「ティーパーティー?」
ウォースパイトの声に怪訝そうな声を上げる旧枢軸国の艦娘たち。
それもそうだ、一体何を話すというのだろうか。
「昔話を話すのかしら? 撃沈された記憶を話しても更に微妙な雰囲気になるだけじゃない?」
マタパン岬沖海戦でウォースパイトたちに撃沈されたザラが、疑問の声を上げる。
ポーラはさっきから部屋の隅でカタカタ震えている、よほど怖いらしい。
「いいえ、今の私たちに必要なのは過去ではないわ、だから未来に付いて話しましょう」
「未来ですか? でも、未来のこと、地中海奪還作戦に付いてはもう会議で決定済みですし。私たちがここで話すことなんてありませんよね?」
今度はイタリアが疑問を挟む、それも尤もな話だ。
「ノンノン。戦いのことじゃなくて、私たち艦娘の、女の子としての未来。つまり、好きな人に付いて話しましょうよ。さっきの様子からするとビスマルクはオオガミのこと好きなんでしょう?」
恋の話しと聞いて騒然とする艦娘たち。
特に、いきなり話を振られてビスマルクが凍る。
「え"っ、な、何を言い出すのかしら? 私はイチローのことなんて……」
「「「イチローのことなんて?」」」
顔を真っ赤にして口ごもるビスマルクをテーブルに乗り出して追及するイタリア艦娘たち。
やはりイタリアというだけあって、恋の話に付いては敏感なのか。
「……好きよ。だってしょうがないじゃない! 深海棲艦に完全に囲まれた絶体絶命の状況で颯爽と現れて、『彼女に指一本触れさせない!』とか『君は絶対に守り抜く!』と言われて、宣言どおりに守られて、助けられて心が動かない訳、ときめかない訳ないじゃない!!」
ヤケになって告白するビスマルク。
「素敵……私もそんな風に言われてみたいですね。イタリアでの霊力訓練の合間に織姫さんが言っていた『隊長』さんみたい」
「姉さん、そんな子供のお話、真に受けていたの? そんな完全無欠の『隊長』、居る訳がないでしょう?」
「あら、イタリアでも『隊長』の話を聞いていたのね。私もフランスから派遣された霊力オブザーバーのエリカさんに聞かされていたんですよ」
イタリア戦艦姉妹の話にウォースパイトが食いついたようだ。
「自分を貶した相手だろうと、『すべての人々の幸せを、平和を守るために戦う!』と言い切って事を成し遂げた『隊長』、死地に赴く戦いでも『全員必ず帰還せよ』と告げた『隊長』。素敵よね」
「……まあ、素敵だとは思うわ。本当にいたならの話だけど」
「ザラも素敵だと思うわ。出来るなら会って、その指揮下で戦いたいな」
「ポーラはお酒を飲ませてくれる人なら誰でも構いませーん」
ローマもザラも『隊長』が好みの男であることに付いては否定しないらしい。
しかし、噂の『隊長』が大神であるとダンケルクで気付いてしまったドイツ艦娘は微妙そうな表情をしている。
でも、気付いてしまったことを黙っている訳にもいかない。
プリンツが話をしようとしたとき、
「それで思うの、オオガミって、その『隊長』なんじゃないかしらって!」
ウォースパイトがいきなり発言した。
「えっ? いくらなんでもそんな都合のいい話あるわけ……」
いくらなんでもそんな偶然ある訳ない、そうローマが否定しようとしたが、
「いいえ、ウォースパイトさんの感じたこと、正解ですよ。アドミラルさん、大神さんが『隊長』
さんなんです」
プリンツがウォースパイトの発言を肯定する。
「ええっ!? それじゃあ、提督が『隊長』だって言うの?」
「はい」
「どんな絶望的な状況でも一歩も引かず、勝利をもたらした男が、提督だって言うの?」
「はい」
「希望を掲げ、全員を必ず帰還せしめ奇跡をもたらした男が、提督だって言うの!?」
「はい」
「戦いに勝利したとき、本当に『勝利のポーズきめっ!』ってやるの?」
「北海の戦いで本当にやりました。間違いありません、ローマさん。アドミラルさん、大神さんが本当に『隊長』さんなんです」
矢継ぎ早に飛んでくるローマの質問を全て肯定するプリンツ。
「やっぱり! ねえ、警備府でも有明鎮守府でもオオガミはそうだったの?」
手を合わせて、大神が『隊長』であることに歓喜するウォースパイト。
イタリアもザラも嬉しそうだ。
今度は実際の大神を良く知っているであろう川内たちに質問を飛ばす。
大神のプライバシーを話すことに一瞬考える川内だったが、
「まあ、これで雰囲気が良くなるなら良いか」
と、大神が警備府に着任したところから、話を始める。
これが鹿島であればもっと以前から話が出来たのかもしれないが、鹿島が話したらライバルが増えかねないことに全開で警戒してしまうかもしれない。
自分で丁度いいのだろう。
着任早々に起きた深海棲艦の襲撃を司令官代理として撃退したこと。
人の身で初めて為した深海棲艦の撃破。
迷うことなく艦娘を庇い、自ら戦うことを選んだその高潔な意思。
「凄いわ! ねえ、もっと話を聞かせてよ! オオガミのこともっと知りたいの!!」
「ええ……艦娘に抱き付いて海を移動していたって、これからの訓練でもやるのかしら……い、嫌じゃないけど」
ウォースパイトは目を輝かせて川内の話に聞き入っている。
ローマも表面的には興味なさげな態度を取っているが耳は良くすませているようだ。
イタリアがその様子を見て苦笑していた。
その後も響のことや有明鎮守府に艦娘が終結した時のこと、第二次W島攻略作戦のことなど話は続いていく。
その度に川内に対して艦娘からの質問が飛んでくる。
朝潮のキスパニックのことに話が触れたときは、
「リベも提督さんとキスしたい!」
「そんなの認めないわよ! ここに居る艦娘でイチローと最初にキスするのは私なんだから!!」
とリベッチオたちが言い出して、騒然となった。
そして、観艦式、AL/MI作戦、狙撃からの看病などの話が続き、最後にシベリア鉄道での旅路のことを川内は話し始めようとしたのだが、やっぱりやめた。
鳳翔のほうに僅かに視線を向けると、鳳翔も頷いていた。
あのときのことは3人だけの大事な思い出なのだ。
列車に乗り遅れかけた自分を引き上げ抱き締めた大神の腕の力強さ。
酒に酔った大神に押し倒されたこと。
そして、翌日の「結婚しよう」などのこと。
鳳翔としてもバイカル湖での湖畔デートのことは大事な思い出だ。
あまりペラペラ話したくはない。
だからパリ到着後の大神のことを話し始めた。
そこからはドイツの艦娘たちも話に加わる。
光武・海Fを受領し空を飛ぶ大神。そしてビスマルクの救出、深海棲艦への逆撃、合体技。
「合体技、それって霊力者だけじゃなく、艦娘とオオガミでも出来るのね!?」
「もっちろん! 私たちの切り札みたいなものだもん!!」
「ああ、早くオオガミと訓練して絆を深めたいわ!! そして私もオオガミと……待ち遠しいわ」
「そうね、早くイチローと訓練したいわね」
そんな感じで大神への信頼と期待を深めながら、艦娘たちによる大神の話は続く。
作戦会議が終わる頃には艦娘たちはすっかり打ち解けたのであった。
ガールズトーク回。
大神は何もしていないのに勝手に好感度が上がるw