艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第十三話 「深淵の門」
第十三話 1 再会、そして始まる作戦会議


黒髪の貴公子、欧州に、いやパリに現れる。

 

北海を一時的にとは言え浄化し、多数の艦娘を救った大神たちの活躍は、大神たちがダンケルクで一夜を過ごし、パリに移動するころにはパリ中に完全に広まっていた。

地に囲まれた海が多いという圧倒的優位な立ち位置でありながら、拮抗していた深海棲艦との戦いに対して厭戦気分が若干発生していたが、これで欧州は深海棲艦の脅威から開放される。

そう熱望した人達が、グラン・マと共にパリに戻った大神に喝采する。

 

有明以降あまり外に出たことのない大神にとっては面食らう状況であるが、グラン・マの、

 

「あの時とは違って秘密部隊じゃないからね。ムッシュには自分の成し遂げたことに対する有名税を払ってもらうよ」

 

と言う言葉に気を取り直し、人々に応えながらグラン・マと共に公用車に乗り込む。

そして、艦娘たちと共に公邸へと移動する。

公用車の護衛に付く警官隊の一人にエビヤン警部の姿が見える。

 

流石に公用車の進行を妨げるような者は居なかったらしく、スムーズに公邸に到着する大神たち。

 

公用車から降りると、一人のフランス海軍の軍服を着た者が大神を待っていた。

金髪の、立派なひげを持つ男、大佐の一人のようだが一体誰だろうか。

疑問に思う大神へと、男が口を開く。

 

「到着早々、艦娘の救出と一時的とは言え北海の浄化をしてしまうとはな。流石、黒髪の貴公子、ミーが認めた男だ。また会えて嬉しいよ、ニッポンジン」

 

ニッポンジン、以前にもパリである男に聞いた言葉だ。

 

高飛車で気取り屋で、事あるごとにちょっかいをかけてきた男。

 

でも、最後は日本に帰ることとなった大神に『また会う日まで』と挨拶を送ってくれた男。

 

しかし、在りし日においては再会することが叶わなかった男。

 

「まさか、おま――あなたは、ライラック邸での貴――」

 

言いかけた大神の言葉を遮って男が話し出す。

 

「その呼び名はもうミーにはふさわしくない。改めて自己紹介させてくれ、ミーはダニエル・ベルモンド。フランス海軍の大佐にして、巴里華撃団の凱旋門支部長をしている。地中海奪還作戦においてはフランス、いや欧州全ての人がユーの力を必要としている。よろしく頼む、オオガミ」

 

そう言って手を差し出すダニエル、その手を力強く握り返す大神。

 

「分かりました、自分の全力を尽くすことを約束します、ダニエル大佐」

「オオガミ、奇しくもミーもユーも同じ大佐だ。硬い口調はしなくてもいい。できればユーとは友誼を結びたいのだ」

「……分かった、ダニエル」

「ありがとう、オオガミ。今度酒でも酌み交わそう」

 

そうやって友誼を深めていた大神たち。

けれども、艦娘たちにとっては大神が男に取られるかもしれないと気が気でない。

疑うような視線を二人に向けていた。

 

「はははっ、どうやらユーを独り占めしすぎたようだ。それでは、また会議で」

 

視線に勘付いたのか、そう言って踵を返し、公邸の中へと向かうダニエル。

あの貴族が、ああも変わるとは、やはり驚きを隠せない大神。

 

「びっくりしたかい?」

「はい、正直驚きました」

 

グラン・マが面白そうに大神に声をかける。

 

「彼もずいぶん変わったもんさ。今じゃ、深海棲艦が現れて、絶望に瀕していたパリを、フランス海軍を、立て直した第一人者だってのに、将官に昇進せず巴里華撃団の設立に私と共に動いてくれた。地中海奪還作戦におけるリボルバーカノン改修を提案したのも彼だよ」

「そんなことまで……」

「時間が出来たら一杯付き合ってやるんだね」

「はい!」

 

そう言って公邸の中へと進んでいく大神たち。

会議場には各国の首脳、そして将官クラスの軍人が集まっていた。

どうやら大神たちが最後だったようだ。

艦娘たちと共に一角に着席する大神たち、ドレスらしき艤装を着た他国の、恐らくイギリスの艦娘が大神の隣になる。

胸元の大きく開いたドレスに一瞬視線が動いてしまうが、場所が場所だ、すぐに正面を向き直す。

だが、イギリスの艦娘にはお見通しのようだ、クスクスと笑っている。

 

