艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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一日二回目の投稿いきます


第十二話 10 ビスマルクを救え

ビスマルクは目の前の光景が信じられなかった。

戦艦である自分の砲撃を持ってしても、弾着観測射撃でなければ撃沈は難しいル級flagship改を一刀の下に撃破してしまい自分を庇う男の存在に。

 

髪の色からすると、東洋人だろうか。

もしかして、彼が日本から派遣される提督、帝國の若き英雄なのか。

けれども、ビスマルクは泣きながら叫ぶ。

 

「なんで、ここに来たの!? こんな包囲されている中に! ここからはもう逃れられない! 貴方まで無駄死にしてしまうわ!!」

「ソウダ! 360ド、スベテカコマレタ、ジョウキョウデ、ドウヤッテマモル!!」 

 

そう、周囲は既に深海棲艦によって取り囲まれている。

一旦砲撃が始まってしまえば大破したビスマルクは為す術なく撃沈される他ない。

 

「そんな事はない! ビスマルクくん、君は助ける、必ず死なせない! 絶対に守り抜く!」

「アドミラル……」

 

凛々しく言い切る大神を、涙を止め、頬を赤らめ呆然と見上げるビスマルク。

その姿に、霊力訓練の際にレニが話してくれた『隊長』の姿が重なって見える。

だが、状況はそんなことさえ許してはくれない。

 

「ウテ!」

「狼虎滅却! 金城鉄壁!!」

 

その言葉と共に深海棲艦たちの一斉射撃が始まった。

その轟音の前に大神の叫び声もかき消されていく。

ビスマルクの、そしてビスマルクを庇う大神の身体に数多の砲弾が命中していく。

深海棲艦の、敵の砲弾が水飛沫を上げ、炸裂する。

水飛沫と、煙が二人の姿を見えなくしても、敵の砲撃は止まない。

 

「モットダ! モットウテ! ウチマクレ!!」 

 

装填した敵の弾薬が撃ちつくされるまで、深海棲艦の砲撃は止まなかった。

だが、これで二人は、跡形もないだろう。

 

「「「ハハハハハ!」」」

 

砲撃が終わり静まり返った海に、深海棲艦たちの哄笑が響き渡る。

その笑いを止めるものはもうここには居ない、筈であった。

 

「「「ハハハハハ、アハハハハハハ!!」」」

 

しかし――

 

「笑うな!!」

「「「ナニ!?」」」

 

水飛沫と煙が晴れた後、深海棲艦の砲弾が着弾した筈の箇所には、先程までと同じ姿のビスマルクが、そして無傷の大神の姿があった。

深海棲艦の一斉砲撃は大神の宣言どおり、かすり傷一つビスマルクに付けることはなかった。

何があったというのだろうか、理解不能な状況に深海棲艦は混乱する。

 

いや、混乱しているのはビスマルクも同じだ。

 

例え大神が一方向からの砲撃を庇ったとしても、残りの方向からの砲撃は庇えない。

それだけでも自分は沈められていたはずだ、なのに何故。

 

「ビスマルクくん、大丈夫か?」

 

そんなことを考えていると、大神が僅かに振り向き、ビスマルクに声をかける。

 

「ごめんなさい。大丈夫とはとても言えない状況よ。戦闘も、自力での航行も無理だわ」

 

先に述べたとおり、ビスマルクの艤装は既に崩壊しており、動くことすらままならない。

4つあった砲塔は、全て破壊され、帽子は既になく、制服も破れその豊かな胸が露出している。

胸が露になったビスマルクをあまり見ないようにしている大神に、ビスマルクは自分の今の外見に気付き赤面する。

 

「分かった。なら、まずこの包囲網を突破して、他のドイツ艦娘たちと合流しよう」

「……でも、どうやって? 私はもう動けないのよ?」

 

ビスマルクの疑念ももっともだ。

どうやったら、この厳重な包囲網を突破できるというのか。

 

「それは……狼虎滅却! 天地一矢!!」

 

大神の刀から一条の、否、二、三人は優に飲み込むほどの轟雷が放たれる。

それは二機関搭載された霊子核機関によって増幅された大神の力によるものである。

轟雷に撃たれ、深海棲艦は次々に浄化される。

そして敵包囲網の一角が崩れる、包囲網を突破し脱出するなら今を置いて他にない。

 

「ビスマルクくん、ゴメン!」

「きゃあっ!?」

 

