プールにおける大神への水着のお披露目が終わった後、大神の運動の邪魔にならないよう艦娘たちは各々プールでの行動を取り始めた。
駆逐艦など一部の艦娘は浅い側のプールで遊び道具を持ち込んで和気藹々と遊び始め、
一部の艦娘は泳ぎ始めたり、飛び込み用の深いプールで飛び込んだりしている。
また、一部の艦娘に至っては何故か耐水性のチェスや将棋盤を持ち込んで嗜んでいる。
あくまで鎮守府内のプールであってウォーターランドのような遊戯施設ではないので、ウォータースライダーなどの専用の設備は設置されていないが。
「あ、いいね、そのポーズ。その角度で動かないでね、ちょっと描くから。お、そこも良いねっ。ちょっと待って、資料用に写真も、と。青葉さーん、おねがーい。うっひょひょ~、ここは桃源郷か!? AL・MIでオシマイかと思ってたけど、最後にこんなご褒美もらえるなんて!!」
「おぉー、艦娘の水着モードも満っ開ですねぇー! いいですねぇー、華やかですね! え? ガサ、何? あ、青葉も飛び込みぃ? いや、いいよぉ~、そんな高いとこから、怖いし。ほら、秋雲ちゃんも呼んでますし、写真撮りに行ってきますね!!」
そして、その光景をとある艦娘たちは写真撮影やイラストを描くことに夢中である。
確かにこの光景を『真夏の艦娘たち』とでも銘打って、もしコミケ会場で写真集として発売したならば、それは文字通り飛ぶように売れるだろう。
夏コミでのオータムクラウドすらも霞む勢いで。
何せ今彼女たちが着ている水着は不特定多数に見せることを前提としていない、たった一人に見られ、そしてその心を奪う為に選んだ水着なのだ。
彼女たちの魅力を余すことなく発揮する、大胆かつ男心をくすぐるその水着姿は、艦娘ファンには実に堪らないものだろう。
もしこの場に居られる権利が出品されたならば、その権利を数百万円で落札しようとするものも居たに違いない。
「あ、青葉さーん! あっちの物陰に隠れてる三隈さんの水着すごい! あんなに露出全開だよ! まるで痴女みたい!!」
「おおー、だいたーんすぎー! 三隈、ちゃんとその水着姿、隊長に見せた?」
「くまりんこは……私は、いいです……。ああ、どうして、もがみんとお揃の水着にしておかなかったのかしら、その場のノリって怖いですわ。いくら隊長が相手でも、こんな姿で殿方の前に出るなんて、出来ませんわっ!」
こういう時に説教する筈の間宮が大神にべったりなのもあり、秋雲と青葉は止まらない。
「ダメだよっ、三隈。隊長に水着姿の感想を聞くのはこの場に居る艦娘の義務、ノルマなんだから! ほら、恥ずかしいなら、青葉も付いて行ってあげるから」
「そうだぞ、三隈~。せっかくの水着、隊長に見せなきゃ意味ないじゃん~。鈴谷も付いて行ってあげるから♪」
「わ、分かりましたわ……皆さんで一緒に行くのでしたら…………あの、隊長、くまりんこたちの水着姿、いかがでしょう――って、あれ? 二人とも居ませんわ!?」
「大胆な水着なのに、顔を真っ赤にして隊長に話しかける三隈さん……ありだねっ! さらさらーっと」
「良い構図ですね~、パシャリと」
「鈴谷はもう隊長に褒められてるもん。三隈頑張れ~、討ち死にしても屍は拾ってあげるから~」
「くまりんこ裏切られましたわ!!」
一部生贄に捧げられたものもいるが、常日頃から艤装を展開し、水上で日々を過ごしている艦娘ではあるが、水着姿で遊ぶのはまた趣が異なるのか、彼女たちは実に楽しそうにプールでの時間を過ごしていた。
「大神さん、次はプールの端から端まで歩いて下さいね~、あ、手もしっかり振りながら」
「分かった。しかし、水の中の運動ってのも結構疲れるものだね」
「そうですね、運動が終わった後はマッサージもしっかりして下さいね、筋肉痛になったり、つっちゃったりするかもしれませんから。伊良湖ちゃん、大神さんのマッサージお願いしても良い?」
「はい、明石さん! 大神さんのマッサージ、伊良湖にお任せ下さい!」
「明石ー! 隊長のマッサージ、なんで私に任せてくれないデスカー!?」
「そうです! 大神くんのマッサージなら私に任せてくれれば!?」
しかし、大神は明石の指導の下、金剛たちが見守る中、水中での運動に勤しんでいた。
近くから聞こえる艦娘の喧騒に刺激される、泳いだり遊んだりしたい気持ちを、これも治療の一環と抑えながら。
明石は流石に水の中に入る程回復していないらしく、そんな大神の隣には間宮が付き添っている。
さっきの大神の様子に危機感を覚えた金剛たちは、それもあり大神の近くから離れようとしない。
「無理せず疲れたなら隣の間宮さんに掴まって休んでも構いませんから。鼻の下を伸ばすくらいですから良い口実が出来て嬉しいですよね、大神さん?」
