深夜になって、ようやく作戦会議は終わった。
各国の首脳・艦娘はこれからパリの高級ホテルに宿泊することとなっているが、強襲部隊に選抜された艦娘はこれから大神と合流する為、首脳とは別行動となる。
まずは顔合わせが必要だろう。
そう考えた大神たちが艦娘たちの居る部屋へと向かう。
「流石に長い時間がかかりましたね、グラン・マ」
「そりゃそうさ、これで欧州の運命は一変するんだ。深海棲艦を完全に廃した静かな地中海を取り戻せるかどうかの瀬戸際。詰められるだけの事は詰めなきゃならないだろうさ」
廊下を歩きながら作戦会議を振り返る大神たち。
とは言っても自分たちの行うべきことは真っ先に決まったので、思い出しながらの話となる。
そうしていると、艦娘の部屋から艦娘たちが談笑している話し声が聞こえてくる。
そこには、気まずさなどは含まれて居ないように感じる。
「どうやら、問題は起きていないようだね。英国艦が選抜されたことでどうなることかと思ったけど、為せばなるものじゃないか」
「では、自分は彼女たちに挨拶してきますよ」
そう言って、大神がドアを開けるが、艦娘たちは女の子の会話に夢中のようだ。
何の話をしているのだろうかと、聞いてみる大神。
「それでねそれでね、艦娘の間では大神さんに『ママ』って呼んでもらうのが流行ってたの!」
「バブみ……奥が深いわ。私もオギャリティを高めないと」
「あのイチローが、私に『ママ』と甘えてくる……いいわね、それ!!」
おおう、よりによってなんて会話をしているのだ。
一瞬くらっと血の気が引く大神、ダニエルはそんな大神を見て思いっきり笑っている。
そうなると場を沈めるのはグラン・マしかいない。
「国の垣根を越えて親交を深めているのは良いことだけど、作戦会議が終わったからみんなムッシュと合流してもらうよ」
その声を聞いて、艦娘たちもようやく大神たちが部屋の中に居ることに気付いたようだ。
ティーパーティーを打ち切って直立する。
「よし、それじゃ後はムッシュに任せるよ。トゥーロンへの移動は翌日の昼、向こうの官舎はもう一杯だから港の近くの邸宅を借り上げておいた。訓練外の時間はそこで共同生活してもらうよ」
「それは自分もですか?」
「当たり前じゃないか、ムッシュと短期間で連携を取ってもらうには大帝國劇場方式が一番さ。そこにムッシュが居なくてどうするんだよ。詳細は、ダニエル――」
「オオガミ、情報はこの書類にまとめて置いた。トゥーロンに到着するまでの間に読み通しておいてくれ」
「了解だ」
大神はダニエルから封筒を受け取る。
「今日はここで寝泊りしてもらうからね。親交を深めるのも良いけどあんまり夜更かしはしないように」
それを確認して、グラン・マたちは大神を置いて去って行った。
「それじゃ改めて自己紹介から始めようか、俺は――」
「あっ、大神さん。今までずっと大神さんの話題で盛り上がってたから大神さんの自己紹介はいらないよ」
自己紹介しようとした大神の声を川内が遮る。
何を話していたんだと問いたい気分であったが多分やぶ蛇なのでグッと堪える大神。
「わかった、じゃあ、君たちのことが知りたいな、ウォースパイトくんはさっき聞かせてもらったから、イタリアのみんなのことを聞かせてもらっても良いかな?」
その声にイタリア艦娘が大神の近くに集まってくる。
「ヴィットリオ・ヴェネト級戦艦2番艦、イタリアです。よろしくお願いしますね。ふふっ」
「こちらこそ宜しくお願いするよ、イタリアくん」
「ああ、力強い手……この手で数多くの人々を救ってきたのですね、提督」
そう言ってイタリアは大神の手を愛おしげに両手で包む。
「イ、イタリアくん?」
「私、あなたの剣となり刃となって頑張りますね……ちゅっ♪」