そして、大神はビスマルクに近づき横抱きに抱えた、お姫様抱っことも言う。

男に抱き上げられて真っ赤に赤面するビスマルク、女の子らしい声を上げ大神に抱きつく。

ビスマルクの豊かな胸が大神の身体に当たる。

 

「行くぞ! 光武・海F、可翔機関起動! 霊子タービン全基フル稼働!!」

 

だが、ビスマルクとあまりやり取りをしている余裕は今はない。

霊子タービンをフル稼働させて全力で加速し、大神は深海棲艦の包囲網を突破した。

 

「オエ! ニガスナ!!」

 

だが、飛翔できる光武・海Fに、深海棲艦が追いつけるはずもない。

見る見るうちに深海棲艦たちの姿が小さくなっていく。

 

大神たちを追うために敵が飛ばした艦載機たちも鳳翔がつけた直衛機が叩き落すのであった。

 

 

 

 

 

「ビスマルクくん、もう大丈夫だよ」

「え、あ……きゃっ!」

 

そうして大神たちが飛行する内に、ビスマルクは自分があの死地を抜け出せたことに実感が伴ってきたらしい。

胸を露にしたまま大神に抱き付いていることに気が付き、今度は可愛らしい声を上げて胸を隠す。

 

「あ、ゴメン! ビスマルクくん……」

「い、いえ……私の方こそごめんなさい。殆ど残ってないけど砲塔の艤装を展開解除するわ。重かったでしょう?」

「全然平気だよ。いつも身体を鍛えているからね、まだまだ大丈夫さ。それにそのままだとちょっとしたことでも危険そうだ、回復させるよ――ジャン班長、光武・海Fは飛行時に霊力技を用いても大丈夫ですか?」

 

やったことのない飛行中の必殺技なだけに、大神はジャン・レオと連絡を取る。

 

『いや、すまないが流石に併用は無理だ、下手すれば墜落しかねない。さっきみたいに可翔期間を切った上で霊力技は発動してくれ』

「分かりました、安全なところまで離脱した上で回復します――ビスマルクくん、すまないけど他のドイツ艦娘と合流するまで回復は待ってくれるかい?」

「わ、分かったわ……」

 

そうして、大神たちはドイツ艦娘たちが戻って言った方向へと飛行する。

大神は、水上を駆け大神を追っていた川内と鳳翔に、方角と合流予定ポイントを伝える。

直衛機の妖精さんが気を利かせたのか、今の大神とビスマルクの状況(お姫様抱っこ)は伝えなかったようだ。

 

残念ながら、ビスマルクの艤装は電信関連も破壊されており、他のドイツ艦娘への連絡は出来なかったが、あとは合流予定ポイントでドイツ艦娘たちと合流し離脱、または大神の回復技で回復した上で逆撃するのみだ。

 

そんなことを大神を考えながら飛んでいると、ビスマルクが大神に話しかけてきた。

泣いていたせいだろう、目が潤み、視線には熱が籠もっているように大神には見えた。

 

「アドミラル……さっきは身をもって助けてくれて、庇ってくれて……」

「うん、どうしたんだい、ビスマルクくん?」

「ごめんなさい。私のせいであなた、怪我をしたんじゃないの?」

 

鋭いなと大神は思う。

傷は負っては居ないが、確かに可翔機関を起動させる為に、そしてビスマルクを抱き上げて飛行するために大神は霊力的にはかなり無茶をしている。

だが、そんなことを話してビスマルクの顔を曇らせても仕方がない。

 

「全然平気だよ。それにビスマルクくんを助ける為なら怪我くらいなんでもないよ」

「!? ……良かったわ……あの……」

 

ビスマルクが顔を赤らめて、大神を見つめる。

改めてお礼を言葉にするのが恥ずかしいらしい。

 

「助けてくれて……ありがとう、アドミラル」

「ゴメン、そう言えば自己紹介が未だだったね。俺は大神一郎、地中海奪還作戦で君たちを指揮する事になる、よろしく」

「オオガミ……イチロー……ねぇ、貴方のこと、『イチロー』って呼んでも良いかしら?」

「ああ、君の好きなように呼んでくれて構わないよ」

「ありがとう……イチロー」

 

大神の腕の中で、ビスマルクは、そう呟いた。




狼虎滅却 金城鉄壁:味方全員への攻撃を一定時間完全無効化する。

金甌無欠が既に回復技なので、同じ効果の技がダブってもなあ、ということで、金城鉄壁の方は名前にふさわしく防御技と致しました。効果は一言で言えば味方『全員』を同時に庇う。


あと、ご想像通りのチョロインですまんw

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