艦これ大戦 ~檄!提督華撃団!~   作:藤津明

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第二話 5 神通さんは鬼教官2

「は!?」

 

川内の「抱きついて」と言う言葉に絶句する大神。

何言ってんだこの艦娘は、と、川内を訝しげな表情で見やる。

が、川内は逆にそんな大神の様子に安心したように一息ついた。

 

「よかった、その様子なら私たちも安全圏そうだね」

「どういうことだい?」

 

自分をからかっていたのだろうか、それだけなら別に構わないが。

 

「つまりね、訓練ってのは、昨日吹雪がやったように隊長を運ぶ訓練なの」

「ちょっと待ってくれ、またやるのかい!?」

 

やっと明かされた訓練の内容、それは昨日無様をさらした自身の進水式?な話であった。

大神自身もどうにかしなければとは思っていたが、流石に無闇矢鱈に誰彼構わずに抱きつくなどと破廉恥な行為をするつもりはない。

 

「そりゃやるよー、だって、今の私たち、敵に戦艦がいたら大苦戦必至だもの」

「夜戦を仕掛ければいいんじゃないかい? そうでなくても、昨日やったように吹雪くんがいれば」

「えっ、また私ですか!?」

 

そう言いながらも暗に自分にしか抱きつかないと明言されたに等しい吹雪は若干嬉しそうな表情をしている。

実に分かりやすい。

 

「ダメだよ、誰かとじゃないと連携が取れないだなんて。ね、神通」

「はい……姉さんみたいに夜戦でしかって言うのも論外ですし、吹雪さんとしか連携できないって言うのもいけないと思うんです」

「夜戦は別腹だよー」

 

神通の言葉に何を聞くかとブーたれる川内。

 

「だから、大神隊長。私と、私たちと訓練……していただけないでしょうか?」

「いや、話は分かるけど……」

 

他の艦娘たちは大丈夫なのだろうか。

見回す大神だったが、明確に反対の声を上げているものは他にいない。

不満そうな顔をしているのは吹雪くらいだろうか。

 

「大神隊長が艦娘も優しく扱って頂ける良識を持った方だっていうのは分かるつもりです。ですけど……」

 

畳み掛けるように大神に迫る神通。

 

「大神さんがいれば、今まで突破できなかった海域も突破できると思うんです。お願いします」

「う……」

 

神通は赤面しながらも、大神に懇願する。

そして、その頼みを断ることなどできない大神であった。

 

 

「にしても、神通ー。さっきの告白みたいだったよね?」

「えっ?」

 

話も纏まったところで、訓練に戻ろうとする神通に川内がからかいの言葉をかける。

 

「「大神隊長。私と、お付き合い……していただけないでしょうか?」ってね?」

「……っ!」

 

神通の声真似をしながら、台詞を一部改変して告白の台詞に変える川内。

その声色は神通のものとしか聞こえなかった。

 

「最後なんて、大神隊長じゃなくて大神さんって呼んでたし!」

「もう、姉さん!」

 

再び赤面し大声を出す神通から、一歩遠ざかると川内は水面に駆け去っていく。

 

「ち、違います、大神隊長……私、そんなつもりで言ったわけじゃ……」

「大丈夫、分かってるよ」

 

振り返り必死に否定する神通。

そうこうしている内に駆逐艦たち他の艦娘も水面に移動し、地上にいるのは大神と神通の二人だけになる。

 

「……え?」

 

 

 

最初のいけにえは決まった。

 

 

 

「あ、あの……大神隊長……」

 

吹雪と異なり、その背には艤装のない神通。

フルフルと震えるその背中が、彼女の恥じらいを表しているかのようだ。

おそらくは、さっきのように赤面しているのだろう。

 

「神通くん。大丈夫かい?」

「ひうっ!?」

 

吹雪以上に恥ずかしがっているようにも見える神通の肩に手をやる大神。

その肩は緊張でガチガチに固まっており、全く大丈夫な様には見えない。

 

「神通くん、もっと無難なところから始めた方がいいんじゃないかな? 手を繋ぐとか」

「だ、大丈夫です……これでも私、教官なんですからっ! あの子達の前で無様なところなど見せられません!」

 

その気持ちは分かる。痛いほど良く分かる大神だった。

けれども、このままでは昨日の二の舞になってしまうような気がする。

昨日みたいに切羽詰っているわけでもないし。

 

「さ……さあ、大神さん! 思う存分抱きついてください!!」

「その表現、やめてくれないかな……」

 

断崖絶壁から身を投げるかのごとく覚悟を決める神通。

傍から見ると滑稽極まりないが、彼女の覚悟を無に帰するわけにも行かない。

苦笑いしながら後ろから神通を抱きしめる大神だった。

 

「ひゃぁっ!?」

 