「お待たせしたね、これから地中海奪還作戦についての作戦会議を始めさせてもらうよ」

 

グラン・マのその言葉をきっかけにフランス海軍の参謀によって、作戦の概要の説明が為される。

地中海奪還作戦は以下の段階に分かれる。

 

1、スペインに集結したスペイン・イギリス艦娘によるジブラルタル海峡、及び海峡に築かれた深海棲艦要塞の制圧。

2、フランス海軍によるサルデーニャ・コルシカの奪還。

3、イタリア海軍によるシチリアへの侵攻。アドリア海の奪還。

4、ロシア海軍による黒海・エーゲ海の奪還。

5、トルコ海軍によるスエズ運河・運河要塞の制圧。

 

「北アフリカ諸国からの援護はないのかね?」

「ああ、残念だけど北アフリカ諸国は殆ど艦娘を有していない。欧州とトルコによる北からの反攻作戦となるね」

「タイミングを合わせた一斉反攻作戦なのかね? それだけでは完全に奪還するには至らないと思うのだが」

 

いずれかの国の将官が、何人か手を挙げて質問する。

 

「いや、まだだよ。ここまでの内容は既に連絡したとおりだけれど、一斉反攻作戦は敵戦力を分散させる為の手段に過ぎない。本当の目的は――」

 

そして、グラン・マが後を継いで作戦の最終段階を直接する。

 

6、そして、それら全てによって敵戦力を分割・分散させた上での、リボルバーカノンによる精鋭部隊を用いた敵本拠地の強襲・壊滅。

 

「精鋭部隊による強襲かね! 艦隊規模は!?」

 

精鋭部隊による強襲と聞いて各国の首脳陣が色めき立つ。

地中海における深海棲艦の本拠地の壊滅、この功による欧州での発言権の上昇は測り知れない。

 

「通常の連合艦隊12隻+αだね。改修したリボルバーカノンならば最大15人の同時展開が可能だよ」

 

是非とも自分の国による艦隊指揮により、事を成し遂げたい。

そう考える人間が居てもおかしな話ではない、どよめく会議場。

 

「その艦隊指揮は一体誰が……」

「うちの○○なら……」

 

各国の首脳が、将官が口に出そうとしたが、つい昨日起きたばかりの北海の奇跡が思い出される。

 

「すまない。昨日の北海での件を考えれたならば、この大任務に耐えられる、任せられる人間は一人しか存在しなかったな」

 

そう、そんなことが出来る人間は一人しか居ない。

一斉に全員が大神の方を振り向く。

全員の視線を浴びて、僅かにのけぞる大神。

その様子を見て再びイギリスの艦娘がクスクス笑っていた。

 

「派遣された俺が、そのような重要な役目を担っても構わないのですか?」

「ムッシュしかいないんだよ。この強襲作戦自体、ムッシュによる艦娘の直接指揮を前提にしなければ成立しないんだ。もしムッシュが嫌だと言ってもやってもらうよ」

「いえ、そんな事はありません。大神一郎、強襲部隊指揮の任、粉骨砕身の覚悟で引き受けます!」

 

大神の返答に笑って頷くグラン・マ。

本来は大神の日本での功績を元に各国の首脳を説得するつもりだったのだが、東洋でのこととなると欧州からすれば他人事になるのも仕方がない。

場合によっては、利権をめぐった裏工作も必要になるだろうと準備していたのだが、こうもすんなり決まるとは。

 

「よし、強襲部隊の指揮を大神一郎に任せることに付いては、異論はないようだね」

「待ちたまえ、敵本拠地は何処なのかね?」

「ああ、すまない。大事なことを連絡してなかったね。マイナスの想念、怨念の計測結果によって導き出された深海棲艦の――」

 

続くグラン・マの言葉を待ち、会議場の全員が息を飲む。

 

「敵本拠地は――マルタ島!!」




前回のあとがきでは書いていませんでしたが、大神の『黒髪の貴公子』という称号は欧州でこそ名付けられるべきものだと作者的に思っていたので、あえて今まで使っていませんでした。

早い称号付けを期待されていた方、お待たせしました。

あとダニエル絡みは欧州編やると決めてから絶対に書きたかった下りです、3未プレイでわからない人はすいません。
それと、『敵本拠地は――呪われた島、ロードス!』と個人的にはしたかったのですが、位置的にちょっと無理があるので泣く泣くボツw

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