艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第十二話 9 そして剣狼は飛び立つ

ジャン・レオによってもたらされたドイツ艦娘の危機。

その救援の為、大神たちは弾丸列車エクレールに搭乗しパリ市街を出て、ドーバー海峡にほど近いフランス第3の港湾都市ダンケルクに向かう。

改良されたエクレールの時速は500km/hをも越えている。

ダンケルクまでは1時間もかからず到着できるだろう。

 

エクレールの中には、光武・海Fを装着した大神と川内・鳳翔の姿があった。

近づく実戦のときに全員の表情は引き締まり、大神の光武・海Fの装着を手伝っている。

光武・海Fの装備は篭手、モニターを搭載した片眼鏡の他に、足防具、腰防具と腰回りの霊子タービン2基、そして胸部全体を大きく覆うブレストプレート、そして背部には霊子核機関を搭載したユニットと更なる霊子タービン2基が構成されている。

それを一つずつ装着し具合を確かめる大神。

合計で霊子タービンが4基も搭載されているのだ、単純でも加速は倍と見るべきか。

 

光武・海Fを装着し終わったところで、ジャン・レオ、そしてグラン・マからの通信が入る。

 

『隊長さん、光武・海Fの装着は終わったかい?』

「ええ、今装着が終わりました。救援作戦に付いての説明ですか?」

『そうだよ、ムッシュ。光武・海Fを装着したなら構成から分かると思うけど、その機体は艦娘を上回る機動性を持っている。だからムッシュには先行して艦娘を発見・保護してもらうよ』

「はい、霊子タービン4基の加速力で先行するということですね」

 

頷く大神だったが、それに割り込むジャン・レオ。

 

『違う、それだけじゃないんだ、隊長さん。光武・海Fは光武・海で用いられた慣性相殺、重力低減理論を山崎少佐の下で更に発展させた機能を積んでる。背部のユニットには霊子核機関が2基積んであるんだが、その莫大な出力でヒッグス場の中和による質量封じ込めを行った結果――』

『班長、理論的な説明は後にしてくれないかい。今のムッシュに必要なのは光武・海Fで何が出来るか、だよ』

 

時計で時間を確認すると、もう程なくしてエクレールはダンケルクに到着する。

理論的な説明に拘泥して光武・海Fの機能を大神に説明し切れなかったら本末転倒だ。

ジャン・レオ一度咳払いをすると、改めて大神に話しかける。

 

『分かりましたよ、大統領。隊長さん、説明は長くなるから結論だけを先に話す。光武・海Fは、限定的にではあるが飛翔できる、空を飛べるんだ!!』

「ええっ? それは本当ですか!?」

『ああ、光武・海のような一時的な3次元機動じゃあない。かつての紐育のSTARSとも違って変形することなく飛べる! 霊子タービンを4基積んでいるが、それは急加速・減速の為だ! 最高時速は亜音速、いや理論的には超音速に達する!!』

「分かりました!!」

 

そして。列車はダンケルクに到着する。

駅に到着するエクレールを見て何事かと人が視線を向けてくるが、応対している余裕はない。

事前に知らされ駅に召集された兵隊に後事を任せ、港から海へ出ようとする大神たち。

 

『隊長さん! 霊子核機関の機動準備は出来た! それでドイツの艦娘を助けてやってくれ!!』

「了解! 霊子核機関、及び光武・海F起動! 妖精さんも頼む!」

「リョウシカクキカンキドウ、キドウ」

 

光武・海と同様に光武・海Fを起動させ、海を駆ける大神。

傍には川内と鳳翔の姿もある。

だが、それだけでは救援には間に合わない、今は光武・海Fを飛べるようにしなければいけない。

 

「大神さん、私たちは後を追いかけるから! ドイツ艦娘の救援に向かって!!」

「隊長、私の直衛機を何機か大神さんの護衛に出します! 私たちには構わず行って下さい!!」

 

大神を先行させるため、鳳翔たちも己に出来ることを行っている。

 

「分かった! ジャン・レオ班長、光武・海Fはどうすれば飛べるのですか!?」

『隊長さん、『可翔機関起動』と言ってくれ! それで可翔機関が起動し空を飛べるようになる!』

「了解、光武・海F、可翔機関起動!!」

 

だが、可翔機関は起動した様子はない、大神は川内たちと共に海を駆けているのみである。

大神の叫び声だけが、海にむなしく響き渡る。

 

「班長!?」

『くそっ、可翔機関の霊力伝達が弱い! 起動しきれてない! こんな大事なときに整備不備だなんて! すまねえ、隊長さん!!』

「分かりました、俺の霊力出力を上げます! それでいけませんか?」

『……確かにいけるが、隊長さん! それじゃ、あんたの負担が激増する! 良いのか!?』

 

ジャン・レオが大神に問いただすが、その答えはもう決まっている。

 

「はい! それでドイツの艦娘を助けられるのならば!!」

『分かった、ドイツの艦娘を頼む!!』

 

それで、ジャンレオとの会話を打ち切り、再び大神は飛行準備に入る。

更に霊力を高めていく大神。

 

