艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第十三話 9 トゥーロンでの一日5(特訓編)

「オオガミ、やったわね! 合体技の練習がいきなり成功するなんて!」

 

小規模ながらも、目の前で炸裂した桃色の霊力に歓喜するウォースパイト。

 

「ああ、ここまで上手く良くとは思わなかったけど、当然続くんだよね、もちろん?」

 

グラーフに爆撃を受け煤けた顔を水で洗い、プリンツから受け取ったタオルで拭う大神。

そのタオルはプリンツの匂いが染み込んだものであり、タオルからほのかに香るプリンツの匂いにドギマギする大神。

そんな様子にプリンツはクスクス笑っている、おのれプリンツ謀りおったな。

 

「もちろん特訓は続行よ。次はビスマルクだったわね」

「ええ。イチロー曰く、私が最も適合性が高いと言うことですもの。当然決めるわよ!」

 

けど、ビスマルクは自らの大神との絆を見せ付ける事に集中しており、そんな二人の様子に全く気付く様子もない。

大神がビスマルクの傍に近づくのを台本を読みながら待つ。

やがて、顔を洗いさっぱりとさせた大神がビスマルクの元に近づく。

 

「それじゃ始めようか、ビスマルクくん」

「ええ、華麗に決めるわよ。後で褒めてもいいのよ」

 

 

 

ビスマルク   :明石

 

『思えば人魚姫同様、一目惚れだったのかもしれない』

『己の危機に燦然と現れた純白の姿を目にしたときから――』

 

ビスマルクは明石の独白を自分なりにアレンジして話し始める。

大神に一目惚れしたのは、ビスマルクもそう変わらないと思う。

自分を守り、深海棲艦の群れに立ち向かったあの姿はまだ目蓋の裏に焼き付いている。

今だって、目を閉じればつい先程のように思い出せ――

 

「カット、カットカットカットー!」

 

と、ビスマルクが思い出に若干浸ろうとしたときに、ウォースパイトの声が特訓を中断する。

 

「ちょっと! 気分も乗ってきたのに、何で中断するのよ!!」

「だって、これじゃビスマルクの独白と言うか一人語りじゃない、私たちが特訓しないといけないのはオオガミとの合体技。これじゃ、特訓にならないわ」

「むむ……」

 

確かに。

ウォースパイトの論にも一理ある。

けど、ちょっとロマンチックな明石の合体技なら良いなと思っていたのだ。

ビスマルクとしては変えて欲しくない。

 

「でも、明石はこれでイチローと合体技をしたのでしょう? これで問題ないんじゃない?」

「明石はオオガミの警備府着任からの、最も付き合いの長い艦娘の一人よ。そう簡単に真似られないと思った方が良いわ」

「じゃあ――」

 

どうすれば良いと言うのだ、と言いかけたビスマルクの声を遮ってウォースパイトが続ける。

 

「こんな事もあろうかと、日本の童話を元に台本を作ってみたの! これにあわせてやってみましょう!!」

「なるほど、明石くんが欧州の人魚姫を元にしたと言うのなら、ビスマルクくんはその逆をしてみようと言うわけだね、まあ、俺はどちらも把握しているから構わないよ」

「う……」

 

肝心要の大神が頷いてしまった以上、ビスマルクも反対しづらい。

そんなわけで、最初からやり直す事となったのであった。

 

 

 

 

 

かんむすめ日本昔ばなし

 

 

『桃太郎』

 

 

『むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました』

 

 

「あれ、俺、おじいさんなのかい?」

「私も……おばあさん呼ばわりされするのは、少し……まあ、アドミラルとつがいなのは悪い気はしないが」

 

どうやら、大神がおじいさん、グラーフがおばあさんのようだ。

当然二人は夫婦な関係になるわけで、グラーフも先程爆撃したばかりなのに満更ではない。 

 

「ちょっと、イチローとの合体技なのにイチローが、グラーフのものってどういう事よ!?」

「まあまあ、待ちなさい、ビスマルク。物語は始まったばかりなのだから」

 

ウォースパイトの説得にしぶしぶ納得するビスマルク。

そして物語は続く。

 