反射的に水を滑り出そうとする神通だったが、吹雪のときとは違う。

二度も行かせはしないと、大神は神通をぎゅっと抱きしめ、岸壁から放さない。

 

しばしのときが流れ、神通もやがて落ち着いたのか、大神の手を叩く。

 

「あ、あの……行ってもいいでしょうか?」

「ああ、構わないよ」

 

神通の足の艤装に足を引っ掛け、昨日より大分手に力のかからない体勢になったことを確認し、大神が頷く。

それでやっと神通は安心して水面を滑り始め――

 

「あの……大神隊長、そんなに触られると、私、混乱しちゃいます……」

 

 

なかった。

 

 

「どうしろと!?」

 

自身が沈まないためには神通に抱きつくしかないこの状況で他の術などない。

既に神通は混乱している。

どうにかしようと川内たちに視線を向けると、諦めてと言わんばかりに頭を振る。

 

またか。

 

絶望する大神であった。

 

「どういうことでしょう……身体が、火照ってきてしまいました……」

 

昨日の吹雪と同じく、速度を上げて身体の火照りを覚まそうとする神通。

風をはらんではためく彼女の長髪が大神の鼻孔を擽る。

我慢する大神だったが、やがて我慢が限界に達し、

 

「くしゅっ」

 

それでも抑えたのか小さなくしゃみをした。

しかし、大神の吐息は神通のうなじにかかり、

 

「はうっ」

 

神通の恥ずかしさは頂点に達し、過負荷で気を失うのだった。

 

 

しかし、水上で艦娘が気を失えばどうなるか、考えるまでもない。

 

「じ、神通くん? うわっ!」

 

水没するのだ。

 

 

ドボンと気持ちいいくらいの音を立てて水中に突入する二人。

 

しかし、俯いたままでは神通が水を飲んでしまう。

抱きついていた神通が溺れないよう、艤装に引っ掛けていた足を外し、泳ぎながら神通を抱えなおす大神。

鷲掴みにした両手に神通の胸の柔らかな、実に柔らかな感触が伝わってくるが、それどころではない。

 

 

「ケホッ、コホッ」

 

それでも、水を少し飲んだのか、神通の意識が戻ってくる。

戻りつつある彼女の意識に伴い、二人は少しずつ水上へと浮上していく。

 

「……あれ、私?」

 

僅かな間であるが意識もそぞろであった神通、艦娘としてはあまり慣れない海水に身を震わせる。

濡れた服と髪がまとわりつく感触は気持ちのいいものではない。

 

「意識を失っちゃってたんですね……大神隊長、ごめんなさ――っ!?」

 

やがて腰の辺りまで浮上して、はじめて神通は胸を鷲掴みにされている事に気がついた。

瞬時に耳まで真っ赤に染め上げて赤面する神通。

 

「ゴメン! 神通くん!!」

 

神通の様子に気がつき焦る大神だったが、手を放したら自分だけ再び水の中だ。

今更放すわけにもいかず、神通を抱き締め続けるしかない。

 

「……っ」

 

腕の中の神通がわなわなと震え始めている、今までの経験から大神は覚悟を決める。

 

 

「きゃーっ!!」

 

 

地上に上がって手を放すまで振り解かずに我慢していただけでも、神通は良い娘だなあと大神は思うのであった。

 

教官が混乱することで訓練が中断になった事は言うまでもない。

それと、駆逐艦たちの神通への苦手意識が和らいだこともあわせて記す。

 

 

 

 

 

大神と神通が共に水没した事で中断となった訓練。

駆逐艦たちは天龍たちが引き続き受け持つこととなったが、濡れ鼠となった神通は川内たちが連れて行った。

 

「ふー、これから訓練のときは濡れても良い服装にしないといけないか。と言っても女の子に見せてもいい格好じゃないとダメだよな」

 

大神も海水に濡れて気持ち悪かったので、シャワー室へと向かう。

流石に大浴場を使うつもりはない、シャワーだけで十分だ。

 

更衣室のドアを開ける大神。

シャワー浴びるため服を脱ごうと着替え棚に近づくと、既に着替えが入っている事に気がつく。

橙色を主とした色彩の制服が3つ。下着も見える。つまり……

 

「神通くんたちが入渠して、違った、お風呂に入っているのか」

 

ここに居ては、いずれ神通たちと鉢合わせになってしまうだろう。

そう考えた大神は入渠ドック、ではなくお風呂場を立ち去ろうとする。

しかし、

 

「い、いかん……体が勝手に……」

 

大神の身体はその意に反し勝手にお風呂場の中へと入っていくのだった。

 

 

あくまで『体が勝手に』である。すごく、ものすごーく大事なことなので二回言った。




とうとうサクラ大戦、伝説のお約束、
『体が勝手に』、発動。
体が勝手に動くのだから仕方がないですよね。

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