慌てる大神の頬にキスをするイタリア。
流石に自己紹介でキスをするとは思わなかったか、呆気に取られるビスマルク。
「地中海的な挨拶です♪ それではっ♪」
呆然とする大神を置いてイタリアが身を翻す。
続いてローマが前に進む。
まさかローマも地中海的な挨拶をするのかと身構える大神。
「ヴィットリオ・ヴェネト級戦艦4番艦、ローマです。よろしく。何? あまりじろじろ見ないでほしいのですけど」
「ああ、すまない。よろしく頼む、ローマくん」
ローマは普通の挨拶で済んだようだ、一安心する大神。
「地中海生まれの航空母艦アクィラです。活躍する……筈ですー♪ 楽しみにしてて!」
「ああ、君の活躍、楽しみにさせてもらうよ」
「あら~、提督♪ よしよし♪」
「アクィラくん!?」
ところがどっこい、次のアクィラは大神の頭を撫で撫でしてきた。
「提督の反応可愛い~、もう一度よしよし♪」
それだけではない、呆気に取られた大神に今度は抱き付いて頬擦りまでしてきた。
「イタリアに引き続き、地中海的な挨拶です♪」
油断大敵とは正にこのこと。
「ザラ級重巡、一番艦ザラです! 粘り強さが信条です。提督、よろしくね!」
「ああ、宜しくザラくん」
次のザラも普通の挨拶で済んだが、もう油断はしないぞと心の中で決意する大神。
だが、次の艦は群を抜いていた。
大神の前に立った時点で酒の匂いが漂ってくる、一体どれだけ飲んでいたのだろうか。
「ザラ級重巡の三番艦~、ポーラです~。何にでも挑戦したいお年頃。頑張ります~」
「君たちの提督になる大神だ、よろしく頼むよ」
「ねぇねぇ、大神さん。ニホン=シュ持ってません? 一回飲んでみたいんですよね~」
「え? いや、さすがに持ってきてはいないけど……」
「ざーんねん、それじゃあ~、今度一緒に飲みませんか?」
初対面で飲み会に誘うポーラ。
大神も流石に反応に困っている。
「もう、ポーラ、いきなり提督を飲み会に誘うなんてダメじゃない! 提督ごめんなさい、ポーラには私が言って聞かせますから!」
なるほど、そう言う姉妹かと納得する大神。
シベリア鉄道でのこともあるし、ポーラの飲み会は何か果てしなく危険な気がするので、単独では参加しないようにしておこうと大神は肝に銘じておく。
そして最後は駆逐艦のリベッチオだ。
「マエストラーレ級駆逐艦、リベッチオです。リベでいいよ。提督さん、よろしくね!」
「ああ、よろしく。リベ……で、いいのかな?」
「うん! それでいいよ! 提督さん♪」
これで自己紹介をするべき艦娘との顔合わせは終わった。
「よし、夜も遅いし、みんな用意されている部屋に戻って一休みしてくれ。明日はパリを昼に出発するけど、あまり夜更かしや寝坊はしないでくれよ」
「お酒は飲んで良いんですか!?」
お酒に言及がないとポーラが即座に反応する、が――
「ポーラ、良い訳ないでしょ!」
「ザラ姉様、冗談ですよ~。いや、本当に冗談なんです」
ポーラを即座にとっちめるザラ。
大神も流石にここは飲ませるべきではないだろうと、念押しすることにした。
「ポーラくん、明日に響くから、今日はお酒は控えてくれ」
「そんな!? お酒が飲めないなんて、大神さんはポーラに死ねと仰るんですか!?」
「いや、一晩飲まないくらいで死ぬなんて……」
「ポーラの身体の85%はお酒で出来ているんです~。毎日お酒を摂取しないと、お酒欠乏症でポーラ干からびてしまいます~。あれ? ザラ姉様……」
「ポーラー……」
「ひいいいいいいいいいいい!?」
よし、ポーラは基本ザラに任せよう。
そう大神は残酷な決意をするのだった。
そして、大神たちは翌日トゥーロンに向かうのだった。
これから3週間、トゥーロンでの訓練生活が始まる。