 

『おじいさんは山へしばかりに、おばあさんは川へせんたくに行きました』

『おばあさんが川でせんたくをしていると、ドンブラコ、ドンブラコと、大きな桃が流れてきました』

 

 

「おや、これは良いおみやげになるな、アドミラルが喜ぶ」

 

 

『おばあさんは大きな桃をひろいあげて、家に持ち帰りました』

『そして、おじいさんとおばあさんが桃を食べようと桃を切ってみようとすると』

 

 

「ふむ。ここでビスマルクが現れなければ、アドミラルと私はいつまでも仲良く過ごしました、めでたしとなるわけか……アドミラル、狼虎滅却 一刀両断でこの桃を切ってくれないか?」

「いいっ!? そんなことしたら、中のビスマルクくんが? 桃を切るのにそこまでしなくても」

「ちょっと、何考えているのよグラーフ! 私の出番を奪うつもり!?」

 

そこ、既に桃の中にいるのはわかっているけど、喋らないように。

 

「このままじゃ、ビスマルク姉さまが両断されちゃう!? おばあさん、お気を確かに!!」

「ふふ、冗談だ」

 

 

『なんと中から可愛い女の子が飛び出してきました』

 

 

「な!? ビスマルクくん!?」

「ビスマルク、何をしているのだ!」

 

ただし、全裸でな。

色々丸見え状態で真っ赤なビスマルク。

大神も視線をそむけようとするが、やはりその美しい裸体に視線がついチラチラといってしまう。

 

「ウォースパイト! やっぱり全裸はやめようって言ったのに!」

「ダメです。事は形から入りましょう。日本の絵本では裸だったので、あなたに拒否権限はありません」

 

何気に鬼教官なウォースパイト。

 

 

『これはきっと、神さまがくださったにちがいない、チッ』

 

 

「グラーフ、今あからさまに舌打ちしたわね! 後で覚えてなさい!!」

 

 

『子どものいなかったおじいさんとおばあさんは、大喜びです』

『桃から生まれた女の子を、おじいさんとおばあさんはビスマルクと名付けました』

 

 

「待て、待て待て。何で桃から生まれてビスマルクになるんだ。そこは桃太郎だろう」

「いや、これで良いんだよ、グラーフくん。桃のようにたわわな胸とお尻……たわわ?」

 

と、全員の視線がトゥーロンの潜水艦隊の訓練に参加していたゆーに注がれる。

視線の意味を理解できず、ゆーは小首を傾げる。

 

「みんな、なんで、ゆーを見るの? ゆーは、たわわじゃない。たわわな後輩じゃ、ない」

「そう――だったね、何故かゆーくんのことが頭に浮かんでしまったんだ、すまない」

 

天の声に逆らうことなかれ。

 

「ゆーがたわわだったら、アドミラルは、嬉しい?」

「えっ?」

 

大神は、たわわな後輩なゆーを想像しようとして、ちょっと無理があるなと思った。

こんな引っ込み思案な、かわいらしいゆーが変貌するなんて想像も付かない。

 

後日それが裏切られる事を大神はまだ知らない。

 

 

『ビスマルクはスクスク育って、やがて美しい女の子になりました』

 

 

「イチロー、じゃなくておじいさん。おばあさんみたいな年増より私のほうが良いわよ」

 

そう言って、大神の片手を取るビスマルク。

 

「ビスマルク、艦としては私の方が生まれが新しいぞ」

 

だが、グラーフも黙っていない、大神のもう片腕を組んで、その豊かな胸を押し付ける。

負けじとビスマルクも胸を大神に押し付ける。

 

「そんな両手に花な生活をおじいさんは送りました、めでたしめでたし」

 

とはもちろんならない。

 

 

『暗闘の結果、おばあさんに破れたビスマルクは鬼退治に行く事になりました』

 

 

「待ってよイチロー! 私一人で鬼退治になんて行ったら鬼に捕まっちゃう! そしてエロ同人のような事をされてしまうに違いないわ! 可愛い娘がそんな事になって良いと言うの!?」

「うっ!」

 

