「間宮さん、間宮さん……」
「…………」
「間宮ったら、何ボーっとしてるデース!」
金剛の大きな声に、間宮はようやく反応した。
「あ……何でしょうか、金剛さん?」
「何って、何じゃないデース。パフェの追加注文お願いするデースよ!」
金剛が、目の前の空になったパフェの容器をスプーンでチンと音を出して叩いて言った。
あんまり行儀の良くない事である、大神に見られたらどうするんだ。
「どうせ、お世話も出来ないんだから気にしたってしょうがありまセーン」
ぶすーっとした表情で金剛がぼやく。
朝、大神が高熱を出したと聞かされて、居ても立ってもいられず、大神の部屋に乗り込もうとした金剛と鹿島だったが、間宮にストップをかけられ甘味処まで引きずってこられたのだ。
しかし今の大神に必要なのは休息なのだと、そう諭されても納得しきれない二人。
目の前の間宮が伊良湖と二人で大神を独占してるのだから尚更である。
たった一日で、少女のように大神を心配するようになった目の前の間宮に二人はかなり危機感を覚えていた。
一体昨日、何があったのかと、もしかして自分たちはとてつもない悪手を打とうとしているのではないかとさえ思える。
「ネー、間宮ー。そんなに隊長の事が心配なら、私たちに任せてくれればいいのデース! 間宮がここに居る間も、私たちに任せてくれれば問題ないのデース!」
「伊良湖ちゃんに任せてますから」
ここで変に応えると、ズルズルとなし崩しに入り込まれてしまう。
そう感じた間宮は一刀両断に切って捨てようとする。
「でも、伊良湖だけじゃ不安なんダヨネー。だから心配してるんデショー?」
「そ、それは……」
突き詰めて言えば、自分で様子を見られないので心配なのだが、流石にそこまではいえない。
だから答えあぐねる間宮。
「鹿島ー、これはもしかして……」
「金剛さん、付け入る隙ありでしょうか? 間宮さんー」
だが、それを金剛たちは勘違いしたようだ。
ここで踏み込んで、なし崩し的に自分たちも、と声を上げようとする。
しかしそこに伊良湖がやってきた。
「間宮さん、大神さんが眠られて熱も少し下がってきたようなので、お知らせに来ました。甘味処のほうは、お手伝いしなくても宜しいですか?」
「あら、伊良湖ちゃん、ありがとう。わざわざここまで来なくても電信でよかったのに」
伊良湖の言葉に、ホッと一安心する間宮。
「いえ、大神さんがぐっすり眠られているようなので、部屋でバタバタしていても起こしてしまうんじゃないかと思って……」
「そうね、寝かせてあげましょう。お昼になったら、昼食を作って様子を見に行こうかしら――」
「「じゃあ、そのとき私たちも一緒に!」」
間宮が行くのなら自分たちも。
そう声を上げる金剛たちだったが、今度は伊良湖が金剛たちの前に立ちはだかる。
「ダメですよ、金剛さん、鹿島さん。大神さんの睡眠の邪魔になっちゃいます。完全に熱が引くまでは自粛して下さい」
「「う、はーい……」」
珍しく強気な伊良湖に気圧され、金剛たちは引き下がった。
「伊良湖ちゃん? どうしたの?」
金剛たちを押し切るとは、控えめな伊良湖にしては珍しい。
そう思った間宮が伊良湖に尋ねる。
問われた伊良湖はかあっと顔を紅に染めた、大神の部屋での一件を思い出したようだ。
そして、伊良湖は答える、だって口止めされてないんだもの。
「だ、だって……伊良湖は大神さんのお母さん、いえ、ママなんです!!」
「「「は?」」」
その突拍子もない言葉に、甘味処に居た全ての艦娘が疑問の声を上げる。
「伊良湖ちゃん、大丈夫? 熱でもうつった? いえ……ないわね」
間宮が伊良湖の額に手を当てるが、熱はないようだ。
「間宮さん! 伊良湖、熱はありません! さっき、こういうことがあったんです!!」
頭がおかしくなったと勘違いされては、たまったものではない。
伊良湖は声を大にして、先程の大神の様子を詳細に克明に語る。
再度言うが、だって伊良湖は口止めされていないんだもの。
「「「な、なんだってー!?」」」
強く逞しく格好いい、いつもの大神からは想像もつかない、弱気な、少年っぽい、可愛らしい姿。
だが、詳細に克明に身振り手振りまでして話す伊良湖の話は真に迫っており、疑う余地はない。
これ後で大神さんが聞いたら、物凄く恥ずかしがるんじゃないかと一部の艦娘は思ったが、やめてあげてとは誰も言わない、だってみんな聞きたいから。
あ、どこかのカメラマンと、同人作家が話を聞いてニヤリと笑った。
一方、大神との誰より付き合いが長く、誰より大神を詳しく知っていることを自負していた鹿島にとっては、自分の知らない大神の様子は痛恨の一撃だったようだ。
半泣きになりながら、伊良湖を問い詰めている。
「こうなったら、私も大神くんにママって呼んでもらうんです!!」
そして金剛は、
「うぇへへへ~。Hey! 隊長~、そんなに甘えるなんて可愛いデース! 私のこと、ママって呼んでもいいのデース!」
妄想たくましく、涎がたれかかっていた。
口止めしなかった大神のミスであるが、熱でうなされていた大神にそこまで求めるのは難しい。
しかし後日、この話は誰かによって全ての艦娘に広まり、大神をからかうネタとなった。
もっとも一部の艦娘には、大神が伊良湖に見せた少年のような可愛い様子は好評だったらしく、自分も是非見たい、自分にももっと甘えて欲しいとより積極的になるきっかけとなったようだが。
でも、大神としてはネタでも本気でも、見た目小学生の駆逐艦などに「私がママよ!」「ママって呼んでもいいのよ!」とか言われまくったら頭を抱えるしかない。
抱えるしかないのだが、それはまた別の話。
甘味処でそんなことが起きているとは露知らず、大神はすやすやと眠り続ける。
お昼時と3時くらいに間宮たちは様子を見に行ったが、寝ている大神を起こすのも悪いと部屋を後にする。
夕食前に目を覚まし、熱もある程度引いて、夕食を食べる大神。
回復後、後日羞恥で悶絶することを彼はまだ知らない。
酷いって言わないで。
大神さんに羞恥地獄のフラグが立ちました。
あと、これ、閑話「私がママよ!」を後で書かないといかん流れかな?