艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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そうじゃないと不明な点が発生しますので。


第十二話 4 責任取ってよね、大神さん?

次の日の朝、大神の目覚めは最悪であった。

 

「うーん、頭が痛い……」

 

昨日、シャワーに向かった川内に一言注意しておこうと向かっていたところ、日本語で話しかけられて、まあいいだろうかと一献付き合ったのがよくなかったらしい。

少し遅れたが川内への注意は済んだから、川内がシャワーから出てくるまでと、勧められるまま酒を飲んでいた結果がこのザマだ。

呑みの終わり間際の記憶はあやふやだが、酔っ払った自分に川内が付き添ってくれていたことは覚えている。

川内が気が付いてくれなければ、部屋に戻ることすら叶わなかったに違いない。

 

「起きたら川内くんにお礼を言わないと……」

「ううん、気にしないで、大神さん……これから仕返しするし」

 

はて、川内の声がヤケに近くから聞こえるがどういう事か。

少し考えるが二日酔いで頭がガンガンと痛く、よく回らない。

まあ列車で同じ部屋になってしまったんだし、いつもより近くで声がしても無理もない話か。

良く働かない頭でそう考える大神、もう少し頭を休めようかと思い、頭をまくらに沈める。

頬に当たるふにふにとしたふくよかな感触にすりすりと頬を擦り付けながら。

 

「ひゃんっ!」

「うーん、川内くんのまくらは暖かくて気持ちいいな、鎮守府に戻ったら俺も買おうかな」

「え……それって、鎮守府に戻ってからも……って、こと? ど、どうしよ……」

 

やはり川内の狼狽したような声が聞こえるが、意味がよく分からない。

そんなことよりも、と良い匂いのするまくらに大神は顔を埋めて胸いっぱいに息を吸い込む。

 

「ひゃうんっ!?」

「ふー、川内くんのまくらは女の子の良い匂いもして、抱き締めていると心地よいな。これが川内くんの匂いなのかな?」

「良い匂い? 汗臭かったりしない?」

「うん、良い匂いがするよ」

 

そう言って、すべすべのまくらに唇を這わせる大神。

 

「ひゃあぁっ!? 大神さん、ダメェっ!!」

「?」

 

やはり川内の声が近くから聞こえる、と言うかいくらなんでも近すぎる。

これではまるで耳下で話されているようじゃないか。

仕方ないと二日酔いでうなされながら、大神はゆっくりと目を開ける。

 

「え……」

 

目を開くと視界一杯に肌色が目に入る。

 

「大神さん、あんまり見ないで……恥ずかしいよぉ……」

 

勿論、それは川内の肌の色だ。

大神の腕の中には、顔を真っ赤に染めて恥ずかしがっている全裸の川内が、居た。

 

「昨日の大神さんとのベッドでの夜戦、凄かったよ……」

「え?」

「責任とってよね、大神さん?」

 

大神の二日酔いは一気に吹き飛んだ。

 

 

 

そして、しばしのときが流れる。

大神も川内も起き上がり同じベッドに腰掛けている、川内はシーツを身に巻きつけていた。

大神は気付いていないが、川内の下半身は衣服を着ていたりする。

そうと気付かぬ大神は必死に頭の中を整理していた。

大神の記憶は記憶は全くないが、結論は一つしか出ない。

酔いに任せて川内に、手を、出してしまった。

男の醜い欲望のままに穢してしまった、と。

 

「なんてことを……俺は……」

 

酔っていた、寝ぼけていた、そんな言い訳なんか出来る訳がない。

川内の信頼、好意を裏切った。

艦娘たちの信頼を、好意を裏切った。

米田たちの、大元帥閣下の信頼を裏切った。

 

「俺は、俺は……隊長失格だ……」

 

蒼白な顔でそう呟く大神。

そのあまりに悲壮な顔を見て、川内も少しやりすぎただろうかと、そろそろネタバラシした方が良いかなと口を開こうとする。

しかし、大神がそれを遮って川内に土下座する。

 

「すまなかった、川内くん!」

「ええ!?」

 

まさか、そこまでされると思わなかった川内。

目を白黒しながら大神の謝罪を聞き続ける。

 

「謝って許してもらえるとは思わない、許してくれとも言えない。けど、けれども君に謝らせてくれ、本当にすまなかった!!」

 

そのあまりに真摯な謝罪に川内は気圧される。

実際は大神はほとんど何もしていないのだから、尚更。

 

「え。ううん、いいよ。他の男の人じゃなくて、大神さんが相手だから嫌じゃなかったし」

「そうだとしても、君の好意に付け込んでしまった! なんて、最低なことを、俺は……」

 

ヤバイ。

どうしよう、大神さんマジで凹んでいる。

 

何度も何度も川内に謝る大神を見ながら、川内はネタバラシするタイミングを失って、心の中で冷や汗を流す。

やがて、大神の謝罪に答えない川内を、ただ謝るだけでは許してもらえないのだと勘違いした大神が顔を上げる。

 

「えっ?」

「分かった。せめて……せめて、責任を取らせて欲しい。君が望むなら、もう顔を合わせたくないというのなら、今すぐ華撃団の隊長を辞すよ。二度と君の、川内くんの前には姿を現さない」