「もう一度行くぞ、光武・海F、可翔機関起動!!」

 

その言葉と共に、浮き上がる大神の身体、だが、海面から数センチも離れていないし、速度もさほど上がっていない。

これでは、飛んでいるとは言いがたい。

これでは、ドイツの艦娘は救えない。

 

「それではダメなんだ!」

「大神さん……」

「隊長……」

 

先を行く大神の叫びを聞く川内たち。

かける言葉が見つからなかった。

 

「頼む、光武。飛んでくれ、このままだと間に合わないんだ!」

 

新型とは言え、自らの愛機の名を継ぐものに呼びかける大神。

 

「守れるものを守る為に! 救えるものを救う為に! 頼む!!」

 

必殺技を撃つときと同様に、自らの魂を、命を燃やし霊力を高める大神。

更に浮き上がっていく大神の身体。

 

「飛べぇぇぇっ! 光武ーっ!!」

 

 

 

そして、大神の身体は重力から完全に開放された。

 

「カショウキカン、キドウ。カンゼンキドウ」

『やりやがった! 隊長さん、可翔機関は完全に起動した! もう問題ねえ!!』

「大神さん……飛んでる。飛んでるよっ!!」

 

空を飛ぶ大神の姿を見て喜ぶ川内。

 

「ああ! 川内くん、鳳翔くん、予定通り俺は先行する!」

「はい! 隊長、あなたの直衛機を出します。ご武運を!」

 

そう言って矢を放ち、烈風隊を一部隊大神に付き従える鳳翔。

そして、大神は烈風隊と共に北海の空を翔るのであった。

 

 

 

 

 

その頃、北海のとある海域では一人の戦艦、ビスマルクによる絶望的な戦いが行われていた。

演習の中、深海棲艦の大艦隊と遭遇し、撤退戦を行う中、ビスマルクが艤装の舵を破壊されたのだ。

 

まるでライン演習作戦での歴史を繰り返すように。

 

これでは、高速戦艦としての速度は出せない。

仲間を道連れにしてしまうことを避ける為、一人この海域に残ることを決意したビスマルク。

 

「ダメだよっ! ビスマルクお姉さま、ビスマルクお姉さまーっ!!」

 

プリンツは二度も姉を見捨てることは絶対に出来ないと、例え沈むことになっても海域に残ると言い張っていたが、そんな妹だからこそビスマルクは道連れにはしたくないのだ。

 

「お姉さま、今度こそ沈むときは一緒だよ! ビスマルクお姉さま一人を沈ませはしません!!」

「ダメよっ! プリンツ、貴方だけでも!」

「うっ……おねえ……さ……ま」

 

プリンツを当身で気絶させ、グラーフたちに後事を託す。

そして、自らは一人残り、戦い続けていたのだ。

 

 

深海棲艦の集中砲火を浴び続け、ビスマルクの艤装は既に崩壊していた。

4つあった砲塔は、全て破壊され、手に持った副砲は弾切れ。

帽子は既になく、制服も破れその豊かな胸が露出している。

浮力も減衰しているのだろう、膝辺りまで海に沈んでいた、これでは動くことすらままならない。

 

もうビスマルクに戦う術はない。

 

ビスマルクの周囲には深海棲艦が取り囲んでいる。

あとは深海棲艦による蹂躙が待っているだけだ。

 

「また、海に還るの? ……プリンツ、グラーフ、レーベ、マックス、ゆー……ごめんなさい!」

 

一抹の希望を心に戦い続けたビスマルクだったが、その希望は費えようと、消えようとしていた。

沈み、深海棲艦に囚われ果てるのだろうか。

気丈に振舞っていたビスマルクの目から涙が一滴零れ落ちる。

 

「ハハハハハ! ブザマナ、スガタダナ!」

 

ビスマルクの眼前に一人の深海棲艦が迫る、戦艦ル級flagship改である。

その砲塔をビスマルクの顔面にへと向ける。

 

「オマエヲ、タスケルモノハ、イナイ。オトナシク、ワレラノ、トリコトナレ!!」

「そんなことはない!!」

 

天より声が響き渡る。

 

「俺がいる限り、誰一人として艦娘を沈めさせはしない! 昏き深海の怨念には染めさせない!」

 

その声に周囲を見渡す深海棲艦たち、だが声の主は見当たらない。

苛立たしそうに戦艦ル級flagship改が声を荒げる。

 

「ダレダ? ドコニイル!?」

「俺はここだっ! 狼虎滅却! 一刀両断!!」

 

轟雷と共に天空から振り下ろされた神刀が、戦艦ル級flagship改を一刀両断に切って捨てる。

そして、轟雷が静まったとき、そこには大神の姿があった。

 

「提督華撃団! 参上!!」

 

ビスマルクの前に立ちはだかる大神の姿に深海棲艦が警戒を強める。

向けられた砲塔から自らの身をもってビスマルクの姿を隠し、庇う大神。

 

「彼女にもうかすり傷一つけることは許さない! 指一本たりとも触れさせない! 俺が相手だ、深海棲艦!!」


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