懇願するかのようなビスマルクの視線に、良心の呵責に耐えかねる大神。

だが、グラーフは、

 

「大丈夫だ、こんな事もあろうかと、キビ……だんごをつくっておいた」

 

 

『おばあさんにきび団子を作ってもらうと、鬼ヶ島へ出かけました』

『旅の途中で、イヌに出会いました』

 

 

「ビスマルクお姉さま――じゃなかったビスマルクさん、どこへ行くのですか?」

「イヌはプリンツなのね……」

「えへへ、お腰に付けたきび団子を1つ下さいな。あ、いただけなくてもどこまでもお供します!」

 

 

『イヌはきび団子をもらい、ビスマルクのおともになりました』

『そして、こんどはサルに出会いました』

 

 

「うぬぬ……ビスマルクさん、どこへ行くのですか?」

「マックスがサル……ぷっ」

 

とことん機嫌の悪いマックスがビスマルクに呼びかける。

不躾だが、サルのコスプレをしたマックスは笑いを誘う。

 

「じゃんけんに負けたからとは言え、この私が……サル。くっ!」

「まあまあ、運が悪かったとあきらめなさい」

「……それでは、お腰に付けたきび団子を1つ下さいな。おともしますよ」

 

完全に棒読みのマックス。

 

 

『サルはきび団子をもらい、ビスマルクのおともになりました』

『そしてこんどは、キジに出会いました』

 

 

「ビスマルクさん、どこへ行くのですか?」

「鬼ヶ島へ、鬼退治に行くんだ」

「それでは、お腰に付けたきび団子を1つ下さいな。おともしますよ」

 

レーベは割愛。

 

「ボクの扱い酷くない? レニちゃんと似てるからいろいろ活躍できると思ったのに!」

 

 

『こうして、イヌ、サル、キジの仲間を手に入れたビスマルクは、ついに鬼ヶ島へやってきました』

『鬼ヶ島では、鬼が近くの村を守ったお礼にもらったごちそうをおいしそうに食べています』

 

 

「って、あれはおじいさん、イチローじゃない!!」

 

そう、鬼のボス。

それは我らが大神一郎だったのだ。

鬼になっても正義の刃を振るうことは代わらず、暴力を振るわずにみんなを守っていたのだ。

これではビスマルクのほうが悪の一行となってしまう。

 

「ええと、ビスマルク姉さま……台本だと、私、アドミラルさんのお尻に噛み付くんだけど……」

 

大神のお尻に噛み付くプリンツ、もうそれは何かのプレイだ。

そして、

 

「ああ、こんな鬼ヶ島でイチローに会えるなんて! これは、鬼退治に行って鬼に捕まっちゃって、 そしてエロ同人のような事をされろと言う事に違いないわ!」

「じゃあ、ビスマルク姉さま……」

 

ぎらついた目を燃やすプリンツとビスマルク。

レーベとマックスは若干呆れ気味だ。

 

「みんな、ぬからないで! かかれーっ!」

 

 

『そう言ってビスマルクたちは鬼に抱き付いていきます』

 

 

「いや、ここは俺を退治するところじゃないのかい!?」

「イチローを退治するなんて出来る訳ないじゃない!! 私の方こそ降参よ! そしてエロ同人のような事をして!」

「ビスマルク姉さまだけずるいですー、私もー」

「ボ、ボクも一応お芝居だから……」

「サルじゃなかったら、サルじゃなかったらー!!」

 

 

『イヌ(プリンツ)は鬼の腰に抱きつき、キジ(レーベ)は唇で鬼の目を何度もキスし、サルは鬼の背中をひっかきました』

『そして、ビスマルクは鬼を押し倒して大あばれです』

『そして鬼ヶ島で鬼とビスマルクはしあわせにくらしましたとさ』

 

 

 

『ハチャメチャ人魚――桃太郎、愛の劇場』

 

 

もちろん合体技は不発であった。

そんなこんなで、とんちんかんな試行錯誤をしながらも合体技の特訓は続く。




ゆーは声優ネタ。
酒盛りポーラの線もあったのだけど、あえてこっち。

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