「ええっ!? そんなのダメっ! 大神さんが居なくなるなんてイヤッ!!」

 

もしそんな事になったら、川内が鹿島や金剛、瑞鶴たちにぶっ殺される。

それに川内自身、大神と二度と会えなくなるなんて絶対にゴメンだった。

 

「……分かった、なら、せめて男として責任を取らせて欲しい。君を欲望のままに穢し、乙女を奪い、夜戦してしまった責任を」

 

そう言って決心した大神は川内の両肩を掴み、まっすぐに見つめる。

この雰囲気は、一体何を言い出されるのか、と川内はアタフタしながら大神を見返す。

 

「川内くん。君の好意に付け込んだ俺だけど、責任を取らせてくれ。俺と、結婚してほしい」

「!!??」

 

思いもしなかった言葉を大神に言われ、川内は思わず、

 

「はい……喜んで」

 

と返してしまう。

直後、何言ってんだ私は、と心の中で七転八倒する川内だったが、表情には笑みを隠し切れない。

その笑みを見て、大神は川内との未来のことに思考を向ける。

 

「川内くんは艦娘だから、結婚式に先立って親代わりになってくれる人を捜さないといけないな。そうだな、警備府からの付き合いだし永井さんにお願いするか、あと仲人は米田閣下にお願いするとして……川内くん、いや、川内、結婚式は和と洋どっちが良いかい?」

「え、大神さん、今私のことを川内って呼び捨てに……」

「ああ、正式な手続きは後になるけど、結婚するって決めた以上は呼び方も変えないとね」

「え、あ、あう、そ、その……」

 

ヤバイ、早く本当のことを話さないと、ネタバラシしないと。

本当にこのままだと、金剛たちにぶっ殺される。

そう思って、口を開こうとする川内だったが――

 

「どうしたんだい、川内?」

「あう……」

 

大神に優しく呼びかけられて何も言えなくなってしまう。

ただの呼び捨てではない、人生の伴侶と決めたものに対する優しさに満ちた甘い呼びかけ。

それを聞いただけで川内は何も言えなくなってしまう。

この甘い空間を一秒でも長く味わっていたい、と思ってしまう。

 

「川内?」

「大神さん、それじゃあキスして……」

「甘えんぼだな、川内は」

 

そう言って大神が川内に近づいてくる。

ここでキスしてしまったら、もう後には引けない。

でも、こんな幸せ、嘘で塗り固められた砂上の楼閣でも捨てられ――

 

 

「えいっ♪」

 

トス。

と、小気味良い音を立てて矢が大神と川内に突き刺さる。

 

「いってぇー! ほ、鳳翔くん、何を?」

 

矢が刺さったのだから、痛いではすまないのだが。

 

「川内さん、ダメですよ。嘘で大神さんの人生を狂わせたりしたら」

「う、嘘? 鳳翔くん、一体何を言って――」

 

そう言って、鳳翔に向き直ろうとする大神だったが、

 

「大神さん! 嘘付いてごめんなさい!! 本当は――」

 

今度は川内が大神に謝るのだった。

 

 

 

「寝てた――だけ?」

「うん、大神さんは酔っ払って私に抱き付いてたけど、後は寝てただけだったの――。なのに、勘違いさせてごめんなさい!」

 

川内が『本当の』事情の説明を終えると、大神は微かに気が抜けたような表情をしていた。

色々と考えていたことが全部不意になって、再起動に時間がかかっているようだ。

怒られるかなと、とビクビクしていた川内だったが、やがて大神は、

 

「川内くん、ゴメン、色々迷惑をかけたね」

 

と謝った。

 

「え、でも、今朝のは全部私が悪くて――」

「元々は昨晩俺が君を巻き込んでしまったのが原因だから。川内くんは何も悪くないよ」

「でも――」

 

でも川内は納得しているとは言いがたい。

悪くないといわれて、なお、大神に自分が悪いと良いたげな視線を向ける。

その視線を受けて、大神は頷く。

 

「分かった、今回のことは両成敗にしよう。川内くんは今朝俺を騙した、その分の罰を今するよ」

「はい……」

 

目を閉じて、歯を食いしばって大神の制裁を待ち受ける川内。

そんな川内に大神は軽くデコピンをする。

 

「え、これだけ?」

「騙されたといっても、何の被害も受けてないからね。これで十分だよ」

 

そう言って今度は大神が目を閉じる。

 

「さ、今度は川内くんの番だ。夕べからかけた迷惑の分だから、引っ叩いても何をしても良いよ」

「――何をしても良いの? 大神さん」

「ああ」

 

そう言って目を閉じる大神。

そんな大神に川内は手を大きく振りかぶって――

 

 

 

キスをした。

 

 

 

「川内くん!?」

「こ、これでおしまい!」

 

驚く大神に背を向け、慌てて自分のベッドに戻ると横になる川内。

二日間ロクに寝てなかったためか、川内は徐々に眠りに落ちていく。

もし、あの時、鳳翔が止めなかったらどうなっただろうか、そんなことを夢に見ながら。




危なかった、もう少しで川内で勝負ありになるところだったぜ。

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