翌朝、朝食後に艦娘たちは演習場に姿を現していた、無論日々の訓練のためである。
昨日と違う点は、軽巡たち、明石も基礎訓練に参加していること。
自らの錬度を保つ為にも、一日おきにはこのようにしているのだ。
なお、今演習場に大神の姿は居ない。
保健室で司令官と打ち合わせを行った上で、こちらに来るとの事だ。
昨日色々と見られてしまった神通たちは内心安堵の息を漏らしていた。
神通も今だけは、教官役として全体を俯瞰するのを中断し自分自身の訓練に集中する。
だが、しかし――
「おかしいですね……」
自らの体の異変に神通は首を傾げる。
調子がよすぎるのだ。
身体が羽のように軽く、意識は冴え渡っている。
遠くにあるはずの標的が目の前にあるかのように感じられる。
こんな感覚は、以前最新式の電探や缶を試験で搭載したとき以来だ。
疑問に思いながら放った砲撃は果たして当たる前から予感したとおり、標的の中心に命中した。
「いったい何が……」
周りを見渡して、それぞれの艦娘の動きを自分の記憶と照合する。
動きが明らかに良くなっているのは駆逐艦では昨日も見たとおり吹雪、6駆、
軽巡は私たち川内型と天龍、と言うか龍田以外全員。
そして、以前と比較する上では驚異的に向上しているのが、
「これは、気持ちがいいものですねー!」
明石である。
工作艦と言うにはあまりにもキレキレな動き、何が起きたというのだ。
岸壁に近づき、神通は手を顎に当てて考え込む。
私を含めて、みんなに共通することは――
「みんな調子良いみたいだね、神通くん」
「ぴ、ぴゃいっ!」
肩を叩かれて、神通はビクッと驚きの声を上げる。
神通の声につられて、基礎訓練を行っていた艦娘たちの動きが止まった。
「ゴメン、邪魔しちゃったかな?」
振り向いて大神を見上げると、濡れる事対策か軍装から軽い感じの服装に着替えていた。
軍装しか見ていなかった神通たちには目新しくて、微かに胸が高鳴る。
「いえ……皆さん続けてくださいー」
神通の声に、振り向きがたいものを感じながら艦娘たちはそれぞれの訓練に戻っていく。
そんな中、明石が大神の元にやってくる。
「明石さん、訓練の途中ですよ……」
「いいじゃないですか神通さん。大神さん見てくださいよ、私、今までになく調子がいいんです!」
「そうなのかい。わかった、見させてもらうよ」
ハイテンションな明石は神通の言葉も半分に、大神を連れて行った。
けれども、それで神通には合点がいった。
私を含めて、みんなに共通することは――それは、大神さんだ。
馬鹿げているかもしれないけど、大神さんと親しい、信頼している艦娘ほどその力を伸ばしている。
基礎訓練を終え、艦娘たちは次の訓練の為に陸上に再度集合する。
一昨日、吹雪が、昨日、神通が悶絶した事を思い出し、艦娘たちは赤面する。
川内、那珂、明石に至っては思うところがあるのだろう、耳まで真っ赤だ。
今度こそ、逃げられない――艦娘たちは覚悟を決める。
「それでは、皆さん、大神隊長を運搬する訓練を行い――」
その時、神通の声を遮って警報が鳴り響く。
この警報の種類は――、
「敵の襲来だ!」
大神が叫んだとおり、この警報は敵の襲来を示すものだ。
「今度は、この警備府を攻めさせない! 撃って出る!」
「「「はい!」」」
大神の声に艦娘たちの意気が高揚していく。
と、大神の眼前に桜がひとひら舞い落ちてくる。
「?」
大神は思わず桜を手でつかみ、周囲を見渡す。
と、警備府の外、小高い丘の上に見事な桜林があることに気づいた。
「――そうだな」
一人頷く大神。
「どうしたのですか、大神隊長?」
そんな大神の様子を疑問に思う神通だったが、大神は集まってきた艦娘たちに向き合うと声高く吼えた。
「総員、花見の準備をせよ!!」
「「「え?」」」
大神の声に混乱する艦娘一同だった。
次回戦闘パート。
あと神通さん、からくりの一つに気づきました。
明石の好感度はトップです。