艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第十二話 6 罠

列車に二人が戻ると、二人が日本が誇る『帝國の若き英雄』大神と艦娘であることに流石に気付いた乗客や車掌たちの熱烈な歓迎を受けた。

握手は勿論、写真やサインを求める人たちでごった返すが、湖の確認任務は終わったし、あまり長時間列車を止めてしまう訳にも行かない。

列車の中で順次対応するということにして納得してもらい、先ずは列車の中へと戻る大神たち。

 

車内に全乗客が戻ったことを車掌が確認して、列車が動き出していく。

 

そこから先はバイカル湖の風景に目をやる余裕はまるでなく、イルクーツクに到着するまでひたすらサインや写真撮影に追われる大神たち。

室外の騒動に目を覚ました川内も芋づる式に艦娘であることがバレて、大神たち同様にサインなどに応えるのであった。

 

「ふー、ようやく一段落かな」

 

イルクーツクに到着すると、多くの乗客が降りていく。

その光景を3人が窓から眺めていると、車掌がまた部屋にやって来た。

 

「俺が話すよ――」

 

そう言って車掌と話し始める大神。

 

「何の話かな?」

「そうですね。ここは陸の中ですから、また湖を確認して欲しいと言うことはないでしょうし」

「はぁ~、二人で夕日の綺麗な湖でデートなんて出来たんだったら、寝てるんじゃなかったよ~。今の大神さん、光武持ってないから抱き付いてくれたんでしょう?」

「ええ、ぎゅっと抱き締めてくれましたよ」

「いいなぁ~、私も抱いて欲しかったなぁ~」

 

好機を逃がしたと知って、川内は若干落ち込んでいる。

 

「いいじゃないですか。それを言い出したら、川内さんは昨日から大神さんに何度も抱かれていたじゃないですか」

「まあ、それはそうなんだけど……」

 

鳳翔の指摘に顔を赤らめて照れる川内。

と、大神と車掌の話が一段落したようだ。

振り向いた大神の表情も明るい、何か良い情報があったのだろうか。

 

「川内くん、鳳翔くん朗報だよ。さっきのバイカル湖偵察の謝礼として、イルクーツクからモスクワまでの間、空いた一等室に無料で客室を変更してくれるってさ。これでようやく男女別室になれるよ。一安心だね」

「…………」

「…………」

 

しかし、二人の反応は冴えない。

 

「あれ、二人とも喜ばないのかい? これで静かに気兼ねなく時を過ごせるよ」

 

二人は顔を見合わせると大きく頷き、大神の手を取る。

 

「隊長、今まで通り3人で一部屋のままではいけないでしょうか?」

「そうだよ。大神さんと同じ部屋になって大神さんといっぱい仲良くなれたし、残りの区間も大神さんと一緒が良い!」

「いや、そうは言ってもやっぱり男女別室にした方が……」

「もう3日間も一緒に居て、同じベッドで朝を迎えたり、着替えや裸を見られたりしているんです。今更ですよ」

 

普通反対するであろう女性側の方が男との同室を希望し、男を困らせている。

そんな様子を眺めている車掌だったが、やがてニヤニヤすると大神に耳打ちする。

 

「――――」

「……ええっ、据え膳食わぬは男の恥!? 何でそんな日本語を?」

「――――」

「女性が望んでいるのですから男は黙って従いなさい、あなたは嬉しくないんですか、か。いや、嬉しくないといったら嘘になるけれど……」

 

そう言葉をつむぎだす大神に鳳翔と川内はしがみつき、涙を目じりに溜めてお願いする。

 

「「大神さんっ! お願い!!」」

「うっ!」

 

どうやらいろんな意味で突き刺さったらしく、大神は胸を押さえて俯いている。

しばらくして、大神は諦めたらしい。

 

「分かったよ。モスクワまでこの部屋に3人で行くことにする。でも、残りの1席に人が来るかもしれないよ。それでも良いんだね?」

「それは……」

 

もちろん大神以外の男性に素肌を晒すなんて嫌だ。

自分たち以外の女性が大神と仲良くするのも嫌だ。

でもそれを口にしてしまえばわがままになってしまう、どう答えたら良いものか考え込む二人。

そんな様子を見ていた車掌は再び大神に耳打ちする。

 

「――――」

「えっ、一等室にする代わりにこの部屋は3人の貸切にしてくれるから心配要らないですって? そこまでしていただく訳にも……」

「――――」

「モスクワまでの旅、ゆっくり、じっくりとお楽しみ下さい? ……分かりました、お言葉に甘えさせていただきます」

「「やった-!」」

 

