を防御陣に宛てていたからね」
だが、自分で言っていて釈然としないものを感じていた。
大神の霊感は、悪しき物は一掃されていないと、未だ戦いは終わっていないと告げている。
「じゃあ、提督さん、この深海棲艦や島の人たちのお墓を作っちゃダメかな? 島の人たちも、この深海棲艦も野ざらしで放置するのは可愛そうに思えて……」
しかし、リベッチオたちにはそれは感じられないらしい。
「ちょっと待ってくれないかな、未だ作戦は完全には終わってない。残存戦力の確認と殲滅が必要だから、それが終わるまでは気を抜かないでくれ。その後でなら許可するから」
そう釘を刺して、大神はパリの方を向いて連絡を取ろうとする。
しばしの時間を置いて、公邸と凱旋門支部に通信が繋がる。
「ムッシュ、どうしたんだい? 敵戦力を殲滅したのかい?」
「はい。でも、何かが霊感に引っかかるんです。これでは戦いは終わりではないと。だから……」
「オーケーだ、オオガミ。霊力計でマルタ島をサーチすればいいんだな、ちょっと待ってくれ」
「敵拠点基地は破壊したのだろう? ムッシュ、何を心配しているんだい?」
「今までと異なり、破邪の技を用いても深海棲艦が浄化されていないんです。それが気になって」
「今までと違うことか、確かに気にかけるべき事だね」
そうしてグラン・マと会話をしていると、サーチ結果を持ってダニエルが会話に飛び込んできた。
「オオガミ、確かに変だ! 拠点基地を撃ち果たし、合体技で浄化した筈なのに霊力形は依然としてマイナスを示している!」
「なんだって!?」
「つまり、『敵の本当の核』は健在である可能性が高い! 拠点基地の深海棲艦はダミーだ!!」
その直後、大神の背後から駆逐艦たちの悲鳴が聞こえた。
「きゃああああああああああああっ!?」
「うわああああああああああああっ!?」
「いやああああああああああああっ!?」
「レーベくん、マックスくん、リベ!!」
慌てて大神が振り返ると、地中海棲姫の死体に近づき、手を伸ばしていた駆逐艦たちが苦悶の表情で叫んでいる。
3人の伸ばした手は指先から順に暗闇の鱗のような物で覆われていっている、まるで艦娘の光を深海棲艦の闇が食い荒らすように。
3人は急速に怨念に染め上げられようとしている。
「みんな、大丈夫!? 今、引き離すから!」
「待つんだ! 艦娘は地中海棲姫に近づいてはいけない!!」
3人を助けようとしたビスマルクを大神は制止する。
「どうして!?」
「君たちも同じようになる可能性が高い! 危険だ!!」
「じゃあ、どうすれば!?」
ビスマルクと話しているうちにも駆逐艦への怨念の侵食は進んでいる、もう一刻の猶予もない。
「破邪滅却! 悪鬼退散!!」
そう判断した大神は破邪の技を使用する。
破邪の剣風と一瞬せめぎあうが、3人の腕は元通りに戻り、地中海棲姫の身体からも怨念が一瞬留まる。
その隙に大神は3人を抱き抱え後ろへと飛びのく。
3人の身体からは怨念の汚染はもう感じられないが、体力を酷く消耗している。
もう更なる戦闘に加わる余裕はないだろう。
「みんな、どうして……」
「ごめん……なさい。せめて、目を開いたまま倒れている深海棲艦の目だけでも閉じようと……」
その間に黒く禍々しく輝き、黒光を上げる闇の塊が、地中海棲姫の身体から浮かび上がる。
そして闇の塊が、いや、深遠の門というべきものが言葉を発した。
「シンエンノ……チカラヲ……オモイシレ!!」
次の瞬間、欧州は闇に染まり、地中海は反転し、深淵に堕ちた。
拠点基地 地中海棲姫(陸上型深海棲艦)
耐久:800
火力:250
雷装:150
対空:150
装甲:250
地中海版、中枢棲姫。
陸上型の深海棲艦のため、三式弾、WG42、対陸妖精隊が特効あり。
中破(損害)以上で攻撃不可。
そろそろ気付いた人居るかな。