「明石くん、勘弁してくれって。もう、そんなことしないから」
「あら、あなた。無理はダメですよ」
「間宮くんも勘弁してくれ~」
明石や間宮たちとそんな軽口を言い合いながら、大神は運動に励む。
「む~、せっかくの水の中なのにたいちょーと遊べないの、つまんないでち」
「ダメだよ、ゴーヤ。隊長は運動中なんだから。遊ぶならあっちでイムヤと、みんなと遊ぼうよ」
しかし、やはり隊長と遊べないことを不満に思う艦娘もごく僅かながら居た。
「ゴーヤ、潜りまーす!」
「あ、ゴーヤ!? 隊長のほうに行っちゃダメだって!」
そう言い残すと、58はするすると水の中を大神へと静かに近づいていく。
流石に水中が戦場の潜水艦だけあって、他の艦娘が気付く前に58は大神の足元に近づく。
そして、
『えいっ、たいちょーと遊ぶでち』
水の中を歩く大神の片足を思いっきり引っ張った。
「うわぁっ!?」
「大神さん!?」
流石に大神もバランスを崩し水没する。
しかも無理に身体の体勢を保とうとしたことで、全身に変に力が入ってしまいつってしまう。
いくら武芸百般の達人といえど、全身がつった状態では泳ぐことなど出来ない。
あわや溺れかけようとする大神。
「大神さん!? 大丈夫ですか、キャッ!?」
そして伸ばした手が何かに引っかかったようだが、大神にそれが何か判断する余裕はない。
力のまま引っ張るとそれは大神の手の中へと収まった。
「ドッキリ大成功ー。水の中からこんにちはー! たいちょー、ゴーヤだよ……って、たいちょー大丈夫!?」
「ゴーヤ! 隊長溺れかけてるじゃない! 助けないと!!」
「隊長ー!? 今私が助けるネー!」
「大神くん!? 今私が傍に行きますから!」
隊長が溺れていると聞き、騒然とするプールサイド。
各々楽しんでいた艦娘たちも集まり、てんやわんやの騒ぎとなった。
「はぁ……はぁ、流石にびっくりしたよ……」
「大神さん大丈夫ですか?」
「はぁ……もう、大丈夫。心配かけて、結局掴まってしまってゴメン、間宮くん」
「いえ、お気になさらないでください、大神さん」
ようやく立ち上がった大神は、すぐ傍の間宮に掴まって体勢を保っている。
どうやら、まだ身体のあちこちがつったままであり、誰かの助けがないとまた溺れそうな状態のようだ。
その様子を見て、酷く落ち込んで反省した58が大神に声をかける。
「ごめんなさいでち、たいちょー……。ゴーヤがいたずらしたせいで……」
そんなゴーヤの頭を大神は優しく撫でる。
「気にしなくて良いよ、ゴーヤくん。ここのところ自分の身体ばかり気にし過ぎていて、君たちの事を蔑ろにしていた俺も悪かった。一休みして、つった身体が解れたらみんなで遊ぼうか?」
「本当でちか?」
瞬時に笑みを浮かべる58。
事後確認となるが、大神は明石に尋ねる。
「ああ。良いよね、明石くん?」
「しょうがないですねー。とりあえずプールから上がって下さい、大神さん。まだ身体がつったままの箇所もあるんでしょう? 解しますから」
「ああ、分かったよ」
そう言って大神は顔を一度拭う。
さっき手に持ったものはどうやら布地のものらしい。
「――!!??」
そこまで来て、大神は58を撫でた手と反対側の手に持った物が何か気付く。
黒の布地のそれは何か、勿論言うまでもない。
ヤバい、艦娘が全員集まった状態でそのことに気付かれたら――
と、隣の間宮を見ると、顔を朱に染めている。
少なくとも間宮は気付いているようだ、いや、ある意味当然か。
「たいちょー、何を手に持ってるでち? 黒いタオルでちか?」
「え、いや。あの、これは――」
58の問いにどう答えても地獄は必至。
だが、勘の良い艦娘が大神の影に隠れようとしている間宮の姿の異変に気付く。
「あれ、間宮さん、上の水着――」
そこまでいけば、後は何も言わずとも繋がっていく。
「まさか、大神さん――」
「いや、違うんだ。思わず引っ張ってしまったというか、取ってしまったというか――」
「大神さん、とにかく、返してもらえますか?」
待て。
と、言うことは身体に当たっている感触は、柔らかなふくらみの感触は、かすかに感じる更なる突起の感触はもしかして――
再度、間宮の表情を見る大神。
大神に気付かれたことに更に顔を盛大に赤らめる間宮。
つまり間宮は――
思わず、大神は間宮の顔に向けていた視線を僅かに下に下げようとする。
「ダメーっ! 見ないでくださいーっ!!」
「「「見ちゃダメーっ!!」」」
「へぶぅっ!」
しかし、勿論、そんな不埒な所作に艦娘が気付かない訳がない。
艦娘の総攻撃を受ける大神であった。
リズムを上げるぜ。