艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第十二話 11 絶望からの脱出

ビスマルクを置いて、危地より離脱したドイツ艦娘たち。

けれども、艦隊のリーダーでもあったビスマルクを死地に置き去りにしたこと、いや、見殺しにしたことが艦隊の士気を最低レベルにまで落としていた。

 

「うっ……ううっ……姉さまぁ、ビスマルク姉さま……あぁぁぁぁ」

 

ビスマルクに気絶させられたプリンツはビスマルクが視界外に完全に消え、目視することが出来なくなった頃になってようやく目覚めた。

当初は、自分ひとりでもビスマルクの元に戻るのだと言って聞かなかったが、自分たちが追撃を受けていることに気付き、レーベとマックスとゆーを守り帰還する為、現在艦隊唯一の巡洋艦以上のクラスの艦娘として火砲での迎撃の役割に就いた。

 

敵がビスマルクの元からこちらの追撃に艦船を回せるだけの状況になったことに、そんな状況にビスマルクが陥っているのだと気付いても、プリンツはけなげに気を保ち続けた。

 

けれど、ビスマルクの通信が完全に途絶し、ビスマルクの反応が消えた事でプリンツの緊張の糸は切れてしまった。

 

「やだぁ、こんなの……こんなの嫌だよ、嫌ぁ……いやだぁ!」

 

絶望した表情を隠すように両手で顔を多い、泣き崩れるプリンツ。

零れ落ちる涙が手を伝い、海へと落ちていく。

北海の海はプリンツの涙に何も答えることはない、プリンツの号泣がただ響く。

レーベもマックスもゆーもビスマルクの撃沈を悟り、表情を暗くしている。

 

グラーフは一人、艦隊の未来を思う。

次の地中海奪還作戦、入渠で傷は癒えても、心の傷は癒えないだろうと。

自分たちは恐らくまともには戦えないだろうな、と。

 

「オイゲン、すまないがまだ断続的に攻撃を受けている。私の艦載機だけでは攻撃の手数が足りない、迎撃の役割に再度当たってくれ」

 

それでも、自分たちは帰還しなければならない、戦わなければいけない。

艦娘として。

 

と、グラーフの視界に空を飛ぶ影が映った。

敵艦載機かと懸念し再び艦載機の発艦準備を整えるグラーフだったが、度重なる交戦で艦載機の数は激減している。

 

「恐らく、まともに航空戦が出来るのは後二回……もつのか?」

 

その影はやがて水上に降り立ち、こちらへと接近してくる。

圧倒的な速度だ、このままでは捕捉されてしまう。

 

「違う、あれは敵の新型戦力か? 空を飛ぶ深海棲艦だと!? オイゲン、嘆くのは後にしてくれ!  レーベたちも交戦準備を!!」

 

しかし、その影から信号灯による信号が送られてきた。

深海棲艦ではないのだろうか。

 

『ワレ キュウエンセンリョク ナリ』

 

「救援戦力?」

 

信号を目にしたレーベが呟く。

 

「うそ、次の地中海奪還作戦に向けて殆どの艦娘は移動してる筈なのに、一体誰が?」

「レーベ、マックス、誰なのか考えるのは後でいい。先ずは救援戦力と合流しよう」

 

その声に、両手で顔を覆い泣き続けていたプリンツもその信号を目にする。

空を飛べる戦力なら、まだビスマルクを助けられるかもしれないと思って。

だが、事態はプリンツの願いさえも上回っていた。

近づく影から再度信号が送られる。

 

『ワレ ビスマルク ノ キュウシュツ ニ セイコウ セリ』

「ビスマルク……キュウシュツ……セイコウ……きゅうしゅつせいこう?」

 

信号の意味が分からなくて、何度も何度も信号を読み返すプリンツ。

 

「えと……救出成功……え? ビスマルク、救出成功? ビスマルク姉さまの救出が!?」

 

そして、ようやく信号の意味を飲み込み、プリンツは喜びを露にする。

もうその頃には、その影が誰なのか視認できる程の距離になっていた。

 

白銀の鎧に身を包んだ東洋の男と、男に横抱きで抱かれている女性の姿。

帽子こそないが、その流れる長い金髪に美しい容貌は見間違える筈がない。

自分たちを見て手を振っているその女性は――

 