完全に観念した大神が車掌に返答を返した。

逆に鳳翔と川内は、あと3日間も続く大神と同室の旅に喜びを露にする。

 

大神の心労はまだまだ続きそうだ。

 

 

 

その様子を隣の部屋で伺っていた女性が通話を打ち切った。

 

『――連絡は以上です、加山隊長』

「了解。対象を継続して影ながら看視、場合によっては保護すること。対象が酔い潰されかけたのを見過ごしたのは失点だからな」

『はいっ!!』

 

そうして、加山からも暗号化された秘匿回線での通話を打ち切る。

 

「お、加山。電話は終わりかの?」

 

加山が横を向くと大神の留守を預かる永井司令官が居た。

正面にはバーテンダーの衣装に身を包んだ間宮と伊良湖の姿がある。

そう、ここは有明鎮守府のバーのカウンターである。

珍しいことに加山は永井に呼ばれて、酒を飲んでいた。

酒のつまみはもちろん大神の過去などについてである。

 

「ええ、ちょっとした用事でしたが、もう終わりました」

「ほっほっほっ、大神につけた護衛からの定点報告がちょっとした用事か」

「ちょ、どうして、それを!? それに、そんなことを今ここで話したら、艦娘たちが――」

 

加山が慌てて司令官の発言を止めようとした。

『大神』と聞いて、数人の艦娘がこちら側に視線を向けている。

大神が居なくなったことで艦娘たちは酒を飲む機会が増えている、実際、今このバーには殆どの艦娘が居るのだ。

大神の話題だなんて、どうなっても艦娘は確実に食らいつくだろう。

一旦尋問が始まってしまえば、大神がどういう日々を過ごしているのか把握してしまった加山は、知る全てを白状するまで開放されないに違いない。

 

「永井さん、すいませんが自分はこれで――」

 

そんなのゴメンだ、と加山は荷物をまとめて席を立ち去ろうとする。

 

「加山さん、ではお会計をお願いしますね」

 

一刻の猶予もない。

そう判断した加山は釣りはいらないと、財布からお札を取り出したが、請求書には金額ではなく『大神さんの情報』と書かれていた。

慌てて間宮を見やると、間宮はニッコリ微笑んでいた。

その笑みが怖い。

 

「加山さん、私のもう一つの顔忘れていませんか? 『無線監査艦』でもある私を前にあの程度の暗号通信、暗号化していないのと変わりませんよ」

「ゲェっ!?」

 

そうだった、目の前の艦娘、間宮はただの給糧艦ではない。

『無線監査艦』という裏の顔を持っていたのだった。

純粋無垢な伊良湖とは違う、怖いこわーい一面も持っていたりするのだ。

 

「会話を傍受したなら、改めて聞く必要はないんじゃ――」

「私が聞いたのは、司令に指示されてからですから」

「なっ!?」

 

加山は思わず立ち上がって永井を見る。

 

謀られた。

 

ここに呼ばれたこと自体が加山に大神のことを白状させる為の罠だったのだ。

 

「私が聞けたのは『3日間一緒』とか、『残りの区間も大神さんと一緒』とか、だけです。ですけど、こんな情報を聞いてしまったら、全てを白状してもらわないと気がすまないと思いません?」

「逃げられると思わない方が良いデース! サー、サーサー、サーサーサー! 隊長が向こうで何しているかキリキリ白状するデース!!」

 

気がつくと加山の周囲は艦娘が完全に囲んでおり、逃げる隙はもうない。

観念して、加山は大神のシベリア鉄道での日々を白状するのであった。

 

「隊長から花束のプレゼント!? ううう、羨ましいデース!」

 

「夕焼けの綺麗な湖で鳳翔さんと大神隊長が抱き合いながらデート……流石に気分が複雑です」

 

そして、

 

「川内姉さんが大神さんに抱かれて一晩を過ごした……」

 

「川内姉さんが大神さんを騙して、大神さんに『結婚しよう』と云わせた……」

 

表情を失っていく艦娘たち、特に神通が怖い。

 

「……帰ってきたら川内姉さんにはウルトラスペシャルベリーハード訓練をしてもらいましょうか。先ずは砲撃を避ける訓練ですね。砲撃に参加したい方は――」

 

無論、鎮守府の全艦娘が手を挙げていた。


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