午前七時。
約一時間の朝練を終えると、流石に大神も艦娘もお腹が空いて来る。
朝食の時間である。
今日の朝食の当番は、プリンツ・オイゲン。
ドイツ流ではあるが、普通の食事を食べられるだろう、ビスマルクの時は酷い事になったし。
そう思いながら大神たちが広間に戻ると、プリンツが全員分の食事を用意していた。
「あ、アドミラルさん、みんな。食事の準備大体終わってますよ~」
「えーと、今日の朝食は何なのかな?」
「えへへ、パンとソーセージ、チーズ、あとサラダと……スクランブルエッグです! もちろん、熱いコーヒーもどうぞ! 普通だけど、美味しいと思いますよ!」
プリンツの言う通り、広間のテーブルにはボイルしたソーセージと、切り分けられたチーズ、皿に分けられたサラダには一手間かけたのかドレッシングがかかっている、それと、スクランブルエッグが準備されていた。
パンもトースターで軽く焼かれており小麦の焼けた良い香りがコーヒーの香りと交じり合って食欲をそそる。
これは期待できそうだ、そう思いながらテーブルの席に着く大神たち、プリンツも席に着く。
ちなみに席順として決まっているのは、大神の両隣位、その他はあまり決まっていない。
今日の調理当番が大神の右隣に、昨日の調理当番が大神の左隣になることくらいである。
これは、ずっと国ごとに固まってしまうのを避ける為に大神が決めたことである。
今日は艦種ごとに固まっているようだ。
戦艦
「ん~、ドイツのソーセージはやっぱり美味しいわね」
「そうでしょ、そうでしょ。いいのよ、もっと褒めても」
「ビスマルクの調理当番のときは酷い事になったけどね……」
よっぽど記憶に残る酷さだったらしい、ローマが呟いていた。
巡洋艦
「ん~ん~、本場ドイツのソーセージ~、それにチーズ! 朝から赤ワインが美味しそうなラインナップです~。これは、赤ワイン飲んでも良いってことですか~」
「良い訳ないでしょ! いい加減にしなさい、ポーラ! この赤ワインは没収!」
「えぇー、ザラ姉様、それちょっとしたヴィンテージなんです。栓もあけちゃったし、飲んでしまわないともったいないんです~。没収だけは、平に、平にご容赦をー!」
「良いじゃない、ザラ。一杯くらいなら」
「おお、川内さん~、話がわかる~。でも……一杯だけ?」
「みんなで一杯ずつ飲めば瓶も空くでしょ? ザラはポーラの飲みすぎを防げる、ポーラはヴィンテージワインを無駄にせずに済む、私たちは美味しいワインを堪能できる、一挙両得!」
「ふふふっ、良いわね、それ!」
「ガガーン!!」
あ、ポーラが崩れ落ちた。
空母
「うん、やはりドイツの朝食は馴染むな。しかし、和食も興味を引かれる」
「あら。そう仰るのなら、今度和食をご用意しましょうか? 大神さんもそろそろ食べたいみたいなことを言っていましたし」
「いいわね~、一回食べてみたかったのよ、鳳翔の料理当番の日が待ち遠しいわ~」
空母組は鳳翔が指導役と言うこともあって、鳳翔、大神の国の料理に興味津々のようだ。
駆逐艦
「うん、ライ麦パンも良いのだけれど、このパンも美味しい」
「えぇ~、リベはあの酸味、あんまり好きじゃない~」
「そう思うのも仕方ないかな、でももっと油濃い料理になるとそれが合うんだ」
「それなら大丈夫ね! 提督さんがいるのにそんな太りそうな料理みんな作らないよ!」
「……確かに」
駆逐艦はパンに付いての話題で盛り上がっている。
そしてプリンツは、
「アドミラルさん、プリンツの朝食、美味しいですか?」
「ああ、プリンツくん、美味しい朝食をありがとう」
「頑張った甲斐がありました。ポーラさんのワインも美味しいですし、良い朝ですね~」
そう言って大神にしな垂れかかるプリンツ。
「ちょ、プリンツくん、いきなりどうしたんだい? って、ポーラくんのワイン、半分も飲んじゃってるじゃないか!?」