「ビスマルクさん!」

「ビスマルクさん!」

「ビスマルク!」

「ビスマルク姉さん!」

 

次々に喜びの声を上げるグラーフたち。

 

「姉さま! ビスマルク姉さまーっ!!」

 

そしてプリンツは駆け寄り、大神に抱き抱えられたビスマルクに飛びつくのであった。

 

 

 

「そうか、貴方が日本から派遣された提督だったのか」

「ああ、大神一郎と言う。地中海奪還作戦では君たちの指揮をする事になる、よろしく頼む」

「勿論だ。ビスマルクを助けてくれてありがとう、礼を言わせて欲しい」

「アドミラルさん、ビスマルク姉さまを助けてくれて、本当にありがとう!!」

 

そう言って、グラーフは大神に頭を下げる。

続いてプリンツたちも大神に頭を下げた。

 

「当然のことをしただけだよ、君たちこそ良く無事でいてくれた」

「まあ、敵の追撃を何度も受けていたので、無傷とはいかないがな」

 

改めて見ると、グラーフもプリンツもレーベたちも小さいとは言え、少なくない傷を負っていた。

 

「分かった。ビスマルクくんの事もあるし、まずは君たちを回復させるよ」

「回復? そういえばさっきも回復といってたけど、何をするつもりなの、イチロー?」

「イチロー? うそ、ビスマルク姉さまが男の人を名前で呼ぶなんて……」

 

プリンツは怪訝そうな顔をして、大神に抱かれたままのビスマルクを見やる。

良く考えてみたら、ずっと抱かれたまま離れようとしないこと自体おかしなことだ。

 

「プリンツ!? べ、別に他意はないのよ! 命の恩人だから、艤装を破壊され完全に包囲されて危機一髪のところを助けてもらったからその恩も兼ねてそう呼んでるだけなの! かっこよかったとか勇ましかったとか心を打たれたとか好きになったとかそう言うのは全然ないんだからね!?」

 

プリンツに見つめられて、ビスマルクは慌てて言い訳をする。

けれども、ヴィルヘルムスハーフェンでは散々コケにしていたのにこの変わりぶり。

思わず笑いがこぼれてしまう。

 

「うふふっ、ビスマルク姉さま。この間さんざんアドミラルさんのこと馬鹿にしていたのに」

「ちょっと、プリンツ! 今ここで言わなくてもいいじゃない!!」

「そうだね、『新しい提督ですって? そんなの必要ないわ、むしろ私が日本の艦娘に一から教えてあげる』って言っていたのに凄い変わり身だね」

「レーベまで!? 違うのよ、イチロー! 私は貴方のこと本当に……」

「すまないがビスマルク、世間話なら後にしてくれないか? アドミラル、私たちを回復させると言っていたがそんなことが本当に出来るのか?」

 

このままでは話が脱線したまま戻って来れない、そう考えたグラーフはビスマルクに釘を刺して大神に問いかけた。

ビスマルクはむくれたが、確かに後でも出来る話なので押し黙る。

 

「ああ、出来るよ。実際にやったほうが早いかな。狼虎滅却 金甌無欠!」

 

そう言って大神は回復技を発動させる。

柔らかな光が大神から放たれ、その光を受けた艦娘たちの傷がまるで最初からなかったかのように回復していく。

それだけではない、ビスマルクの破れた衣服も艤装も修復されていく。

 

「これは……すごいな、本当に傷がなくなっていく」

「うそ、破れた艤装まで……」

「ビスマルクくん、もう君も水上に立てるはずだよ」

 

名残惜しげに大神の腕から降り水上に立つビスマルク。

包囲されていたときは、確かに膝まで海の中に沈んでいたのだが、今はそれが嘘だったかのように水面の上に立てている。

 

「もしかして!?」

 

慌ててビスマルクが砲塔を展開すると、破壊された筈の砲塔も全て復元していた。

ビスマルクの意思と連動して砲の向きも変わり、動いている。

機能も全く問題ない。

 

「凄い……」

 

レーベもゆーも感嘆の声を上げている。

 

「あれ? これって、どこかで聞いたような気が……」

 

ただ、マックスは訝しげな顔をしていた。




レーベ、レニネタは挟みたかったのですが収拾がつかなくなったので泣く泣くボツ。

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