「だってみんな少ししか飲まなかったみたいですし、流石にアドミラルさんに飲ませるわけには行きませんもの。だから~」
そう言いながら、大神に抱き付いて頬を擦り付けるプリンツ。
酔っ払ったせいか、いろいろ自制心とか効いていないようだ。
「えへへ、朝練後の大神さんの感触~。凄い、男らしい~」
「ちょっとプリンツ! 私だってそんなことしてないのにずるいわよ!!」
プリンツを嗜める?ビスマルク、色々と欲望がダダ漏れである。
「ん~、じゃあ、ビスマルク姉さまも、いっしょにどーですかー?」
「え”。いいの?」
「ビスマルク姉さまなら大歓迎ですよ~、はい! どうぞ!!」
「そうね、プリンツがいいって言ってるのならちょっとぐらい、良いわよね!」
そんなプリンツとビスマルクを背後からグラーフがスリッパで殴りつけた。
スパカーンと良い音がなる。
「二人とも。そろそろ基地に行く準備をする時間だ、プリンツは水を飲んで酔いを醒ました方が良い」
「ん~、はーい。お水飲んできますね~」
ヨロヨロと水入れからコップに水を注ぎ一飲み、それでは足りないのかもう一飲みするプリンツ。
そうしていく内に、酔いが醒めて来たらしい。
「え、あ……私、何、してたんだろ!? アドミラルさん、ごめんなさい!!」
自分がやったことを思い出して、顔を赤らめるプリンツ。
「いや、謝らなくても良いよ、こちらも君の良い感触を堪能してしまったし」
「ぁ……あ、あう……」
大神の回答に更に顔を真っ赤に染めるプリンツ。
「プリンツばっかりずるいわ! イチロー、私も……」
勿論、グラーフはそんなビスマルクの後頭部をスリッパで全力で一切の容赦なく殴りつけた。
スパカーンと良い音がなる。
「ポーラ、覚悟は良いかしら?」
「そんな、ザラ姉様! 流石にこれは濡れ衣です! 冤罪です! 平にご容赦を!!」
「あはは……流石にこうなっちゃうのは予想外かなぁ」
一方、巡洋艦の方では、私刑判決が下ろうとしていた。
午前八時。
朝食後、身支度を済ませて大神たちはトゥーロン基地へと向かう。
幸い、邸宅からは歩いて10分くらいの距離なので歩いての移動となる。
大神の片手は今日は人懐っこいリベッチオが占有している。
レーベとマックスが羨ましそうな視線を向けているが、流石に行動に移すつもりはないらしい。
何故なら、もう片方は基本ビスマルクが腕を組んで歩いているからだ。
ビスマルクと張り合ってまで大神の近くを奪おうと言うつもりはないらしい。
しかし、今日はちょっと異なっていた。
ビスマルクに更にくっつくようにプリンツが居たのだ。
「プリンツ、まだ酔ってるの?」
「ううん、もうお酒は残ってないですよ、姉さま」
ビスマルクの問いに軽く顔を振って応えるプリンツ、パッと見る限り確かにお酒はもう残ってないようだ。
では、何でこんなことをしているのだろうかと思い、プリンツに目を向けると、プリンツの視線はビスマルクだけでなく、大神の方へも向けられていることに気付いた。
つまりだ、プリンツにとってはこの状況はビスマルクだけでなく、大神の傍にもいられる一挙両得な状況らしい。
どうやら朝の一軒で何かがプリンツに目覚めてしまったようだ。
でも、窘めようにも自分が大神に連れ添っている状態では説得力がない。
自分が大神と腕を組むのはやめたくない、やめられないし止まらない。
でも、プリンツが大神に視線を向けている状況はなんかヤダ、それに危機感を覚える。
どうしたら良いのか内心唸るビスマルク。
「大丈夫です、ビスマルク姉さま。私と姉さまでアドミラルさんを共有しちゃえば良いんです~」
そんな、ビスマルクの葛藤をお見通しなプリンツが悪魔の囁きを囁きかけるのであった。
やばい、一日編は2~3話くらいで終えるつもりだったのに全然話が進んでないぞ(^^;